◎治安部隊に殺害された市民は1月29日時点で約1,500人、約8,800人が拘留され、数百人が拷問を受け、30万人以上が避難民になった。
2016年5月6日/ミャンマー、アウンサンスーチー氏とミン・アウン・フライン司令官(AP通信)

1年前、ミャンマー軍のミン・アウン・フライン司令官はアウンサンスーチー氏と国民民主連盟(NLD)の高官を拘束し、軍事政権を発足させ、ミャンマーの民主化への道を閉ざした。

軍は2020年11月の総選挙を「偽物」と呼んだが、独立した選挙監視機関は結果をおおむね良好と判断し、西側諸国も軍の主張を却下した。

抗議デモの犠牲者や逮捕者の情報を追跡している政治犯支援協会(AAPP)によると、治安部隊に殺害された市民は1月29日時点で約1,500人、約8,800人が拘留され、数百人が拷問を受け、30万人以上が避難民になった。

不服従運動はミャンマーの経済に深刻な影響を与えている。輸送、銀行サービス、政府機関の窓口、医療機関の機能は著しく低下し、旧軍事政権時代から回復しつつあった経済はマイナスに転じた。2020年10月~2021年9月のGDPは前年比マイナス18%で、期間中に職を失った人は100万人と推定されている。

最大都市ヤンゴンや第二の都市マンダレーでは連日10万人規模の抗議デモが開催されたが、軍の取り締まり強化を受け、多くの市民が活動制限を余儀なくされた。

主要都市のデモが鎮静化すると、軍は独自の部隊を持つ少数民族に目を向け、より厳しく残酷な戦術を採用した。

少数民族ロヒンギャの大量虐殺を主導したことで有名になったミン・アウン・フライン司令官は、少数民族の民兵を「テロリスト」と呼んでいる。

軍の取り締まりは極めて厳しいものになったが、市民は8888民主化運動を主導した当時の人々にはなかったインターネットやソーシャルメディアを駆使し、デモとストライキの組織化に成功した。

医療従事者が創設した不服従運動は電気料金やガス料金の支払い、宝くじの購入をやめるようソーシャルメディアで呼びかけ、軍事政権にダメージを与えている。

一方、ミャンマーのリーダーであるスーチー氏は2023年8月までに行われる予定の総選挙に関与できない可能性が高く、刑務所で一生を終える可能性すらある。スーチー氏は1月時点で懲役6年の実刑を受け、さらに多くの容疑で実刑を言い渡される予定である。

抗議デモと弾圧のタイムライン(2021~2022年)

2月1日
・ミン・アウン・フライン司令官率いる国軍がアウンサンスーチー氏を含む国民民主連盟(NLD)の高官を拘束。1年間の非常事態を宣言した。

2月2日
・軍が国家行政評議会を設立。最大都市ヤンゴンや第二の都市マンダレーで抗議デモ始まる。

2月3日
・警察がスーチー氏の自宅を家宅捜索。無許可のトランシーバーを違法に輸入した容疑などで刑事告発した。国営病院および政府関連の病院で働く医療従事者がストライキを開始。

2月4日
・国営の通信事業者がインターネット通信を遮断。VPNの需要が急増した。

2月5日
・キリンビールが国営のミャンマーエコノミックホールディングスリミテッド(MEHL)との合弁事業を終了。

2月6日
・NLDの顧問を務めていたオーストラリア人のショーン・ターネル氏逮捕。

2月8日
・最大都市ヤンゴンを含む主要都市に夜間外出禁止令。

2月9日
・ヤンゴンのNLD本部で家宅捜索。

2月10日
・東部カヤー州の公務員が軍事クーデターに抗議。一部の警察官もデモに参加した。

2月10日
・ミャンマー最大の労働組合であるミャンマー労働組合連盟が不服従運動に参加した従業員に制裁を科す計画を発表。

2月11日
・米国が軍事政権の指導部に対する制裁を発表。米国内の政府保有資産約10億ドルを凍結した。

2月12日
・治安部隊がNLDの議員、選挙当局の関係者、活動家、NLD寄りの軍関係者を一斉逮捕。

2月15日
・主要都市の抗議デモ取り締まりに装甲車両を配備。

2月16日
・軍が国家災害法違反でアウンサンスーチー氏を追起訴。

2月25日
・フェイスブックが軍事政権関係者のアカウントをすべて凍結。

2月26日
・ミャンマーの国連大使チョー・モー・トゥン氏がクーデターを非難。大使は翌日解任された。

2月28日
・軍の取り締まりで少なくとも18人が死亡。

2021年2月12日/ミャンマー、ヤンゴンの抗議デモ(Getty Images/AFP通信)

3月3日
・軍の取り締まりで少なくとも38人が死亡。

3月8日
・情報省が独立系メディア5社(Mizzima News、ミャンマーナウ、民主ビルマの声、7 Day News、Khit Thit Media)のライセンスを取り消す。

3月12日
・韓国政府がミャンマーとの防衛関係を解消。武器およびその他の軍事物資の輸出を停止した。

3月15日
・民間人の取り締まりに反対する警察関係者11人がインドに亡命。

3月10日
・国連安全保障理事会がNLD高官の解放を求める声明を発表。厳しい文言はロシアと中国の要請により削除された。

3月27日
・首都ネピドーで「国軍記念日」を祝う軍事パレード。近隣の8カ国が代表を派遣した。軍は主要都市の取り締まりを強化し、100人以上を殺害した。

3月30日
・カレン州の一部地域で空爆。

4月1日
・軍がWi-Fiインターネットサービスプロバイダーにワイヤレスブロードバンドインターネットの切断を命じる。これで、インターネットへのアクセス手段は固定回線のみになった。

4月3日
・ヤンゴンなどで犠牲者を追悼する集会。この時点で犠牲者は500人を超えていた。

4月9日
バゴー地方域で大規模な取り締まり。少なくとも80人が死亡。

4月16日
・韓国の鉄鋼大手Poscoがミャンマーエコノミックホールディングスリミテッド(MEHL)との事業を終了。

4月18日
・治安部隊が日本のフリージャーナリスト、北角 裕樹氏を拘束。

2021年3月27日/ミャンマー、首都ネピドー、「国軍記念日」を祝う軍事パレード、ミン・アウン・フライン司令官(AP通信)

4月24日
・ミン・アウン・フライン司令官がインドネシアのASEAN首脳会談に出席。

4月26日
・チン州の国防軍が武力抵抗の開始を宣言。

5月14日
北角 裕樹氏が帰国。

5月16日
・チン州の国防軍が治安部隊の兵士少なくとも6人を殺害。軍はチン州ではなくカレン州の少数民族を空爆した。

5月28日
・ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム政府がミャンマーに対する武器禁輸の呼びかけに反対。

7月26日
・軍が2020年の総選挙結果を無効にすると宣言。

7月27日
・国連のミャンマー特別報告者が安全保障理事会と協議。ミャンマーにコロナ停戦を進めるよう要請したものの、採決には至らなかった。

8月1日
・ミン・アウン・フライン司令官が暫定首相に就任。2023年8月までに総選挙を行うと約束した。

9月28日
西部チン州の町で政府軍と民兵の戦闘が激化。

10月6日
中部マグウェ地方域の自警団が軍の兵士少なくとも40人を殺害。

10月18日
・軍が2月以降に逮捕した市民5,636人を釈放すると発表した。

11月15日
・5月に拘束された米国のジャーナリストであるダニー・フェンスター氏がミャンマーを離れる。

11月16日
・アウンサンスーチー氏を追起訴。

12月6日
・アウンサンスーチー氏に懲役2年の実刑判決。(コロナウイルス規則違反)

12月24日
・軍がタイ国境近くの町レイ・ケイ・カウを空爆。

12月24日
・軍が東部カヤー州で子供を含む少なくとも38人を殺害。国際人権NGOセーブ・ザ・チルドレンの職員2人も殺害された。

2022年1月10日
・アウンサンスーチー氏に懲役4年の実刑判決。(トランシーバーの違法輸入)

2021年12月24日/ミャンマー、東部カヤー州、カレンニー族国防軍の車両は軍の攻撃を受け大破した(カレンニー族国防軍/Getty Images/AFP通信)
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