SHARE:

コラム:トランプ2.0失速、どうしてこうなった...

トランプ第2次政権の失速は単一要因ではなく、経済(物価・成長・財政)、内政運営(行政能力・司法問題)、外交(同盟関係・国際戦略)の三軸が相互に押し合い、負のフィードバックループを形成したためである。
2025年10月8日/米ワシントンDCホワイトハウス、トランプ大統領(右)とルビオ国務長官(AP通信)
現状(2025年12月時点)

2025年12月時点で、いわゆる「トランプ2.0」、第2次トランプ政権は就任から1年を経て当初見込まれていた政治的優勢や政策の即効性を維持できず、国内外の複数分野で失速が目立つ状況である。経済の指標は局面によってぶれがあるものの、インフレは過度に高止まりし、国民の実感「暮らしの負担」は根強く残っており、支持率は低下傾向にある。連邦財政は依然巨額の赤字を抱え、景気と物価の相互作用、関税政策や政府運営を巡る混乱、司法との摩擦や同盟国との摩擦が複合的に作用している。これらの問題は相互に影響し合い、政権の有効打を削いでいる。政策の期待と現実のギャップが、国内の無党派層や一部支持基盤の離反を招いている。経済に関する主要な専門家予測や公的数値を見ると、2025年通年の実質GDP伸び率は概ね1.8〜2.0%程度の控えめな成長を見込む一方、財政赤字は1.8兆ドル級で推移していると報告されている。

内政・外交両面で誤算や課題に直面

第2次政権は就任時に掲げた「再工業化」「強硬な対中・対外姿勢」「移民規制」「低税・規制緩和」を軸とする政策セットで短期間に成果を示すことを狙っていた。しかし、内政面では行政能力(administration capacity)と閣僚・議会との連携において想定外の軋轢が生じ、外交面では同盟国との協調が弱まり対外信用にコストが発生した。特に国家安全保障戦略や通商政策の強硬路線は、同盟国の反発やグローバルサプライチェーンへの逆風を生んだ。これらは短期的に支持拡大に結びつくと見込まれていたが、現実の経済負担と政治的摩擦は政権運営を複雑化させた。

経済政策の頓挫と国民の不満

トランプ政権は「価格を下げる」「物価を抑える」など分かりやすいスローガンを掲げ、関税や産業政策、規制撤廃で国内雇用や製造業回復を主張した。しかし、現実には関税の恩恵が企業や消費者に均等に行き渡らず、輸入コストの上昇が段階的に消費者物価へ転嫁され、特に中小企業や小売業が厳しい状況に直面した。年末の消費期でも小規模事業者からは関税負担や供給不確実性を理由に悲鳴が上がっており、政権側の「価格低下」キャンペーンは国民の生活実感と乖離しているとの指摘がある。米国民の「暮らしの負担(affordability)」を巡る懸念は党派を超えて広がっており、政権はその解消に成功していない。

財政再建の失敗

財政面では、トランプ政権が打ち出した減税・軍事投資・産業支援などの施策は短期的な景気下支えには寄与するものの、歳出の増加と減税の組合せが歳入側の伸びを超える結果を生んでいる。CBOや関連政策機関の査定では、2025会計年度の赤字は約1.8兆ドルに達しており、長期的な債務持続性の懸念は払拭されていない。政府が掲げた「財政規律」の公約は、実際の予算執行や超党派合意の欠如によって現実化しなかった。結果として長期金利の上昇圧力や投資家の不安を招き、信認の維持にコストがかかっている。

関税の影響とインフレ

政権は輸入関税を通じて国内産業を守る戦略を踏襲したが、経済学的な観点では関税は徴収側である政府の関税収入を一時的に増やす一方、最終価格を引き上げるために消費者負担を増やすことが多い。2025年後半のデータでは、関税に伴うコストの一部が企業価格へ転嫁され、財・サービスの価格上昇に寄与しているとの分析が示されている。さらに、関税はサプライチェーンを再配列させる過程で調整コストと投資の遅延を発生させ、結果として短期的な物価上昇(特に輸入依存の中間財や耐久消費財)をもたらした。これが家計の実質所得感度を悪化させ、政策支持の減少につながっている。専門機関の分析でも、関税は一部の産業で雇用を保護したものの、全体の物価上昇圧力を高めたと評価されている。

