「味」から「食感」へ、食品各社が「ザクザク・もちもち・とろとろ」を競う
2026年の食品市場で「食感」が注目されている背景には、複数の構造的な変化がある。SNSによる映像・音声中心の情報環境、異なる食感を組み合わせる商品開発、健康と満足感を両立させる需要、そして国境を越える食文化の交流が重なり、食感の市場価値を押し上げている。
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現状(2026年10月時点)
2026年の食品市場では、「何味か」だけでなく、「口に入れた瞬間にどのような感覚が起こるか」が商品価値を左右する場面が明らかに増えている。サクサク、ザクザク、カリカリ、もちもち、とろとろ、ふわふわ、ねっとりといった食感そのものが、商品の特徴を説明する言葉として前面に出るようになっている。
日本でもこの傾向は確認できる。マイボイスコムが2026年6月に実施した調査では、食品や料理を食べる際に「食感を重視する」と答えた人が6割強に達し、好きな食感では「サクサク、サクッと」が6割弱、「もちもち、もっちり」が約45%、「カリカリ、カリッと」が約36%となった。さらに、好きな食感の食品を食べたときに「満足感が高まる」「幸せな気分になる」と回答した人はいずれも4割強であり、食感が単なる物理的性質ではなく、満足感や感情的評価とも結びついていることが示されている。
海外でも同様の動きが確認されている。食品市場調査会社のインテージ・マーケット・インサイツによる2026年の分析では、世界の消費者の約56%が、少なくともぜいたく感のある食品・飲料について「興味深い食感の組み合わせ」を求めているとされ、ザクザクした食感、なめらかな食感、クリーミーな食感、もちもち・とろりとした食感などを組み合わせる商品開発が進んでいる。
ここで重要なのは、「食感が味に取って代わった」と単純に考えることではない。味は依然として食品評価の中心にあり、食感はむしろ味、香り、温度、見た目、音などと結びつきながら、食品を「体験」として成立させる役割を強めていると捉えるべきである。
つまり、2026年の食感ブームは、味覚の衰退ではなく、食品価値の構造が広がっている現象である。従来は「おいしい味をつくる」ことが商品開発の中心だったのに対し、現在は「食べた瞬間に何を感じ、何を記憶し、誰かにどう伝えたくなるか」まで含めて商品を設計する必要が生じている。
現象の概要:なぜ今「食感」なのか?
食品における食感そのものは新しい概念ではない。例えば、日本では古くから「もちもち」「しゃきしゃき」「ふわふわ」「歯ごたえ」といった表現が日常的に使われており、食感は食品のおいしさを構成する重要な要素だった。
しかし、近年の変化は、食感が「味を補助する要素」から「商品を選ぶ理由そのもの」へと近づいている点にある。食品企業にとっては、味だけで差別化することが難しくなるなか、口当たり、歯切れ、弾力、粘り、崩れ方などを設計することで、同じ味でも異なる商品体験を生み出せるようになった。
その背景には食品市場の成熟がある。消費者が日常的に大量の商品を選択できる環境では、「チョコレート味」「いちご味」「抹茶味」といった味の違いだけでは、新商品の新鮮さを十分に伝えにくい。
そこで「ザクザクしたチョコレート」「もちもちしたドーナツ」「とろとろのクリーム」といった、食べた瞬間を想像できる言葉が重要になる。食感は、商品の特徴を短い言葉で伝えられるうえ、実際に食べた際の感覚まで想起させるため、商品広告や口コミとの相性が非常に良い。
さらに2020年代には、食品を「食べるもの」だけでなく「見るもの」「聞くもの」「撮影するもの」として楽しむ文化が広がった。食べ物を割った瞬間に中身が流れ出す、表面をかじると大きな音がする、もちを引っ張ると長く伸びるといった現象は、味そのものとは別の視覚的・聴覚的な情報を提供する。
2026年の世界市場では、この「多感覚化」が食感開発を押し上げる重要な要因になっている。インテージ・マーケット・インサイツも、食感について、ぜいたく感、感情、健康、伝統、新奇性など複数の価値と結びつく要素として分析しており、食品企業が食感を商品差別化の手段として利用する傾向を指摘している。
特に注目すべきなのが、「単一の食感」から「複数の食感」への移行である。柔らかいだけ、硬いだけではなく、「外側はパリッ、中はとろり」「表面はザクザク、中はもちもち」「クリームはなめらか、具材はカリカリ」というように、1つの商品に異なる感覚を同居させる設計が増えている。
この変化は、食品を一口ごとに変化する体験へと変える。最初の歯触り、噛んだときの抵抗感、内部が崩れる瞬間、最後に残るなめらかさまでを設計すれば、同じ味でも食べる行為そのものに起伏をつくることができる。
食品企業にとって、これは極めて重要な意味を持つ。味覚だけであれば原材料や香味の変更が必要になる場合が多いが、食感であれば同じ基本的な味を維持しながら、素材の加工方法、粒の大きさ、水分量、温度、層構造などを変えることで新しい商品体験を作り出せるからである。
「食感」需要が高まる4つの背景(要因分析)
