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コラム:緑内障、こんなタイプは要注意

緑内障は無症状で進行することが多く、日本人においては正常眼圧緑内障が相対的に多い。高齢者、家族歴、強い近視者、低血圧・冷え性、閉塞隅角のリスクは注意すべき因子である。
目じりを抑える女性(Getty Images)
現状(2026年1月時点)

緑内障は世界的に主要な失明原因の一つであり、日本においても40歳以上の成人で約20人に1人が罹患していると推定される。これは国内だけで約300万人〜400万人規模の患者数となる可能性を示す疫学データである。加齢や環境要因、遺伝的背景など複数の因子が複合して発症し、視力を回復できない視野欠損をもたらす点で重要な公衆衛生課題となっている。自覚症状が乏しいため、かなり進行してから発見されるケースが多い現状が指摘されている。


緑内障とは

緑内障は視神経が障害され、視野が狭窄・欠損していく眼疾患の総称である。視神経は眼球から脳へ視覚情報を伝達する重要な神経線維であり、これが損傷すると視機能は不可逆的に失われる。病態として、眼内房水(ぼうすい)の循環・排出異常によって眼圧が上昇する場合と、眼圧が正常範囲でも視神経障害が進行する場合がある。緑内障は多様なタイプに分類され、それぞれ発症機序や臨床像、リスク要因が異なる。

主要な種類
  1. 原発開放隅角緑内障(Primary Open-Angle Glaucoma: POAG)
    房水の排出路である隅角が開いているが、線維柱帯などの微細機構の異常により排出障害が生じ、眼圧が慢性的に高くなるタイプである。日本人で最も多い慢性進行型であり、年齢や近視、家族歴がリスクとされる。

  2. 正常眼圧緑内障(Normal-Tension Glaucoma: NTG)
    眼圧が正常範囲内(一般に10〜21mmHgとされる)であるにもかかわらず、視神経障害が進行するタイプである。日本人ではこのタイプが相対的に多いとされ、遺伝的背景や血行動態の異常が関連すると考えられている。

  3. 原発閉塞隅角緑内障(Angle-Closure Glaucoma)
    隅角が狭く、急激に房水が排出できなくなり眼圧が急上昇するタイプで、急性緑内障発作を起こす危険が高い。この発作は痛み、頭痛、悪心・嘔吐などを伴い緊急性が高い。

  4. 続発緑内障や発達緑内障
    外傷、炎症、手術後、ステロイド長期使用などが原因で発症するもの、また先天的な隅角異常によるものがある。


特に注意が必要なタイプやリスク要因

基本的なリスク要因

緑内障全般のリスク要因として世界的に示されているものは以下の通りであり、これらが複合して発症・進行に影響する可能性がある。

  • 加齢:発症率は年齢とともに増加する。

  • 家族歴:家族に緑内障患者がいる場合、発症リスクは高い。

  • 高眼圧(眼圧上昇):緑内障の最も重要な修正可能因子である。

  • 近視:特に強い近視は緑内障リスクを上昇させる。

  • 血行動態異常:低血圧や血管攣縮、脈絡膜灌流低下などが正常眼圧緑内障を含むケースでリスクとなる可能性がある。

  • 人種:アジア人は正常眼圧緑内障が多く、欧米の黒人では開放隅角緑内障が重症化しやすい。

  • 全身疾患:糖尿病、心血管疾患などが関連することが示唆されている。

  • ステロイド長期使用:特に眼科的ステロイドは眼圧上昇を招く可能性がある。


「正常眼圧緑内障」になりやすいタイプ(日本人に最多)

正常眼圧緑内障(NTG)は日本人の緑内障患者で多い割合を占める。このタイプは眼圧自体が高くないにもかかわらず視神経が障害されるため、検査で見逃されやすい特徴がある。NTGでは血流障害、脈絡膜灌流圧低下、低血圧、微小循環障害など血行動態関連因子が影響するとの報告がある。

