コラム:燃え尽きる若者が増加?原因は...
若者の燃え尽き症候群は単なる流行語ではなく、労働市場・社会構造・価値観の変化が交錯した複合的な現象である。
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現状(2026年2月時点)
日本および先進国では近年、若者を中心とした「燃え尽き(バーンアウト)」や「静かな退職/Quiet Quitting」といった現象が社会問題として注目されている。特に日本では、若者の精神的健康や働き方に対する価値観が大きく変化しており、労働市場・雇用形態の変化もこれに拍車をかけている。
韓国の国家データ庁がまとめた報告書によると、19~34歳の若者の約32.2%が直近一年間にバーンアウトを経験したと推計されており、主な要因として「進路不安」が最も多く報告されている。
また日本国内では、若手労働者の間で「静かな退職」が広がっているという調査もある。就職情報企業の調査では、20代の約46.7%が静かな退職的な働き方をしていると回答している。
これらの傾向は単なる労働倫理の変化ではなく、精神的消耗・生活不安・将来不安といった複合的要因によるものであり、単純な青年性のゆとりや怠惰といった表層的評価では捉えきれない社会構造的な背景がある。
バーンアウト(燃え尽き症候群)とは
「バーンアウト(Burnout)」は、過度なストレスや持続する心理的負荷が蓄積することで情緒的エネルギーを失い、意欲低下・疲労感・無力感が慢性的に続く状態を指す心理学的概念である。初期研究は医療従事者など職業特有の疲弊を示す文脈から始まったが、その後一般労働者や若年層にも拡大している。
バーンアウトは単なる「疲労」ではなく、認知的・情緒的な消耗や仕事への関心の消失、価値感の低下を伴うものであり、うつ病・不安障害と重複するリスクもある。
働き手が形だけの労働を続ける「静かな退職」は、バーンアウトの顕在化・行動化と位置づけられる場合がある。すなわち、燃え尽きにより従来の職業意識を維持できなくなり、最低限の義務遂行だけに留まる働き方が広がっているという指摘がある。
若者の3割以上が「燃え尽き」を経験
2025年に発表された国家データ庁の報告によると、19~34歳の若者の約32.2%がバーンアウトを経験している。主な原因として、「進路不安」(39.1%)が最多であり、「業務過多」「仕事への疑問や虚無感」「仕事と生活の不均衡」といった複数の要素が重層的に影響している。
この統計は、若者のバーンアウトが決して少数の現象ではなく、労働や生活の不安定性と直結した広範な問題であることを示している。
若者が燃え尽きる「4つの主要因」
以下に、若者の燃え尽き増加の背景となっている主要な因子を体系的に整理する。
進路不安と経済的プレッシャー
「進路不安」は、学業から就労へ移行する際に将来展望が曖昧であることや、安定したキャリア形成が困難である現状を指す。報告によれば、バーンアウト経験者の最大要因は進路不安であり、若者の生活の質の悪化と相関が強い。
経済的プレッシャーは、低賃金、非正規雇用率の高さ、就職難といった構造的条件と結びついている。
非正規雇用の拡大
日本における非正規雇用の増加は長年の労働市場の特徴である。若年層の非正規率はOECD諸国でも高い水準にあり、フリーターやニートといった分類が存在する。
非正規雇用は雇用不安定性を高め、将来の賃金や生活設計に関する不安を増幅させる要因となっている。
物価高と生活費の負担
日本では実質賃金停滞と生活費の上昇が続いており、若者の経済的困窮が深刻化している。この構造的な経済プレッシャーが進路不安や心理的ストレスを増大させ、燃え尽きの要因となる。
デジタル・ネイティブ特有の社会的孤立、他者比較の罠
SNSやオンライン環境の発展は、コミュニケーションの機会を増やす半面、他者との比較やコンテンツ過負荷による焦燥感を生む。社会的に繋がっているようで孤立感が深まるパラドックスが指摘される。
進路不安と経済的プレッシャー