① SNSを中心とした「ASMR・バイラル文化」の定着
食感需要の拡大を考えるうえで、まず無視できないのがSNSの存在である。短時間の動画を中心とした情報環境では、商品を食べた感想を長々と説明するよりも、「割る」「伸ばす」「噛む」「崩す」といった一瞬の動作によって商品の特徴を伝えるほうが強い訴求力を持つ。
特に、食べ物を噛んだときの音や、表面が割れる音、クリームが流れ出す映像などは、味を実際に伝えられなくても、視聴者に食感を想像させることができる。食品の食感が音と映像によって可視化・可聴化されることで、これまで口の中でしか存在しなかった価値が、画面上のコンテンツへ変換される。
この点で「ザクザク」「パリパリ」「カリカリ」といった食感は極めてSNS向きである。食べる前から特徴が理解でき、食べる瞬間には音や動きが発生し、食後には「思った通りだった」「予想以上だった」という評価を共有できるためである。
さらに重要なのが「体験のシェア」である。消費者は単に商品を購入して消費するだけでなく、その商品を撮影し、感想を投稿し、他人の投稿を見て次の商品を探すという循環に参加している。
この循環では、味よりも食感のほうが他人に伝えやすい場合がある。「おいしい」は主観的な評価だが、「割ったら中からクリームが流れ出した」「噛むと大きな音がした」「伸ばすとこれだけ伸びた」といった現象は映像として共有できるからである。
その結果、食品企業にとって食感は「食べる人を満足させる品質」だけでなく、「食べる前から話題を生み出す広告装置」としての価値を持つようになった。味覚中心の商品設計から、視覚・聴覚まで含めた体験設計へ移行する背景には、この消費行動の変化がある。
② 「異食感の組み合わせ」によるエンターテインメントの昇華
第2の要因は、異なる食感を組み合わせる「ハイブリッド食感」の発達である。食品開発では以前から複数の食感を組み合わせる手法が使われてきたが、現在はそれ自体を商品の主役として設計する傾向が強まっている。
例えば、外側を硬く、中を柔らかくするだけでも、一口の中で複数の感覚が生まれる。さらに、ザクザク、もちもち、とろとろ、ふわふわなどを組み合わせれば、噛む場所や順番によって感覚が変化し、食べる行為そのものが小さな娯楽になる。
2026年の世界的な調査でも、異なる食感を組み合わせる商品への関心が確認されている。インテージ・マーケット・インサイツは、消費者が新しい食体験を求める一方で、親しみのある食品との組み合わせも重要だと分析しており、異なる食感を組み合わせることが新商品への挑戦を促す手段になっているとしている。
この構造を象徴するのが、もちもちした素材となめらかな素材、あるいはザクザクした素材とクリームなどの組み合わせである。海外市場でも、餅のような弾力性とクリームのような柔らかさを組み合わせた商品や、カリッとした素材ととろりとした素材を組み合わせた菓子が注目されている。
ここでは「食感が増えるほど良い」という単純な話ではない。重要なのは、異なる食感が互いを引き立てることであり、硬さと柔らかさ、温度差、水分量、弾力性などの対比によって、一口の中に明確な変化をつくることである。
したがって、現代の食感開発は「柔らかい食品をつくる」「硬い食品をつくる」という段階を越え、「一口の中で何回、感覚を変化させるか」という設計思想へ向かっている。食品が小さな娯楽装置へと変化していることが、食感競争の本質の1つである。
③ 健康志向の多様化――「我慢しない」食体験の追求
第3の要因は、健康志向そのものが変化していることである。かつて健康を意識した食品では、低カロリー、低糖質、脂質控えめ、無添加など、何を減らしたかを示すことが重要だったが、現在は「健康のために好きなものを我慢する」という考え方だけでは消費者を引きつけにくくなっている。
この変化には、健康と楽しさを両立させたいという需要がある。食品市場では、植物由来原料、食物繊維、たんぱく質などを取り入れながら、食べ応えや満足感を維持する商品開発が進んでおり、健康価値と官能的な満足を対立させない設計が重要になっている。
ここで食感が大きな役割を果たす。食感には、実際のエネルギー量とは別に「食べた」という感覚を強める作用があり、噛み応え、歯切れ、弾力、粒感などを設計することで、食品の満足感を高めることができるからである。
例えば、穀物やナッツ、種子などを加えた食品では、粒や歯応えが残ることで、単に柔らかい食品よりも食べる行為そのものを長く楽しめる。こうした「噛むことによる満足」は、健康を意識しながらも食事を楽しみたい消費者にとって重要な価値となる。
ただし、ここには注意すべき点もある。食感が強いから健康的であるとは限らず、「ザクザク」「もちもち」「ねっとり」といった表現自体が栄養価や低カロリー性を意味するわけではないため、健康価値と食感価値は明確に分けて考える必要がある。
むしろ現在起きているのは、健康食品にも「おいしさを犠牲にしないこと」が要求されるようになったことである。食品企業は、健康を理由に食べる楽しさを削るのではなく、食感、香り、味、見た目を組み合わせることで、健康と嗜好性を同時に成立させようとしている。
この流れは、食感が持つ「満足感」という心理的価値とも結びついている。日本の2026年調査でも、好きな食感の食品を食べることによって満足感や幸福感が高まるという回答が一定数確認されており、食感が単なる物性ではなく、食品選択の感情的側面にも関係していることが分かる。
さらに、健康志向の多様化は「罪悪感の少ないぜいたく」という市場にもつながる。完全に健康食品へ移行するのではなく、普段の食品に栄養価の高い素材を加えたり、量を調整したりしながら、濃厚さや食感によって満足度を確保するという考え方である。
そのため今後の食品開発では、「健康か、おいしさか」という二者択一ではなく、「健康価値を持ちながら、どれだけ食べた実感をつくれるか」が重要なテーマになると考えられる。食感はその両者をつなぐ技術として利用される可能性が高い。
④ グローバル化とエスニック・アジアンスイーツの台頭
第4の要因は、国境を越えた食文化の流入である。動画投稿や電子商取引の普及によって、これまで一部の地域でしか知られていなかった食品が世界中の消費者に発見されるようになり、その過程で特徴的な食感を持つ食品が注目を集めている。
特にアジアの菓子や飲料には、欧米の伝統的な菓子とは異なる食感を持つものが多い。もち、タピオカ、ゼリー、寒天、米粉を利用した菓子などは、弾力、粘り、滑らかさ、ぷるぷるした感覚などを特徴としており、食感そのものが商品価値になりやすい。
タピオカ入り飲料の世界的な普及は、その代表例の1つである。飲料の味だけでなく、ストローを通して粒を吸い込み、口の中で弾力を感じるという行為そのものが商品の特徴になり、飲料市場に「噛んで楽しむ」という新しい体験を持ち込んだ。
近年ではさらに、餅を利用した菓子や、米粉を使ったもちもちした食品、ゼリー状の菓子、韓国系のデザートなどが国境を越えて知られるようになった。これらの商品に共通するのは、味の説明だけではなく、触感を表現する言葉が商品理解の中心になりやすいことである。
この現象は、単純な「アジアブーム」として捉えるだけでは不十分である。重要なのは、異なる食文化が国境を越えることで、消費者がそれまで知らなかった「食感の語彙」を獲得していることである。
例えば、もちもちという感覚を知らなかった消費者が、餅や米粉菓子を通じて新しい食感を経験すると、その後の商品選択では「味」だけでなく「もちもちしているかどうか」も判断材料になり得る。食文化のグローバル化は、原材料や料理だけでなく、食感そのものの国際化を進めている。
また、海外の食品企業にとってアジア由来の食感は、新商品を開発するための素材としても利用できる。既存の菓子に餅のような弾力を加えたり、クリームにタピオカやゼリー状の素材を組み合わせたりすることで、従来の商品にはなかった感覚を作り出せるためである。
一方、日本企業にとっても海外の食文化は新しい開発材料になる。韓国、中国、東南アジアなどの食品に見られる食感を研究し、日本の菓子や飲料に取り込むことで、新たな市場を狙うことができる。
ここで重要なのは、「海外らしさ」そのものが価値なのではなく、未知の食感が新奇性を生む点である。消費者が経験したことのない弾力、粘り、崩れ方、伸び方などを商品に取り込めば、味を大きく変えなくても新商品として認識されやすくなる。
したがって、グローバル化は食品の味を均質化する方向だけに作用するわけではない。むしろ各地域の特徴的な食感が世界市場に流入することで、「食感の多様化」を加速させる側面を持っている。
食品各社の戦略とイノベーション
こうした需要の変化を受け、食品企業の競争軸も変化している。従来の商品開発では、味、香り、容量、価格、原材料などが主要な設計項目だったが、現在はそれらに「食感」が独立した開発要素として加わっている。
特に重要なのが、食品の中で食感を意図的に変化させる技術である。単純に硬い食品や柔らかい食品を作るのではなく、複数の素材や加工技術を組み合わせ、一口の中に異なる感覚を発生させる方向へ開発が進んでいる。
素材・テクスチャーの掛け合わせ――ハイブリッド開発
ハイブリッド開発の基本は、異なる物性を持つ素材を組み合わせることである。例えば、クリームのような滑らかな素材に粒状の素材を加える、柔らかな生地に硬い層を加える、弾力のある素材の内部に液状のソースを入れるなど、組み合わせ方にはさまざまな方法がある。
この方式の利点は、味の変更を最小限に抑えながら商品の印象を変えられることである。同じチョコレート味でも、なめらかなチョコレートとザクザクしたチョコレートでは食べたときの印象が大きく異なり、消費者から見れば別の商品体験になる。
さらに、食感には「対比」が利用できる。柔らかいものの中に硬いものを入れる、冷たいものに弾力を加える、なめらかなものに粒を加えるなど、正反対の感覚を組み合わせることで、口の中に明確な変化が生じる。
この対比は、SNSとの相性も良い。商品を割ったときの断面、スプーンを入れたときの抵抗、引っ張ったときの伸びなど、内部構造を視覚化しやすいためである。
したがって、現代の食品開発では「何を入れるか」だけではなく、「どの順番で感覚を発生させるか」が重要になる。外側、内側、中心部という構造を設計し、食べ始めから飲み込むまでの感覚を組み立てることが、食感イノベーションの核心になりつつある。
