2021年東京オリンピック

2020年7月24日。オリンピックに出場する最後の機会と考えていたアスリートたちがいた。しかし、彼らの多くが希望を絶たれることになるかもしれない。

年をとり過ぎた者、疲れ果てた者、財政的に余裕のない者は、あと1年待つことができない。

外村哲也選手(35歳)は、トランポリンの日本代表選手として活躍するアスリートである。今週初め、外村選手は巨大なトランポリンの上で何度も空高く飛び跳ねていた。

2008年の北京大会、外村選手は4位を入賞を果たしたものの、念願のメダルには手が届かなかった。

帰国後、外村選手は4年後のリベンジを誓い、厳しい練習に明け暮れた。しかし、その後は怪我に悩まされ続け、2012年ロンドン、2016年リオに出場することはできなかった。

35歳になった外村選手は、母国でのオリンピック出場をキャリアの集大成と考え、選手生命を懸けていた。しかし、1年の延期はあまりに長い。

外村選手はBBCの取材に対し、「2008年の北京大会が1年延期されても、大丈夫だと思ったはず。与えられた1年を練習に費やし、もっと強く成長できた。しかし、今、私は35歳。1年はとても長く、体力とメンタルの維持は困難を極める。私は引退が一番の選択肢かもしれないと考えている」と述べた。

外村選手の言う通り、30代中盤の選手にとって、1年はあまりに長い。20代前半であれば、さらなる飛躍を目指し、365日をフル活用しようと考えるだろう。しかし、彼らのようなベテラン選手は、色々なことを考えてしまうものだ。

家族、引退後の生活設計、仕事、大半のオリンピック選手が同じ悩みを抱えている。

ただし、外村選手が引退を考える理由は、体力や第二の人生だけが原因ではない。彼は東京2021の開催自体が難しいのでは、と考えている。

「来年、東京オリンピックが開催されるという保証はない。現状を見る限り、非常に不確実だと誰もが思っているはず。もし来年2021が中止されれば、私は35歳から36歳の1年を丸々失うことになる

2020年1月、コロナウイルスが日本に上陸して以来、選手たちは不安の中で戦い続けてきた。日本の感染状況は欧米やアフリカなどに比べると良好だが、国境はいまだに閉鎖されたままである。

国内のパンデミックを抑えることに成功しても、アメリカやブラジル、欧州各国で感染が続いていれば、選手団を迎え入れることはできない。

2020年7月24日、本来であれば、日本各地に整備されたホストタウン(滞在練習拠点)は外国人選手で溢れ返り、街はかつてない盛り上がりを見せているはずだった。

ブラジル代表チームを迎え入れる予定のホストタウンの住人は、「1年後の開催を信じている。しかし、盛り上がりを維持できるのか心配だ」と述べた。

共同通信社の世論調査によると、コロナウイルスが来年も世界で蔓延していた場合、東京オリンピックの開催に賛成する人は23%だったという。

ジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによると、7月23日時点の世界の累計感染者数は1,540万人以上、632,000人以上の死亡が確認された。なお、日本の累計感染者数は約27,000人。ただし、同日の24時間当たりの新規感染者数は過去最高を更新する966人に達し、第二波発生が懸念されている。

【各国の感染状況/7月23日】

累計感染者累計死者新規感染者
世界1,550万人63.3万人247,475人
アメリカ411万人14.6万人70,719人
ブラジル229万人84,207人59,961人
インド129万人30,601人45,720人
南アフリカ40.8万人6,093人13,104人
日本27,090人988人966人
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ゲームチェンジャー

アメリカ、ブラジル、インド、南アフリカなどは、パンデミックの抑え込みに失敗し、感染爆発に苦しめられている。そして、1年後に現状を打破できるという保証はない。

多くの医療専門家は、世界のパンデミックが来夏までに抑制される可能性は限りなく低いと考え、オリンピックを開催したいのであれば、全世界がニュージーランドと同じレベルに到達すべきと述べている。

ニュージーランドはコロナウイルス制圧宣言を出し、世界保健機関(WHO)からモデルケースとして称賛された。しかし、感染爆発の起きたアメリカやブラジルが1年後までに制圧宣言を出せる可能性は、恐らく低い。

神戸大学病院の岩田健太郎教授は、東京オリンピック開催の唯一の希望、「ゲームチャンジャ―」はワクチンだと述べた。

岩田教授はBBCの取材に対し、「コロナウイルスワクチンが開発、利用可能になれば、試合の流れを一瞬で変えてくれる可能性がある。現在アメリカやイギリスを筆頭に、有望な試験結果が提示されている。しかし、一般的に考えると、ワクチンはウイルスを根絶せず、感染率を引き下げるものだ。つまり、ウイルス自体は根絶できず、2021年になってもまだ確実に存在しているだろう」と述べた。

岩田教授は、オリンピック開催に欠かすことのできないアメリカ(NBCの放映権料は全世界の出資金の50%以上を占める)の現状と感染状況を懸念している。

アメリカの感染状況はオリンピック開催可否に直結する。100%影響を与えると言っても過言ではないだろう。世界最大の出資国であり、世界最高の選手団を有し、歴代メダル獲得数も他の追随を全く許さない。大会を盛り上げる素晴らしい選手たちがもし来日できなかったら・・・

アメリカの選手が出場しない大会にNBCは放映権料を支払うだろうか?この契約は既に締結済みだが、トランプ大統領の一言で前言撤回も十分あり得るだろう。

国内オリンピック委員会(IOC)のディック・パウンド委員はBBCの取材に対し、「シンプルな解決策がある。東京2020をもう1年遅らせて2022年開催にすればいい。しかし、この提案は日本政府によって却下された。東京大会は2021年が最後のチャンスになる。失敗すれば次はない。IOCと日本政府はあらゆる努力を払い、選手と関係者、そして、世界中から集まる数千万人規模の観客をコロナウイルスから守らねばならない」と述べた。

オリンピックが完全中止になった事例は過去一度しかない。第二次世界大戦が原因となった1940年、東京大会のみである。

現在、大会関係者はあらゆる可能性を模索し、様々な開催案を考えている。その中で最も現実的と考えられている者が、大会の簡素化および、入国したアスリートの検疫処置(無観客もあり得る)である。

選手は体調を整え入国し、決められたホストタウンへ移動。PCR検査を受け、宿泊施設に隔離される。ただし、施設にはプロフェッショナル仕様のトレーニングおよび競技施設が完備されているため、陰性であれば自分の好きなようにトレーニングしてよい。

「日本政府は決断しなければならない。オリンピックを行うべきか否か。決定を下すのは遅くても半年前。日本政府の提案をIOCは恐らく聞き入れる。私はキャンセルする可能性が極めて高いと思う」とパウンド委員は述べた。

7月23日、東京の新国立競技場(オリンピックスタジアム)で開会式までの時計をリセットする式典が開かれた。

安倍首相はゲームを継続すると主張しているが、コロナウイルスは首相の要請を聞き入れることなく、世界中で猛威を振るい続けるだろう。

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