◎バイデン大統領は民間人の犠牲を最小限に抑えるために空爆を許可せず、特殊部隊による急襲を選択した。
2月3日、ジョー・バイデン大統領はシリア北西部イドリブ県の村に潜伏していたイスラム国(ISIS)の指導者に対する米軍特殊部隊の夜間襲撃作戦を許可したと明らかにした。
バイデン大統領は演説の中で、「世界に対する主要なテロの脅威を除去した」と述べ、ISISの指導者アブイブラヒム・ハシミ・クラシを殺害したと発表した。
またバイデン大統領は、ハシミが自ら爆弾を爆発させ、家族を巻き込んだと明らかにした。
AP通信によると、作戦で子供6人と女性4人を含む13人が死亡したという。
国防総省のジョン・カービー報道官は声明の中で、「米軍は建物から10人(男性、女性、子供8人)を避難させることに成功した」と述べた。しかし、ハシミの爆弾が爆発したことで妻と子供2人が死亡した。
カービー報道官は特殊部隊の作戦が民間人の死を招いたかどうかを評価していると述べた。
特殊部隊はトルコとの国境に近いイドリブ県北部の村の郊外にある2階建ての民家を夜間に急襲した。
シリア当局によると、この地域はISISと争っているジハード組織と、トルコの支援を受ける反政府勢力の拠点になっているという。
バイデン大統領、カマラ・ハリス副大統領、国家安全保障の上級補佐官らはホワイトハウスの状況調整室から作戦をリアルタイムで監視したと伝えられている。
AP通信によると、民家の屋根は粉々に吹き飛び、室内には死亡した13人のものと思われる血がそのまま残されていたという。作戦を目撃した周辺住民はAP通信に、「シリアの当局者が遺体を運び出すところを見た」と述べた。
カービー報道官によると、特殊部隊員にケガはなかったという。
AP通信などによると、バイデン大統領はハシミの殺害作戦の説明を1カ月ほど前に初めて受けたという。
諜報機関の報告によると、ハシミは家族と一緒にアトメの民家の2階で生活し、外出することは滅多になく、伝令員を使ってシリアやその他の地域に潜伏するISIS戦闘員に指令を出していた。
1階で生活していた民間人はハシミとISISの関係を知らなかったと信じられている。
バイデン大統領は民間人の犠牲を最小限に抑えるために空爆を許可せず、特殊部隊による急襲を選択した。作戦は3日未明に始まり、部隊は民家から離れた地点にヘリコプターで乗り込んだ。
AP通信の取材に応じた周辺住民によると、特殊部隊は地上で激しい抵抗に遭い、ヘリコプターが離陸するまで2時間近くかかったという。
1階に住んでいた家族10人は作戦開始前に安全な場所に避難したと伝えられているため、ISIS戦闘員の抵抗は作戦開始後に始まった模様。
しかし、ロイター通信などによると、ハシミは自分の体に取り付けた爆弾を自ら爆発させ、妻と子供を含む近くにいた者と一緒に自爆した。
ハシミの前任者であるアブー・バクル・アル=バグダーディーも2019年10月に決行された米軍特殊部隊の作戦で追い詰められた際、爆弾ベストを起爆し、3人の子供と共に自爆した。
ホワイトハウスによると、ハシミの部下のひとりは自分の家族を人間の盾として利用し、特殊部隊に反撃したという。部下とその家族はまもなく死亡した。
また特殊部隊は襲撃中に別の場所からヘリコプターに向かって発砲したISISの戦闘員と思われる少なくとも2人も殺害した。
バイデン大統領は演説の中で、「作戦に参加したすべての米国人が無事帰還した」と述べた。
一方、シリア民間防衛隊は3日の声明で、「先発隊は午前3時15分に民家に到着し、子ども6人と女性4人を含む13人の遺体を収容した」と発表した。
またシリア民間防衛隊は、戦闘に巻き込まれ負傷した少女を保護したと明らかにした。少女は戦闘の最中に民家に近づき、負傷したという。
イギリスに拠点を置くシリア人権監視団も死者数を13人と発表したが、死亡した子供の数を4人、女性は3人と述べている。
ISISはバグダーディーが死亡してから4日後の2019年10月末にハシミを新しい指導者に指名した。
米国はその後、ハシミの本名やその他の情報を特定し、拘束につながる情報の提供者に懸賞金を支払うと発表した。ISISもハシミの氏名を公表していたが、本名かどうかは不明。
ホワイトハウスによると、ハシミはバグダーディーの下でISISの副司令官として働き、危険なイデオロギーを広め、ISISの残虐行為を正当化し、世界規模で作戦を指揮したという。ハシミは「破壊者(デストロイヤー)」というニックネームで呼ばれていたと伝えられている。
バイデン大統領は、「ハシミはコミュニティを荒廃させ、罪のない人々を殺害し、ISIS系テロ集団を世界に拡散させた」と述べた。「私たちは村を一掃した大量虐殺、何千人もの女性が奴隷として売られ、レイプが戦争の武器として使われた恐ろしい話を覚えています。特殊部隊の勇気のおかげで、この恐ろしいテロリストのリーダーはいなくなりました...」