五感を刺激するパッケージング
食感競争は食品そのものだけで完結しない。パッケージを開けるときの音、容器から取り出すときの動作、商品の断面が見える包装など、購入から開封までを含めた体験設計も重要になっている。
特に透明な容器や断面を見せる包装は、食感を視覚的に予告する役割を持つ。内部に粒や層が見えていれば、消費者は購入前から「ザクザクしていそう」「とろけそう」「もちもちしていそう」と想像できる。
これは食品広告における「期待値の設計」ともいえる。食べる前に想像をつくり、食べた瞬間にその想像を確認させることで、商品の記憶を強める仕組みである。
つまり、食感は製造工程だけの問題ではない。商品名、包装、広告、動画、店舗での陳列、実際の咀嚼体験までを一つの流れとして設計する必要があり、食品開発とマーケティングの境界が以前より曖昧になっている。
「定番商品の食感リメイク」
食品企業が食感を商品開発に取り入れる際、必ずしも全く新しい食品を生み出す必要はない。むしろ現在目立つのが、すでに市場に定着している菓子やパン、飲料、冷菓などに新しい食感を加え、既存商品の価値を再構築する方法である。
この戦略が成立する理由は、味について消費者がすでに一定の理解を持っているからである。ブランドや味の認知を維持したまま、ザクザク、もちもち、パリパリ、とろとろといった食感を追加すれば、「知っている商品なのに新しい」という感覚をつくることができる。
食品市場では、完全な新商品ほど消費者に説明するコストが高くなる。どのような味なのか、誰が買うのか、どのような場面で食べるのかを一から伝える必要があるためである。
これに対して定番商品の食感リメイクでは、既存ブランドの知名度を利用できる。「いつもの味に新しい食感」という構造にすれば、消費者は商品そのものを理解するための負担が小さく、購入理由も作りやすい。
特に菓子市場では、この方法との相性が良い。チョコレート、クッキー、アイスクリーム、ドーナツ、プリンなどは基本的な味を維持したまま、表面や内部に異なる素材を加えることで、食感を大きく変えられるからである。
例えば、なめらかなチョコレートに砕いた焼き菓子を加えれば、口溶けの途中でザクザクした感覚が生まれる。柔らかなプリンに弾力のある素材や粒状の具材を加えれば、同じプリンでも食べる体験は大きく変化する。
このような商品では、味の刷新よりも「食べ方の刷新」が中心になる。消費者は従来の商品との違いを一口目で認識でき、その違いを短い言葉で説明できるため、口コミや動画投稿にもつながりやすい。
また、定番商品の食感リメイクには季節商品との親和性もある。春、夏、秋、冬と味や素材を変更するだけでなく、季節ごとに異なる食感を提示することで、同じブランドを継続的に購入する理由をつくることができる。
一方で、食感リメイクには限界もある。消費者が求める食感を追求しすぎると、商品本来の味や食べやすさが損なわれる可能性があるためである。
また、「ザクザク」「もちもち」といった分かりやすい表現は模倣されやすい。ある企業が新しい食感を商品化しても、競合企業が類似した食感の商品を短期間で投入すれば、食感そのものが差別化要因ではなくなる。
したがって、今後の競争では単に「強い食感」をつくるだけでは不十分になる。どの素材を使い、どの味と組み合わせ、どのタイミングで食感を変化させ、どのような食べ方を想定するのかという総合的な設計が重要になる。
食感競争が変える食品開発
ここまでの動きを整理すると、食品企業の開発思想そのものが変化していることが分かる。従来型の商品開発では、味を決め、その味に合う原材料や製造方法を選ぶという考え方が中心だったが、現在は「食べたときにどのような体験を生み出すか」から逆算する方法が強まっている。
これは食品を工業製品としてだけではなく、感覚的な体験商品として扱う発想である。味、香り、食感、温度、音、見た目を個別に設計し、それらを一つの商品体験として統合する必要がある。
食感は、その中でも特に重要な位置を占める。味や香りは食品を口に入れた瞬間から比較的直接的に感じられるが、食感には「噛む」「押す」「崩す」「伸ばす」といった身体的な行為が伴う。
そのため食感は、消費者自身が商品に参加する感覚を生みやすい。単に味を受け取るのではなく、歯や舌、口の動きによって商品を変化させ、その反応を楽しむという構造になる。
この点は、現代の消費文化と相性が良い。受け身で広告を見るだけではなく、自分で撮影し、自分で食べ、自分の感想を発信する消費者が増えたことで、食品の「体験としての価値」が高まったからである。
さらに、食感には言葉による伝達力がある。「ザクザク」「もちもち」「とろとろ」などの擬態語は、専門的な食品科学の知識がなくても意味を理解できる。消費者同士が商品の特徴を簡単に共有できることは、口コミ市場において大きな利点になる。
日本の食品文化にはもともと、食感を表現する豊富な語彙が存在する。「しゃきしゃき」「ほくほく」「ねばねば」「ぷるぷる」「ふわふわ」など、食品の物性を感覚的に表現する言葉が日常的に使われてきた。