景気減速と物価上昇の併存(スタグフレーション懸念)

2025年の成長率は市場予測および専門機関のサーベイでおよそ1.8〜2.0%程度にとどまる見込みで、景気の勢いが強いとは言い難い。一方でインフレ率はFRBの目標水準(2%程度)を若干上回る局面が断続的に発生しており、賃金やエネルギー、家賃など生活必需分野での負担は依然として高い。成長鈍化と物価上昇が同時に進行する「成長と物価の乖離」は政策判断を難しくしており、金融政策の引き締め余地と財政出動の両方を限定している。専門家のフォーキャストは成長は底堅さを示すが、構造的なリスク(関税、移民規制、供給側混乱)が成長の上振れを阻害するとの見方が多い。

内政運営の混乱と支持率低下

政権内部では閣僚・補佐ラインの交代や政策優先順位の頻繁な変更、行政府機能の調整不足が目立つ。これにより主要政策の実施が遅延し、行政手続きの不透明感が増した。たとえば、規制撤廃のプロセスや助成金配分、移民施策の運用面で各機関の連携ミスが顕在化し、現場からの不満が表面化している。世論調査では経済パフォーマンスや政府の信頼性に関わる評価が低下しており、政権の「実行力」に疑問符が付く結果となっている。複数の報道・調査が示すところでは、国民の多くは政権の言説よりも実際の生活実感を優先して評価しており、その点で政権のメッセージは浸透していない。

政府機能の不全と司法との確執

政権は司法や独立機関との摩擦を繰り返しており、法的な対立が政策遂行に影響を及ぼしている。特別検察や司法手続きに関する対立は政権に政治的負担を与え、重要案件での法廷闘争が行政の資源を消耗している。さらに、司法介入や検察との確執が政権の人事・政策判断に影響を与え、結果的に政府機能の効率性を低下させる事態になっている。司法との対立が政権の正統性や行政判断の安定性を揺るがしている点は見逃せない要素である。

支持率の急落と政治的帰結

複数の主要世論調査やメディア報道は、経済実感の悪化や政権運営の不透明さを背景に大統領支持率が低下していることを報じている。支持率の低下は下院・上院の与党勢力の連携を困難にし、重要立法や補正予算の通過が不安定になっている。支持率急落は中道層や無党派層の離反を招き、選挙・中間選挙を見据えた政党戦略にとって重大な逆風となっている。ワシントンポスト等の報道は「有権者の『暮らしの負担』が政権の語り口と合致していない」点を指摘しており、これが支持率下落の主要因の一つだと分析している。

外交・安全保障における課題

外交面では、トランプ政権が提示した新たな国家安全保障戦略(NSS)が欧州や同盟国の強い反発を招いた。文書のトーンや一部の政策表明が同盟国を「弱体」と位置付け、伝統的な協調路線を損ねる表現が含まれていたため、各国の反発と不信が拡大した。加えて、中東・アジア政策においては、ロシアや中国、湾岸諸国に対する選択的接近や現実主義的取り組みが同盟基盤の不安定化を招き、情報共有や共同演習、軍事協力の円滑性に影響が出ている。国家安全保障戦略の公表は米国の対外姿勢の再定義を試みる一方で、国際社会からの批判が外交的コストを増大させている。

同盟国との摩擦と国際秩序からの乖離

NSSや通商政策、関税措置を通じて米国が従来の多国間主義や同盟重視の姿勢から距離を置く動きが見られ、これが同盟国との摩擦を助長している。欧州では戦略的価値観のすり合わせに困難が生じ、アジアでは安全保障上の信頼関係が再検討される場面が散見される。国際秩序の面では、米国が変則的・選好的な関与を強めることで他国の補完的行動や地域の再編成が進み、米国の戦略選択肢が短期的には拡大しても長期的には制度的信頼を損ねるリスクがある。これが経済協調・安全保障協力における摩擦拡大を通じて、米国の外交的影響力を相対的に低下させる要因になっている。

無党派層の離反と保守基盤の割れ

政権が掲げる強硬・ポピュリズム的アピールは一部のコア支持層には有効であったが、無党派層や中道保守層には逆効果となっている。生活実感に直結する経済政策の失敗や外交での孤立化、政府機能の混乱は中道層の失望を招き、選挙動員力を低下させる。さらに、保守系の内部でも「実用主義派」と「イデオロギー重視派」の間で方針対立が表面化し、党内統合が難しくなっている。これにより、2026年中間選挙や2028年大統領選へ向けた政治戦略の構築が不安定化している。

