史上最強の敵

コロナウイルスの登場に伴い、第三者やキャビンアテンダント(CA)と濃厚接触する飛行機は、最も危険な乗り物のひとつと考えられるようになった。見知らぬ二人に挟まれ、狭い搭乗席に座ることをイメージしてほしい。「私は絶対に感染しません」と断言できる方は恐らくいないはずだ。

飛行機は”密な乗り物”である。少なくとも、2020年1月まではそれが世界の常識であり、疑う者はいなかった。ファーストクラスであろうと、手の届く範囲に第三者がいる。エコノミークラスであれば、横に座る人間との社会的距離は数センチ、身体の大きい者同士であれば、常に接触していることすらあり得る。

航空会社は、超満席の便をこよなく愛し、ドル箱路線(済州→金浦、LA→サンフランシスコ、メルボルン→シドニーなど)の拡充に努めてきた。飛行機は搭乗率”命”。すなわち、満席かつ便数の多いドル箱路線こそが航空会社を大金持ちにするのである。

航空会社と空港が最優先するミッションは、「①搭乗客の命と安全を確保する」である。しかし、コロナウイルスの搭乗によって、「②搭乗客をコロナウイルスから守る」という新たなミッションが追加されてしまった。

最優先事項遵守方法
搭乗客の命と安全を確保するパイロット、整備士、キャビンアテンダント、管制室、その他関係者がこれまで培ってきた技術と知識を100%発揮し、ベストフライトに尽力。搭乗客を目的地に送り届ける。
搭乗客をコロナウイルスから守る目に見えない最強の敵から搭乗客を守る・・・

”二つ目のミッション”は、非常に厄介である。万一機内にコロナウイルス陽性者がいたら・・・考えただけで恐ろしい。しかし、航空会社と空港もただ手をこまねいているだけではない。

まず、搭乗前の診断、体温測定は必須。ここで引っかかった乗客は”恐らく”搭乗できない。さらに、搭乗前のアルコール消毒、マスク着用はほぼすべての航空会社で義務化される予定だ。しかし、仮に症状のない陽性者が搭乗した場合は、大変である。

次の対策は航空会社によって多少異なる。機内での感染予防対策において、「社会的距離の確保」を最優先に考える航空会社は、搭乗客が並んで座ることを回避する。つまり、2列シートであれば、片方の席のみ予約可能とする。3列シートであれば両サイドのみ。可能な限り社会的距離を広くとるよう心掛けるのである。

【プランA】

左右のみを考慮した場合従来(□:空き、■:乗客)コロナショック後
2列シート■■■□
3列シート■□■
5列シート■□■□■

【プランB】

前後左右を考慮した場合従来(□:空き、■:乗客)コロナショック後
2列シート■■
■■
■■
■□
□■
■□
3列シート
■■■
■■■
■□■
□■□
■□■
5列シート
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■■■■■
■□■□■
□■□■□
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意図的に空席を設け、社会的距離を確保するプランは、搭乗率が著しく減少する。なお、恐らくプランBの配置が主流になると思われる。搭乗率は50%、社会的距離をより広くとる必要があれば、搭乗率はさらに減少する。

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感染予防対策の徹底

搭乗率は航空会社の生命線である。特に、チケット代の安さを売りにする格安航空会社(LCC)であれば、乗客が減るほど経営は苦しくなる。搭乗率50%が航空業界の主流になれば、チケット代を値上げせざるを得ないだろう。しかし、それではLCCの旨味が消え、顧客を大手に奪われてしまう。

チケット代を維持するためにはどうすればよい。搭乗率を上げるしかない。それも、コロナウイルス対策を万全にしたうえで、である。

大手の航空会社も、近い将来、超満席を取り戻したいと考えてる。しかし、いつ開発されるか分からない「コロナウイルスワクチン」をただ黙って待てばよいのか。いいわけない。今の状況を放置すれば、会社は傾き、従業員にサヨナラを言わねばならなくなる。ではどうすればよいか、LCCと同じである。

顧客をウイルスから守り、かつ、超満席のドル箱路線を取り戻すための対策は、”現時点では”限られている。しかし、これまでにない新しい”何か”が提案される時を待っていても始まらない。今、世界中の航空会社が考えている対策案(抜粋)は以下の通りである。

対策:搭乗前
機内の消毒作業必須
診断、検温必須
アルコール消毒必須
分散搭乗後方、中央、前方に分けて乗客を案内するなど
手荷物の持ち込み禁止ウイルスが付着している可能性のある物を持ち込ませない
対策:搭乗中
マスク着用必須
使い捨て手袋装着必須
座席間に透明シールドを設ける飛沫防止対策
CAの接客サービス禁止、もしくは減第三者との接触機会を減らす
対策:目的地到着後
分散降機前方、中央、後方に分けて乗客を案内するなど
診断、検温必須 
機内の消毒作業必須

現在、世界中の航空会社が独自の対策を考え、運行再開の準備を進めている。アメリカのデルタ航空は、”列ごと”に後方席から搭乗させる方法を採用した。

カプランリサーチの航空アナリスト、セス・カプラン氏はBBCの取材に対し、社会的距離という概念が航空会社に導入されたことで、これまでにない、全く新しい搭乗方法が誕生するかもしれないと述べた。

コロナウイルスは航空会社と空港を攻撃し、死地に追いやろうとしている。しかし、「崖っぷちに追い詰められた今しか見えない」何かがある、かもしれない。経験したことのない大きな変化を好機と捉え、史上最強の敵に打ち勝つ時がきた。

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