この言語的な土壌も、日本市場における食感商品の展開を支えていると考えられる。消費者が食感を細かく区別し、商品を評価するための言葉をすでに持っているためである。
「食感」は本当に味を超えたのか
ここで、「味から食感へ」という表現そのものについて検証する必要がある。結論からいえば、2026年の市場動向を「味が重要でなくなり、食感が味に取って代わった」と解釈するのは適切ではない。
食品を選ぶ際、味、香り、価格、原材料、安全性、栄養価、ブランド、見た目など複数の要素が同時に評価されている。食感の重要性が高まっていることと、味の重要性が低下していることは同じ意味ではない。
むしろ現在起きているのは、食品の評価軸が増えていることである。味が中心にあったところへ、食感、見た目、音、健康価値、物語性、共有しやすさなどが加わり、一つの商品を多面的に評価するようになっている。
この変化を象徴するのが「一口目の設計」である。消費者が商品を口にした瞬間、味だけでなく、歯触り、温度、香り、硬さ、音などを同時に受け取る。
食品企業が食感に注目するのは、その一瞬を設計できるからである。味の変更を伴わずに商品の印象を変えることができ、しかもその変化を包装や広告、動画によって事前に予告できる。
したがって、「味から食感へ」という表現は、厳密には「味だけでは差別化しにくくなり、食感を含む多感覚的な商品設計へ」という意味で捉えるほうが実態に近い。
食感ブームの光と影
食感を重視する商品開発には、明確なメリットがある。消費者に新鮮な体験を提供でき、既存商品のリニューアルにも利用でき、SNS上で視覚や音を通じて商品の特徴を伝えやすい。
しかし、食感の過剰な強調にはリスクもある。刺激の強さを追求するあまり、食べにくさや飽きやすさにつながる場合があるほか、流行した食感が短期間で陳腐化する可能性もある。
また、すべての消費者が強い食感を求めるわけではない。年齢、食習慣、文化、個人の嗜好によって、柔らかい食品を好む人もいれば、硬い食品を好む人もいるため、「食感需要」を一枚岩として扱うことはできない。
さらに、食感をSNS向けの演出だけで設計すると、実際の商品体験との間に差が生じる可能性がある。動画では非常に魅力的に見えても、実際に食べると期待したほどの食感がなければ、消費者の評価は逆方向に動く。
このため、今後重要になるのは「映える食感」ではなく、「映像で期待させた食感を実際の口の中で再現できるか」という問題である。広告、包装、動画、実際の商品が同じ感覚を伝えることが、ブランドへの信頼を維持する条件になる。
食品企業にとっては、製造技術だけでなく品質管理も重要になる。ザクザクした素材が時間の経過によって湿気を吸収すれば食感が失われ、とろとろした素材も温度変化によって性質が変わるため、流通や保存まで含めた技術開発が必要になる。
つまり、食感競争はマーケティング競争であると同時に、食品工学や製造技術、包装技術、物流技術を含む総合的な競争でもある。
消費者にとっての「食感」の意味
消費者側から見ると、食感への関心は単なる流行以上の意味を持っている。食事や間食において「何を食べるか」だけでなく、「どのように食べるか」が満足度を左右するようになっているからである。
特に間食市場では、短時間で気分転換をしたいという需要と食感が結びつきやすい。袋を開ける、噛む、音を聞く、食感を楽しむという一連の行為そのものが、小さな娯楽になる。
この構造は、忙しい生活の中で「短時間で得られる体験」を求める消費者とも相性が良い。長時間の外食や旅行などとは異なり、菓子や飲料は数分程度でも新しい体験を提供できる。
さらに、食感には記憶を形成する力もある。味が同じでも、特徴的な食感があれば「あの商品」と認識しやすくなり、ブランドを思い出すきっかけになる。
そのため、今後の食品ブランドでは「味の記憶」に加えて「食感の記憶」が重要になる可能性がある。商品を思い出すときに「甘いチョコレート」ではなく、「あのザクザクしたチョコレート」と記憶されれば、食感そのものがブランド資産になる。
今後の展望
2026年時点で進んでいる「食感」への注目は、一時的な商品流行だけでは説明しにくい。SNSによる情報拡散、食品市場の成熟、健康志向の多様化、国際的な食文化交流、食品加工技術の進歩が同時に作用しており、食感を商品価値の一部として設計する流れは今後も続く可能性がある。
ただし、今後の競争は単純な「より強い食感」競争にはならないと考えられる。ザクザク、もちもち、カリカリといった分かりやすい食感はすでに広く知られているため、食品企業には、それらをどの味、素材、温度、形状、食べ方と組み合わせるかという、より細かな設計が求められる。
特に重要になるのが、食感の「時間的変化」である。一口目は硬く、噛むと柔らかくなり、最後にクリームが広がるといったように、食べ始めから飲み込むまでの変化を設計すれば、単一の食感よりも複雑な体験をつくることができる。
これは食品開発を、単なる物性調整から「食べる過程の設計」へ変える可能性がある。食品企業は、商品の完成時点だけを見るのではなく、包装を開ける、手に取る、口に入れる、噛む、崩れる、溶けるという一連の時間を商品設計の対象にする必要が出てくる。
