キックスタートスキーム

リシ・スナック財務大臣は議会への声明の中で、若者のための雇用創出計画、20億ポンド(約2,700億円)規模の「キックスタートスキーム」を発表した。また、併せて不動産市場を活性化させるべく、土地や物件購入時にかかる土地印紙税も一時休止するという。

この計画は、コロナウイルスによって失われた雇用およびこれから発生すると想定される大量失業を防ぐために実施される緊急支援対策のひとつである。

労働党はパンデミックが引き起こした現在進行形の「失業問題」と、これから始まる「新たな失業および雇用問題」を改善するためには、より多くの行動が必要になる、と述べている。

ボリス・ジョンソン首相はキックスタートスキームについて、「全ての世代をサポートする支援策。パンデミックからイギリス経済を立て直すにあたり、取り残される世代があってはならない」と述べた。

キックスタートスキームは、長期失業の危機にさらされている16歳から24歳までのユニバーサル・クレジット制度(低所得層向けの給付制度)受給者が対象となる予定。

スナック財務大臣は8日の閣議で、可能な限り多くの仕事を保護し、経済のさらなる活性化および雇用創出を支援したいと述べた。

英産業連盟(CBI)はこの計画を「イギリスの未来を担う若者たちへの支援金」と称賛した。また、英労働組合会議(TUC)も「経済活動再開に向けた大きな一歩になる」と述べた。

コロナウイルスによって大打撃を受けたホスピタリティ部門の支援は、世界各国が抱える最優先課題のひとつである。イギリスでは付加価値税の削減なども計画されており、政府も出来得る限りの手段を用意しているようだ。

ジョンソン首相はスナック財務大臣の発表に先立ち、経済活動支援パッケージの種類、大まかな概要を発表している。

●二酸化炭素排出量低減などに充てる30億ポンド(約4,000億円)の環境予算の一環として、省エネ住宅改修にかかる費用を最大5,000ポンド(約68万円)補助

●3万人規模の新人研修生(新入社員)創出計画。新規雇用の場もしくは職場体験の場を提供した企業に対し、1施設当たり1,000ポンド(約13万円)を支援する。

●アート、芸能、文化遺産部門への融資や助成金として16億ポンド(約2,160億円)を拠出。

●求人センター職員およびスタッフへの支援金を倍増する。また、キャリアアドザイバー支援部門に3,200万ポンド(約43億円)、就職アカデミーに1,700万ポンド(約23億円)を補填。

企業はPCR検査費用を全額免除される

●土地印紙税の一時休止が適用されると、イングランドおよび北アイルランドで購入した500,000ポンド(約6,800万円)以下の不動産にかかる同税が免除される。

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雇用の創出

キックスタートスキームは、週25時間の労働費用(全国最低賃金で算出)を補填する。18歳未満であれば時給4.55ポンド(615円)、18歳~20歳は6.45ポンド(872円)、21歳~24歳は8.20ポンド(1,110円)で計算。

同計画は8月に応募を開始し、秋からの開始を目指す。期間は2021年12月末までと言われているが、経済の状況やコロナウイルスの情勢次第で延長もあり得るという。

対象エリアはイングランド、スコットランド、ウェールズ全域。また政府は、北アイルランドについても同様のスキーム用追加予算を提供すると発表した。

しかし、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド政府は、財政ルールの緩和による企業への超低金利での貸し付けを促し、かつ、一部巨大企業が保有する未使用の資本(内部留保)を使ってもらい、格差を是正しつつ経済活動復活につなげるよう求めている。

ジョンソン政権はキックスタートスキームについて、「若者が職場で新たなスキルを身につけ、長期的に持続可能な仕事を発見し、次のステップに進むチャンスを得ることが重要である」と述べた。

パンデミックの収束が進み、政府は経済危機から脱却する第2フェーズの準備を着々と進めている。

ロックダウンが長期化してことで、観光地や飲食店、パブから人が消え、多くの従業員が仕事を失った。失業率の悪化に歯止めをかける、新しい雇用を創出することが最優先課題のひとつであることは間違いないだろう。

ただし、土地印紙税の削減、付加価値税の削減、インフラへの支出の加速、その他助成金。やらなければならないことは山積しており、若者への支援として20億ポンドもの予算を準備することは決して簡単ではない。

ジョンソン首相は、若者たちが雇用の面で危機的な状況に置かれる可能性を認めている。パンデミックの影響で業績の悪化した企業は、新規雇用(求人)をストップするだろう。

数万人規模のスタッフを雇う大企業が倒産すれば、失業者だけでなく、数百人規模の新規雇用計画も消し飛ぶ。

ホスピタリティ産業(飲食店やパブなど)で働く若者、アルバイトも危機的な状況に瀕している。授業料をバイト代で補填している現役大学生たちは、生きた心地がしないだろう。

コロナウイルス発生以前、イギリスの求人市場は「売り手(学生)有利」が続いていた。複数社から最も好ましい、自分の望む企業(仕事)を選び就職する時代だった。しかし、2020年以降は間違いなく「買い手(企業)有利」になる。それどころか、買い手が力尽きる(倒産する)事態も想定しなければならない。

買い手が軒並みノックダウンすれば、売り手は手を持て余し、限られた求人を奪い合う争奪戦時代がやってくる、かもしれない。

イギリス国内におけるユニバーサル・クレジット制度(低所得層向けの給付制度)受給者数は、ロックダウンの発出に伴い25万人から50万人に増加した。

英産業連盟(CBI)のキャロリン・フェアバーン局長はBBCの取材に対し、キックスタートスキームは、次の世代がパンデミックによって受ける潜在的なダメージを低減させると語った。

さらに、雇用創出計画は喫緊の課題であり、企業および雇用主がこの計画を簡単かつ迅速に利用できる仕組み作りが重要であると述べ、「私たちが経験したことのない史上まれにみる困難な雇用市場で、次世代の若者たちは職を探さねばならない。彼らを助けるためには時間を浪費せず、即、行動に移すことが重要だ」と付け加えた。

英労働組合会議(TUC)の書記長を務めるフランシス・オグラディ氏は、若者への支援を大いに歓迎したうえで、「適切な訓練と雇用創出機会の提供が、全ての仕事で正しく適用されることを細かくチェックしたい」と述べた。

中小企業連盟の会長を務めるマイク・チェリー氏は政府に対し、中小企業がこの計画で利益を得ること、そしてそれを保障することが重要であると述べた。

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