ヨーロッパ最後の独裁者
9月23日、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、就任式で「6期目を務める」と力強く宣誓した。
一方、野党関係者によると、国で最も権威のある大統領就任式典は事前発表されることなく、突然実施されたという。
ある野党党首は”秘密の式典”を「茶番劇」と揶揄し、ヨーロッパは選挙の結果を認識しておらず、アメリカを含む多くの国々がルカシェンコを”合法的”な大統領ではなく、不届き者と見なしている。
同日午後、何千人もの抗議者たちが茶番劇に抗議すべく首都ミンスクに集まり、治安維持部隊の急襲を受けた。
ミンスクのベルタ通信社によると、就任式は華やかな独裁宮殿で行われ、数百人の政府高官と関係者が招かれたという。
その間、治安維持部隊が市内に展開され、市内は完全にロックダウンされた。
ルカシェンコ大統領は独裁憲法を右手に持ち、就任を高らかに宣言、中央選挙委員会の長が公式IDカードを手渡した。
アレクサンドル・ルカシェンコ大統領:
「今日、私は6期目の就任を迎えた。今日は勝利の日である。私の勝利は公式に認められ、説得力があり、運命によって導かれた」
「国民はベラルーシの大統領を選出すると同時に、平和的な生活、主権、独立を求めている。私はそれらの権利を全て守ると宣言する」
今回の茶減劇に対しヨーロッパの当局者は、「最も大切な国民の承認が欠けている。ルカシェンコは国をリードし続けるために最も重要なものを理解しておらず、全世界に恥をさらした」と語った。
アンゲラ・メルケル首相の広報担当、シュテフェン・ザイバート氏は以下のように述べた。
シュテフェン・ザイバート氏:
「素晴らしい秘密集会だった。秘匿性に満ち、説得力の欠片もない」
「ヨーロッパ最後の独裁者」は、26年もの間、鉄の拳で旧ソビエト国家のベラルーシを支配してきた。
8月9日に実施された大統領選挙の公式結果によると、ルカシェンコ大統領は80%もの票を獲得したという。一方、野党の対立候補に擁立されたスヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ氏は10%にとどまった。
選挙後、ツィハノウスカヤ氏は隣国リトアニアへの亡命を余儀なくされた。しかし、追いつめられた野党党首たちをサポートすべく、6週間以上に渡って大規模な抗議活動が実施され、週末には10万以上が首都ミンスクに駆けつけた。
今回の茶番劇開演をリトアニアで知ったツィハノウスカヤ氏は、ビデオメッセージを投稿した。
スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ氏:
「国民はルカシェンコの就任を望んでいない。就任式は自分の企てを正当と主張するただの茶番劇だった」
「私はベラルーシ国民のために最後まで戦うと誓う。目標は全国民と共に、新しいベラルーシを作り上げることだ」
アメリカとEUは選挙結果に疑問を呈し、初期のデモ活動における治安維持部隊の残酷な取り締まりを厳しく非難した。なお、EUはベラルーシの高官に対する制裁を検討しているが、同意は得られていない。
リトアニアのリナス・リンケビシウス外相は、今回の秘密集会を茶番劇とツイートした。
リナス・リンケビシウス外相:
「不正だらけの裁判、意味のない就任式、ベラルーシの前大統領は世界に醜態をさらしている。彼のやること全てが人々の不評を買い、自分自身を貶めていると理解すべきだ」
隣国ポーランドのマテウシュ・モラヴィエツキ首相は「正当な選挙」を呼びかけ、Facebookに「ルカシェンコの就任を望む者はいない。今回の秘密集会は、彼自身が選挙の不正を認識したうえで開催されたものにほかならない」と投稿した。
チェコのトマーシュ・ペトリッチ外相は、「ベラルーシの大統領選挙は自由でも公正でもなかった。したがって、開票結果、ルカシェンコの茶番劇、宣誓、署名は全て無効である」と語った。
ラトビア外務相報道官のジャニス・ベケリス氏は、バルチック・ニュース・サービス(BNS)の取材に対し、「予期せぬ就任式はベラルーシの政治危機を深めるだけであり、外交による対話と選挙の再実施が唯一残された道だと確信している」と述べた。
クレムリンは就任式に関する公式コメントを発表していない。
プーチン大統領のスポークスマンを務めるドミトリー・ペスコフ報道官は、「ベラルーシ指導部の絶対的な主権、内部決定についてコメントすることはない」と語った。
反ルカシェンコ抗議活動は選挙日以来、毎日国を揺るがし、最大20万人が首都ミンスクで声を上げた。
抗議活動最初の3日間、警察は催涙ガス、ガス爆弾、ゴム弾などを使って群衆を打ちのめし、抗議者数名が死亡、多くが負傷し、約6,000人が投獄された。
ビアスナ人権センターによると、就任式中に抗議活動を行った数名が独裁宮殿近くで治安維持部隊に遭遇、捕縛されたという。
23日午後、何千人もの人々が首都ミンスクの様々な場所に集まり、就任式を非難した。
しかし、平和的な抗議活動であったにも関わらず、治安維持部隊は抗議者を急襲。放水砲とガス爆弾による集中攻撃を展開した。ビアスナ人権センターによると、23日午後だけで140人以上が拘留され、数十人が負傷したという。
この日の抗議活動は厳しい取り締まりを受けながらも夜遅くまで続き、抗議者たちの集団は各地で道路を封鎖した。
ミンスクで活動するアナリストのアレクサンドル・クラスコウスキー氏はABCニュースの取材に対し、「今回の秘密就任式は、ルカシェンコの不安を表している。彼は何が何でも権力を手中に収めたいと思っているが、世界はそれを許さず、焦っている」と語った。
今回の茶番劇は、選挙の公式結果の異常性と指導部に対する国民の信頼レベルの低下を意味している。
大統領選挙で80%もの票を独占した男が、なぜ秘密就任式を開催したのか。理由は火を見るより明らかである。
ルカシェンコ大統領は、「野党との対話を今すぐ始めよ」というアメリカやEUの提案に憤慨し、治安維持部隊によるガス爆弾攻撃を強化した。
さらに、平和的な抗議活動に対する暴力的な攻撃が世界の非難を集める中、ベラルーシ当局は野党指導者を起訴すると発表した。
結果、不正選挙を正すために結成された調整評議会のメンバーは逮捕、もしくは国を離れざるを得なくなった。
調整評議会のひとり、パベル・ラタッシュコー氏は就任式を「泥棒の集まり」と非難し、ルカシェンコの大統領就任は絶対に認められないと語った。
パベル・ラタッシュコー氏:
「ベラルーシ国民と国際社会は、ルカシェンコを認めていない。そして、ベラルーシの宮殿で開催された泥棒の集まりは、この国の歴史をひどく貶めた」
「私たちは詐欺に同意しない。新たな選挙の実施を強く要求する」
【関連トピック】
・反対勢力はルカシェンコに圧力をかけ続けている
・野党党首が当局に拘束され消息を絶つ
・野党リーダーが国連の行動を促す