大統領選挙まであと5か月、厳しい戦いが続く
様々な政治的課題に直面しているトランプ大統領。今週はそれが顕著に表れた1週間だった。
17日、大統領は記者に向け、「コロナウイルスは消滅しつつある」と自信満々に述べた。なお、今年の2月頃にも同様の発言を行っており、その時は「我々は素晴らしい仕事をしている。ウイルスはまもなく地球上から姿を消すだろう」とコメントした。
しかし、トランプ大統領の大予言はことごとく外れてしまった。さらに、一時は収束しつつあった各州の感染状況が急速に悪化し始めている。
今週、10州で過去最高の新規感染者数を記録し、23州もその数をジワジワと増やしている。しかし、テキサス州、フロリダ州、アリゾナ州を含む多くの州は、ロックダウンの段階的な緩和とビジネスの再開に舵を切っており、性急な対応が第二波を招いたと批判を集めている。
トランプ大統領は11月の大統領選挙に向けて、経済活動の再開と株価の上昇を目論んでいるが、コロナウイルスの第二波を招いてしまえば、状況はさらに悪化し、再選の夢は打ち砕かれてしまうかもしれない。しかも、一部の州および地方の役人は、医療制度が圧倒されている現状を考慮せず、ロックダウンのさらなる緩和を求めている。
コロナウイルス対策本部長を務めるマイク・ペンス副大統領は、感染の再燃を想定内と考え、不安をあおるメディアの報道に懸念を示した。
ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、18日時点のアメリカの累計感染者数は223万人超。死者数は12万人を突破した。
不確実性が同国全土を包み込み、今週の株価は大幅な上昇と急激な落ち込みを繰り返した。そして、1週間当たりの失業者支援手続き件数は100万件以上を維持している。
トランプ大統領は北米4大プロスポーツを含むあらゆるスポーツリーグ、イベント、試合の再開を望んでいるが、当局関係者は危険と判断し、再開時期を慎重に見極めるべく検討を続けている。
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最高裁判所
2016年の大統領選挙におけるトランプ大統領の公約のひとつが、連邦裁判所裁判官に保守派を任命することだった。それから3年半、大統領は最高裁判所の2人を含む、約200人を新裁判官として任命した。
今週、最高裁判所は2件の注目事件で判決を下した。保守派の勢力を底上げしてきた大統領は、当然、自分の望むような結果になると信じていたが、その目論見は崩れ去ったようだ。
最高裁判所は、1964年に施行された公民権法に基づき、LGBTの従業員の権利を保護しなかったトランプ政権の姿勢および主張は誤りである、という画期的な判決を下した。
さらに最高裁判所は、オバマ政権時代に施行されたプログラムを無効としたトランプ大統領の”企て”を取り消す判決も下した。これにより、移民の子供から奪われていた保護措置が復活されることになった。
これに対しトランプ大統領は、最高裁判所の判決を激しく批判。保守層の顔に泥を塗る愚行であり、「最高裁判所は、共和党と保守派の顔面にショットガンをぶっ放した」とツイートした。また、最高裁判所がトランプ大統領を人種差別し、不当な判決を下していると考え、怒りを約8,000万人のフォロワーにぶちまけた。
トランプ大統領は保守派を最高裁判所などに送り込み、司法への介入を試みた。しかし、司法はあくまで司法、その独立は守られ、トランプ大統領に忖度することはなかった。
【関連トピック】
・アメリカ合衆国最高裁判所/LGBT労働者の主張を全面的に認める
BBC News - US Supreme Court backs protection for LGBT workers. #LGBTQ #LGBTWorkingRights
— LGBT@Work (@IELGBTatWork) June 19, 2020
Big news on LGBT working rights:https://t.co/EhaMGbDhnG
回想録
元国家安全保障顧問のジョン・ボルトン氏の回想録は嵐を巻き起こし、トランプ政権を転覆させる可能性すら指摘されている。今週、本の最もジューシーな部分が明らかにされた。
トランプ大統領は、中国の習近平国家主席に対し、アメリカの農産物をガンガン購入し農家を潤わせ、11月の再選挙で自分を当選させるよう圧力をかけた。
さらに、ウクライナ政府への圧力疑惑に伴う弾劾裁判が決定した際、民主党のライバル、ジョー・バイデン前副大統領の不利な情報を拡散するよう圧力をかけたという。
これらの主張は新しいものではない。トランプ大統領および政権に関するスキャンダルを主張するメディアや報道は後を絶たない。
しかし、ボルトン氏は政権中枢のトップに立った元高官であり、発言の信ぴょう性はメディアや報道の比ではない。そして、大統領選挙を5か月後に控えたトランプ大統領にとって、回想録の出版は最悪と言っても過言ではないだろう。
問題はボルトン氏の回想録だけではない。姪のメアリー・トランプ女史が7月28日に”呪われた回想録”を出版する予定であり、この内容にも俄然注目が集まっている。
同回想録のプレビューによると、メアリー女史はトランプファミリーのメンバーとして目撃した「悪夢」「破壊的な関係」「怠慢と虐待の悲劇的な組み合わせ」について回想しているという。
ニューヨーク・タイムズは、ボルトン氏の回想録を「肥大化し、非常に退屈、とりとめのない」本と評価、平均的なアメリカ人は好まないだろうと示唆した。しかし、大衆が好むジューシーな家族のゴシップを記したメアリー氏の回想録は大ヒットするかもしれないと述べている。
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世論調査
先週、CNNはトランプ大統領とバイデン氏の支持率を発表。これに対しトランプ選挙対策チーム(通称チームトランプ)は、バイデン氏の支持率を意図的に高く発表していると猛反発し、放送内容の修正および撤回を求めた。
チームトランプは、CNN以外のメディアが報道する支持率についても間違いであると指摘。不十分な調査内容を発信するな、と不信感を示している。
なお、各社は大規模な世論調査を実施しており、その結果、いずれもバイデン氏優位は揺るがないと自信をもって発表している。なお、トランプ大統領がFOXニュースを除く各メディアに戦争をしかけるつもりであれば、彼の弁護士は恐らく過労死するだろう。
世論調査の結果、アメリカ人の67%が連邦政府およびトランプ大統領の政策を支持しておらず、間違った方向に進んでいる、と考えていることが分かった。
この数字は、5か月後に大統領選挙を控えるトランプ大統領の”頭痛のタネ”と言えるだろう。コロナウイルス対策に手間取った結果、12万人以上の人命が失われた。さらに、ジョージ・フロイド氏の死に対しても、間違ったリーダーシップを発揮、火にジェット燃料を注いだ結果、抗議活動は全世界に拡散した。
トランプ政権の失速は、多数派を占める上院(共51、民47、無2))の共和党議員を焦らせ、下院(共199、民235、欠1)を制してのねじれ解消は雲散霧消したと言ってもよいだろう。
ただし、トランプ大統領の敗北が決定的になったわけではない。コロナウイルスと人種差別が地球上から消滅し、最強のワクチンが誕生、株価と失業率、雇用状況が劇的に改善されれば、トランプ大統領の再選はほぼ間違いない、と思う・・・たぶん。
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Four reasons why this was a bad week for Trump @BBCWorld https://t.co/dNVoPDrquD
— Saad Mohseni (@saadmohseni) June 19, 2020