コラム:若者が「地方」を嫌う理由、対策は?
若者が地方を敬遠するのは、単一の要因によるものではなく、雇用・教育・生活利便性・文化的環境・地域社会の性質といった複数の要因が相互に作用している結果である。
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日本の現状
日本では近年、都市部への人口集中が続いており、特に若年層の「地方離れ(若者の都市集中)」が顕著になっている。住民基本台帳や移動統計を見ると、都道府県間の移動において首都圏(東京圏)へ流入する若年層の割合が高く、地方の若年人口は相対的に減少する傾向が続いている。人口流動の統計は月次でも公表されており、都市部への移動は依然として主要な潮流になっている。
地方の人口減少は高齢化と結びついて進み、地域の経済基盤やサービス提供能力、地域コミュニティの活力に影響を与える。加えて若年層の流出は地域の将来的な労働力やイノベーション力の低下につながりかねないため、国・地方双方で対策が重要な課題になっている。
地方離れ進む
地方離れとは単に「住む場所を変える」という行為だけではなく、若者が教育、就業、余暇、交友など生活の主要領域を理由に都市を選好する現象を指す。これは一時的な進学・就職のための移動だけでなく、定住先としての都市選好やUIJターンが進みにくい構造的問題を含む。特に大学進学や就職を契機に若者が都市に定着する例が多く、地方の若年人口割合の低下が統計に表れている。大学や就職を切っ掛けに移動した後、そのまま戻らないケースが多い点が特徴である。
具体的な理由(概要)
若者が地方を敬遠する理由は多層的で、主に次のカテゴリに整理できる ― 雇用・キャリア、教育・進学、生活環境・利便性、娯楽・文化、地域社会・人間関係、経済的格差(賃金差・将来期待)の6分野である。以下、各分野についてデータや先行研究・行政資料を交えながら詳述する。
雇用・キャリア
良質な雇用の不足
地方では企業数・事業規模の面で都市部に比べて制約が大きく、特に若年が求める「成長機会」「専門性の高い職種」「多様なキャリアパス」を提供する求人が相対的に少ない。厚生労働省や地域雇用対策に関する報告でも、地方における求人の質的課題(産業構造の偏り、正規雇用の少なさ、中小企業中心で採用・研修体制に限界がある点)が指摘されている。地方で働ける職があっても、キャリア形成や昇進・転職によるスキルアップの道筋が見えにくいと感じる若者が多い。
賃金・収入の差
都道府県別の賃金水準や毎月勤労統計を見ると、平均賃金や手取りの面で都市部(特に東京圏)が高い傾向がある。賃金差は生活コストの差である程度相殺される面もあるが、初任給や若手の昇給幅、ボーナスなどの面で都市部の方が期待値が高く、特にキャリアの序盤で所得差が将来設計に与える影響は大きい。若年層は所得期待値を将来の結婚や住宅取得、消費に直結するものとして重要視するため、賃金の相対差は地方離れの強い要因になる。
教育・進学
高等教育機関の少なさ
地方では大学や専門学校の数が都市部ほど多くないこと、あるいは都市部に比べて学部・学科の選択肢が狭いことが、高等教育を志向する若者の都市移動を促す要因になっている。文部科学省や学校基本調査に基づくデータでも、学部学生数や大学の立地は地域差があり、特に首都圏・大都市圏に学部集中が見られる。地方出身の高校生がより幅広い学びや進路選択を求めて都市部の大学に進学し、そのまま就職先を都市で選ぶという流れが繰り返される。
このため地方の高校生は進学を機に“外へ出る”選択肢を取りやすく、進学後に都市での生活基盤や交友関係を築くことで、将来的な回帰(Uターン)可能性が下がる。さらに地方に戻っても専門職の受け皿が限られていることが回帰のハードルを高める。
生活環境・利便性
生活利便性の低さ
都市部に比べて公共交通機関が少なく、深夜の移動が困難、医療や買い物の選択肢が限られるといった生活利便性の差が生活満足度に直結する。特に車を持たない若者や初期キャリアの単身者は交通や買い物の利便性を重視するため、これが大きな移住判断要因になる。
娯楽・文化施設の不足
若者が求めるライブハウス、映画館、ギャラリー、カフェや多様な飲食店、ナイトライフを支える施設等が都市部に比べて少ない地域が多い。文化庁の文化施設に関する議論でも、文化環境・施設の不足が若者の人口流入・定着に影響を与える点が指摘されている。地方では恒常的な文化拠点や若者の創作活動を支える場の整備が課題になる。
多様な出会いの少なさ
都市は同世代・多様な価値観の人々との出会いが多く、仕事以外でも交友や恋愛、趣味のコミュニティを作りやすい。若者は「出会いの機会」や「同じ趣味を持つ人との接点」を重視するため、出会いの種類が狭い地方は魅力が減る。SNSやオンラインの影響で“現地での多様な出会い”への期待値も上がっており、物理的な出会いの場が乏しいことはマイナス評価になりやすい。
地域社会・人間関係
濃密な近所づきあいのプレッシャー
地方には近所付き合いが濃密であるという特性がある。これは良く言えば助け合いや地域の連帯だが、逆に若者には「プライバシーの希薄化」「価値観の違いが露呈しやすい」として息苦しさを感じさせる要因にもなる。地域行事や自治活動への参加期待、噂や目線の存在は、都会の匿名性に慣れた若者にとってストレスになる場面がある。学術的な研究でも地域参加や近所関係の社会心理的影響が指摘されている。
価値観の相違と世代間摩擦
世代間でライフスタイルや仕事観、価値観が異なることが多く、例えば働き方や消費、ジェンダー観などで地域の慣習と若者の価値観が合わない場合、若者は居心地の悪さを感じやすい。特に新しい働き方やキャリア像を志向する若者は、変化を受け入れにくい地域慣習をネガティブに捉えることがある。
親との関係(地元志向とのズレ)
一方で、親世代が地元に定着している場合、若者が外へ出ると家族関係や地域期待との摩擦が生じることがある。親が望む地元への残留や家業継承と、若者自身のキャリア志向が対立する場合、若者はより自由な選択を求めて都市へ向かうことがある。
「東京1強」現象とメディア影響
東京圏への集中は経済活動、メディア、教育、文化の中心が東京にあることと密接に関係する。情報発信の中心が都市部に集中しているため、若者が「成功モデル」や「刺激」を都市に求める傾向は強い。メディアで取り上げられるのは都市での生活やトレンドになることが多く、これが地方の魅力を相対的に目立たなくさせる側面がある。
地方ができること(政策・現場での対策)
地方が若者の定着や回帰を促すために取り得る方策は複合的である。以下に代表的なアプローチを挙げる。
良質な雇用の誘致・創出
地域産業の高度化、中核企業の誘致、スタートアップ支援、企業と大学の連携による人材育成などを進める。厚生労働省や自治体の地域雇用支援策を活用し、若者がキャリア形成できる職場を増やすことが鍵である。
教育インフラの整備と連携強化
地元大学や専門学校の魅力化、高等教育機関と地元企業の共同カリキュラム、リモート学習・ハイブリッド教育の推進などにより、地方でも選択肢を増やす。文部科学省の大学分布データを踏まえ、地域ごとの学びの強みを伸ばす戦略が必要である。
文化・余暇インフラの強化
恒常的な文化施設や若者向けのイベント、クリエイティブ産業の育成に投資することで、若者にとって魅力的な“場”を作る。文化庁の議論でも、地域文化施設が若者の人口移動にプラス効果を持つ点が指摘されている。
交通・生活利便性の改善
地域交通の再編(オンデマンド交通の導入、深夜バスの整備等)、医療や商業サービスのデジタル化、テレワークのためのインフラ整備で生活利便性を向上させる。
コミュニティの柔軟化と多様性の受容
若者の多様な価値観を受け入れる地域文化づくりや、外部人材と地域住民の交流促進、地域参画のハードル低減を行い、地域の“居心地”を改善する。
移住支援とUIJターン促進の強化
移住者向け住居支援、起業支援、地域での受け皿づくり、見学・体験プログラムを通じて、移住の心理的・経済的ハードルを下げる。
今後の展望(展望と留意点)
デジタル化・リモートワークの進展が追い風になる可能性
テレワークやオンライン教育の普及は、物理的な居住地の制約を緩めるため地方定住にとって追い風になる。だが一方で、ただ「リモートワーク可能」であるだけでは人は移住しない。生活の質、地域コミュニティ、教育や文化施設など複数要素が揃うことが重要である。
地方の“強み”を明確化する必要性
食・自然・地域文化・ローカル産業など地域固有の強みを磨き、それを活かした雇用や交流の仕組みを作ることが求められる。単に補助金をばら撒くのではなく、持続可能な産業・働き方を育てる戦略が必要である。
若者観の転換と支援の多様化
全ての若者が都市でのキャリアを求めるわけではない。多様な働き方や生き方を支援する観点から、技能職や地域密着型のキャリアを魅力的に見せる取り組み(職業訓練、企業の待遇改善、職場の魅力発信)も重要である。国際的な傾向でも技能職への注目が高まっている例があり、教育・雇用政策は幅広い選択肢を提示する必要がある。
データに基づく政策設計
移動統計、雇用統計、教育統計等を参照し、地域ごとの課題と強みを可視化して政策を設計することが重要である。単発の支援ではなく、長期的な視点で地域の産業・教育・文化のエコシステムを整備することが鍵になる。
まとめ
若者が地方を敬遠するのは、単一の要因によるものではなく、雇用・教育・生活利便性・文化的環境・地域社会の性質といった複数の要因が相互に作用している結果である。統計や行政資料は、大学や雇用の地域偏在、文化施設・生活インフラの不足といった構造的課題を示している。地方が若者を呼び戻し、定着させるためには、経済(良質雇用)、教育(学びの機会)、文化・生活(余暇・交通・医療)および地域社会の受容性という複合的な課題に対して一貫した長期戦略を採る必要がある。
短期的には移住相談や補助金など即効性のある施策も有効だが、持続的な若者定着には「地域での成長機会」「多様な暮らしを受け入れる文化」「都市と遜色のない基礎的利便性」の整備が不可欠である。地方の再生は単に人口を戻すことではなく、若者が自らの未来を描ける場を地域につくることに他ならない。
参照
総務省/住民基本台帳人口移動報告(移動統計)など。
文部科学省:各都道府県における高等教育・地域産業の基礎データ、全国大学一覧など。
厚生労働省:地域雇用対策・毎月勤労統計など、雇用や賃金に関する資料。
文化庁:文化施設と地域の在り方に関する報告(若者の人口移動に文化施設が与える影響)。
学術論文や地域研究(近所づきあい、余暇活動等の研究)や海外メディア報道(若者の職業選択動向)を参照。
1)都道府県別の若年流出入データ(要点整理)
※「若年」は本文では総務省/政府資料に合わせて15〜39歳や20〜24歳などの年齢区分が用いられることが多い。以下は近年の主な傾向と代表的な数値。
全国的傾向(概観)
都道府県間移動者数(国内移動)は年による増減はあるが、若年層(特に20〜24歳、22歳付近)が移動の主体になっている。都道府県間移動の人数は数十万規模で推移している。
地方→東京圏の純流出(代表値)
直近の分析では、地方(全国の地方部)から東京圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)への転出超過は大きく、例として2023年度時点で約11.5万人の地方→東京圏の転出超過が報告されている(主に若年層が多い)。この数値は、進学や就職を契機とした若年の流出が主因であるとされる。
都道府県別の転入超過例(代表的数値)
東京都は転入超過数が最も大きく、2023年付近の年次報告で東京都の転入超過は数万人規模(例:3万〜4万人台の年が報告)となっている。関東・近畿・中核都市圏への集中が続いている。
都道府県別の若年流出入の特徴(パターン)
大学進学期(18〜22歳)に顕著な流出:地方の高校生が進学で都市部へ移るケースが多く、そこからそのまま就職→定住するパターンが典型的。
就職・キャリア期(22〜30代前半)にも流動が続く:転職や結婚等を契機に都心回帰や移住が起きる。
流入超過の出る都府県は限られる:東京都・京都府・大阪府・神奈川・愛知・福岡など一部都府県に流入が集中する傾向。
具体的に都道府県別の数値を取得したい場合の原典
総務省「住民基本台帳人口移動報告」(年次・月次)および内閣府/地域関連報告の年次資料に詳細な都道府県別・年齢別の転入・転出表がある。都道府県別の若年(15–39歳や20–24歳)転入転出数はこれらで確認できる。
2)大学学部別の地域分布表(要点整理:文部科学省資料に基づく)
※「大学学部別の地域分布表」を本文で“文字情報”として整理する。地域区分は文部科学省資料の区分(北海道、東北、北関東、東京圏、甲信越、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄等)を利用する想定。
