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コラム:テレビショッピングが嫌われる理由

テレビショッピングが嫌われる主因は「情報の非対称性」と「販売手法の攻撃性」にある。
米国のテレビショッピング(Getty Images)
日本の現状

テレビは依然として多くの国民に届くメディアであり、暮らしの中で情報源として一定の信頼を維持している。消費者庁の調査では、暮らしの情報入手先として「テレビ・ラジオ」を最も信頼する層が存在する一方で、消費者相談窓口に寄せられるテレビショッピング関連のトラブルも少なくない。全国の消費生活センターなどに寄せられるテレビショッピングに関する相談件数は近年増加傾向にあり、消費者保護の観点から問題視されている。特に高齢者からの相談が目立ち、85歳以上の年齢層ではテレビショッピングによる定期購入トラブルが顕著であると指摘されている。

テレビショッピングとは

テレビショッピングとは、テレビ番組や専用チャンネル、地上波やBS/CSを通じて商品やサービスを紹介・販売する仕組みである。番組内では商品の実演、顔の見える販売員やタレントの推薦、限定性や割引を強調する演出などが行われる。視聴者は番組中に表示される電話番号やウェブサイトを通じて即時に注文できる形式が一般的であり、直接店舗に行かずに手軽に買い物できる利便性が売りになっている。

嫌われる主な理由

テレビショッピングが嫌われる理由は多岐にわたるが、主に次の点に集約される。①商品を直接確認できない不安、②販売手法への不快感(強引・執拗な勧誘)、③価格や追加費用に関する懸念、④誇大広告や実際の品質との乖離による信頼性の低下、⑤消費者トラブルやアフターサービスの不備、⑥情報収集の手間と比較困難性、⑦過剰な演出や単調さ、⑧定期購入への誘導などである。以下、各項目を掘り下げる。

商品を直接確認できないことへの不安

テレビショッピングの最大の特徴である「実物を見られない」点は消費者心理に直結する不安を生む。実演映像やタレントの使用例だけでは、実際の使用感、耐久性、質感、操作性などを正確に把握できない場合が多い。特に衣類や家具、家電の触感や付属品の精度、化粧品の肌への相性といった体験的要素は、画面上の情報だけでは判断が難しい。結果として、商品到着後にイメージと違う、思ったほど効果がないといった不満が生じやすい。これに関連して返品や返金対応に不安を抱く消費者が多く、実際に返品トラブルが相談につながる事例も報告されている。

販売手法への不快感

テレビショッピングでは購買を促すために、短時間で「今だけ」「限定」「残りわずか」といった時間的・数量的希少性を強調する手法や、電話注文におけるオペレーターの即時対応で購買心理を後押しする手法が多用される。これらは消費者の衝動買いを誘発する一方で、「煽られて買わされた」「冷静に判断できなかった」といった不快感を残す。さらに高齢者や判断力が低下している消費者に対しては、しつこい勧誘や長時間の説明が精神的プレッシャーとなる場合がある。消費者保護の観点から、電話注文中に定期購入にすり替わる事例が繰り返し問題視されている。国民生活センターや消費生活センターでも、注文時に意図せず定期購入になっていたという相談が目立っており、消費者側の不信感を深めている。

価格や追加費用への懸念

テレビショッピングで提示される価格表示は、セール価格や初回限定価格、複数購入での割安表示が目立つ。だが「初回のみ割引」「税・送料別」「定期購入の場合は別料金」といった条件が分かりにくく表示される例もある。購入後に送料や手数料が別途請求されたり、定期購入の継続で高額な請求が発生したりするケースが報告されているため、消費者は総費用の見積りを誤りやすい。価格表示の透明性が低いと感じられれば、信頼喪失につながる。こうした表示に対しては、景品表示法や表示規制の観点から行政の指導や改善勧告が行われることもある。

誇大広告・信頼性の問題

テレビという「映像と声」の影響力は強く、効果を強調する誇張表現や、科学的根拠に乏しい効能の主張が消費者の誤認を招くことがある。特に健康食品や美容関連商品の分野では「劇的効果」「臨床試験で証明」といった断定的な表現が使われがちで、これに対する行政の改善指導や是正要求も出ている。たとえば、不当表示への指導や、事実に基づかない「No.1」表示、期間限定表示の誤使用といった問題点が行政報告でも指摘されている。誇大表現が繰り返されれば消費者の信頼は低下し、テレビショッピング全体のイメージ悪化を招く。

