コラム:第2次高市政権で「派閥」復活か?
高市政権は形式的な派閥政治からの脱却を掲げつつ、党内集団力学を新たな形で再編している。
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現状(2026年2月時点)
2025年10月、自民党の高市早苗(たかいち さなえ)氏が第29代自民党総裁に選出され、同年10月21日に第104代内閣総理大臣に就任した。これは自民党内初の女性総裁・首相であり、戦後政治史においても画期的な出来事であった。高市総裁は党内で「新執行部」「解党的出直し」を掲げた一方、伝統的な党内勢力の再編が党内外で議論を呼んでいる。
歴史的に自民党は1955年の結党以来、派閥政治(ファクショナリズム)を特徴とする政党であった。派閥は議員の選挙支援、人事・ポスト配分、政策グループ形成などに深く関与し、政権運営のキーマンとなってきた。だが、2023〜2024年の政治資金スキャンダルを契機に主要派閥の解消が進み、表面上は従来の派閥軸の党内政治構造が変容していた。
高市政権はこの党内構造のなかで成立しているが、就任当初から「派閥政治の逆戻りではないか」との批判が出ている。特に自民党内で唯一継続された麻生派(麻生太郎氏率いる勢力)の人事・影響力が目立ち、それをもって「第2次麻生政権」との揶揄も生じている。
その後の政治動向は、2026年2月8日に実施された衆議院選挙で大きく動くことになる。次節でその結果を整理する。
2026年2月8日の衆院選選挙の大勝
2026年2月8日実施の衆議院選挙で、自民党は300議席を超え、316議席を獲得し3分の2を上回った。また、日本維新の会との連立を含めた与党勢力は352議席となり圧倒的多数を確保した。これは自民党が結党以来最大規模の勝利であり、野党は大きく凋落した。
複数メディア分析でも、「歴史的大勝」「高市旋風」と称され、従来の政権運営の枠組みを超えた支持が確認されている。勝因としては、高市の積極的財政政策(消費税の一時停止等)や安全保障強化への支持、既存政党への失望などが挙げられている。
この選挙大勝は、高市政権の政策遂行力強化と同時に、党内政治力の集中を意味する。与党内の支持基盤が安定する一方で、政権内部の対立や構造変化への影響も懸念される。
高市一強体制と「派閥解消」の形式
高市総裁は総裁選時に「自派閥を持たない政治」「党内挙党体制」を強調した。彼女自身は長年、派閥には属さずに活動してきた人物である。
しかし2025年時点の自民党内部では、主要派閥の多くが政治資金スキャンダルの影響で解散しており、従来の派閥ルールが崩れていた。特に、最大勢力であった清和政策研究会(旧安倍派)が解散し、他の派閥も同様の措置を取った。これは党改革を意図したものであり、表面的には「派閥政治の終焉」を示唆していた。
したがって高市政権は、形式的には「派閥力学」の枠外からスタートしている。党首個人への支持が相対的に重視される構造は、従来の派閥重視政治からの一歩を象徴している。
高市首相自身が率いる「積極財政派」の存在
高市政権下では、自民党内外の経済専門家を起用し、積極財政(リフレーション)を政策の柱として掲げている。政府の経済財政諮問会議や成長戦略会議にリフレ派の学者が参加するなど、積極財政派の人事が進んでいる。
これは政策グループとしての新たな勢力であり、従来の「派閥」とは異なるが、党内政治の重心となりつつある。高市政権は政策軸による集団形成を促し、従来の派閥代替の組織として機能しようとしている側面がある。
執行部・閣僚人事における「派閥色」の濃さ
高市新執行部では、党役員人事や閣僚人事において麻生派との関係が色濃いとの批判が出た。副総裁に麻生太郎氏を据え、幹事長にはその義弟である鈴木俊一氏を任命するなど、党内で残存する勢力の優遇が見られた。
この人事アレンジは、「形式上の派閥解消」に対する党内外からの批判を呼んだ。社説でも「旧態依然の派閥政治への逆戻り」と指摘する声が出ている。
麻生派の動き
麻生派(麻生太郎氏率いる勢力)は、自民党内で唯一一定の組織を保ち、政権内部で影響力を持っている。麻生派支援のもとで高市総裁が選出されたという分析も存在し、「高市麻生政権」と揶揄される所以である。
