「iPod」ブーム再来?「気を散らさない音楽体験」
iPodは2001年の登場以来、デジタル音楽の象徴的存在として普及したが、スマートフォンの普及に伴い役割を失い、アップルは2022年に最終モデルの販売を終了した。
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米IT大手アップルが生産を終了してから数年が経過した携帯音楽プレーヤー「iPod」が、いま新たな世代の間で静かな復活を遂げている。スマートフォン全盛の時代にあって、あえて機能を限定した旧来のデバイスを選ぶ動きが広がっており、その背景には「気を散らさない音楽体験」への需要がある。
iPodは2001年の登場以来、デジタル音楽の象徴的存在として普及したが、スマートフォンの普及に伴い役割を失い、アップルは2022年に最終モデルの販売を終了した。データによると、過去20年間で約4億5000万台が販売され、多くの機器が中古市場に残っている。
こうした中、若年層を中心に中古iPodへの関心が高まっている。eBayやフリマアプリ、再生品を扱うプラットフォームなどで取引が活発化し、2025年には販売数が大きく増加した。背景には、スマートフォンによる通知やSNS、動画などの絶え間ない刺激から距離を置きたいという意識がある。
調査会社のアナリストは現代のユーザーが「スマートフォン依存を軽減し、余計な誘惑を避ける手段」としてiPodのような専用機器を評価していると指摘する。音楽再生以外の機能がほぼないため、SNSの閲覧やいわゆる「ドゥームスクロール(SNSやニュースサイトで事件、災害、パンデミックなどの悲観的・否定的なニュースを不安を感じながらも強迫的に延々とスクロールし続けてしまう行為)」に陥ることなく、純粋に音楽に集中できる点が魅力である。
実際、こうした動きは「デジタル・ミニマリズム」と呼ばれる価値観の広がりとも重なる。利便性の高い多機能デバイスではなく、用途を限定したシンプルな機器を選ぶことで、より意識的で落ち着いた体験を求める傾向である。音楽を聴くという単一目的に特化したiPodは、その象徴的な存在となっている。
iPodの再評価はレトロ技術への関心とも結びついている。クリックホイールを備えたクラシックモデルや、小型のNano、画面を持たないShuffleなど、多様な機種が再び注目を集めている。さらに、ユーザーコミュニティでは外装のカスタマイズや部品交換といった改造文化も活発で、個性的なデバイスとして楽しむ動きも広がっている。
入手方法としては中古品が中心となるが、注意点もある。オンライン市場には新品と称する商品も出回っているが、実際には中古や模倣品であることが多い。また、長期間使用されていなかった機器はバッテリーの劣化が進んでいることが多く、交換や修理が必要になる場合がある。
復活させたiPodに音楽を取り込むには、パソコンを用いて楽曲データを同期する必要がある。WindowsではiTunes、MacではApple Musicを使って管理できるが、ストリーミング中心の現在の音楽消費とは異なり、楽曲ファイルを自ら用意する手間が伴う。一方で、この「手間」こそが主体的な音楽体験につながるとの見方もある。
さらに、愛好家の間ではオープンソースのファームウェア「Rockbox」を導入し、ハイレゾ音源への対応や再生機能の拡張を図る動きもある。こうした改造により、旧来の機器を現代的な用途に適応させる試みが続いている。
もっとも、iPodの復活はあくまで限定的な現象であり、音楽配信サービスやスマートフォンの優位性が揺らぐわけではない。それでも、通知やアルゴリズムに囲まれた日常に疲れたユーザーにとって、シンプルで一目的のデバイスが持つ価値が再認識されている点は注目に値する。
iPodの再流行は技術の進歩が必ずしも利便性の追求だけでは測れないことを示している。情報過多の時代において、あえて機能を削ぎ落とす選択が新たな魅力となる。その逆説的な潮流が、かつての名機を再び市場に呼び戻している。