消費者トラブルのリスク

テレビショッピングに関連した消費者トラブルは実際に発生しており、消費者相談件数として集計されている。相談内容は「注文した覚えがないのに引き落とされていた」「単品だと思ったら定期購入だった」「返品が認められない」「表示と性能が違う」といったものが多い。2024年度のテレビショッピングに関する相談件数は数千件に上るという報告もあり、相談窓口では特に高齢者に関わる事例を重視している。消費者が被害を受けた場合、返金や解約の手続き、修理・交換などの実務的な解決が遅れると二次被害に発展する可能性がある。

情報収集の手間

消費者が賢く買うには比較情報や口コミ、第三者レビュー、スペックの詳細確認が必要だが、テレビショッピングの短い紹介時間の中で十分な情報を得ることは難しい。番組は商品を魅力的に見せることに主眼があり、デメリットや制限、詳細仕様を丁寧に説明することは稀である。そのため購入前に自分でインターネットや店舗で調べる手間がかかる。調べる時間や労力を負担に感じる消費者は、結局誤購入や不満足な結果につながるリスクを受け入れるしかなく、それがテレビショッピングに対する嫌悪感を生む一因になっている。

修理・サポートへの懸念

家電や高額商品をテレビショッピングで購入した際のサポート体制が不透明だという懸念もある。販売事業者が提供する保証や修理窓口の対応品質、部品供給の可否、契約書面に明記されたアフターサービスの範囲などが明確でないと、故障時に消費者が困る可能性が高い。特に通信販売型の販売では、販売事業者が中小事業者である場合や海外供給品が絡むとサポートが煩雑になる。購入時にアフターサービスの詳細を確認しづらいことが、消費者の不安と不満につながる。

過剰な演出

テレビショッピングでは視聴者の注意を引くために派手な演出が行われる。大げさなビフォーアフター映像、感情に訴えるナレーション、著名人の推薦、協力者のインタビューなどがそれに当たる。こうした演出は確かに訴求力が高いが、過剰になると「騙されているような気持ち」や「演出に疲れる」といった反感を生む。また、同じような演出が繰り返されると単調さが増し、視聴者は番組自体に抵抗を感じる。視聴体験が疲弊すると、放送自体を避ける消費者もいる。

定期購入への誘導

テレビショッピングで特に問題視されるのが定期購入(サブスクリプション)への誘導である。宣伝では単品販売が強調されていても、注文フローや電話口での説明が不十分であるため、意図せず定期購入契約になっていたという相談がある。高齢者や判断力が落ちている人に対しては、細かな契約条件の説明が理解されないまま契約が成立してしまうリスクがあり、消費生活センターでは定期購入に関する被害事例を繰り返し報告している。消費者庁や国民生活センターは、定期購入の明確な表示と申込確認を事業者に求めており、消費者にも冷静な確認の重要性を呼びかけている。

執拗な販売促進

放送後に続くフォローアップの電話や郵送物、SMS等で再度購買を促すケースがある。これらが頻繁あるいは執拗であると、消費者はストレスを感じる。特に電話による再勧誘は、断ったにもかかわらず継続されると迷惑行為に分類されかねない。そうした販売後の過剰な接触は信頼を著しく損なう。

不都合な情報の隠蔽

販売側がデメリットや制限事項を後回しにし、目立たない表示や小さな文字で条件を記載することが問題になる。たとえば、返品条件、初回価格の条件、継続条件、解約方法の煩雑さなどを明瞭に示さないことは消費者にとって不利益である。景品表示法や消費者契約法は誤認を招く表示を禁じているが、実務上は不明瞭な表示が残る場合があり、行政指導や改善命令の対象になる事例もある。

内容の単調さ

多くのテレビショッピング番組が類似の商品構成、似た演出、似たトーンで番組を構成するため、視聴者は飽きやすくなる。特に夜間や早朝に流れる長時間の専用チャンネルでは、同じフォーマットが繰り返されることが多く、消費者は番組を「単調で信用できない」と感じることがある。多様な商品の魅力を引き出すためには、透明で誠実な情報提示と多角的な検証が必要である。

問題点(総括)