また、AIやデジタル技術の発達によって、食感開発そのものも変わる可能性がある。消費者調査や官能評価の大量データを分析し、特定の味と特定の食感の組み合わせに対する評価を予測することで、従来より効率的に商品候補を絞り込めるようになる可能性がある。
一方で、食感は数値だけでは完全に評価できない。硬さや弾力性などを測定することは可能だが、「楽しい」「懐かしい」「ぜいたくに感じる」といった感覚的評価には個人差が大きいからである。
そのため今後の食品開発では、物性測定などの客観的評価と、消費者による官能評価を組み合わせる必要がある。食品科学とマーケティング、消費者心理を横断した開発体制が、食感競争の基盤になると考えられる。
さらに、健康分野でも食感の役割は広がる可能性がある。食物繊維を含む食品、植物由来食品、穀物を利用した食品などでは、栄養価だけでなく、噛み応えや食べ応えをどのように実現するかが商品受容を左右するためである。
高齢化への対応という点でも、食感設計は重要になる。硬いものを避けたい需要と、食べる楽しさを維持したい需要を両立させるため、単純に柔らかくするのではなく、「噛みやすいが満足感がある」「口の中で適切に崩れる」といった細かな食感制御が必要になる。
つまり、未来の食感開発は若者向けのSNS商品だけに限定されない。年代、健康状態、食習慣、文化、利用場面に応じて食感を細かく設計する方向へ広がる可能性がある。
「食感」は一過性のブームなのか
では、現在の食感ブームはいつまで続くのか。これを単純に予測することはできないが、少なくとも「食感を商品差別化に利用する」という考え方自体は、一過性の流行とは異なる構造的な要素を持っている。
理由の1つは、食感が食品そのものの物理的性質だからである。味の流行には周期があるが、硬さ、弾力、粘り、滑らかさ、粒感などは食品を食べる行為そのものに関係するため、完全になくなることはない。
もう1つは、食感がSNS時代の情報伝達方法と非常に相性が良いことである。味を画面越しに直接伝えることはできないが、食品が割れる、伸びる、崩れる、音を出すといった現象は映像や音声として伝えられる。
この特徴は、動画を中心とする消費文化が続く限り一定の強みを持つ。したがって、特定の「ザクザク商品」が流行を終えたとしても、次の食感を使った商品が登場する余地は残る。
ただし、食感そのものが差別化要因として永続するとは限らない。ある食感が市場に大量投入されれば、消費者にとっては珍しいものではなくなり、別の新奇性が求められるようになるからである。
このため、今後は「食感の新しさ」だけでなく、「食感と味の意外な組み合わせ」「食感の変化」「地域固有の食感」「健康価値と食感の両立」など、より複合的な価値が競争軸になるとみられる。
食品企業に求められる次の戦略
食品企業にとって重要なのは、流行語としての「食感」を追いかけることではない。自社の商品が消費者にどのような体験を提供するのかを明確にし、その体験の中で食感をどのように位置付けるかを考えることである。
例えば、チョコレートなら単に「ザクザクさせる」のではなく、濃厚な味を軽く感じさせるために歯応えを利用するという設計が考えられる。飲料なら、味の濃さだけではなく、粒、泡、ゼリーなどを加えて口の中で変化を生み出すこともできる。
また、健康食品では、栄養価を維持しながら食べ応えを高めることが重要になる。ここでは「健康だから我慢して食べる食品」ではなく、「健康を意識しながら、食べる楽しさも得られる食品」という方向への転換が求められる。
さらに、海外市場を視野に入れる場合には、地域ごとの食感文化を理解する必要がある。同じ「柔らかい食品」であっても、消費者が好む弾力、粘り、口溶け、粒感には文化的な違いがあり、世界共通の商品設計だけでは対応できない可能性がある。
したがって、今後のグローバル食品開発では、世界的に共有される食感トレンドと、地域固有の食文化を組み合わせることが重要になる。アジアの食感を欧米向け商品に取り入れる場合でも、単純な模倣ではなく、現地の味覚や食習慣との組み合わせを考える必要がある。
まとめ
2026年の食品市場で「食感」が注目されている背景には、複数の構造的な変化がある。SNSによる映像・音声中心の情報環境、異なる食感を組み合わせる商品開発、健康と満足感を両立させる需要、そして国境を越える食文化の交流が重なり、食感の市場価値を押し上げている。
特に重要なのは、食感が「食べた人だけが分かる感覚」から、「食べる前から見せ、聞かせ、共有できる情報」へ変化したことである。ザクザク、もちもち、とろとろといった言葉は、商品の物性を説明するだけでなく、消費者がこれから経験する体験を予告する役割を持つ。
食品企業にとっても、食感は既存商品の再活性化、新商品の差別化、SNSでの情報拡散、健康価値との両立など、複数の課題に対応できる開発要素になっている。特に、異なる食感を組み合わせるハイブリッド化や、食べる過程そのものを設計する商品開発は、今後さらに重要になると考えられる。
