◎ロシアがドイツ向けガスを完全に遮断すれば、欧州最大の工業国は第二次世界大戦以来最大の危機に直面する可能性がある。
2022年6月21日/ドイツ、ルブミンのガスパイプライン接続点(Getty Images/AFP通信)

ドイツ政府は11日、ロシア国営ガスプロム社のパイプライン「ノルドストリーム1」が定期検査に伴いドイツ向けルートを閉鎖したことについて、「輸送が再開されない可能性に備え、準備を進める必要がある」と警告した。

ガスプロム社はドイツ向けルートを10日間閉鎖し、検査や点検を行うとしている。

チェコの首都プラハを訪問中のハーベック(Robert Habeck)副首相は、「EU諸国は最悪の事態に備える必要がある」と記者団に語った。

またハーベック氏はロシアが天然ガスを「兵器化」していると非難する一方、ロシア産天然ガスに依存し過ぎていたことを認め、対応を急いでいると説明した。「ロシアへの依存は完全な政治的誤りであり、政府は現在、それを是正する取り組みを進めています...」

ハーベック氏はLNG(液化天然ガス)用の2つの浮体式LNG貯蔵再ガス化設備を年末までに確保するとした。

ガスプロム社は先月、バルト海を通過するノルドストリーム1の供給量を通常の40%まで削減した。同社は対ロシア制裁の影響でメンテナンスに必要な機器を確保できないと説明している。

カナダ政府は今週、ガスプロム社に機器を貸し出しているドイツ企業に修理した機器を返却すると発表した。

ウクライナ政府はこの決定を非難し、カナダに対ロシア制裁を遵守するよう要請している。

しかし、カナダ政府は国内企業が修理した機器をドイツ企業に返却する許可を出した。

パイプラインの点検やメンテナンスはガス需要が少ない夏に行う。ドイツ政府はガスプロム社が弁を閉めっぱなしにする可能性があると懸念している。

ノルドストリーム1の停止はイタリアにも影響を与えており、石油大手ENI(エニ)は11日、ガスプロム社から供給される天然ガスの量が3分の1に減少すると発表した。

国際エネルギー機関(IEA)は、「ロシアは欧州へのガス供給を完全に停止する可能性があり、今すぐ行動を起こす必要がある」と繰り返し警告している。

ロシアはガスのルーブル建てを拒否したポーランド、ブルガリア、オランダ、デンマーク、フィンランドへの供給をすでに停止している。

オーストリアとチェコも国内で消費するガスの一部をノルドストリーム1から得ている。ガスプロム社はウクライナを経由するパイプラインの供給は維持するとしている。

ハーベック氏とチェコ外相はロシアのガス供給が急減した場合に相互支援を約束する協定に署名した。

ドイツはロシア産ガスの依存度を下げる取り組みを進めている。国内で消費するロシア産ガスの割合は開戦前の55%から35%まで低下した。

ドイツにガスを供給している主要国はノルウェー(約30%)とオランダ(約13%)であり、政府はこの両国から輸入するガスの量を増やしている。

また政府は、浮体式LNG貯蔵再ガス化設備の確保だけでなく、同国初のLNG基地の建設も許可した。

ロシアとドイツを結ぶ新パイプライン「ノルドストリーム2」の建設工事は昨年完了しているが、ウクライナ侵攻の影響で運用開始は見通せない。

ロシアがドイツ向けガスを完全に遮断すれば、欧州最大の工業国は第二次世界大戦以来最大の危機に直面する可能性がある。ドイツの産業はガスに大きく依存し、ほとんどの家庭が暖房にガスを使用している。

ドイツ通信社(dpa)は専門家の話を引用し、「ノルドストリーム1の閉鎖が維持されれば、政府は8月までにガスの供給警戒レベルを最高レベルの3に引き上げるかもしれない」と報じている。レベル3は配給制を意味する。

またdpaはドイツのガス不足は隣国に波及する可能性が高いと警告した。

公共放送ZDFによると、国内のガス貯蔵施設の容量は現在約64%。政府は秋までに100%を目指すとしている。

ガス不足で最も打撃を受けるのは化学部門と予想されている。この部門は国内のガス消費の15%を占め、肥料、医薬品、洗剤、化粧品などを作っている。

ガス警戒レベルが3に引き上げられた場合、医療機関や公共交通機関など、必要不可欠なサービスへのガス供給が優先される。

2021年11月16日/ドイツ、ルプミン工業団地に設置されたノルドストリーム2ガスパイプラインの看板(Stefan Sauer/ドイツ通信社)
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