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コラム:忘年会の現状・問題点「形を変えるべき時期に」

忘年会は日本の社会的慣習としての歴史を持つが、価値観の多様化と働き方の変化のなかで「形を変えるべき時期」に入っている。
海外のパーティー(Getty Images)

2025年11月現在、忘年会は依然として日本の年末行事の一つとして広く認識されているが、その実施形態や参加意識はコロナ禍以前とは大きく変化している。企業や団体での実施率は完全には回復しておらず、近年の各種調査では、実施率がおよそ5〜7割前後で推移しているという結果が示されている。たとえば、2024年の企業調査では忘年会・新年会の実施率は約59.6%にとどまり、コロナ拡大前の水準(2019年)より低い水準が続いているとの報告がある。さらに、2025年の調査でも約57.8%程度の実施見込みという報道があるなど、完全な「復活」には至っていない現状である。これらの数値は、コロナの影響を受けたライフスタイルや働き方の変化が忘年会文化に長期的な影響を与えていることを示唆している。


忘年会とは

忘年会は、日本の年末行事の一つであり、一般には1年の苦労や疲れを忘れて新しい年を迎える準備として職場や友人・地域コミュニティで行われる会合を指す。語源は「年を忘れる(忘年)」に由来し、本来は年の区切りとしての感謝や労い、来年への英気を養う意味合いを持つ。職場単位だけでなく、同窓会、サークル、地域の団体など多様な集まりで実施される。形式は会食を中心にスピーチ、余興、景品抽選などが伴うことが多いが、近年は食事会だけのシンプルな形式やレクリエーションを取り入れたものなど多様化が進んでいる。


意味と目的

忘年会の意味と目的は大きく分けて四つある。第一に「労い(ねぎらい)」であり、上司や同僚、スタッフ同士が一年の労をねぎらう場である。第二に「親睦の深化」であり、仕事の場では見えにくい人間関係の側面や横のつながりを強めるための機会である。第三に「リフレッシュ」であり、社員や参加者が年末の慌ただしさから一時的に離れて気分転換を図り、新年に向けて気持ちを切り替える場である。第四に「情報交換・人脈形成」であり、上下関係を超えた交流や、次年度のプロジェクト調整・人事の非公式な確認などが行われる場となることがある。これらは企業文化や組織の風土によって比重が異なるが、総じて忘年会は社内外のコミュニケーション促進やモチベーション維持に寄与するとされる。


労いの精神

忘年会は労いの精神を具現化する場である。日常の業務では表現しにくい感謝やねぎらいの言葉を口にする機会を作ることで、従業員の心理的な満足度を高める効果が期待できる。形式的なスピーチや表彰を含めることで、功績や努力を可視化し、組織内の承認文化を醸成することも可能である。しかし、労いは言葉だけではなく場の設計が重要であり、費用負担、会場選定、参加者の多様性配慮(飲酒の有無、食物制限など)を含めた設計が伴わなければ、真の「ねぎらい」にならないリスクがある。


親睦の深化

親睦の深化は忘年会の主要な機能である。業務時間中には見えない趣味や家庭の事情、個人の価値観を共有することで、職場の信頼関係を築くことが可能である。若年層の調査では、忘年会への参加理由として「同僚との親睦を深めたい」が上位に来るケースがあり、対面での交流を求める層も依然として存在する。だが一方で、価値観の多様化により、親睦の形は必ずしも飲食中心に限定されず、スポーツイベントやワークショップ、ボランティア活動など別の形での親睦形成が選好される傾向が強まっている。


リフレッシュ

忘年会は年末という時間的区切りを利用して精神的にリフレッシュする役割を果たす。業務から離れて非日常の場で会話や娯楽を楽しむことはストレス軽減に寄与する。ただし、過度な飲酒や長時間化、気疲れする形式のイベントは逆に疲労を増大させる可能性があるため、リフレッシュを目標とするならば「参加者が主体的に楽しめる内容」と「参加負担が過度でない費用・時間設計」が重要である。


近年の変化

忘年会を取り巻く環境はここ10年程度で急速に変化している。働き方改革やテレワークの普及、そしてコロナ禍を通じた生活様式の変化が主因である。特にコロナ禍では一時的に開催が激減し、その後も参加意欲や開催頻度は完全には戻らない状態が継続している。調査によると、2020年には開催率が大幅に落ち込んだ後、5類移行以降に回復傾向がみられるが、2019年の水準には戻っていないという分析がある。こうした中で「飲みニケーション」への評価が見直され、業務とプライベートの分離を求める声が高まっている。


