EU首脳会談
7月17日、ブリュッセルでEU首脳会談が開催される。指導者たちは5か月もの厳しい外交交渉(テレビ会議)を終え、再び集結、向かい合う。そして、EUが直面している問題を話し合い、合意への道筋を示さなければならない。
ただし、指導者たちが面と向かってしっかり目を合わせ、対峙するか否かは誰にも分からない。恐らく口先だけの挨拶で終わる冷え切った関係の方々もたくさんいるだろう。
2月末頃から欧州を襲ったコロナウイルスの嵐は、指導者たちにも社会的距離のルールとマスク着用をもたらした。結果、以前のようにハグすることができなくなり、内心喜んでいる首脳もいる、かもしれない。
まず、決めなければならないことは、「金(かね)」である。2027年までの期間に設定されるEU総予算は約1兆ユーロ(121兆円)。同時に、コロナウイルス対策パッケージ7,500億ユーロ(約90兆円)の”拠出”に合意しなければならない。
欧州委員会(EC)およびEU理事会にとって、予算の問題は最も憂慮すべき最優先課題の一つである。2020年はコロナウイルス対策がもうひとつの重要課題に浮上したが、対策を打つためにはやはり予算が必要不可欠である。
指導者たちは、予算の供出額(拠出率)交渉に執念を燃やす。これまでは紆余曲折を経ながらも、EUという集合体としてそれなりに一体感を出し、政治問題も何とか克服(クリアできていない課題は山積しているのだが)、予算および各種関連事項を決めることができた。
しかし、パンデミックが欧州だけでなく全世界に拡散し、世界恐慌クラスのショックによって経済は猛烈な勢いで下り坂を駆け降りてしまった。これにより、欧州各国も自国の利益を最優先せざるを得なくなり、EUは一体感を失った。
感染者と死者数が激増したことで、各国は本能のままに国境を封鎖し、EUによる緊急経済対策は欧州委員会との調整なしに導入された。また、イタリアがパンデミックに蹂躙され、EUに緊急医療支援を要求したものの、応援はほぼゼロだった。
しかし、欧州委員会は機能不全(役立たず状態)に陥っても、関係各国の指導者たちは最低限の助け合いとチームワークを発揮した。ドイツの病院はフランスの患者を受け入れた。また、ドイツ軍は感染爆発を起こしたイタリア北部ロンバルディア地方の患者を軍用機で移送し、感染拡大の防止に貢献した。
ブリュッセルは欧州全土が危機に陥った時、事態をコントロールしなければならない。恐らく、秋に第二波がインフルエンザと一緒にやってくるだろう。そして、次のパンデミックを抑えるためには、金が必要なのである。
EU予算は加盟各国の拠出金で賄われている。総予算と各国の拠出率を決め、「持続可能な成長」「自然資源の保護」などにそれを割り当てる。そして、皆で持ち寄ったお金を分配するのである。
拠出率の高い国(ドイツ、フランス、イタリアなど)は、自国の経済活動を優先させたいと考えているため、”募金額”を少しでも削りたい。低い国(マルタ、エストニア、リトアニアなど)は、他国の情勢を見極めつつ、少しでも多く予算を分配してほしい、と考え交渉する。
つまり、各国は「出す(供出)」より「貰う(分配)」ことに意識を集中させる。しかし、自国も大切にしつつEU各国との協調や成長を優先できる指導者もいる。オランダのマルク・ルッテ首相は、非公式な同盟関係(通称Frugal Four)を結ぶオーストリア、スウェーデン、デンマークの首席スポークスマンとしてしばしば表彰さえている。
ルッテ首相は、「どん底に落ちても戦うつもりである。私たちは苦労している。しかし、来たるべき時のために準備を進めておけば、どんな課題も乗り越えることができる」と述べている。
予算!予算!予算!
フィンランドのサンナ・マリン首相は、EU予算および拠出金の額をもっと低く抑え、かつ、拠出金ローンと分配金額のバランスを見直すべきと主張している。つまり、コロナショックの影響で自国の経済対策に力を入れねばならず、拠出金に予算を割く余裕はない、ということだ。
この考えには他のEU諸国も理解を示している。特に予算規模の小さい国であればなおのことである。しかし、EUを集合体と考え、27ヵ国が協調して予算を出し合い、環境や自然保護、コロナウイルスに立ち向かうのであれば、何とか財源を確保しなければならない、と本心では思っているはずだ。
ギリシャのリアコス・ミツォタキス首相は、マリン首相とは真逆の考えを主張。「野心的に攻めるのであれば、少しでも多くの予算を確保すべき」と述べているため、この考えに刺激される国が出てくるかもしれない。
EUはブレグジット、気候変動、アフリカや中東からの移民問題に悩まされてきた。しかし、2020年以降の金銭問題は、昨年までとは情勢が大きく異なる。EU経済圏を上昇気流に乗せるための予算交渉は、かつてない規模の論争を巻き起こすかもしれないが、「コロナショックがもたらした超異常事態を皆が考慮し、意外とあっさり決まるかもしれない」と楽観視する関係者もいるという。
ベルギーの元首相、現EU理事会議長を務めるシャルル・ミシェル氏は、問題点の共有と重要性を指摘し、「EU加盟国が手を取り合えば、危機をチャンスに変えることができる」と述べた。
ミシェル元首相と欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は経験の浅さ(共に在任1年未満)を指摘されており、交渉が予定通り進むかは見通せない状況である。
しかし、在任期間の短さをフォローする経験豊富なチーム(メルケル首相、メルケル首相、メルケル首相など)が負担を分担すれば、公正かつ正しい道を進むことができるはずだ。
スペインのペドロ・サンチェス首相は、「対応が後手に回れば、回復が遅れ、危機はさらに悪化する。私たちは、全員で合意に達しなければならず、そして、いくつかの犠牲を払わなければならないだろう」と述べた。
南部と東部の加盟国は、北部と西部のより豊かで、第二次世界大戦以降しっかり成長(復活)した加盟国の経済を横目で見てきた。EUの管理権は、これらの強国と呼ばれる国がコントロールし、小国は机の端でその様子を伺ってきた。
恐らく、南部と東部の加盟国は、想定される合意案に憤慨する。コロナショックの影響を受け、各種産業にダメージを受けた小国ほど、拠出率の低減や案の見直しを求めるだろう。
ポーランドやハンガリーでは、司法改革(行政による司法支配)が推し進められており、他のEU諸国は懸念を表明している。欧州委員会は司法への不当な介入に断固反対しており、その撤回を条件に予算を分配する、と言い出しかねない情勢だ。
ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は、予算と自国の政策が紐づけられ、不当な扱いを受けた場合は、予算への拠出自体を拒否すると述べている。
先日、ポーランド大統領選挙が実施され、司法改革を進める保守派のアンジェイ・ドゥダ大統領が僅差で再選を果たした。EU関係者は恐らく頭を抱えているだろう。
問題山積のEU首脳会談。予算交渉は本当に決着するのだろうか。
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Coronavirus: Big choices for EU leaders on recovery billions - there will be an agreement if not tomorrow then by the end of the month.. https://t.co/eErXjvNK9j
— Francesco Rizzuto (@EUROLAWFPR) July 16, 2020