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コラム:COP30開幕間近、今年はどうなる?

COP30では数値目標や宣言だけでなく、実行可能な資金配分・時間軸・実施体制を盛り込むことが重要だ。
ブラジル、アマゾナス州の密林とアマゾン川(Getty Images)

地球温暖化と気候変動は依然として深刻な局面にある。最新の報告によると、世界の温室効果ガス排出量は再び最高値を更新し、2023年には約57.1ギガトンCO₂等(GtCO₂e)に達したとされる。温室効果ガス排出の趨勢をこのまま放置すると、産業革命前からの気温上昇を1.5℃以内に抑える目標は極めて困難であり、遅れを取り戻すためには今後数年で大幅かつ迅速な削減が必要である。こうした科学的警告は、国際社会が次の大きな政策判断を迫られていることを示している。

COP30(2025年11月)概要

国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は、ブラジル北部の都市ベレン(Belém)で、2025年11月10日から21日まで開催されることが決まっている。開催地の選定とテーマは「アマゾン」を重視しており、森林保全、土地利用、先住民族の権利、持続的開発と気候対策の両立が焦点になる見込みだ。会議は「ブルーゾーン(交渉)」と「グリーンゾーン(市民・民間)」を通じて多様な利害関係者を集める形式で実施される。

今年はどうなる?(COP30に期待される論点)

COP30では、特に以下の点が主要な論点として浮上する見込みだ。

  1. 温室効果ガス排出削減の現実的な強化(各国のNDC=国別決定貢献の引き上げ)

  2. 化石燃料の段階的削減に関する合意形成の試み(ただし、言語の抑制や例外規定で弱められる懸念)

  3. クライメート・ファイナンス(気候資金)の拡充と動員、特に適応資金と損失・損害対応資金の速やかな供与体制の確立

  4. アマゾン地域における森林保全と開発の両立、先住民族の権利保護、治安・インフラ問題の対応
    以上は交渉の優先順位と政治的意思に依存するため、最終合意の強さは各国の温度差と地政学的緊張に左右される。

喫緊の気候変動対策と温室効果ガス排出量

短期的(2030年まで)に求められている対策は、主に以下の4領域に集約される。(1)石炭・石油・天然ガスといった化石燃料の使用削減、(2)再生可能エネルギーの急速な導入(3)エネルギー効率化と電化(輸送・産業・建築分野)、(4)森林保全と自然基盤(Nature-based Solutions)の拡大。UNEPの「Emissions Gap Report」等は、現行の政策では排出削減量が不十分であり、2030年に向けた追加的努力がなければ1.5℃目標はほぼ達成不能であると警告している。具体的には、現行のNDCや政策シナリオを強化しなければ、今世紀末の降幅が1.5℃を超えるリスクが高いとされる。

目標達成の遅れ

各国のNDC更新ペースや実施の遅延により、1.5℃目標達成は大きく遅れている。技術的には再生可能エネルギーや電気自動車(EV)、蓄電技術などの導入余地は十分あるが、政策の一貫性や資金、社会的受容性がボトルネックになる。加えて、化石燃料関連の産業雇用や既存のインフラ投資との調整が遅れを生む要因になっている。

現実とのギャップ

科学的に必要な削減量と、国家が提出するNDCや現行政策の間には大きなギャップがある。例えば、UNEPの分析は、世界排出量は近年も増加傾向にあり、追加的な政策強化が無ければ2030年時点での排出は1.5℃を大きく上回る見込みである。これは、技術的には可能な削減を政策的意思と資金が追い付いていないことを示す。

化石燃料からの脱却(フェーズアウト)

化石燃料の段階的廃止は気候政策の核心課題だが、国際合意で「フェーズアウト(段階的廃止)」と明確に明記されるかは難しい情勢にある。多くの途上国はエネルギー安全保障や開発ニーズを理由に慎重であり、先進国側も国内の産業・雇用問題から強硬な言葉を避ける傾向がある。結果として、「脱炭素の速度」と「公正な移行(Just Transition)」をどう担保するかが交渉の鍵になる。

気候変動資金(クライメート・ファイナンス)

先進国が途上国に提供するべき気候資金はCOPプロセスの中心課題だ。OECDの集計では、開発途上国向けに提供・動員された気候資金は2022年に約1,159億ドルとなり、長年の目標であった年間1,000億ドルを初めて達成したと報告されている。しかし、これは「資金の質」「適応への重点配分」「民間資金の動員方法」などに関する批判を免れない。特に、適応(脆弱性対策)向け資金は依然として不足しているとの指摘がある。

途上国への資金提供と資金の規模

気候資金の提供は、単に総額を示すだけでなく、資金のアクセスのしやすさ、公平性、条件(融資か贈与か)などが重要だ。適応ニーズは増加しており、最近の報告では途上国の適応資金ニーズは、今後2035年までに年間数千億ドル規模に達する可能性が指摘されているが、現在の提供水準はそれに遠く及ばない。資金の流れを増やすには、公的資金と民間資金の効果的な組み合わせ、保証・レバレッジ手法、そしてアクセス手続きの簡略化が必要である。

