SHARE:

ダイエット失敗の原因は「意志力」の欠如?

従来、「意志力」と言われてきた自己制御能力は、個々人が目標達成のために誘惑に抵抗する力とされてきたが、肥満や減量の困難さはこれだけで説明できないという。
ダイエットのイメージ(Getty Images)

肥満や体重管理において「意志力の不足」が主因とされる考え方は、実際の科学的知見と大きくズレているとして、専門家が今までの常識を再検討する動きを強めている。専門家は体重減少が「単に食べる量を減らし、運動量を増やせばよい」という単純な意志の問題ではなく、遺伝的・生理学的要因と環境的要素が大きく影響していると指摘している。

従来、「意志力」と言われてきた自己制御能力は、個々人が目標達成のために誘惑に抵抗する力とされてきたが、肥満や減量の困難さはこれだけで説明できないという。専門家の多くは、肥満は高度に複雑な生物学的プロセスと環境的圧力が絡み合う状態であり、単に意志を強く持てば解決するものではないと述べている。

体重増減に関わるいくつかの主要な科学的要素を紹介する。まず、摂食行動や満腹感の調節に関連する遺伝子が存在し、特にMC4R遺伝子の変異は空腹感を強め、満腹を感じにくくするため、一部の人が過食しやすい体質になるという研究結果がある。こうした遺伝的背景は、同じ量の食事をしても体脂肪の蓄積に差が出る原因の一つとされている。

また、人間の体はエネルギーの消費と摂取のバランスを一定に保とうとする「体重セットポイント理論」などの生理的メカニズムが働いており、減量を行うと脳は飢餓状態と認識して食欲を増進させ、基礎代謝を低下させることが知られている。このため、ダイエット初期に体重が落ちても、長期的には体が元の「重さ」に戻ろうとする力が働くことが多い。

こうした背景を踏まえ、専門家は肥満や体重管理を「意志力の欠如」として個人の責任に帰するのは不当だと主張する。肥満を単純な行動の問題と見なすことは、身体的・心理的な負担を強めるだけでなく、効果的な対策を妨げる可能性があると警鐘を鳴らしているのだ。

さらに現代社会の環境的要因も問題視されている。加工食品の低価格・高カロリー化や、大量の広告による食欲刺激、利便性の高い「エネルギー密度の高い食品」の氾濫は、人々を過食傾向に誘導しやすい環境を作っている。このような「オベシジェニック(肥満促進)環境」は、意志力だけで対抗できるものではなく、社会全体での規制や環境改善の取り組みが必要だという意見がある。

一方で、意志力や自己制御の役割そのものを完全に否定する意見も存在する。専門家の中には、意志力が完全に無意味というわけではなく、環境や生物学的条件を理解したうえで柔軟な戦略を取ることで効果的に活用できるとする見解もある。また、減量に成功した人々の中には「強い意志力を持って継続した生活習慣の改善を行った」と語るケースもあり、意志力と環境・生物学的要因の相互作用が重要だとの指摘もある。

専門家は肥満をめぐる議論で意志力という言葉が一人歩きしがちな現状を批判し、体重管理には個人の努力だけでなく、科学的理解と社会的支援が必要だと結論付けている。この視点は、肥満対策や健康政策に新たな方向性を提供する可能性があると専門家は述べている。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします