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ネパール、元ラッパーのバレンドラ・シャー氏が首相に就任


台頭の背景には、2025年9月に発生した大規模抗議デモがある。
ネパール、首都カトマンズ、国民独立党(RSP)のバレンドラ・シャー党首(AP通信)

ネパールで元ラッパーという異色の経歴を持つ政治家が首相に就任する。これは同国政治の大きな転換点として国内外の注目を集めている。就任するのは首都カトマンズの市長を務めたたバレンドラ・シャー(Balendra Shah、35歳)氏。新興政党「国民独立党(RSP)」の党首として今月初めの総選挙で地滑り的勝利を収めた。

シャー氏は1990年生まれの若手政治家で、「バレン」の名で活動するヒップホップアーティストとして知られていた。2010年代初頭から音楽活動を展開し、社会の不平等や腐敗を批判する楽曲で若者の支持を集めた。こうした発信力を背景に政治的影響力を高め、2022年には無所属でカトマンズ市長に当選するなど、既存政治に依存しない新しいリーダー像として頭角を現した。

市長在任中はゴミ処理や交通管理など都市行政の改善に取り組み、一定の成果を上げた一方で、違法建築の撤去や露店の規制など強硬な手法に対して批判もあった。それでも既存政党に対する不信感が強まる中で、改革志向の象徴的存在として支持を広げていった。

台頭の背景には、2025年9月に発生した大規模抗議デモがある。汚職や政治エリートへの不満、さらには若者の将来不安を背景に、いわゆる「Z世代」を中心とした抗議行動が全国に拡大、最終的にオリ(Khadga Prasad Oli)前首相が辞任に追い込まれた。この混乱を受けて暫定政権が発足し、総選挙実施への道が開かれた。

総選挙ではシャー氏のRSPが歴史的な大勝を収めた。同党は275議席中182議席を獲得し、過去数十年で最大規模の多数派となった。シャー氏自身も選挙区でオリ氏を大差で破り、国民の強い支持を裏付けた。

この結果は長年にわたりネパール政治を主導してきた既存政党への有権者の不信と、世代交代への強い期待を反映している。特に若年層にとって、シャー氏は音楽活動を通じて社会問題を訴えてきた経歴から「自分たちの声を代弁する存在」として認識されており、SNSを通じた支持拡大も選挙結果に大きく寄与したとみられる。

一方で、国政運営における経験の不足を懸念する声も根強い。地方行政での実績はあるものの、外交や国家経済、複雑な政党間調整といった分野では未知数な部分が多い。また、急進的な改革姿勢が既存勢力との対立を招く可能性も指摘されている。

新政権が直面する課題は多岐にわたる。経済の停滞や若者の海外流出、雇用不足といった構造的問題に加え、抗議運動で表面化した政治不信の払拭も急務である。さらに、透明性の高い統治と汚職対策をどこまで実行できるかが、政権の信頼性を左右する重要な試金石となる。

元ラッパーから首相という異例の経歴は、ネパール政治の新たな時代の到来を象徴している。従来の政治エリートとは異なるバックグラウンドを持つ指導者が、実際に制度改革や社会変革をどこまで実現できるのか。シャー政権の行方は国内のみならず、民主主義における世代交代の可能性を示す事例としても注目されている。

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