ただし、「味から食感へ」という変化を、味の重要性が低下した結果と捉えるべきではない。実際には、味を中心とした従来の食品価値に食感、香り、見た目、音、健康価値などが加わり、食品がより多感覚的な体験商品へ変化していると理解するほうが適切である。
その意味で、2026年の食感ブームの本質は「ザクザク」「もちもち」といった個別の流行語にはない。消費者が食品を「何味なのか」だけでなく、「口に入れたときに何が起こるのか」という体験として評価するようになったことにある。
今後の食品競争では、味と食感を対立させるのではなく、両者をどのように組み合わせて記憶に残る体験をつくるかが重要になる。食感は食品の脇役から独立した商品価値へと位置を高めつつあり、その動きは菓子、パン、飲料、冷菓、健康食品、外食など幅広い領域に波及していく可能性がある。
参考・引用リスト
1.マイボイスコム「食感に関するアンケート調査(第5回)」2026年6月実施。食感の重視度、好きな食感、食感と満足感・幸福感との関係などを調査した国内消費者調査。
2.インテージ・マーケット・インサイツ「世界の食感トレンド」2026年。世界の食品・飲料市場における食感の組み合わせ、新奇性、ぜいたく感、健康価値などについて分析。
3.インテージ・マーケット・インサイツ「異なる食感を組み合わせた食品に関する市場分析」2026年。異なる食感を組み合わせる食品開発と、消費者の新しい食体験への需要について分析。
4.日本食品科学工学会関連資料。食品のテクスチャー、官能評価、食品のおいしさに関する研究資料。
5.農林水産省「食生活・食育に関する各種資料」。日本の食生活、食品選択、健康志向などに関する公的資料。
6.消費者庁「食品表示・健康食品に関する資料」。健康食品の表示、消費者の商品選択、健康価値に関する基礎資料。
7.各食品メーカーの商品開発・新商品発表資料。食感を特徴とする菓子、パン、飲料、冷菓などの新商品について、素材、製法、商品コンセプトを確認するための資料。
8.食品産業新聞社、食品新聞など食品業界専門メディア。2025〜2026年の食品市場における食感商品、菓子市場、飲料市場、新商品開発の動向を確認するための業界資料。
9.国際的な食品市場調査機関による2025〜2026年の食感・食品トレンド分析。世界市場における多感覚的な食品体験、異食感の組み合わせ、アジア由来食品の拡大などを確認するための資料。
追記:「食感」ブームをデータから読み直す
ここまでの分析を、2026年時点で確認できる調査・市場分析に照らして整理すると、「食感が注目されている」という現象には一定の客観的根拠がある。ただし、「味から食感へ完全に主役が交代した」とするより、食品の価値評価が味覚中心から多感覚型へ広がっていると捉えるほうが、現在のデータとは整合的である。
日本では、マイボイスコムが2026年6月に1万779人を対象として実施した調査で、食品や料理を食べる際に食感を重視する人が「6割強」となった。好きな食感では「サクサク、サクッと」が58.2%、「もちもち、もっちり」が45.2%、「カリカリ、カリッと」が36.1%で、さらに好きな食感の食品を食べることで「満足感が高まる」「幸せな気分になる」と回答した人がそれぞれ4割強だった。
この調査から重要なのは、食感の人気順位そのものより、食感が満足感と結びついている点である。つまり食感は、食品の物理的性質としてだけでなく、消費者が商品を評価するときの心理的な価値にもなっている。
一方、世界市場を見ると、インテージ・マーケット・インサイツは2026年9月の分析で、食感がぜいたく感、感情、健康、新奇性、伝統など複数の消費価値と結びついていると指摘している。特に異なる食感を組み合わせることで、意外性や新しい食体験を生み出すことが食品企業の開発手法になっている。
同社の2026年の分析では、若年層を中心に、遊び心のある意外な食感の組み合わせを求める傾向も示されている。また、世界の消費者の約4分の1が、従来とは異なる形式の菓子を試してみたいと回答しており、異なるカテゴリーや食感を組み合わせることが新商品への関心を生む可能性が示されている。
さらに、食感は健康志向とも切り離せない。インテージ・マーケット・インサイツは、2026年の食感分析において、健康的な商品であっても食感を犠牲にしないことが重要だとし、植物由来食品、機能性食品、栄養価の高い食品などで、食感を商品受容性の向上に利用する方向を示している。
ここから分かるのは、食感市場が「菓子の流行」だけではないということである。菓子、飲料、パン、冷凍食品、乳製品、植物由来食品、機能性食品など、さまざまなカテゴリーで食感が商品設計の要素になっている。
食品原料の観点から見ても、この変化には裏付けがある。インテージ・マーケット・インサイツによれば、2025年時点の世界の新商品データでは、食感形成に関係する原料を含む食品・飲料が新商品の35%を占め、そうした商品の発売数は過去5年間で年平均5%の伸びを示している。
これは非常に重要なデータである。消費者が「食感」を意識しているだけではなく、食品メーカー側でも食感を制御するための原料や技術が実際の商品開発に組み込まれていることを示しているからである。
