長年続くハイパーインフレと経済危機、政治は混乱し国民は疲弊している

3月中旬、ベネズエラ国内で最初のコロナウイルス患者が発見されてから数日後、ニコラス・マドゥロ大統領は感染の拡大防止を検疫所に指示した。

首都カラカスのスーパーで働く従業員メイビス・ノグエラ氏は次のように述べた。「ここ数年、ベネズエラの医療システムは酷い状態にあります。さらにコロナウイルスが大流行、政府は何の準備もできていませんでした」

ベネズエラ国内の集中治療用ベッドの数は約80。人口約2,900万人に対してこの数はあまりに少ない。スリア州の国立大学医学殷理事長、フレディ・パチャノ博士は、「少なくとも2,500の集中治療用ベッドが必要だ」という。

国内で働く医師たちは、コロナウイルスについて話す、コメントする度に当局から圧力を受けるという。圧力の種類は様々だが、直接的、間接的に脅迫まがいの行為を受け、沈黙せざるを得ない状況にある。

3月末、コロナウイルスについて報告したジャーナリストが逮捕された。「国民に不安を与え、憎しみを増長させた」と当局は発表、起訴された。

コロナショックが発生する以前から、ベネズエラ国民は苦しい生活を強いられていた。長年続くハイパーインフレと経済危機、格差は広がり続けていた。さらに政治は混乱を極め、実質、機能不全状態、国民は疲弊していた。

屋台(路上販売)で生活費を稼ぐクリスチャン・クローズ氏は、「政府の法案は問題点をクリアせぬまま施行され、国民がそのツケを支払わされます」という。

ベネズエラ国民の40%から50%がインフォーマル経済に依存している。路上で物を売り収入を得る、皆、明日を生き抜くための「食糧」を手に入れねばならない。クローズ氏のような貧民層は貯蓄もなく、露店を営業できなければ食糧を購入することができない。

さらに、深刻なガソリン不足が経済活動に追い打ちをかけている。アメリカ政府の発令した経済経済制裁(米は政権退陣を要求)により、国内で活動する石油関連企業が大打撃を受けた。世界最大の石油埋蔵量を誇っていようと、製品を輸出できなければ企業活動は成り立たない。結果、国内のガソリン不足を招き、国民がツケを支払う羽目になった。

国内では現在数百万人が隔離(ロックダウン)されている。マドゥロ大統領はパンデミックの発生を防ぐべく奔走している姿をアピールしているが、国民の苦しむ姿を見れば、「策なきロックダウン」が危機的状況を招いたことは疑いようがない。

3月26日、アメリカ司法省は、マドゥロ大統領が麻薬密売で利益を得ていると告発、これを裏付ける証拠に1,500万ドル(約16億円)の報奨金を出すと発表した。トランプ大統領はマドゥロ政権の退陣を繰り返し要求し、暫定政府計画を提案したが、実現には至っていない。

腐敗、汚職に塗れた政権のロックダウンは、国民を地獄に叩き落とそうとしている。しかし、コロナウイルスが蔓延しつつある今、暫定政権が樹立されれば、国内はさらなる混乱に陥るだろう。大統領の失脚以上に急がねばならないこと、それは、国民の生活に寄り添ったコロナウイルス対策および医療施設の充実である。

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