フランスのスパイ養成大学、現役職員も講義に参加
カリキュラムはテロリズム、組織犯罪、サイバーセキュリティ、紛争の地政学、情報収集・分析技術など現代の安全保障やインテリジェンスに関連した幅広いテーマを含んでおり、合計で年間約120時間の授業が提供される。
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フランス・パリ郊外にある院「Sciences Po Saint-Germain-en-Laye(サンジェルマン・アン・レー政治学院)」が政府のスパイや情報機関職員の訓練の場として注目されている。同大学が提供する「インテリジェンスとグローバル脅威」修士課程では、通常の学生とともにフランスの諜報機関の要員が混じり合いながら学ぶ異例の学習環境が形成されているという。
この修士課程は2019年に設立され、急速に重要性を増している。カリキュラムはテロリズム、組織犯罪、サイバーセキュリティ、紛争の地政学、情報収集・分析技術など現代の安全保障やインテリジェンスに関連した幅広いテーマを含んでおり、合計で年間約120時間の授業が提供される。学問的な研究と現場での実務経験を融合させることが設計思想の中心だとされる。
修士課程に参加する学生は一般の大学院生だけではない。フランスの主要な情報機関である対外治安総局(DGSE)、国内治安総局(DGSI)、軍情報局(DRM)などに所属する実務者が、名前を変更したり匿名を希望したりしながら、日中の研修のために「学生」として参加することがあるという。大学側の講師は、出席名簿に本名ではない名前が記載されているケースが多く、実際にどの学生が諜報機関から派遣されているか特定できないと語っている。
このような一風変わった教育プログラムの背景には、情報機関のニーズと学界の知識を結びつける必要性がある。フランス政府は従来、情報機関の内部教育に重きを置いてきたが、現代の安全保障環境は多層化・高度化しており、学術的な理論や国際的な視点を持つ人材の育成が求められている。政府関係者や教育者の間では、アングロサクソン諸国で長年発展してきた「インテリジェンス研究」の知見をフランスでも取り入れるべきだという声が強まっている。
地元メディアによると、学生たちは講義に加えてディスカッションやケーススタディを通じて、実際の情勢分析や情報活動の戦略を学ぶ機会を得ている。一般の学生にとっては将来のキャリア選択の幅を広げる場となり、実務者にとっては最新の理論や異なる視点を吸収する貴重な機会となっている。一部の学生は情報機関への採用やインターンシップへ進んでおり、大学がスパイや分析官の「登竜門」となるケースも出てきているという。
しかし、この融合教育には慎重な姿勢も存在する。一般学生と情報機関職員が同じ場で学ぶことの倫理的・安全保障上の問題については議論が続いている。また、実務者が学術的な場でどこまで機密を保持しつつ学べるかも検討課題だ。こうした議論の中で、大学は透明性と守秘義務のバランスを取る必要があるとしている。
サンジェルマン・アン・レー政治学院の取り組みは、フランスにおけるインテリジェンス教育の新たな潮流を象徴している。政府機関と学界の協力が進む中で、将来的にさらに多くの大学が類似の教育プログラムを導入する可能性も指摘されている。こうした動きは国際社会における安全保障や情報戦略の重要性が高まる中で、専門人材の育成を加速させるものとして注目される。