現代の若者は、就職やキャリア形成に際して「安定したポスト」が減少した労働市場の状況に直面している。日本の青年層における長期的な非正規雇用・不安定雇用は、賃金・福利厚生・キャリア形成機会の格差を生み、進路決定時の意思決定負担を増加させている。
この経済的プレッシャーが「燃え尽き感」の中心的要因として作用している。
非正規雇用の拡大
非正規労働者の割合は過去数十年で増加傾向にあり(例:1985〜2008年に非正規雇用率が16.4%→34.1%に増加)といった経済分析がある。
若者のキャリア形成は非正規雇用に依存することが多く、安定した正規雇用への移行が困難であるため、将来への不安が慢性的な心理ストレス要因となる。
物価高と生活費
近年のインフレ傾向や生活費の上昇は、特に若者世代の可処分所得を圧迫している。高い住宅費、教育費などが負担となり、生活と仕事のバランスを保つことが困難になっている。
経済的不安と燃え尽き症候群の増加には、こうした生活費の負担と心理的ストレスとの関連があると考えられる。
デジタル・ネイティブ特有の「社会的孤立」
デジタル環境の充実は若者の繋がりを演出するものの、SNSによる他者比較や孤独感を助長する面がある。
観察研究によれば、「他者比較を頻繁に行う若者ほど孤独感を感じる傾向がある」とされ、これは燃え尽き感情と関連する可能性が示唆されている。
他者比較の罠
SNSでの他者の成功・幸福の表象は、若者に自己効力感の低下や劣等感を引き起こす可能性があるとされている。社会比較は幸福感を低下させうる心理学的プロセスであり、燃え尽きの背景に影響を与える要素として注目されている。
対人スキルの未成熟
近年、若者の対人スキルやコミュニケーションに関する困難が報告されており、職場や大学など社会的文脈でのストレス対処能力の未成熟が、燃え尽きの心理的負担を増大させる可能性がある。
「ハッスル文化(Hustle Culture)」への幻滅と不透明な見返り
社会的には、能力や成果を過度に追求する「ハッスル文化」が若者を圧迫する一方で、実際の見返りが伴わないというジレンマが存在する。若年層の価値観は「意味ある仕事」や「心の安定」を重視し、単純な成果主義や長時間労働への抵抗感が高まっているという調査報告もある。
タイムパフォーマンス(タイパ)の重視
若年世代は効率を重視する傾向があり、「成果」より「時間」の価値を重視する傾向が強まっている。このタイムパフォーマンス志向は、燃え尽きや職業モチベーションへの再評価と関係している可能性がある。
仕事とプライベートの「境界線の消失」
リモートワークやフレックスタイムの普及により、仕事と私生活の境界が曖昧になり、長時間労働や過労傾向が若者にとって心理的負担となるケースも報告されている。
通知のプレッシャー
デジタル通知・メッセージの常時受信は、休息時間やプライベート時間に仕事関連ストレスを持ち込む要因となり得る。これは心理的回復や休息を阻害し、バーンアウトリスクを高める可能性がある。
体系的分析チャート(要因分析)
以下は、若者の燃え尽き増加に関する主要因をカテゴリー別に整理したもの。
| カテゴリー | 主な要因 |
|---|---|
| 経済・構造 | 非正規雇用率、就職難、低賃金、進路不安 |
| 職場環境 | 長時間労働、期待過多、評価制度の不透明 |
| 社会・文化 | SNS 比較、ハッスル文化、価値観再構築 |
| 生活習慣 | 仕事と生活の境界の曖昧化、デジタル通知 |
| 個人 → 組織へのシフト | 自己効力感の低下、サポート環境不足 |
組織の役割
燃え尽きは個人の問題ではなく、組織・社会の構造的問題とも関連する。職場のサポート体制や労働条件の改善、メンタルヘルス支援の強化など、組織側の介入が不可欠である。
静かな退職の再定義
「静かな退職」は単なるやる気のなさではなく、バーンアウトの顕在化された行動形態であるという再評価が重要である。必要最低限の労働だけを行なうこの現象は、心理的疲弊や価値観の変化を反映している側面がある。
今後の展望
若者の燃え尽き増加を受けて、今後は以下のような方向性が必要である:
若年層の雇用安定とキャリア支援強化