高リスク群
  1. 高齢者
    年齢はNTGを含む開放隅角緑内障全般のリスクを増加させる。

  2. 家族歴を持つ人
    特に日本人では家族歴を持つ者の罹患率が高いとの疫学的示唆がある。

  3. 循環動態異常
    低血圧や血管攣縮が血流供給を低下させることにより視神経へのストレスとなる可能性がある。

  4. 高近視者
    強い近視はNTGにおける罹患リスクを上昇させるとのデータが示されている。


強い近視がある人

近視度数が強い人(高度近視)は、眼球軸長が延長し、視神経乳頭部や線維柱帯等の微細構造が変化していることがあり、これが緑内障発症・進行のリスクを高める。日本を含むアジア諸国で近視人口が増加している社会的背景を踏まえると、近視者の緑内障スクリーニングの重要性は高まっている。


血縁者に緑内障患者がいる人

家族歴は独立した重要なリスク因子であり、特に一等親内に患者がいる場合は発症リスクが上昇する。これは遺伝的要素と共有する生活・環境因子の両方が関連する可能性がある。


低血圧・冷え性の人

低血圧や末梢血流障害(冷え性)は、眼球および視神経への血流を低下させ、正常眼圧緑内障の進行を助長する因子として注目されている。これらは循環動態の不良が持続することにより網膜・視神経への慢性的低灌流を生じさせると考えられる。


「急性緑内障発作」のリスクが高いタイプ

急性緑内障発作は主に隅角が狭い人で発生する。隅角は房水が排出される経路であり、これが狭いと急に閉塞し眼圧が急上昇するリスクがある。以下のタイプはリスクが高い:

  • 遠視気味の高齢女性
    眼軸が短く、隅角が狭い傾向があり、閉塞隅角緑内障や急性発作の危険性が高い。

  • 夜間の瞳孔散大
    暗い環境で瞳孔が散大すると隅角がさらに狭くなり、発作誘発の可能性がある。

  • 特定の薬剤
    散瞳薬、抗コリン薬、ステロイドなどは眼圧上昇や隅角閉塞を助長する可能性があるため注意が必要である。


特定の薬を服用している人

ステロイド薬は眼圧を上昇させる可能性があり、ステロイド誘発性緑内障を引き起こす場合がある。特に長期にわたる眼科的ステロイド点眼は注意が必要である。


日常生活で進行を早める可能性がある要因

緑内障は遺伝や解剖学的要因が基盤となる一方、日常生活の要素が症状の進行や眼圧に影響する可能性が指摘されている。例えば、長時間のうつ伏せ寝や高い枕の使用は血流動態に影響し眼圧を高める可能性があるとの示唆がインターネット上の報告に見られるものの、臨床データとしては限定的である。

加えて、喫煙、過度なアルコール摂取、ストレス、睡眠の質の低下などが眼の血流に悪影響を与える可能性があるという報告もあるが、これらの影響は個人差が大きい。


眼圧を上げる習慣

眼圧を慢性的に上昇させる可能性のある習慣には以下が含まれる:

  • 長時間の画面注視による首・眼周囲の血流不良

  • 激しい運動後の急激な血圧変動

  • 睡眠時無呼吸症候群などによる夜間血圧上昇

これらが緑内障進行に寄与する可能性があるため、生活習慣の見直しが勧められる。


嗜好品の過剰摂取

喫煙や過度なアルコール摂取は全身の血管健康に悪影響を与え、眼への血流にも影響する可能性がある。これにより、視神経への慢性的なストレスが増加するという仮説的な関連があるとのデータも存在する。


早期発見のために必要なこと

緑内障は初期に自覚症状がほとんどないため、定期的な眼科検査が最も重要である。特に以下の検査が推奨される:

  • 眼圧検査

  • 隅角検査

  • 視野検査

  • 眼底検査

  • 光干渉断層計(OCT)などによる視神経評価

これらを組み合わせることで、視神経乳頭の変化や視野欠損を早期に発見できる。日本眼科学会などは40歳以上での定期検査を勧める。


今後の展望

近年では遺伝子解析や画像診断技術の進展により、リスク層別化、早期発見、個別化治療の可能性が高まっている。人工知能(AI)を用いた網膜・視神経の解析、バイオマーカー検出技術、さらには遺伝子治療などの研究が進展している。これらは将来的に緑内障の予防、診断、治療のパラダイムシフトをもたらす可能性がある。