概要(傾向)
大学・学部は大都市圏へ集中しており、特に東京圏は進学先として大きな吸引力を持つ。地方の多くの道県は大学進学時に「流出超過(周辺都府県へ学生を送り出す)」となる。
代表的な数値(進学期の流入超過・流出超過の例)
流入超過トップ(進学時):東京都 75,088人(他県からの進学による流入数の例)、次いで京都府 17,899人、大阪府 7,544人 等の報告あり(過去の文献データの一例)。これらは「県外から来る大学進学者数 − 県内から県外へ出る進学者数」で算出された値。
学部別(分野別)の地域偏在(概観)
都市部に集中しやすい学部・分野:人文・社会科学系の幅広い学部、法学・経済学・商学系、最先端研究を行う理工系(特に研究型大学の理工学部院含む)や医療系の一部(大学附属病院を持つ大学)の学部は都市近郊に多い。
地方に比較的残る学部:農学・水産学・地域資源系、地元産業に密着した実務系学科(短大・専門職系を含む)は地方に残りやすい。
地域別・学部別の見方(実務的メモ)
文部科学省の「学校基本調査」や補助資料(地域別・分野別基礎データ)には、出身高校の地域別に進学先学部の所在地域割合が示されている。これを参照すると「どの地域からどの地域のどの分野に学生が流れているか」が把握できる。たとえば東北地域から東京圏へ理工系・人文系ともに流出がある、などの傾向が読み取れる。
3)業種別の求人・賃金差の具体数値(要点整理)
※雇用(求人)と賃金は別指標だが相互に関連するため両面を整理する。主要出典は厚生労働省の「毎月勤労統計」や「賃金構造基本統計調査」、研究機関(JILPT)や労組レポートなどを参照する。
全国平均の目安(参考指標)
毎月勤労統計(令和5年速報)で報告された現金給与総額の目安は約329,859円(調査年による変動あり)などの値が示されている。賃金構造調査等では年齢層・学歴別・都道府県別の細目がある。
都道府県別賃金の差(概要)
賃金構造基本統計では都道府県別の賃金水準に差異があり、全国平均より高い地域は限られる(東京都や一部大都市が上位)。例えば令和5〜6年の公表値では東京都の賃金が最も高く、他に神奈川・愛知・大阪などが全国平均を上回る。
産業(業種)別の賃金差(代表的傾向と数値例)
賃金が高い産業群の例:情報処理・通信業、金融業、電気機械・製造の一部(大企業中心の製造業)、科学技術系職種などは相対的に賃金水準が高い。
賃金が低めになりがちな産業群の例:宿泊・飲食サービス、生活関連サービス、小売り・卸売り(業態による)、一部の個人向けサービス業など。
参考数値:賃金構造基本統計の産業別表を参照すると、産業ごとの所定内給与や平均年収・平均月収が掲載されている(産業別に数万円単位での差がある)。具体的な産業別の所定内給与表はMHLW発表資料の「産業別賃金」表に掲載されている。
求人数(求人倍率・業種別募集動向)の視点
求人量自体は景気の影響や地域差が大きく、地方では地元産業(例:農林水産、観光、地域サービス業)に求人が偏在しやすく、都市部では情報通信・金融・専門サービス等の求人が多い。求人の「質(正社員・専門性・昇進機会)」でも差が出やすい。毎月の有効求人倍率や業種別求人動向は厚労省資料や都道府県労働局の月次レポートで確認可能である。
若年(新卒・若手)に関する賃金観点(初任給など)
賃金構造調査は学歴別・新規学卒者の初任給も報告しており、大学卒の初任給水準や産業別の新卒賃金差が明示されている。たとえば大学卒の初任給中央値・平均は産業や企業規模で差があるため、若年が進路選択する際の重要な情報となる。
付録:主要参照元(短縮一覧)
総務省「住民基本台帳人口移動報告」(年次・月次) — 都道府県別・年齢別転入・転出データ。
内閣府(地域働き方等の報告)「都道府県別の15〜39歳の転入・転出の状況」等(PDF)。
文部科学省「学校基本調査」・地域別基礎データ(大学学部別の地域配分データ)。
厚生労働省「毎月勤労統計」/「賃金構造基本統計調査」 — 平均賃金、産業別・都道府県別の賃金表。
労働政策研究・研修機構(JILPT)や労組の賃金レポート等(地域差や産業別の分析補助)。
