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チリ大統領選決選投票、右派政権の誕生を恐れる先住民マプチェ

カスト氏はマプチェの武装勢力を「テロリスト」と断じ、治安部隊による武力行使を拡大する方針を公言している。この発言はマプチェ社会の間に深刻な懸念を生んでいる。
2025年12月10日/チリ、首都サンディアゴ、ジャネット・ハラ氏の支持者たち(AP通信)

チリで12月14日に行われる大統領選決選投票を前に、同国最大の先住民族グループであるマプチェの人々は、国内政治の右傾化に強い不安を抱いている。マプチェは総人口(約1900万人)の12%を占め、何世紀にもわたり征服や国家による支配と戦ってきた歴史を持つが、今回の選挙結果によっては過去の苦い経験が再燃する可能性を恐れている。

有力候補であるホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast、59歳)元下院議員は極めて保守的な政策を掲げる右派であり、治安強化と移民対策の強硬路線で支持を集めている。カスト氏はマプチェの武装勢力を「テロリスト」と断じ、治安部隊による武力行使を拡大する方針を公言している。この発言はマプチェ社会の間に深刻な懸念を生んでいる。

カスト氏は最近の演説でアラウカニア州を「恐怖とテロと破壊に苦しむ地域」と表現し、夜間に顔を隠して攻撃を行う「臆病者」としてマプチェの武装勢力を非難した。

またカスト氏は「この集団を壊滅させる」と強調し、支持者の歓声を浴びた。マプチェは長年、治安部隊が過剰な力を行使していると警告してきた。

今回の大統領選では治安や移民問題が主要テーマとなっており、対立候補である左派のジャネット・ハラ(Jeannette Jara、51歳)前労働・社会保障相も治安強化を公約に掲げる一方で、社会政策や労働者保護を訴えている。一部の専門家は今回の選挙戦でマプチェの問題が十分に議論されていないと指摘する。

マプチェの人々にとって、カスト政権の誕生は過去の独裁時代の再来を意味するという恐怖につながっている。独裁者ピノチェト(Augusto Pinochet)元大統領の時代にはマプチェの土地の共同所有権が廃止され、多くの土地が国営企業や非先住民農家に売却された歴史があり、これが現在の貧困や社会的周縁化の原因となっている。

今回の選挙でカスト氏が土地に関する法改正を目指す意向を示していることも、マプチェ社会の不安を高めている。

58歳のマプチェ語教師はAP通信の取材に対し、「この選挙は我々にとって存在そのものがかかっている」と語り、カスト政権がピノチェト時代の苦い体験を再び招く恐れがあると述べた。マプチェの生活は闘争の歴史の上に成り立っているが、今なお土地や文化、自治を巡る問題は解決しておらず、政治的緊張が高まっている。

選挙の結果はチリの政治方向だけでなく、先住民マプチェの未来にも重大な影響を及ぼすとみられ、国内外の注目が集まっている。

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