損失と損害(ロス&ダメージ)基金

COP28で合意された損失と損害基金(Loss & Damage Fund)は、影響を受ける途上国への直接支援という点で歴史的な進展を示す。基金は主に先進国からの拠出に依存するボランタリー(任意)方式で運営される予定であり、迅速な資金移動と被害評価に基づく支援が求められている。しかし、拠出総額は加盟国の期待に依然として届いておらず、受給の基準や管理メカニズム、透明性の確保といった運用面での課題が残る。世界銀行が暫定的なホスト機関となる合意がなされているが、独立性の担保やドナー主導の影響については批判と懸念がある。

開催地ブラジルの課題

ブラジルはCOP30のホスト国として国際的注目を浴びているが、国内的には多くの課題を抱える。アマゾンの違法伐採や農地拡大、鉱業活動に伴う環境破壊、先住民族の権利保護といった社会環境問題が根深い。開催地ベレン近郊でのインフラ整備や警備体制、会場周辺の物流や宿泊インフラの確保も実務的な課題になる。さらに、国内政治の方向性によっては国際公約と国内政策の乖離が懸念される。

アマゾンの保全と開発

アマゾンは気候調節、炭素貯留、生物多様性保護において地球的に重要だ。COP30ではアマゾン保全を巡る国際資金やメカニズム(例えばパリ協定下の森林保全プログラムの強化やREDD+の拡充)が主要テーマとなる。だが、保全と地域開発のバランスをどう取るかが難題であり、地元住民の生計向上、持続可能な農林業、違法活動の取り締まりが同時に求められる。炭素市場や支払うべき対価の設計も議論の焦点になる。

インフラと治安

ベレン周辺のインフラ(空港、道路、通信、宿泊)はCOP開催に向けて強化が必要だが、短期的な整備は環境負荷や土地利用の摩擦を生む危険性もある。また大規模な国際会議は治安対策も重要であり、現地の治安情勢や移動の安全確保が会期中の円滑な運営に直結する。治安強化は地元住民との摩擦を生むことがあるため、慎重な配慮が必要だ。

先住民族の権利

アマゾンには多様な先住民族が居住し、その土地権や生活様式は森林保全と密接に結びついている。COP30では先住民族の参画と権利尊重が不可欠であり、政策決定における意思決定参加、土地権の法的保護、伝統的知識の尊重が課題となる。先住民族を経済的対象として扱うのではなく、パートナーとして参加させる設計が求められる。

政治的・地政学的な緊張

近年の気候交渉は伝統的な南北対立だけでなく、米中関係や地域間の地政学的競争、エネルギー安全保障問題とも絡む。特に化石燃料関連政策やハイテク技術(グリーン技術)の供給チェーンに関する政策は国際的な摩擦を生みやすい。COP30でも大国の立場の違いが合意の言語や実効性に影響を与える可能性が高い。

各国の温度差

先進国と途上国の間には責任と能力に関する温度差が残る。先進国は長期間にわたる歴史的排出の責任と資金・技術提供能力がある一方、途上国は発展ニーズと適応負担を負う。交渉では、公平性(equity)や共通だが差異のある責任(CBDR=Common but Differentiated Responsibilities)が再び中心テーマとなる。実効的な合意には、先進国の追加的資金コミットメントと技術移転が不可欠だ。

米国の気候変動政策

米国は世界最大級の排出国の一つであり、国内政策の強化は国際合意に大きな影響を与える。近年は連邦・州レベルで再生可能エネルギー支援、EV普及促進、排出基準強化といった政策が進展しているが、政権交代や議会構成により政策の安定性に変動がある。米国の具体的コミットメントや財政支援はCOP30の交渉進展にとって重要なファクターとなる。

日本の取り組みと課題

日本は2050年カーボンニュートラル目標を掲げ、2030年排出削減目標(NDC)の更新やクリーンエネルギー導入、グリーン成長戦略を進めている。しかし、化石燃料依存の高さや脱炭素投資の速度、家庭・地域レベルの適応対策の遅れが指摘される。国際的には技術供与や資金拠出を通じた途上国支援、気候外交の強化が期待されるが、国内外での信頼性・実行力を高めることが課題である。

今後の展望

COP30はアマゾンという象徴的かつ実務的課題を抱えた場であり、森林保全と気候資金、損失・損害対応、化石燃料段階的削減といった分野での進展が期待される。だが合意の深さは各国の政治意志、資金の確保、そして市民・民間の圧力に左右される。実効的な進展を確保するためには、(1)先進国の透明で増強された資金コミットメント、(2)損失・損害基金の迅速な運用と被災地への即時支援、(3)化石燃料からの公正な移行を支える国際メカニズム、(4)先住民族と地域コミュニティを中心に据えた現場主導の保全プログラム、が不可欠になる。

まとめ
  1. COP30では数値目標や宣言だけでなく、実行可能な資金配分・時間軸・実施体制を盛り込むことが重要だ。

  2. 損失・損害基金は「約束」から「実効的給付」へ移行させるため、受給手続きを簡素化し、迅速支援のための予備基金や保険的仕組みを整備する必要がある。

  3. 森林保全と現地の持続可能な生計支援を結び付けることで、違法伐採や土地転換を抑制する政策設計が求められる。

  4. 先進国は総額だけでなく、適応資金や技術移転の割合を高め、資金の質(贈与重視、低利融資、技術協力)を改良するべきだ。

  5. 各国はNDCの野心をさらに引き上げ、実行可能なロードマップとモニタリング・検証体制(MRV)を強化することが必要だ。

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