神奈川県大和市

歩きスマホ(スマートフォンウォーキング)」とは、文字通り歩きながらスマートフォンを操作する行為である。

日本、東京首都圏に含まれる神奈川県の自治体の中に歩きスマホを禁止した街がある。

人口約24万人の大和市で電車を降りると、駅構内や駅前広場などに特徴的な白いのぼりが設置されている。

歩きスマホ禁止」と書かれた白いのぼりは、その行為を禁止する条例施行後に設置された。

大和市当局は歩きスマホ禁止都市を宣言し、日本だけでなく世界から注目を集めた。ただし、この条例に罰則規定はない。

世界中で「スマートフォンゾンビ(依存症)」が大きな問題になっている。これを発症すると、いかなる状況下であろうとスマホに触りたくなるのだ。

スマートフォンゾンビは歩行中、運転中、食事中、お風呂の中、ありとあらゆる場所でスマホを操作しながら行動する。

2020年1月、大和市は市内の2カ所で歩行者のスマホ利用率を調査した。結果、調査した約6,000人のうち、約12%が歩きながらスマートフォンを操作していたという。

大和市の大木市長は地元メディアに対し、歩きスマホの危険性を強く主張した。

大木氏と地方議員たちは市民に対する意識調査を行った。結果、10人中8人が歩きスマホを危ないと認識し、それを禁止する条例に肯定的であることが分かった。

この結果を受け、大和市は2020年6月に条例を制定。「歩きスマホ、ダメ、絶対!」というメッセージを強く発信するようになった。

条例が施行された2020年7月1日、当局は大和市駅にのぼりや看板を設置した。さらに、専門の委託職員を雇い、スマートフォンゾンビへの注意喚起作戦を開始したのである。

数百名規模の人々が行き来する駅周辺に歩きスマホ禁止と書かれたのぼりや看板を設置すると、「使ったらダメだ」「危ないからやめよう」という意識が働く。

大木市長は地元メディアの取材に対し、「大和市民は正しく行動できると信じている。歩きスマホは危ない、ということを大和市から日本中に発信し、それに起因する事故を減らしたい」と述べた。

歩きスマホによる怪我や事故を防止する対策は、決して珍しいものではない。

韓国のイルサン(コヤン市)では、交差点に専用のライトとレーザー装置を設置し、歩きスマホ中の歩行者に警告するシステムが構築された。

中国の重慶では、歩行者用通路の一部に「携帯電話レーン」を設けている。

ハワイ州ホノルルでは歩きスマホに罰金を科している。なお、スマートフォンだけでなく、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、携帯ゲーム機なども対象。

ホノルルの街中でスマートフォンなどのデジタル機器を操作したい場合は、歩行者の邪魔にならないエリアまで移動し、「立ち止まって操作」すればよい。

日本では、歩きスマホや「ながらスマホ(運転中や自転車乗車時など)」中の事故が社会問題になり、世界的に大流行したポケモンGOを楽しむスマートフォンゾンビが死亡したケースも報告されている。

結果、歩きスマホは危ない、という認識が国内に広まった。2019年の調査によると、無作為に選ばれた562人のスマートフォンユーザーのうち、96.6%が歩きスマホの危険性を認識し、13.2%が操作中に第三者と接触したことがあると回答した。

大和市内で生活する名畑氏は、スマートフォンゾンビとの接触事故を体験したことがあり、「条例に強く賛成する」と述べた。

名畑氏は地元メディアの取材に対し、「私は歩きスマホ中の歩行者が接近してくると、必ず立ち止まる。もし、相手がこちらの存在に気づいていなければそのまま衝突する。こちらから回避しなければ接触事故は避けられないだろう」と語った。

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ながらスマホは危険

罰則規定のない条例で歩きスマホなどの問題行為を防止することができるのだろうか。

中村法律事務所の鈴木弁護士はBBCの取材に対し、「罰則規定なしでも、効果を発揮する条例や法律はある。強制力のない条例や法律で重要な点は、誰かに迷惑をかけている、と認識させることだ」と述べた。

現在、日本国内に公共交通機関利用時の通話禁止および、違反者に罰則を設ける条例は存在しない。しかし、人々はそれを常識と認識し、電車やバス内で通話する者はかなり少ない。

コロナウイルスが世界を席巻し、マスク着用義務化が当たり前になった。ルールを定め、非着用者には罰金が科せられるのである。

世界トップクラスの人口密度を誇る日本は、マスク着用義務化に消極的である。しかし、国民のマスク着用率はとてつもなく高い。なぜか?

誰かに迷惑をかけるかもしれない。罰則規定はないけど自主的にマスクをつけよう」と誰もが考えるためである。

テンプル大学ジャンパンキャンパスの臨床心理学者である渡部博士は、幼い頃から受けてきた教育と「常識」が罰せられない法律を機能させると指摘する。

「日本人の保護者は子供に対し、公共の場で大騒ぎしたり走り回ってはいけない、という常識を教育する。特定の行為が誰かに迷惑をかけると教えることで、子供たちも保護者と同じ感覚を持つようになる」

出る杭は打たれる」ということわざがある。これは人より目立つことをすると、頭やキャリアを叩かれ潰される、という意味を持つ。

なお、何度叩かれても諦めなかった一部の者が成功者になる、と多くの日本人が認識している。しかし、これを実行することは非常に難しく、勇気がいる。幼い頃から「人様に迷惑をかけるな。常識通りに行動しろ」と教育されているためだろう。

大和市は、スマートフォンゾンビの行動を市民に「迷惑」と認識してもらったうえで、改めてほしいと考えている。

10年前、大和市は罰則なしの路上喫煙禁止条例を定めた。以来、長い時間をかけて「路上喫煙は非喫煙者や子供に迷惑をかける」という認識が定着。現在、路上でタバコを吸う人の姿はほとんど見られなくなったという。

メディア代理店で働くヘビースマートフォンユーザーの玉田氏は、罰則無しの条例や法律には限界があると指摘した。

「日本人は法律やルールを作ることが大好きだ。しかし、罰則のない条例を全国民が受け入れると思ったら大間違いである。特に若者は縛られることを嫌い、出る杭になることを恐れない。私を含むスマートフォンゾンビたちは、罰則がない限り、自分の好きなように行動し続けるだろう」

大和市の歩きスマホ禁止条例は、市民の行動と判断に依存している。機能するか否かは人々次第だ。

スマートフォンゾンビに関連する重大事故はいつ起きてもおかしくない。ポケモンGOを楽しむ運転中のゾンビにひき殺される可能性もある

加害者もしくは被害者になりたくなければ、スマートフォンはポケットやカバンに封印し、周囲の状況に気を配るべきだろう。

歩きスマホはやめなさい

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