コロナ禍からの回復

コロナ禍で忘年会が激減した後、感染症の分類変更やワクチン普及に伴い段階的な回復が進んだ。しかし回復のスピードは地域・業種・企業規模によって差がある。大型イベントや接客業を中心に回復が早い一方、リスク管理方針が厳格な企業やハイブリッドワークを採る企業では依然として開催を控える傾向がある。企業向け調査では回復は進んでいるものの、開催理由に対する従業員の賛否や参加意欲は分かれる状況であり、開催側は従来のやり方をそのまま継承するのではなく、安全対策と参加者の多様性に配慮した設計を求められている。


「忘年会離れ」と多様化

「忘年会離れ」とは、特に若年層を中心に忘年会に対する参加意欲が低下する現象を指す。これには複数の要因が絡む。第一にプライベートの時間を重視する価値観の浸透であり、勤務外時間を仕事関連の社交に割きたくないという声が増えている。第二に経済的な負担感であり、参加費や二次会の費用が家計や個人の消費行動に影響を与えるため敬遠される。第三に「飲みニケーション」の不要論や気疲れの問題であり、上司や年長者との気遣いを伴う会合を避けたいという心理がある。結果として、忘年会の形式は少人数化、会費抑制、飲酒を前提としないイベント、オンライン開催、レジャー型の交流など多様化が進んでいる。調査でも若年層の参加意欲は比較的高い一方で、世代や性別で差があり、全体としては以前より参加率が縮小していることが示されている。


形式の変化

忘年会の形式は従来の宴会中心から多様な形式へと変化している。大きく分けると、(1)従来型の会食+余興、(2)少人数での食事会、(3)体験型イベント(アウトドア、レジャー、ワークショップ等)、(4)オンライン/ハイブリッド開催、(5)業務内での簡易な慰労(ランチミーティング等)がある。特にオンライン開催は、遠隔地のメンバーを含められる利点があり、参加ハードルを下げる一方で、親密さや雰囲気の共有といった面では限界を抱える。幹事の負担軽減を目的に一次会のみで終了する「一次会完結型」や、景品を廃して短時間で終了する例も増えている。


少人数・多様な形式

企業文化や組織風土に合わせて、部署単位で少人数の食事会を実施するケースが増加している。少人数化は気疲れを減らし、より深い会話を可能にする利点がある。さらに飲酒を前提としない「カフェ形式」や「昼忘年会」、家族を招く「ファミリー忘年会」など、参加者の生活事情に配慮した形式も登場している。これらは多様性尊重の観点からも評価される一方、従来の全社的な一体感を作りにくいという欠点もある。


オンライン開催

オンライン忘年会はコロナ禍に普及した形式で、地理的に離れたメンバーの参加、感染リスクの回避、短時間での実施が可能という利点がある。だが、非言語情報の不足や飲食を共にする一体感の欠如、画面越しのコミュニケーション疲れなど、限界も明らかになっている。ハイブリッド方式(現地+オンライン)を採る企業も増えているが、両者の参加体験差をどう埋めるかが運営上の課題である。


開催時期

忘年会は一般に12月上旬から下旬に集中して開催されるが、業種や企業規模、カレンダーの都合により11月や1月にずらす例もある。年末の繁忙期を避けるために早めに実施する企業や、年末の家族行事を考慮して週末は避けるなど配慮を行う傾向が見られる。近年は開催日を分散化することで参加負担を下げ、繁忙期の業務影響を最小化する工夫がなされている。


課題

忘年会には複数の課題がある。以下に主な課題を列挙する。

参加の強制感

職場の忘年会において「参加は任意」とされていても、暗黙の圧力によって参加が事実上強制されるケースが存在する。個人の自由時間を尊重する観点から、参加可否の扱いは透明で配慮ある形にする必要がある。

ニーズの不一致

参加者の世代や価値観によって忘年会に期待することが異なり、全員を満足させる設計が難しい。飲酒を好まない者、費用負担を嫌う者、時間拘束を嫌う者などの多様なニーズをどう融合するかが課題である。

「時代遅れ」との批判

若年層や価値観の変化により、忘年会そのものが「時代遅れ」と評されることがある。単に従来の形式を踏襲するだけでは支持を得られないリスクがある。

プライベート重視の価値観の変化

ワークライフバランスや自己研鑽を重視する人々にとって、勤務外の社交に時間を割くことは優先度が低い。これに伴い参加率低下や職場コミュニケーションの変化が生じる。

時間の無駄・非効率感

長時間の飲み会や余興が業務への直接的な貢献を生まないと感じる者も多く、「時間の無駄」と見なされる危険性がある。

「飲みニケーション」の不要論

飲酒を媒介とするコミュニケーション自体が不要と評価される傾向が強まっている。最新の調査では「飲みニケーションは不要」と回答する割合が増加しており、その理由として「気を遣う」「金銭負担」「時間外労働の延長感」などが上がっている。

