ブラジル政府がデータセンター誘致へ、デジタル競争規制も提案
データセンター建設競争の激化はデジタル時代における「国家と企業の生存戦略」の一部である。
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ブラジルのルラ(Luiz Inácio Lula da Silva)大統領は17日、関連機器の一部を連邦税から免除することで「データセンター」を誘致する大統領令と、デジタル競争を規制する法案に署名した。
大統領府によると、このデータセンター誘致計画では、サーバーや冷却装置などIT関連の設備投資に対する主要な連邦税が免除される。
財務省は新政策により今後10年間で約2兆レアル(約55.6兆円)のデータセンター投資を得られると試算している。
一方、政府が別途提出した法案は、公正取引委員会が「システム上重要な」テクノロジー企業に関連する案件を分析する専門機関を創設することを目指している。
この提案は規制当局内にデジタル市場専門の新部門を設置することも盛り込まれている。
大統領令と法案のいずれも議会の承認が必要である。
大統領令は議会承認までの一定期間、即時効力を有する一方、法案は議会の承認を得て初めて発効する。
近年、世界中でデータセンターの建設競争が激化している。その背景には、クラウドサービスやAIの急速な普及、動画配信やSNSを中心とした膨大なデータ流通の拡大、そして国家安全保障や経済戦略上の理由が絡み合っている。単に「データを保存する倉庫」としてではなく、データセンターは21世紀のインフラ基盤そのものとして位置づけられ、国家や企業がその主導権を握ろうと競い合っているのが実態だ。
第一の理由は、クラウドコンピューティングの世界的な拡大である。かつては企業ごとにサーバーを設置して業務システムを運用していたが、現在はAWS、マイクロソフトアジュール、グーグルクラウドといった巨大プラットフォームがクラウドを通じて計算資源やストレージを提供している。これらのサービスは金融取引から医療情報、行政データに至るまで社会の根幹を支えている。その結果、クラウド基盤を支えるデータセンターの需要は指数関数的に増加している。とりわけAI分野では、大規模言語モデルや生成AIの訓練に膨大なGPU計算リソースが必要となるため、従来以上に電力・冷却・ネットワーク性能を備えた次世代型データセンターの建設が不可欠となっている。
第二に、デジタルコンテンツ消費の拡大がある。ユーチューブやネットフリックス、ティックトックなどの動画配信サービス、さらにはオンラインゲームやメタバースの利用は、低遅延で大容量のデータ処理を要求する。コンテンツのローカルキャッシュやユーザー近接型のエッジデータセンターの建設が進むのはそのためである。各国で「5G」や「6G」への移行が進む中、ネットワークの高速化は同時にデータ処理拠点の需要増をもたらし、インターネットの物理的基盤を担う施設としてデータセンターが急増している。
第三に、安全保障の観点が大きい。データは「21世紀の石油」と言われ、国家戦略の中核をなす資源とみなされる。サイバー攻撃や地政学的リスクに備え、自国領内にデータセンターを建設して情報を保護しようとする動きが強まっている。欧州では「データ主権」が重視され、米国企業のクラウドに過度に依存することを避けるため、域内に大規模データセンターを建設する政策が進んでいる。中国は独自のクラウド・データ基盤を整備し、海外からの影響を遮断しつつ国内の巨大市場を支える体制を固めている。日本や韓国、シンガポールなども、地政学的な緊張の中で「データをどこに置くか」が安全保障の一部と位置づけられるようになっている。
第四に、エネルギー政策との関わりがある。データセンターは膨大な電力を消費し、同時に冷却のための水資源も必要とする。したがって各国は、再生可能エネルギーと組み合わせる形でデータセンターを誘致・整備しようとしている。特に北欧諸国は豊富な水力発電と冷涼な気候を活かし、国際的なデータセンター集積地として存在感を強めている。逆に電力不足が深刻な国や都市では、データセンターの建設が社会インフラに負担を与える懸念も生じている。例えばアイルランドでは電力網の逼迫から新規データセンター建設が制限される事態となっている。これに対し米国や中東の湾岸諸国では、豊富な資金力とエネルギー資源を背景に、次世代データセンターを積極的に整備し、AIやクラウドの国際拠点を自国に引き寄せようとしている。
第五に、企業間競争の激化も無視できない。GAFAやマイクロソフトのような巨大テック企業はもちろん、中国のアリババやテンセント、韓国のネイバー、さらには中東の国家系ファンドまでが参入し、グローバル規模で建設ラッシュを繰り広げている。データセンターは単にサーバーを置く場所ではなく、AI開発や量子コンピューティング、IoTなど次世代産業の基盤であり、ここを押さえることは未来の産業支配権を握ることにつながる。したがって企業は巨額の投資を惜しまず、新拠点を世界中で建設している。
こうした流れの中で、データセンター建設競争は単なるIT分野の現象を超えて、地政学、エネルギー政策、産業戦略、さらには環境問題とも直結する課題となっている。一方で、データセンターの急増は温室効果ガス排出や地域の電力・水資源への圧迫を引き起こし、持続可能性をめぐる議論も高まっている。国や企業は、効率的な冷却技術や再生可能エネルギーの活用を進め、環境負荷を抑えつつ競争に対応しようとしているが、その調整は容易ではない。
データセンター建設競争の激化はデジタル時代における「国家と企業の生存戦略」の一部である。AIやクラウドを中心とする新たな技術基盤を掌握するため、各国は資金・電力・土地・政策を総動員してデータセンターを建設している。そこには経済的な利益だけでなく、軍事的抑止や国家の独立性を維持する狙いも含まれている。データセンターはもはや見えない倉庫ではなく、情報経済を動かす心臓部であり、その奪い合いこそが21世紀の国際競争の最前線となっている。