麻生氏自身は財政規律重視の立場であり、政策面では高市の積極財政論と一部対立が予想されるという指摘もある。
旧安倍派の復権(選挙)
旧安倍派(清和政策研究会)は2024年に解散したが、派閥としての名称や組織形態は消滅している。それでも安倍元首相の支持基盤は自民党内外で影響力を持ち、高市政権の選挙戦略でも安倍流の政策・イデオロギーが反映された側面がある。
「政策グループ」を通じた実質的な再編
自民党内では、従来の派閥に替わる新しい勢力形成として「政策グループ」が注目されている。経済、外交、安全保障政策に基づく集団が政権内部で形成されつつあり、派閥と同様に議論・人事・政策決定に影響を及ぼす可能性がある。
これは歴史的な派閥減衰の中で新たな党内力学として現れつつある現象である。
歴史的大勝による「高市1強」と統治の課題
今回の歴史的大勝により、高市首相は党内外で強力な求心力を持つ立場にある。
しかしこれには統治上の課題もある。多数の議席を持つ一方、政党内での議論や多様な意見の排除、対立勢力の弱さによるチェック機能の欠如などが指摘されている。これらは党内政治環境の歪みを招く可能性があり、単純な派閥復活だけでは説明できない複合的な構造変化をもたらしている。
「政治と金の問題」の終焉
2023〜24年の政治資金スキャンダルを契機として自民党内の主要派閥は解体され、その後の政治過程で「政治と金」の問題は党内政治の大きなテーマとして処理された。これは派閥の解消と並行してなされた対応であり、派閥制度の機能そのものへの批判と変革圧力が高まった。
今後の展望
高市政権は形式的な派閥政治からの脱却を掲げつつ、党内集団力学を新たな形で再編している。麻生派の影響、政策グループの活性化、そして歴史的大勝という条件が複雑に絡み合い、従来の派閥政治が復活したとは言い切れないが、その代替的な力学(新勢力形成)は確実に生じている。
まとめ
形式的な「派閥」は解消されたが、党内権力構造は動態的に変化している。
麻生派は存在感を維持し、執行部に影響を及ぼした。
旧安倍派の政策的影響力は選挙戦略に反映されたが、組織としての派閥はない。
政策グループが新たな党内勢力として機能し始めている。
高市政権の歴史的大勝は1強体制を強化し、党内政治の力学を再構築している。
純粋な派閥復活ではなく、新たな内部勢力形成の進展が見られる。
参考・引用リスト
「党内で高市氏に文句は言えないだろう」 圧勝の自信、自制は利くか — 毎日新聞(日本語)
Sanae Takaichi's conservatives cement power in landslide Japan election win — The Guardian(英語)
Prime Minister Takaichi's party wins a supermajority in Japan's lower house — AP News(英語)
高市人気の正体は?衆院選をデータで分析 — テレビ朝日(日本語)
「麻生政権ではないか」「派閥政治に逆戻り」 — テレビ朝日(日本語)
自民党新総裁に“女性初”高市早苗氏 — テレビ朝日(日本語)
〖社説〗自民執行部発足 派閥と論功に逆戻りか — 徳島新聞(日本語)
自由民主党 (Liberal Democratic Party) — Wikipedia(英語)
Seiwa Seisaku Kenkyūkai — Wikipedia(English)
Nikai 派(Shisuikai) — Wikipedia(English)
派閥政治と自民党 — Japan Policy Forum(英語)
2023–24 Japanese slush fund scandal — Wikipedia(English)
追記:派閥政治は「復活」したのか、それとも「再定義」されたのか
1.形式的な派閥の復活――「名称なき派閥」の制度化
結論から言えば、第2次高市政権下で旧来型の派閥(○○派という名称・事務局・定例会合を伴う組織)が完全に復活したとは言えない。しかし同時に、派閥政治そのものが否定・消滅したとも評価できない。
むしろ観察されるのは、
「形式を否定したまま、機能のみが再制度化された派閥」
という状態である。