メンタルヘルス対策の充実
働き方の柔軟化とワークライフバランスの再評価
デジタル依存への心理的回復支援
まとめ
若者の燃え尽き症候群は単なる流行語ではなく、労働市場・社会構造・価値観の変化が交錯した複合的な現象である。経済的不安、非正規雇用、SNSによる心理的負担、働き方への期待とのギャップなどが重層的に影響して、若者の精神的健康と職業モチベーションに大きなプレッシャーを与えている。
これを解決するためには、政府・企業・地域社会・個人の多層的対応が不可欠である。
参考・引用リスト
国家データ庁報告「若者の生活の質 2025」報告(バーンアウト 32.2%)
日本労働政策研究・研修機構(JILPT)調査報告 No.230(非正規雇用関連)
JAPAN TIMES(静かな退職の広がり、20 代の約 46.7%)
エキサイトニュース「Z 世代の燃え尽き理由」
RM NAVI「バーンアウトと静かな退職」
その他 SNS や調査報告・ネット記事(デジタル孤立等)
OECD Investing in Youth (日本における若者就労関連分析)
追記:若者の燃え尽きは「個人の弱さ」ではない
若者の燃え尽きに関する議論では、しばしば「忍耐力の低下」「打たれ弱さ」「努力不足」といった個人責任的な語りが現れる。しかし、近年の研究および社会分析の蓄積は、この見方が極めて限定的であることを示している。
バーンアウト研究の基礎的知見においても、燃え尽きは本質的に環境要因と個人要因の相互作用であり、個人の性格や資質のみで説明できる現象ではない。むしろ、過度な要求、裁量権の不足、不公平感、価値観の衝突など、組織的・制度的要因が中核に位置づけられている。
現代の若者における燃え尽きの拡大は、
社会構造の変化
労働システムの硬直性
経済的前提条件の変化
価値観の世代間シフト
といったマクロ要因と強く結びついている。
すなわち、燃え尽きは「適応失敗」ではなく、システム側の設計不整合として理解すべき現象である。
「現代の労働システムと個人の価値観のミスマッチ」
産業社会モデルの持続
現在の多くの企業組織は、依然として20世紀型の産業社会モデルを基盤としている。
このモデルの前提は以下である:
長期雇用を前提としたキャリア設計
年功的評価体系
長時間労働を容認する規範
組織忠誠を中心とした価値観
私生活より仕事優先という暗黙規範
しかし、これらの前提条件は既に大きく揺らいでいる。
雇用の安定性は低下
昇進・昇給の見通しは不透明
終身雇用は事実上崩壊
成果主義と年功制の混在による不公平感
構造的には「安定を前提とした制度」が、「不安定な現実」の上に乗っている状態である。
若者世代の価値観変容
若者世代の価値観は顕著に変化している。
代表的特徴として、
意味・納得感の重視
ワークライフバランスの優先
精神的健康の重視
組織より個人の尊重
柔軟性・自由度への期待
が挙げられる。
ここで重要なのは、これらの価値観が「甘え」ではなく、合理的適応戦略として形成されている点である。
不安定な労働市場、将来不透明な経済状況、長期雇用の崩壊という現実の中で、
「仕事中心人生」という旧来モデルは合理性を失っている。
ミスマッチの本質
ミスマッチの核心は単純である。
組織は依然として「献身」を要求するが、保証は提供できない
この構造は、心理学的には「心理的契約(Psychological Contract)」の破綻として説明できる。
かつての契約:
忠誠・努力 → 安定・昇進・保障
現在の契約:
忠誠・努力 → 不確実・自己責任
この非対称性が、若者の消耗の根源的要因となる。
構造的エラーとしてのバーンアウト
バーンアウトはしばしば「過労問題」として理解されるが、より本質的には制度設計上のエラーとして位置づけられる。
要求と資源の不均衡
バーンアウト理論の中核モデルである「Job Demands – Resources Model」によれば、燃え尽きは以下の不均衡から生じる:
要求(Demands)の過剰
資源(Resources)の不足
現代の若者環境では、
要求の増大:
成果主義プレッシャー
自己責任論
常時接続労働
マルチタスク要求
キャリア自己設計圧力
資源の減少:
雇用安定性
昇進保証
社会的支援
組織的保護
経済的余裕
典型的な構造的アンバランスが観察される。
「努力が報われない」感覚
若者世代に特徴的なのは、単なる疲労ではなく、
意味の喪失・努力の無効感
である。
これは経済的問題だけではない。
評価制度の不透明性
キャリア展望の曖昧さ
社会的成功モデルの崩壊
不平等拡大
が、「努力=報酬」という因果関係の信頼性を低下させている。
心理学的には「学習性無力感」に近い状態を引き起こしうる。
若者がなぜこれほどまでに消耗しているのか
若者の消耗は、単一要因では説明できない。以下の複合的圧力が同時進行している。
経済的不確実性の慢性化
現代社会では、
安定雇用の希少化
実質賃金停滞
生活費上昇
老後不安の前倒し
が若者世代に集中している。
特徴的なのは、「危機」ではなく慢性的不安定である。
終わりの見えない不確実性は、急性ストレスよりも精神的消耗を引き起こしやすい。
「自己最適化社会」の負荷
現代社会は「常に改善せよ」という圧力に満ちている。
スキルアップ
副業
自己投資
パーソナルブランディング
健康管理
SNS自己演出
人生そのものが「プロジェクト化」している。
これは自由の拡大ではなく、責任の内面化でもある。
失敗や停滞は「自己管理不足」と解釈されやすく、心理的負担が増大する。
注意力経済と認知的疲労
デジタル環境は、単なる情報環境ではない。
それは競争的注意力市場である。
若者は日常的に、
通知
SNS更新
メッセージ
動画コンテンツ
ニュースフロー
に曝露されている。
この常時刺激状態は、
集中力低下
認知疲労
意思決定疲労
を引き起こす。
疲労は身体より先に認知系に現れる。
アイデンティティ労働の増大
現代の若者は、「何者であるか」を絶えず問われる。
好きなことを仕事にせよ
自分らしさを確立せよ
キャリアを自己設計せよ
自己実現の理想は魅力的であるが、同時に強烈なプレッシャーでもある。
かつての社会:
役割が先にあり、個人が後から適応
現在の社会:
個人が先にあり、役割を自ら構築
この転換は、自由と同時に巨大な心理的負荷を伴う。
個人から組織への視点シフト
若者の燃え尽き問題を理解するうえで最も重要なのは、
問題の所在を個人から構造へ移すこと
である。
燃え尽きは、
適応力不足ではない
忍耐力低下ではない
世代特有の弱さではない
それは、
制度設計と社会環境の歪みのシグナル
である。
組織の役割(再論)
組織が果たすべき役割は従来以上に大きい。
要求の再設計
過剰な期待の是正
無意味業務の削減
常時接続文化の抑制
資源の再配分
裁量権の拡大
心理的安全性の確保
公平な評価制度
回復時間の保証
意味構造の提供
若者が求めているのは高揚ではない。
納得可能性である
仕事の意味、評価の基準、将来の展望が可視化されることが、燃え尽き抑制の鍵となる。
静かな退職の再解釈(深化)
静かな退職は、怠慢ではなく合理的適応行動と解釈できる。
若者は以下を察知している:
過剰努力のリスク
見返りの不確実性
健康コスト
結果として、
自己防衛的エネルギー管理戦略
として静かな退職(Quiet Quitting)が出現する。
これはモラル低下ではなく、制度環境への適応である。
今後の展望(構造的視点)
若者の燃え尽き問題は、今後さらに重要性を増す。
必要とされる方向性:
労働制度の心理学的再設計
成果主義モデルの再評価
組織忠誠概念の再定義
「生産性」概念の拡張
回復・余白の制度化
重要なのは、
効率化ではなく持続可能性
である。
追記まとめ
若者の燃え尽きは個人の弱さではない。
それは、
現代社会の構造的エラーの可視化現象
である。
経済的不確実性
労働制度の旧態依然性
成果と保証の非対称性
デジタル環境による認知負荷
自己最適化圧力
これらが交差する地点で、若者の消耗が加速している。
燃え尽きは失敗ではない。
社会システムへの警告信号
である。
この現象を正しく理解できるかどうかが、今後の労働社会の質を決定する。