精神的・経済的負担

参加者は「気疲れ」や会費負担といった精神的・経済的コストを感じることが多く、これが参加意欲の低下につながっている。特に若手従業員や育児期の従業員にとって費用と時間の負担は大きい。

ハラスメントのリスク

酩酊状態や余興での軽率な言動はハラスメントを生みやすく、職場の信頼関係を損なうリスクがある。近年はハラスメント対策やアルコールハラスメント防止の指針を設ける企業が増えている。

形式主義と内容のミスマッチ

慣習的に形式を優先した忘年会は、参加者の実際の期待と乖離することがあり、結果として満足度が低下する。

「おじさん」中心の文化

特に長年の組織慣習の残る企業では年長男性中心の進行や世代ギャップを生む話題が問題視される。これが若手の参加意欲低下の一因となる。

飲酒の強要・アルコール離れ

飲酒の強要や「お酌」文化は若年層の離反を招く要因であり、アルコールを避ける傾向も増えている。結果として飲み会文化の見直しが迫られている。


問題点(総括)

上記の課題を総括すると、忘年会をめぐる主要な問題は「多様化する価値観と従来文化の摩擦」「参加コスト(精神・金銭・時間)の増大」「ハラスメントや安全配慮の不足」「形式と目的のずれ」である。これらは相互に関連しており、単一の対処では解決が困難である。企業は単に「開催する/しない」を議論するのではなく、開催する場合は目的を明確にし、参加者の多様なニーズを反映した設計を行う必要がある。


忘年会の未来・今後の展望

忘年会の未来は単純に消えるか存続するかという二択ではなく、「変容」と「再定義」によって形作られると考える。今後の主要な展開方向を挙げると以下のようになる。

  1. 目的志向の忘年会への移行
    単なる恒例行事ではなく、明確な目的(労い、チームビルディング、あるいは学びや体験の提供)を掲げる行事にシフトする。目的に応じたプログラム設計を行うことで参加満足度を高める。

  2. 多様な参加形態の共存
    少人数会、家族参加、昼開催、体験型、オンライン併用など、参加者の生活・価値観に応じた選択肢を提供することで参加ハードルを下げる。

  3. 費用負担の明確化と軽減
    会社が一定の費用を負担する、あるいは参加者負担を最小化する仕組みを導入することで経済的障壁を取り除く。

  4. ハラスメント対策の徹底
    イベント前に行動規範を共有し、飲酒の強要を禁じるなどの運用ルールを整備することで安全な場作りを図る。

  5. 代替的な親睦施策の導入
    ボランティア活動やレクリエーション、研修・ワークショップなど、非飲食ベースの交流施策を採用する企業が増える。

  6. 幹事負担の軽減とプロ化
    幹事の負担を減らすために外部のサービスやイベント運営会社を活用する流れが進む可能性がある。

  7. 評価指標の導入
    実施後に満足度や参加意義を測る指標を設け、PDCAを回すことで次回以降の改善につなげる仕組みが一般化する。

調査データを見る限り、忘年会そのものが消滅するわけではなく、多くの企業・個人にとって価値が残る一方で、その形は多様化・縮小化していく傾向が強い。政策的には労働時間外の強制的な参加を禁止する労務管理の厳格化や、ハラスメント対応ガイドラインの周知徹底などが忘年会文化の健全化に資するであろう。


最後に

忘年会は日本の社会的慣習としての歴史を持つが、価値観の多様化と働き方の変化のなかで「形を変えるべき時期」に入っている。企業や幹事は以下を実行することを勧める。

  1. 目的を明確にする — 労い・親睦・情報交換など開催目的を事前に示す。

  2. 任意性と配慮を徹底する — 参加は任意であることを明確化し、不参加者に不利益が生じない運用を行う。

  3. 多様な選択肢を用意する — 飲酒を伴わない選択肢やオンライン併用、昼開催などを用意する。

  4. 費用負担の配慮 — 若手や育児世代への配慮として会社負担を増やすか、参加費を抑える工夫を行う。

  5. ハラスメント対策を実施する — 明確なルール、相談窓口、即時対応体制を整備する。

  6. 効果測定を行う — 実施後に参加者満足度や目的達成度を計測し、改善に結びつける。

これらを踏まえれば、忘年会は単なる慣習的行事から、組織文化を健全に育むための「選択可能な手段」へと再定義されるはずである。多様化する参加者の価値観を尊重しつつ、労いと親睦という本来の目的を損なわない形を模索することが、今後の忘年会文化にとって重要である。