政治学的に派閥とは、以下の三要素から定義されることが多い。
継続的な人的ネットワーク
ポスト・資源配分を通じた相互依存
指導者(ボス)への準忠誠関係
第2次高市政権では、このうち
①人的ネットワーク
②人事・選挙・政策資源の共有
は明確に存在している。一方で
③公式な「派閥領袖」としての自己宣言
派閥名を冠した政治団体
のみが意図的に回避されている。
これは、2023〜24年の政治資金問題に対する社会的学習の結果であり、「派閥=悪」という世論環境に適応した形態である。
したがって本質的には、
派閥の解消ではなく、派閥の匿名化・非公式化
と位置づけるのが妥当である。
2.麻生派との緊密な連携――事実上の「安定装置」
第2次高市政権を理解する上で、麻生太郎を中心とする勢力との関係は避けて通れない。
麻生派は、形式的には「派閥解消」の流れの中でも、
人的結束
政策調整能力
財務・外交・党運営における知的蓄積
を最も多く保持した集団である。
高市首相は派閥に属さない政治家として知られてきたが、
政権運営の初期段階において、最も信頼可能な制度的パートナーとして麻生勢力を選択した
と解釈できる。
ここで重要なのは、この連携が単なる「恩義」や「後見」ではなく、
権力の安定装置としての機能的提携
である点である。
高市首相:強い政策志向・象徴性・大衆動員力
麻生勢力:官僚統制力・党内調整力・国際信用
両者は役割分担関係にあり、この補完性が政権の初期安定を支えた。
結果として、
麻生派は「派閥解消後の唯一の準派閥的中核」
として、事実上の重心となった。
これは派閥政治の消滅ではなく、
派閥の寡占化・集約化
と評価できる。
3.旧安倍派勢力の再結集――「選挙」を媒介とした復権
旧安倍派(清和政策研究会)は、組織としては解散した。しかし、
選挙という局面では、明確に再結集した
と分析できる。
ここで注目すべきは、再結集の「媒介」である。
派閥会合
政治団体
資金プール
ではなく、
候補者公認・選挙応援・政策スローガン
を軸とした再編であった。
これは、安倍政権期に形成された以下の要素が、依然として有効であることを示す。
安全保障観
積極財政志向
価値観保守の語彙
地方組織との強い結びつき
高市首相はこれらを自らの政治言語として再翻訳し、
「安倍路線の継承者」という象徴的位置を占めた。
結果として旧安倍派勢力は、
派閥としてではなく「選挙動員ネットワーク」として復権
したのである。
これは、派閥の再生というより、
派閥的機能の戦術的復活
と整理できる。
4.派閥政治の力学は「残存」ではなく「強化」されたのか
重要な問いは、
派閥政治の力学は弱まったのか、それとも形を変えて強化されたのか
である。
結論としては、
意思決定の集中と人事支配という点では、むしろ強化された側面がある。
理由は三点ある。
(1)反主流派の不在
衆院選での歴史的大勝により、
明確な党内対抗軸
公然たる反主流派
が存在しなくなった。
これは、派閥政治が持っていた
内部牽制・競合の機能
が失われたことを意味する。
(2)人事権の首相集中
派閥均衡型人事が崩れ、
首相官邸主導での人事決定
が常態化した。
この構造下では、
派閥に属するか否かよりも、
首相にどれだけ近いか
が決定的となる。
結果として、
非公式な派閥的近接性
がより重要になる。
(3)政策グループの「派閥化」
政策グループは本来、理念や政策で結ばれる緩やかな集団である。しかし、
人事登用
予算配分
メディア露出
が結びつくことで、
事実上の派閥機能を帯び始める。
これは派閥政治の否定ではなく、
派閥政治の高度化・不可視化
と評価できる。
5.総合整理:第2次高市政権下の派閥政治の位相
以上を踏まえ、追記部分を体系的に整理すると以下のようになる。
旧来型派閥(名称・事務局・資金団体)は復活していない
しかし、派閥の機能(人事・動員・政策調整)は完全に残存している
麻生勢力は「安定中枢」として事実上の準派閥化を果たした
旧安倍派は選挙を通じて「ネットワーク型勢力」として再結集した
派閥政治は弱体化したのではなく、首相1強体制の内部装置として再構築された
したがって、第2次高市政権の特徴は、
「派閥なき派閥政治」
あるいは
「ポスト派閥時代の派閥支配」
と表現するのが最も適切である。