まとめ

緑内障は無症状で進行することが多く、日本人においては正常眼圧緑内障が相対的に多い。高齢者、家族歴、強い近視者、低血圧・冷え性、閉塞隅角のリスクは注意すべき因子である。日常生活習慣の改善、定期的な検査、専門的評価が視機能を守る上で不可欠である。最新の研究動向を踏まえた予防・管理戦略の構築が求められている。


参考・引用リスト

  • Mayo Clinic: Glaucoma — Symptoms and causes

  • LWW Journals: Risk factors for primary open angle glaucoma

  • National Eye Institute: Types of Glaucoma

  • PubMed Review: Risk factors in primary open angle glaucoma

  • PubMed Korea Study: Open-angle glaucoma risk factors

  • 国立国際医療センター: 緑内障とは

  • Tajimi Study: Risk factors in Japanese population

  • American Optometric Association: Glaucoma risks

  • NCBI Bookshelf: Open Angle Glaucoma risk factors


追記:日本人と緑内障の関係

有病率と疫学

日本人における緑内障(primary glaucoma を含む)の有病率はかなり高い。40歳以上の一般集団では約5〜8%が緑内障と判定される疫学的データが複数ある。特に原発開放隅角緑内障(POAG)が最も多く、続いて正常眼圧緑内障(NTG)の比率が高いとされる。一般集団疫学では、POAGの有病率は約5.8%、閉塞隅角緑内障は0.7%、その他(例:エフォリエーション緑内障など)が1%台であったとの報告がある。これは日本の高齢化社会に伴う緑内障の負担増加を示している。

また、多くの調査で 正常眼圧緑内障(NTG)の比率が高いことが日本人の特徴として強調される。日本人では眼圧が正常範囲であっても視神経障害が進行するタイプが欧米人と比較して相対的に多く、日本人の緑内障患者全体の中でもNTGの比率が高い状況が示唆されている。これは日本人独自の発症リスクプロファイルと関連がある可能性がある(後述)。

遺伝的傾向と民族差

ゲノムワイド関連解析(GWAS)などの研究から、日本人を含むアジア系集団で開放隅角緑内障のリスクに関連する複数の遺伝子領域が同定されている。これらの遺伝子領域はアジアだけでなく欧米の集団でも一致する部分があるが、日本人に特異的なリスクプロファイルの一部を示唆している。こうした遺伝的背景は、緑内障の発症に対する個体差や民族差を理解するための重要な知見となっている。

日本人における緑内障は単一因子性ではなく、多因子疾患であると理解されており、遺伝的リスク、眼球の解剖学的形態、環境・生活要因などが複合的に寄与する。これらの遺伝的研究は、将来的にリスク層別化や個別化予防戦略の構築に貢献する可能性をもつ。


スマホの使い過ぎで緑内障のリスクが高まるか

スマホ使用と眼圧・視神経への影響の議論

一般的な懸念として、スマホやデジタル画面の長時間使用が眼精疲労を誘発し、眼圧に影響するのではないかという論点がメディアや一部一般向けコラムで語られている。インターネット上の記事では「スマホやパソコンの長時間使用で眼圧が上昇するとの報告がある」と言及されているが、これらは主に非厳密な観察や臨床的な因果関係が確立していないレベルの報告に留まっている。

一方、専門的な研究では、デジタル画面の使用と眼圧に一時的な変動が生じる可能性を指摘する報告があるが、これが緑内障の発症リスクそのものを直接的に高めるかどうかについては証拠が十分ではない。現時点の科学的知見では、スマホの長時間使用が緑内障発症を独立した危険因子として強く確立しているわけではないが、次のような関連は想定される:

  1. 眼精疲労と血流動態の負荷
    スマホ使用で眼精疲労や不自然な姿勢が続くと、視神経領域への血流に一時的な影響が生じる可能性があるとの指摘が一部報告で見られる。

  2. 眼圧の短期変動
    一部の観察研究ではスクリーン注視下で眼圧が短時間上昇する可能性を示唆する報告があり、緑内障患者ではこうした変動の影響がより顕著である可能性があるとされる。

しかし、これらは 長期的な緑内障リスク因子としての強いエビデンスには達していない。緑内障発症は主に眼圧、遺伝的リスク、解剖学的特徴、血行動態など複合的因子が寄与するとされているため、スマホ使用自体を独立した主要リスク因子として扱うにはさらなる科学的検証が必要である。