専門家のデータ・分析を踏まえた総合評価

複数のシンクタンクおよび経済機関(CBO、Philadelphia Fedのプロフェッショナル予測、民間の経済調査機関など)は、2025年の財政赤字が大きく、成長率は緩やかながら黒字化や急回復を示す状況ではないと見ている。CBOの月次レビューや関連機関はFY2025の欠損額を約1.8兆ドルと推計しており、これは歳出抑制と歳入拡充策が十分に機能していないことを示す。経済成長はAIや一部セクターの投資で支えられているものの、関税や移民規制、行政の不確実性が投資決定を慎重にさせる要因となっている。これらのエビデンスは、政権の政策が短期の政治的ショーや一部産業への恩恵を生んだものの、マクロ経済の持続可能性や国民生活の安定に直結する成果を出せていないことを示している。

失速の因果連鎖(ポイント別整理)
  1. 経済政策のコミュニケーション失敗:政権のスローガンと市民の生活実感の乖離が有権者の不信を生んだ。

  2. 関税と保護主義の逆作用:一部産業保護に成功した反面、輸入コスト上昇が物価に波及し消費を抑制した。

  3. 財政の持続性欠如:大規模赤字が構造化し、長期展望の信頼を損ねた。

  4. 行政府の運営力低下:閣僚人事や方針の頻繁な変化が政策遂行を遅らせた。

  5. 司法・独立機関との摩擦:法的争点が政治資源を消耗し、政権に負担をかけた。

  6. 外交的孤立化:国家安全保障戦略や言説が同盟国の反発を招き、国際協調の余地を狭めた。

今後の展望

トランプ政権が失速を食い止めるためには、いくつか現実的な選択肢が存在する。第一に、経済政策の焦点を国民生活に直結する「可視的な成果」へと移す必要がある。具体的には中小企業支援の迅速化、食料・エネルギー・医療コストの抑制策、ターゲットを絞った税・補助政策の提示が求められる。第二に、関税政策の見直しや段階的な緩和で消費者負担を軽減すると同時に、産業政策は長期的な競争力強化(研究開発、技能投資)へ転換する必要がある。第三に、財政運営では現実的な歳出カットや歳入確保のロードマップを提示して市場の信認を回復することが重要である。第四に、外交面では同盟国との溝を埋め、制度的協調に回帰するメッセージを発することが国際的信用回復につながる。これらは短期的には政治的コストを伴うが、長期的な支持基盤の安定化につながる可能性が高い。

失速の総括

総じて、トランプ第2次政権の失速は単一要因ではなく、経済(物価・成長・財政)、内政運営(行政能力・司法問題)、外交(同盟関係・国際戦略)の三軸が相互に押し合い、負のフィードバックループを形成したためである。政権が掲げた政策のうち短期的な見栄えを良くする施策は散見されるが、制度的信頼や国民の実生活を改善する持続的な施策は十分に実行されなかった。その結果、無党派層の離反や支持率低下、議会運営の不安定化、国際舞台での孤立化といった形で「失速」が現実の政治成果に反映された。今後の政権の浮揚は、どれだけ早く生活実感に訴える施策で「効果と説明責任」を示せるか、そして外交・司法との摩擦をどの程度緩和して政策運営の余地を確保できるかにかかっている。政府の選択は短期的な政治計算だけでなく、中長期の制度的安定と経済の持続性を同時に回復する方向へ舵を切れるかに依存している。


参考主要出典(本文で引用した代表例)

  • The Washington Post(2025年12月報道)――国民の「暮らしの負担」と支持率低下に関する分析。

  • Time / AP(2025年12月付)――国家安全保障戦略に対する欧州・同盟国の反発。

  • Congressional Budget Office(CBO)/ 各機関のFY2025レビュー――2025会計年度の赤字規模推計(約1.8兆ドル)。

  • Philadelphia Fed Survey of Professional Forecasters / EY 等の経済見通し(2025)――実質成長率見通し(約1.8〜2.0%)。

  • Thomson Reuters / The Guardian 等(2025年)――関税の企業・消費者への影響と中小企業の懸念。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします