Withコロナ時代の北米映画市場
現在、アメリカの映画館は約4分の3が営業を再開している。しかし、Withコロナ時代の映画市場はかつて経験したことのない規模の縮小に直面しており、厳しい戦いを強いられている。
アメリカ人は毎週新しい映画が市場に出回っているにも関わらず、映画館に戻っていない。”戻れていない”と言った方が正しいかもしれない。
2億ドル(約210億円)規模の制作費と広告費に数億ドルを費やす大作映画(ブロックバスター)の公開が少しずつ始まっている。
ボックスオフィスによると、今週末(9月18日~20日)の北米映画ランキングは、ワーナー・ブラザースの「テネット(原題:Tenet)」が3週連続で首位を維持。2,930の劇場で約470万ドルを獲得した。
2位はディズニーの「ニュー・ミュータンツ(原題:The New Mutants)」、公開4週目で約160万ドル。3位の「インフィデル(Infidel)」は150万ドルだった。
なお、新作の興行収入は低調だった。ジム・カヴィーゼル主演の政治スリラー、インフィデルは1,724の劇場で封切されたが、期待を下回る成績に終わった。
また、ジュード・ロウとキャリー・クーン共演、IFCフィルムの「ザ・ネスト(The Nest)」と、ノオミ・ラパスが出演したブリーカーストリートの「ザ・シークレット・ウィ・キープ(The Secrets We Keep)」が限定公開されたものの、結果は厳しかった。
この2作は約500カ所で上映され、1カ所あたりの興収は200ドルをはるかに下回った。
ザ・ネストの興収は推定62,000ドル、ザ・シークレット・ウィ・キープは471の劇場で約90,000ドルを獲得した。
インターネット視聴率の測定及びデジタル市場分析を行うコムスコアのシムアメディアアナリスト、ポール・ダーガラベディアン氏は、「北米映画市場が非常に困難な状況にあることは間違いない。見ての通り、市場は低空飛行を続けている。回復にはかなりの時間がかかるだろう」と語った。
世界最大の映画市場は、パンデミックと新作映画の欠如により約半年閉鎖され、先月ようやく営業を再開した。
しかし、社会的距離のルールに伴い劇場内の安全対策が大幅に強化され、封切直後の満員御礼、チケット売り場の長蛇の列は消えた。
6カ月ぶりに大作映画の公開が始まったものの、配給元は期待するような興収を得られず、頭を抱えている。
なお、興収に大きな影響を与える国内最大の市場、ニューヨークとロサンゼルスの劇場はロックダウンされたままである。
北米の収益は、奇跡のワクチンでも開発されない限り、しばらくは壊滅的な状況が続くと思われる。
1作で10億ドル、北米だけで3~4億ドル近い興収を稼ぎ出すクリストファー・ノーラン監督の作品ですら、厳しい。公開3週目のテネットは、これまでに3,610万ドルしか稼げていない。
期待値の高い映画の低パフォーマンスを見た他のスタジオは、新作のリリースを思いとどまり、「劇場で公開すべきか?」と疑問に思っている。
次のブロックバスターは、11月6日から公開を予定しているマーベル(ディズニー)製作、スカーレット・ヨハンソン主演の「ブラック・ウィドウ(原題:Black Widow)」である。
映画『TENET テネット』スペシャル予告 2020年9月18日(金)公開
Infidel Official Trailer (2020)
The Nest - Official Trailer I HD I IFC Films
苦境に立たされるハリウッド
コムスコアのポール・ダーガラベディアン氏は以下のように述べた。
ポール・ダーガラベディアン氏:
「スタジオが公開日を後ろ倒しにするのは当然の措置である。数億ドルかけた映画が数千万ドルしか稼げなかったら、関係者は卒倒するだろう」
「北米映画市場は不確実性に満ちている。素晴らしい映画であっても人を集めることができない。パンデミックが収まると信じ、スタジオは大作映画の公開を年末にずらしている。しかし、興収がどうなるかは誰にも予測できない」
テネットはパンデミック後初となる世界興収2億5,000万ドルを達成した。
しかし、素晴らしい作品でも確実に興収を得られるという保証はない。ディズニーの実写映画「ムーラン(原題:Mulan)」は制作費に2億ドルを投じたが、期待していた中国市場でも大きな収益は得られなかった。
先週、ムーランは中国で残念なデビューを果たし、2週目の週末の興収は先週から72%減少。地元の視聴者から「ガッカリした」と批判された。
ムーランの中国興収は1,090万ドル、世界興収は5,700万ドルにとどまっている。なお、2億ドルかけた同作は、3月に全世界で大々的に公開される予定だった。
なお、ディズニーはパンデミックおよび劇場の動向に配慮し、同作の公開予定日を何度も改訂した。
ムーランはロックダウンの影響で劇場が閉鎖されている国や地域のために、Disney +でも公開されている(視聴するためにはDisney +への加入と別途料金が必要)。
映画業界は、不確実性に満ちたWithコロナ時代の生き残り術を模索している。先月、ボックスオフィスは約6か月ぶりにランキングを発表することができた。そして、大作映画が劇場に戻り始めている・・・
ポール・ダーガラベディアン氏は、「映画ランキングを発表できたことが大きな成果。業界はこの難局を何が何でも乗り切らねばならない」と語った。
【北米興収ランキング:2020年9月18日~20日】
作品名 | 興行収入 | |
1 | テネット | 470万ドル |
2 | ニュー・ミュータンツ | 160万ドル |
3 | インフィデル | 130万ドル |
4 | アンヒンジド (Unhinged) | 150万ドル |
5 | スポンジ・ボブ スポンジ・オン・ザ・ラン (The SpongeBob Movie: Sponge on the Run) | 21万ドル |
6 | ザ・パーソナル・ヒストリー・オブ・デヴィッド・カッパーフィールド (The Personal History of David Copperfield) | 15万ドル |
7 | ワーズ・オン・バスルーム・ウォールズ (Words on Bathroom Walls) | 149,425ドル |
8 | ザ・シークレット・ウィ・キープ | 89,955ドル |
9 | マイ・ブラザーズ・クロシング (My Brothers' Crossing) | 6,445ドル |
ー | ザ・ネスト | 62,000ドル (未確定) |
【北米興収ランキング:2019年4月26日~28日】
※参考 昨年最高の興収を記録した週末
作品名 | 興行収入 | |
1 | アベンジャーズ エンドゲーム (原題:Avengers: Endgame) | 3.57億ドル |
2 | キャプテン・マーベル (原題:Captain Marvel) | 831万ドル |
3 | ラ・ヨローナ〜泣く女〜 (原題:The Curse of La Llorona) | 804万ドル |
4 | ブレイクスルー 奇跡の生還 (原題:Breakthrough) | 681万ドル |
5 | シャザム! (原題:Shazam!) | 558万ドル |
6 | ダンボ (原題:Dumbo) | 349万ドル |
7 | リトル (原題:Little) | 347万ドル |
8 | ペット・セメタリー (原題:Pet Sematary) | 132万ドル |
9 | アス (原題:Us) | 117万ドル |
10 | ペンギン (原題:Penguins) | 114万ドル |
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