ニューヨーク市の救急救命士たちは、死に慣れている。しかし、コロナウイルスは想像を超えていた

ニューヨーク州はどの国よりもたくさんのコロナウイルス感染者を抱えている。コロナウィルス戦争の最前線と言っても過言ではないだろう。

ニューヨーク市の上級救急救命士アンソニーは、16時間ぶっ通しで働き詰めの毎日を送っている。救命部隊のリーダーとしてチームをまとめ上げ、同僚のサポートも欠かさず、そして、自分の命をかけ、助けを待つ患者の元に駆けつける。

以下は、アンソニーがBBCリポーター「アリス・カディ氏」の取材中に語った内容の抜粋である。

戦場

5時間睡眠をとり、体調はバッチリでした。朝起きてシャワーを浴び、テレビをつけ、最新のニュースをチェックする。いつもと同じ朝、ブルックリン、サンセットパーク(事務所)での勤務に備えます。

ラジオ無線をとり、指示されている通りのプロセス(除菌、マスク、防護装備の装着など)を実行。我々救急救命士は、手に取るもの全てを除菌しなければなりません。ラジオ無線、鍵、トラックのハンドル、ドアノブ、バッグ、ありとあらゆるものを。

午前6時に出発、ベーグルショップに立ち寄り朝食を食べていると、7時頃からラジオ無線が慌ただしく連絡、応答を繰り返し始めます。真夜中から既に1,500件を超える電話(911)があったといいます。私は耳を疑いました。

ニューヨーク市の救急医療サービスは世界で最も忙しい職場と言われています。1日当たりの平均電話本数は約4,000件。近年最も忙しかった日は、2001年9月11日でした。あの日の電話本数は約6,400件。しかし、あくまで6,400件の問い合わせがあっただけ、患者が6,400人収容されたわけではありあせん。

3月20日からニューヨークは戦場になり、爆弾が絶え間なく爆発するような中で仕事を行いました。22日までの3日間が特にひどかったです。

コロナウイルス患者が爆発的に増加し、救命センターは混乱状態に陥りました。しかし、できることをやるしかありません。手元にある医療機器はわずか。それでも戦う以外道はありませんでした。

残念なことに、現在、全米で働く救急救命士の20%(700人以上)がコロナウイルスに感染しています。ICU(集中治療室)で治療を受けている仲間もいます。そのうちの二人が人工呼吸器を使用している状態です。

コール

患者と思われる方からのコールが入ると、我々は現場に駆け付けます。5日前から熱と咳に苦しんだ男性は、心肺停止状態でした。急ぎCPR(心肺蘇生)を開始、男性の様態を確認し、IV(静脈注射)を投与します。

死亡が確認されると、私たちは車両に戻り、全身を除染します。ありとあらゆるものを消毒し、問題がなければ事務所に戻る、もしくは次の現場に向かう。これの繰り返しです。20分後、別の現場に駆け付け、心停止状態の患者にCPRを施します。IVを投与し蘇生措置を行いました。

その日は午前7時から11時の間に、6件のCPRを施しました。通常時であれば、6件のCPRを行うには2~3週間かかります。休む間もなく7件目の問い合わせが入ります。

床に倒れる心停止状態の女性。娘が母親にCPRを施していました。人工呼吸がコロナウイルスの感染につながることは言うまでもありません。私たちは娘から、倒れた母親がコロナウイルスの症状を持っていたと確認しました。

娘は母親がコロナウイルスに感染していることを分かっていました。しかし、テストを受けることはできなかった。そして、彼女の父親も同じくコロナウイルスで亡くなっていました

彼女の父親はまだ埋葬されていません。また、大変残念なことですが、家族は亡くなった者を見送ることができません。私たちは心停止状態の母親を看取り、車に戻ります。一息つく時間などありません。次のコールがかかってきます。

ニューヨーク

18時、10回目のCPRを終えました。アジア系の男性が亡くなった時、彼らは病院で措置を続けてほしいと懇願しました。しかし、コロナウイルスで既に死亡した人を病院に連れて行くことはできません。

彼らを納得させるべく説明を続けますが、現実を受け入れることができず、皆感情的になっていました。彼らは「悔いている」ようにも見えました。

救急救命士として働き始めて17年。キャリアの中でこれほど厳しい1日、期間を過ごしたことはありません。私は「精神的に」疲れ果てています。

午後9時30分、この日最後の現場に向かいます。12回目のCPRを施しましたが・・・私は残された者たちに事実を伝え、車に戻り、除染を行い、事務所に戻りました。

私は独身で子供はいません。そして、今ほど独身でいることに幸せを感じたことはありません。自分がコロナウイルスに感染しても、最愛の人が感染することはない。しかし、たくさんの人々が自分と家族の罹患、罹患の可能性を恐れています。

私はいつ死んでもおかしくない仕事を行っています。仲間たちも同じ、皆、自分だけでなく愛する家族、子供が死ぬことも承知のうえで仕事を行っています。しかし、コロナウイルスを自宅に持ち帰ることを避け、車で寝ている者が大半です。

今、ニューヨークで起こっていることは紛れもない現実です。

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