スマホ使用と関連しうる間接的リスク

スマホ使用による長時間のスクリーン注視は眼精疲労、ドライアイ、姿勢悪化を招きやすい。これらは眼の負担を増大させる状況であり、眼圧や血流に影響する可能性があるものの、直接的な緑内障発症メカニズムとしては明確な関連づけができていない。

現時点では「スマホの使い過ぎで必ず緑内障になる」という因果関係を示す高品質な疫学データは存在していないため、スマホ使用は目の負担を減らす観点から注意すべき習慣の一つに留める のが現状の理解である。


最新臨床ガイドラインの体系的整理

緑内障診療ガイドライン(第5版) は日本緑内障学会が作成した臨床ガイドラインであり、2022年に発行された最新版である(以降随時更新)。このガイドラインは科学的根拠と臨床専門家の合意に基づいた基本方針・治療戦略 を提示する。

診療方針の基本原則

ガイドラインはまず以下の 治療および診療の基本原則 を規定している:

  1. 治療の目的は視機能と生活の質(QOL)の維持 である。

  2. 眼圧下降が最も確実な治療手段 であり、眼圧が低いほど緑内障進行リスク低減に寄与する。

  3. 治療可能な原因があれば適切に介入する。

  4. 早期発見と定期受診が推奨される。

  5. 個別化治療 が重要であり、単一の治療法に依存せず、患者背景・病型・進行度を考慮する。

診断と評価

ガイドラインは診断プロセスにおいて以下を重視している:

  • 眼圧検査

  • 視野検査(標準自動視野検査)

  • 眼底観察(視神経乳頭形態評価)

  • OCT(光干渉断層計)による構造的評価

これらを総合的に評価して緑内障の有無、病型、進行度合いを判断することが推奨される。

主要治療法と推奨

治療は主に眼圧を下げることを中心に構成され、以下の選択肢から最適なものを選択する:

  • 薬物療法(点眼薬):第一選択となるケースが多い。

  • レーザー治療(例:レーザー虹彩切開術、線維柱帯形成術など):特定の病型や進行状況で推奨。

  • 手術療法:薬物・レーザーで効果不十分な場合や重症例に適応。

また、治療のエビデンスレベルと推奨の強さ が明記されており、効果の確実性や推奨度に応じた治療戦略が示される(例:1A〜2C などのエビデンスレベル分類)。

経過観察と進行判定

ガイドラインは進行の判定を診療上の重要な項目と位置づけており、視野検査と OCT を併用することが推奨される。特にOCTによる網膜神経線維層・黄斑層厚の定量的評価は進行判定に有用である一方、測定条件に依存する限界にも注意が必要である。

リスク評価と個別化治療

ガイドラインはリスク評価の重要性も強調しており、年齢、家族歴、初期眼圧、リスク因子(例:強度近視など)を考慮し、進行リスクに応じて治療強度を調整することを推奨する。


まとめ(追記分)
  1. 日本人では緑内障の有病率が高く、NTG 比率が相対的に高い特徴 がある。遺伝的背景も含めた多因子性疾患としての理解が進んでいる。

  2. スマホの長時間使用が緑内障発症リスクを直接高めるという高品質エビデンスは現時点では不十分 であり、眼精疲労や眼圧の短期変動との関連は議論段階にある。

  3. 最新の臨床ガイドライン(第5版)は眼圧下降を中心に、個別化された治療戦略と早期発見・定期受診を重視している。診断・治療・経過観察の体系的なフレームワークが示されている。


参考・引用リスト(追記分)

  • 「Prevalence of Glaucoma and Its Systemic Risk Factors in a General Japanese Population: The Hisayama Study」

  • 理化学研究所「開放隅角緑内障に関わる新たな7遺伝子領域を同定」

  • 東北大学「原発開放隅角緑内障の遺伝的リスク推定法」

  • デジタル画面使用による眼圧変動関連報告(眼圧一時的変動)

  • 緑内障診療ガイドライン(第5版)要約・解説(Minds)

  • 緑内障とスマホ関連一般解説(非科学的報告としての補足)

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