参照(主要ソース)

  1. 東京商工リサーチ「忘・新年会に関するアンケート」報告(2024)。忘年会実施率や回復状況に関する分析。

  2. 朝日新聞デジタル(SMBIZ)「2025年の忘年会どうする?実施は57.8%」報道(2025)。企業調査の速報。

  3. リクルート関連の調査報告(2024–2025)。職場飲み会の参加意向や忘年会の位置づけに関する調査。

  4. 各種マーケティング調査・企業アンケート(Sapporo Beer、SalesZine 等)。参加意欲や年代差、実施形態の変化に関するデータ。

  5. ニッポンドットコム等の解説記事。飲みニケーション不要論や世代差の分析。


世代別の参加動機と特徴(概観)

忘年会に対する期待や参加動機は世代ごとに異なる傾向を示す。概括すると、年長世代(団塊・バブル世代に近い層)は伝統的な慣習や上下関係の中での儀礼的側面を重視し、中堅世代(いわゆるX世代・バブル後の世代)は労いと情報交換のバランスを求める。若年層(ミレニアル世代、Z世代)はプライベート時間の重視、費用負担の懸念、飲酒を前提としない多様な交流形態を好む傾向が強い。調査でも世代差が明確で、若年層の飲酒離れ・参加意欲低下は顕著に観測されている。


団塊〜団塊ジュニア・バブル世代(おおむね50代以上)の参加動機と実践例

参加動機
・年の区切りを重視する価値観が強く、社内の儀礼や上下関係の確認、顔合わせの場として忘年会を肯定的に捉える。
・「労い」の文化を言語化して伝える場としての期待が強い。

実践例
・大人数での宴会形式、余興やカラオケ、昔ながらの乾杯・お酌の流れを含む構成が残っている企業が多い。
・部署横断の一体感醸成を目的に全社規模で実施する例が見られる。

留意点
・若年層との価値観ギャップが顕著になりやすく、進行や余興が若手に疎まれるリスクがある。


X世代(おおむね40〜50代)の参加動機と実践例

参加動機
・仕事での成果承認、部下や同僚への労い、次年度に向けた非公式な調整(人脈・情報交換)を目的とすることが多い。
・家庭や子育て等で時間的制約があるため「短時間で有意義に終わらせたい」ニーズがある。

実践例
・一次会で切り上げ、二次会は任意参加にする「一次会完結型」や、会費を抑えた会場選定を行う。
・業務に直結するテーマ(チームビルディング型研修+懇親)を組み合わせるハイブリッド型イベントの採用が増えている。


ミレニアル世代・Z世代(おおむね20〜39歳)の参加動機と実践例

参加動機(減少傾向の要因)
・プライベート時間重視、費用感度の高さ、飲酒や気遣い負担(気疲れ)を避けたいという傾向が強い。
・飲みニケーションへの懐疑、アルコール離れ、社内行事に時間を割くことへの抵抗がある。調査報告でも若年層の参加回数は比較的少なく、二次会参加率が高い世代差も観察される。

実践例(若年層が評価する形式)
・少人数でのカジュアルな食事会、個室重視の会場、飲酒を必須としない「カフェ形式」やランチ/昼開催。
・体験型イベント(スポーツ、脱出ゲーム、ワークショップ)や、オンライン飲み会・ハイブリッド参加を取り入れることで参加ハードルを下げる試みがある。
・会社側が一部費用を負担する、もしくは参加インセンティブ(景品や休暇付与)を用いるケースが増加している。


実践例(企業ケーススタディー風)

以下は報道や市場調査で見られる実際の運用例をまとめたものだ。

  1. 一次会完結+個別慰労制度
     中堅企業で採用される方式。忘年会は一次会で2時間程度に抑え、会社が会費の大半を負担する一方で、業績評価に結びつく小規模表彰を別途設ける。これにより時間負担と金銭負担を減らしつつ労いを実現している。

  2. 体験型忘年会(レジャーやワークショップ)
     クリエイティブ系企業やIT企業を中心に、忘年会を脱飲食化して「脱出ゲーム」「チームスポーツ」「料理教室」などの体験に置き換える例が増えている。参加者の能動的な関与を促し、会話のきっかけを自然に作る効果がある。

