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チリ大統領選決選投票、右派候補が有利か、12月14日投開票

今回の選挙では1980年代から1990年代にかけての軍事独裁政権以来、最も右寄りの指導者を選ぶ可能性があるとの見方が強まっている。
2025年12月10日/チリ、首都サンディアゴ、ジャネット・ハラ氏の選挙集会(AP通信)

チリで12月14日、大統領選決選投票が行われる。現地メディアはこの選挙で同国の政治的分断が表面化したと報じている。

国民の間で最近の治安悪化や経済停滞をめぐる評価の違いが右派と左派の対立として鮮明に現れている。今回の選挙では1980年代から1990年代にかけての軍事独裁政権以来、最も右寄りの指導者を選ぶ可能性があるとの見方が強まっている。

決選投票に進出したのは右派のホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast、59歳)元下院議員と左派のジャネット・ハラ(Jeannette Jara、51歳)前労働・社会保障相。

カスト氏は治安悪化や移民問題、経済低迷への不満を背景に支持を拡大し、特に犯罪率の上昇や移民の大量流入を強調することによって有権者の不安に訴えかけている。カスト氏はチリを再び「安全で安定した社会」に戻すことを公約に掲げ、現在の混乱した状況を変える必要性を訴えてきた。

カスト氏の政治的ルーツには過去の論争がつきまとう。父親がナチ党員だった経歴や、かつて独裁者ピノチェト(Augusto Pinochet)元大統領への好意を語ったことが批判を招いているが、今回の選挙では社会的な価値観よりも治安対策や移民管理といった現実的な課題が争点となっている。

カスト氏は数十万人の不法移民の強制送還や警察権限の強化、刑務所の収容力拡大など、強硬な政策を訴え、ラテンアメリカや欧米で台頭する右派ポピュリズムの潮流と歩調を合わせてきた。

一方、ハラ氏は現政権の福祉政策を主導した経験を強調し、労働者の権利拡充や経済的公平性の拡大、社会改革の継続を掲げている。支持者はカスト氏の政策が女性や労働者、少数派の権利を侵害し基本的人権を損なう恐れがあるとして警戒感を示す。また支持者たちはハラ氏こそが民主主義と社会的進歩を守る候補であると訴えてきた。

だが、ハラ氏には厳しい選挙環境が立ちはだかっている。共産党員であるという政治的立場が中道層や保守層に警戒感を抱かせているほか、現与党の支持率が低迷していることも追い風となっていない。政治学者らはハラ氏がカスト氏との支持率差を覆すためには奇跡的な躍進が必要だと分析している。

決選投票に臨む両候補の対立はチリ社会の広範な分断を映し出している。右派は過去数年の治安悪化や経済的停滞を「混乱」と表現し、秩序の回復を切望している。他方で、左派は社会改革の進展を評価し、極右的な政策が社会的な進歩を後退させるのではないかと懸念している。

決戦を控え、両陣営は有権者の支持固めに全力を挙げているが、世論調査ではカスト氏が優勢とされる。今回の選挙結果はチリの政治的方向性を大きく左右する試金石となる見込みであり、国内外の注目が集まっている。

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