以上を総括すると、テレビショッピングが嫌われる主因は「情報の非対称性」と「販売手法の攻撃性」にある。画面や短い紹介だけでは製品の欠点や条件を十分に伝えきれず、消費者は購入後に想定外の負担や不満に直面する。また、販売側による誇張表現、定期購入への誘導、不明瞭な表示、執拗な勧誘といった行為は消費者の信頼を損ない、相談・苦情に結びつく。行政や消費者団体はこれらの問題を把握し、改善指導や注意喚起、調査報告を継続している。消費者側も「冷静に確認する」「契約書類を保管する」「家族と相談する」といった防御策を取ることが推奨されている。

専門家やメディアのデータを踏まえた観点

消費者庁や国民生活センター、各都道府県の消費生活センターが公表する白書や注意喚起は信頼できる一次情報であり、高齢者に関連する相談や定期購入のトラブルを明確に報告している。消費者庁の調査報告では、テレビ・ラジオが依然として情報源として信頼される面はあるが、同時に表示や広告の改善が必要だとする指摘が繰り返されている。メディア報道でも、テレビ通販をめぐる被害事例や行政指導のニュースは取り上げられており、誇大表示や不当表示に対する行政の改善指導事例も確認されている。これらのデータは、テレビショッピング全体の構造的な課題を示している。

今後の展望

テレビショッピングが持続可能で信頼される販売チャネルであり続けるためには、以下のような改善が必要になる。

  1. 表示の透明化:総費用、定期購入の有無、解約条件、返品条件を画面表示や音声で明確に伝えること。

  2. 誇大広告の是正:効果や品質に関する主張は科学的根拠や客観データに基づくべきであり、行政基準に沿った表示を徹底すること。

  3. 高齢者保護策:高齢者向けの判りやすい説明、家族同意の促進、注文の二段階確認など、誤契約を防ぐ仕組みの導入。

  4. アフターサービス強化:修理、返品、交換、問い合わせ窓口を明確にし、対応品質の向上を図ること。

  5. 自主的な業界ルールと監査:業界内でのガイドライン制定、外部監査の導入により信頼回復を目指すこと。

  6. 消費者教育:購買前に冷静な比較検討を促す情報発信を強化し、消費者側のリテラシーを高めること。

行政側も既に誇大表示や不当な表示に対して改善指導を行っており、消費者保護の取り組みは進展している。だが新たな販売手法や通信技術の発展に合わせて、規制や指導の内容も更新していく必要がある。たとえば放送とオンライン注文が連動するハイブリッドな販売広告では、画面上の表示だけでなくウェブ上や電話口での説明責任も問われるため、事業者は総合的な説明体制を整備する必要がある。

消費者への実務的アドバイス

消費者が被害を避けるための具体的な行動としては、次の点を推奨する。①番組で示された「価格」の内訳(税、送料、手数料)を確認する。②注文前に「単品か定期か」を明確にする。③到着後の納品書や契約書を保管し、不審点があれば即座に販売事業者へ連絡する。④返品・解約方法が不明瞭な場合は注文を控える。⑤高齢の家族が注文する場合は事前に家族で確認する仕組みを作る。トラブルが発生した場合は消費生活センターや消費者ホットライン(188番)に相談することが重要である。

まとめ

テレビショッピングは手軽さと視覚的訴求力を活かした有用な販売チャネルであり続ける可能性がある一方で、現在のままでは消費者の信頼を損なう要因が多い。透明性の確保、誇大表現の是正、高齢者対策、アフターサービスの充実、そして消費者側のリテラシー向上が同時に進まなければ、テレビショッピングは嫌悪の対象としての地位から抜け出せない。事業者、行政、メディア、消費者がそれぞれの役割を果たすことで、信頼回復と健全な市場形成が期待できる。


参考・根拠(抜粋)

  • 国民生活センターによるテレビショッピングに関する消費者相談や注意喚起。2024年度の相談件数の報告など。

  • 消費者庁「白書」や高齢者の消費生活相談に関する記述(85歳以上ではテレビショッピングでの定期購入トラブルが発生)。

  • 国民生活センターの注意喚起パンフレット(テレビショッピングで意図せず定期購入になった場合の対応など)。

  • 東京都などの行政によるインターネット広告・表示に関する改善指導の事例(誇大広告の指摘)。

  • 景品表示法に基づく不当表示の違反事例集とガイドライン。

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