  3. オンライン・ハイブリッド開催
     拠点分散やテレワークを背景に、オンライン参加枠を設けるハイブリッド型を導入する企業が多い。オンラインでは短時間のクイズや抽選、事前に配送するおつまみボックスを用いるなど工夫が行われている。

  4. 家族参加型/昼忘年会
     育児世代の参加障壁を下げるために家族を招く、あるいは昼に実施して帰宅時間を確保する方式。職場外の家族交流を促進する利点がある。


若年層の「離脱」を防ぐ工夫(実践的提案)

  1. 選択肢の提示 — 「飲食中心」「体験型」「オンライン」の選択肢を示し、参加者自身に選ばせる。

  2. 費用負担の配慮 — 会社負担を増やすか、参加費を少額に設定する。

  3. 時間配慮 — 平日の夜に長時間拘束しない。一次会完結や昼開催を検討する。

  4. 形式のインクルーシブ化 — アルコールを強制しない、個室や小グループを用意する。

  5. 目的の明示 — 「労い」「学び」「チームビルディング」など明確な目的を事前に示す。

これらは実際の調査や企業事例で有効性が示唆されている運用である。


海外の類似事例との比較(英国・米国を中心に)

共通点

ハラスメント対策の強化 — 英国や米国では最近の法規制や判例、企業のリスク管理の観点から、オフィスの年末パーティーでも事前の行動規範周知や飲酒管理などが強く求められる傾向がある。雇用者の責任が明確化され、イベント中の不適切行動が会社の法的リスクにつながるとの認識が強い。

相違点・トレンド

  1. アルコール中心から活動中心へ(英国で顕著)
     英国では伝統的に「office Christmas party」がポピュラーだが、近年はアルコール中心の集まりから脱却し、脱出ゲームや屋外アクティビティ、クッキングクラスなど「体験型」のイベントへとシフトする動きが報告されている。参加者の多様化や法的リスク回避、リモートワーク後の一体感再構築を目的に、この傾向が強まっている。

  2. 参加率・経済環境の差
     英国の一部調査では、2024年に参加率や支出が増加した地域がある一方、経済的不安から参加を見送る層がいるとの報告もあり、国内でも温度差がある。米国でも同様に「福利厚生としてボーナスやギフトを好む」傾向が一部で観測され、現金・ボーナスを好む従業員が社内イベントより経済的報酬を求める例がある。

  3. 法的ルールの影響(英国の労働者保護強化など)
     英国では近年の労働者保護法・ハラスメント関連法改正に伴い、雇用者に対してイベント中のハラスメント防止措置を求める動きが強まり、結果として従来の「飲み会」型イベントを見直す企業が増えている。米国でもEEOCの指針や企業のコンプライアンス方針が年末イベント運営に影響を与えている。

日本との比較まとめ

・日本と同様に海外でも「飲酒中心の年末行事」は見直し対象になっている点が共通している。
・しかし、英国や米国では法制度や労働規範の変化がより迅速に企業運営に影響を与え、結果としてアクティビティ重視・アルコール抑制・ハラスメント防止の具体的措置が普及している面がある。一方で、日本は文化的習慣や世代間の力学が残る企業が依然として多く、移行速度に差がある。


日本企業への応用可能性

  1. 事前の行動規範と運営マニュアルの導入 — 海外でのハラスメントリスク管理の手法を参考に、事前通達・クレーム対応フロー・アルコール管理(上限提供、飲酒運転防止)を整備する。

  2. アクティビティ中心のプログラム採用 — 英国の成功事例に倣い、非飲食型で参加者が主体的に楽しめる体験を導入する。

  3. 選択制・インセンティブの付与 — 経済的報酬(小額ギフトや特休)を選べる仕組みを導入して、社員の多様な期待に応える。


参考となる調査・報道(本節で引用した主要ソース)

  • Job総研『2024年 忘年会意識調査』。忘年会の実施率や参加意欲の年代別動向を報告。

  • 株式会社ファンくる「昨年の忘年会についての動向調査」(2023/2024)。参加率や会場選びの傾向を示すデータ。

  • GNavi(ぐるなび)関連調査記事。ビジネス忘年会の参加傾向と予算動向を分析。

  • ホットペッパーグルメ外食総研「職場の飲み会に対する期待と参加実態」(2025年調査)。職場飲み会の実施比率やイメージ変化を報告。

  • ニッセイ基礎研究所「Z世代のアルコールに対するスタンス」レポート。若年層の飲酒・飲み会に対する価値観を分析。

  • The Guardianほか英国メディアの報道。英国内における年末オフィスパーティーの変化(アクティビティ化、アルコール抑制)を報告。

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