政府はコロナウイルス感染拡大に伴い、アルコールの輸送と販売も同時にロックダウンした

南アフリカ政府の厳しいロックダウン措置は、国民の生活を直撃した。最も厳しいと言われた事項が「アルコールロックダウン」だ。結果、多くの国民が取り締まりや隔離を恐れ、様々な理由で「病院のベットは空になり」、政府に抗議するデモ、暴力が頻発、そして何故か「パイナップル」に人気が集まった。まさにカオス状態である。

政府のアイデアは非常に単純(良い意味で)だった。アルコールをロックダウン(禁止)すれば、酔っぱらいの乱痴気騒ぎ、暴力事件を防ぐことができる。さらに家庭内暴力、飲酒運転の減少、労働者の楽しみ「飲み過ぎ」を防止できるのだから。

警察、医療関係者およびアナリストは、全国の病院に入院する患者の40%がアルコール関連である、と指摘した。なお、コロナウイルスが発生する以前の「毎週の緊急搬送患者数」は、約34,000人。それがアルコールロックダウンにより12,000人にまで減少したという。すなわち、病院のベットが空になったのは、アルコール関連の患者が激減したためだった

アルコールロックダウンは、政府の英断だったと一定の支持を集めている。政府のアドバイザーを務めるチャールズ・パリ―教授は「アルコールの輸送、販売を再開すれば、病院はコロナウィルス以外の患者で埋め尽くされる。約5,000のベットが空になっている今の状態を維持しなければならない」と注意喚起した。

バリー教授のいうように、約5,000の空きベットは非常に重要(貴重)な存在である。なお、国内のコロナウイルス患者は増加傾向にあり、ロックダウンが解除される目途は立っていない。

WHOもコロナウイルスへの感染を防ぐ手段のひとつとして、「アルコールの過度な摂取」を避けるよう公式ホームページに明記している。理由は以下の通りだ。
①アルコールを摂取すると免疫システムが低下する
②コロナウイルスに感染した際の対処能力を低下させる
③急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす可能性がある
④ロックダウン中の過度な飲酒は家庭内暴力のリスクを高める

アルコール業界の苦悩

政府はロックダウンの期間を4月30日までとしている。しかし、感染者が増加傾向にある今の状況を考えると、恐らく期間は延長されるだろう。

アルコールを禁止することで、病院の病床数に余裕ができたことは確かである。しかし、自宅で飲酒していた男性が暴行を受け死亡する事件などが発生したことで、警察や治安維持部隊の厳しい取り締まりに対し、一部の国民は怒りを爆発させている。

アルコールロックダウンを全力で推し進めているベキ・ツェレ警察大臣は、「アルコールの販売を根絶する。それに関連する施設、製造所、あらゆるものを全て破壊する」と警告した。

南アフリカ治安研究所の犯罪専門家として活動するガレス・ニューハム氏は、「警察や軍の上層部(大臣など)が国民に対する暴力や武力行使を肯定してはいけない。法を破ったから叩きのめす、殺す、という風潮が当たり前になることを懸念している」と述べた。

同国のアルコール業界は、ロックダウンに対する異議を唱え、法廷で戦うと主張したが、政府は話を聞き入れなかった。一切の協議を認めず措置を発動、同業界の対抗措置も実施されずじまいである。

アルコールを禁止したことで、病床を確保できた、医療関係者のサポートにつながったことを同業界も認めている。しかし、それを販売する中小企業、酒造会社、製造所などに重大な影響を与えていることも忘れてはいけない。

南アフリカ初の女性製造所長兼ビール協会会長を務める「アパイウー・ンクササニー・メーウェラー氏」は、ロックダウンがさらに延長されると、アルコール関連の中小零細企業は生き残れないと述べた。

またメーウェラー氏は「アルコールがコロナウイルスの感染予防に悪影響を与えることは分かっている。しかし、今、多くの国民が職を失い、アルコールを逃避薬に利用したいと考える者もいる。暴力や犯罪は許されないが、極端なロックダウンは産業に甚大な影響を与えるだろう」と警告した。

南アフリカでは15歳以上の31パーセントがアルコールを摂取している。また、接種する者の59%が大酒飲み、または飲み過ぎだという。さらに流通するアルコールの26%が自家製または違法に生産されている(自家製も違法)。

アルコール販売の許可を得ている販売店は約60,000。路上、違法販売などを含めると、その数は倍増(もしくはそれ以上)すると言われている。

南アフリカとアルコールは良好な関係を構築できていない。病院のベッドを圧迫していること、それに関連する緊急搬送、暴力や犯罪、家庭内暴力、様々な問題を引き起こしている。

補償なきロックダウン」は貧困層の生活を直撃し、最悪の場合、命すら奪う。「酔っぱらって鬱憤を晴らしたい」という考えには賛成しかねるが、やみくもに何でも禁止すれば良い、というものでもない。アルコール業界の中小零細企業が軒並み倒産するような事態になれば、経済に甚大な影響を与える。「失ってから後悔しても遅い」のだ。

最後に、国内のパイナップル需要が激増した理由は、自家製「パイナップルビール」の製造方法がSNSで紹介されたため。当局は製造手順を誤ると身体に深刻な影響を及ぼす「」が完成すると警告している。

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