また、食感を生み出す原料の利用は、菓子だけに限定されない。パン、調理済み食品、乳製品、菓子、ソース、調味料、植物由来食品など幅広いカテゴリーで利用されており、飲料でも冒険的な配合や新しい口当たりをつくるための技術利用が進んでいる。
したがって、2026年の食感競争は「SNSで人気の商品を各社が追いかけている」という単純な現象ではない。消費者側の嗜好変化と、食品メーカー側の技術革新が相互に作用することで、市場全体の開発思想が変化していると見るべきである。
「ザクザク・もちもち・とろとろ」の次に来るもの
では、現在の「ザクザク・もちもち・とろとろ」の次には何が来るのか。特定の食感が次の流行になると断定することはできないが、現在の市場分析からは、単一の食感よりも「複数の食感」「食べる場面」「健康」「懐かしさ」「異文化」の組み合わせが重要になる方向が見える。
インテージ・マーケット・インサイツは、2026年の世界的な食感傾向として、クリーミー、カリカリ、柔らかいなど複数の食感を組み合わせた商品を挙げている。さらに、日常の間食から特別な機会まで、食べる場面に合わせて食感を設計することも商品差別化につながると分析している。
この動きから考えると、今後の競争は「一番ザクザクしている商品」を決めるような単純なものではなくなる。むしろ「ザクザクした後に何が起きるのか」「もちもちした食感と何を組み合わせるのか」「その食感がどのような気分や場面に合うのか」が重要になる。
例えば、最初はカリッとして、その後にクリームが広がる商品なら、消費者は一口の中で複数の変化を経験する。これは食感を「性質」から「物語」に変える方法ともいえる。
今後の食品開発では、このような食感の時間的変化がさらに重視される可能性がある。食品を口に入れた瞬間だけでなく、噛み始め、崩れ、溶け、飲み込むまでを一つの体験として設計する考え方である。
最後に
以上を総合すると、「世界で食感需要が高まっている」という命題は、2026年時点の複数の調査・市場分析によって一定程度支持される。日本では食感を重視する人が6割強という消費者調査があり、世界市場でも食感を多感覚的な商品体験や新商品開発の重要要素として扱う分析が確認できる。
ただし、「味が不要になった」という証拠はない。むしろ2026年の世界的な食品トレンド分析では、味、香り、見た目、食感などを組み合わせた多感覚的な体験そのものが価値を高める要素として扱われている。
したがって、今回のテーマである「『味』から『食感』へ」という表現は、食品市場の変化を説明するキャッチコピーとしては有効だが、厳密な市場分析としては「味から食感への交代」ではなく、「味を中心とした食品価値から、食感を含む多感覚的な食品価値への拡張」と表現するほうが正確である。
「ザクザク・もちもち・とろとろ」が競争されているのは、単に消費者が硬いものや柔らかいものを好むようになったからではない。食感が、満足感、ぜいたく感、新奇性、健康、文化、SNSでの共有といった複数の価値を一つの商品に組み込めるためである。
その意味で、食感は食品産業における「新しい味」ではなく、「味とは別の新しい価値軸」と考えるべきである。そして今後の競争では、食感そのものの強さよりも、味、素材、食感、見た目、音、健康価値、文化的背景をどのように組み合わせるかが問われることになる。
最終的に起きているのは、食品の「おいしさ」の再定義である。消費者は食品を舌だけで評価するのではなく、目で見て、音を聞き、口当たりを感じ、噛み、飲み込み、その体験を他者と共有するようになった。
2026年の「食感」ブームは、その変化を最も分かりやすく表している。ザクザク、もちもち、とろとろという言葉の背後にあるのは、食品を単なる味覚の対象ではなく、複数の感覚が同時に動く「体験」として消費する時代への移行である。
参考・引用リスト(追記)
国内消費者調査
マイボイスコム「食感に関するアンケート調査」。2026年6月1〜7日実施、回答者10,779人。食感の重視度、好きな食感、食感による満足感などを調査している。
世界の食感トレンド
インテージ・マーケット・インサイツ「世界の食感トレンド2026」。2026年9月2日公表。食感とぜいたく感、感情、健康、新奇性、伝統などの関係を分析している。
世界の食品・飲料トレンド
インテージ・マーケット・インサイツ「世界の味覚トレンド2026」。多感覚的な食品体験、文化的融合、健康、感情などを2026年の主要な食品トレンドとして分析している。
食感形成原料の市場分析
インテージ・マーケット・インサイツ「食感形成食品原料の世界市場分析」。食感形成に関係する原料を含む新商品比率や、過去5年間の新商品発売動向を分析している。
食感技術・原料に関する2026年分析
インテージ・マーケット・インサイツ「2026年の親水コロイド――機能から知覚へ」。食感を食品の知覚価値として捉え、ゲル化、泡、構造形成などの技術が食品体験に与える影響を分析している。
食品業界の2026年動向
インテージ・マーケット・インサイツ「2026年食品・飲料トップトレンド」および「2026年菓子トレンド」。健康、機能性、ぜいたく感、価値、複数の食感などを食品開発の主要テーマとして整理している。
