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イギリス、米国と新たな貿易協定締結、医薬品の関税ゼロに

イギリス政府および製薬業界はこの合意を歓迎しており、イギリスの医療アクセス拡大と製薬産業の競争力強化につながると指摘している。
2025年2月27日/米ワシントンDCホワイトハウス、トランプ米大統領(右)とスターマー英首相(AP通信)

イギリスと米国が1日、医薬品・医療技術製品の関税をゼロにする新たな貿易協定を締結した。これにより、イギリス製の医薬品、医薬品原料、医療機器などは少なくとも今後3年間、米国への輸出時に関税が課されなくなる。

この譲歩を受け、イギリス側は国内での医薬品購入の支出増加を見込んでいる。具体的には、同国の公的医療制度(NHS)が革新的な新薬や治療薬に支払う金額を約25%引き上げる方針である。

これは過去20年以上で最大の医薬品支出の増加とされ、これまでコスト効率の観点から認められにくかったがん治療薬や希少疾病向けの高額薬なども承認対象に含まれる可能性が高い。

今回の合意では、NHSと製薬企業との間で行われてきた「リベート(売上からの払い戻し)」規定も見直される。従来、ブランド医薬品の売上が一定基準を超えると、製薬企業は収益の一部をNHSに返還する義務があったが、新制度ではその割合が2026年から最大15%に引き下げられる。これにより、医薬品の流通コストや企業の価格設定の自由度が高まる見通しである。

また、医薬品の費用対効果を評価するNICEにおける基準見直しも盛り込まれた。これまで医薬品の支払いを判断する際の「1年あたりの追加寿命(QALY)」あたりの上限2万–3万ポンドであったが、新たな枠組みでは2万5000–3万5000ポンドに引き上げられる見込みである。

この改定により、かつてコストの理由で除外されていた高額治療薬について承認される可能性が高まる。

イギリス政府および製薬業界はこの合意を歓迎しており、イギリスの医療アクセス拡大と製薬産業の競争力強化につながると指摘している。

イギリス製薬業界団体ABPIはNHS患者が先端医薬品にアクセスしやすくなるだけでなく、国内製薬企業の米国向け輸出と国際競争力の向上にも資すると評価した。

一方でこの支出増をどのように賄うのか、既存の医療予算やサービスに圧迫が生じないかという懸念もある。

この協定は米国側がかねて示していた医薬品輸入への関税強化の脅し、特許薬やブランド薬に対して最大100%の関税を課す可能性を回避する狙いがあったとみられる

イギリスは関税撤廃と引き換えに医薬品価格と支出の上昇を受け入れた格好であり、両国は今回の合意を「画期的 な措置」と位置づけている。

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