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コラム:血管ボロボロ、カラダを守れ!葉酸(ビタミンB9)活用術

葉酸(ビタミンB9)は、体内の一炭素代謝に不可欠な水溶性ビタミンであり、ホモシステイン代謝や血管内皮機能に関与する。
健康的な女性のイメージ(Getty Images)
現状(2026年2月時点)

心血管疾患は依然として世界の死因のトップであり、日本や米国などの先進国でも高齢化に伴い患者数が増加している。日本循環器学会などの統計によると、心筋梗塞・脳卒中を含む循環器疾患は、単独でがんに次ぐ主要な死因となっている。2030年にかけて高齢者人口の増加が予測されていることから、予防的栄養戦略の重要性が増している。特に血管内皮機能の維持と炎症抑制、及び末梢循環の改善を目指す栄養介入が注目されている。その中で葉酸(ビタミンB9)は、血中アミノ酸であるホモシステインの代謝調節や血管内皮改善作用を介して循環器リスク低減に寄与する可能性が示唆されている。しかし、その効果の大きさや対象集団、投与量によって結果は一様ではなく、科学界でも議論が続いている。葉酸はこれまで主に妊婦に対する神経管形成異常予防として取り上げられてきたが、循環器系の保護機能についても多数の研究が蓄積されてきた。

以上を踏まえ、葉酸の基礎知識と循環器系への作用、活用法について総合的に整理する。


葉酸(ビタミンB9)とは

葉酸(folate)は水溶性ビタミンB群の一つで、ビタミンB9として知られている。食品中では多くの活性形態が存在し、ヒト体内では一炭素代謝に必要な補酵素として機能する。合成形態として「葉酸(folic acid)」がサプリメントや強化食品に用いられるが、体内で葉酸塩に変換されて初めて活性を発揮することが知られている。葉酸はDNA合成、細胞分裂、赤血球形成などの基本的な生命過程に関与しており、特に妊娠期の胎児発育に必須である。葉酸の一炭素単位の移動機能は、メチオニンとホモシステインというアミノ酸の代謝の中心でもある。葉酸不足は、巨赤芽球性貧血や高ホモシステイン血症、潜在性循環器リスクの増加と関連する可能性がある。


なぜ葉酸が「血管の守護神」なのか?

葉酸が「血管の守護神」と形容される理由は、その生化学的役割に由来する。葉酸は一炭素代謝経路でホモシステインからメチオニンへの再メチル化反応に補酵素として関与し、結果として血中ホモシステイン濃度に影響を与える。このホモシステインが高い状態(高ホモシステイン血症)は、動脈硬化や心血管イベントのリスク増加と関連するという疫学的データが存在する。

さらに、葉酸は血管内皮機能そのものを改善する作用が示されている。特に動脈硬化既往のある患者では、葉酸補給によりフローメディエート血管拡張(FMD)が改善されたという臨床データがある。この作用はホモシステイン低下だけでなく、葉酸の代謝物である5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-MeTHF)が一酸化窒素(NO)の産生を促進し、酸化ストレスを低減することによる可能性が指摘されている。


毒素「ホモシステイン」

ホモシステインは必須アミノ酸であるメチオニンの代謝中間体であるが、その血中濃度が一定以上になると血管内皮にダメージを与える。高ホモシステイン状態は血小板凝集促進、酸化LDLの蓄積、内皮機能障害と関連し、これらは動脈硬化の発症や進展につながる。葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6はこのホモシステインの代謝に必要不可欠であり、これらの栄養素が欠乏するとホモシステインの分解が妨げられる。

なお、ホモシステインそのものが直接的な原因であるかは議論があるが、臨床データでは高レベルのホモシステインが心血管疾患リスク増加と関連することが複数の疫学研究で示されている。


動脈硬化の予防

動脈硬化は血管壁への脂質沈着と炎症反応が進行し、血流を阻害する病態である。葉酸が血管保護に寄与するメカニズムとしては、以下の要素が挙げられる。

  1. 内皮機能改善:葉酸補給は動脈硬化患者の内皮機能指標であるFMDを改善するという報告がある。

  2. ホモシステイン低下:葉酸はホモシステイン代謝を促進し、血中濃度を低下させる。

  3. 抗酸化作用:5-MeTHFはNOの利用可能性を高め、酸化ストレスを減少させる可能性がある。

ただし、葉酸補給による心血管疾患全般の予防効果は研究によって結果が異なる。近年の大規模メタアナリシスでは、葉酸補給は脳卒中リスク低減には一定の効果が認められる一方で、全死亡率や冠動脈疾患リスク低減には明確な効果が認められないという報告もある。


造血作用

葉酸は赤血球形成に必須であり、その欠乏は巨赤芽球性貧血を引き起こす。巨赤芽球性貧血ではDNA合成障害により赤血球前駆体が成熟できず、巨大で機能不全の赤血球が増加する。葉酸補給はそのような貧血を改善するため、循環器系への間接的な負担軽減につながる。この造血作用は特に妊婦や慢性疾患患者、高齢者などで重要である。


賢い「活用術」3選

葉酸を日常生活で効果的に活用するためのポイントは以下の通りである。

1. 「生」または「蒸し」調理

葉酸は水溶性で熱に弱いため、長時間加熱調理により損失しやすい。葉物野菜や豆類は生食または短時間の蒸し調理が推奨される。サラダやスムージーなど生食の形で摂取することで、食材中の葉酸の損失を最小化できる。ただし消化器症状がある場合は生食に注意する。

2. ビタミンB12とのセット摂取

葉酸はビタミンB12と共にホモシステイン代謝に関与する。B12欠乏では葉酸単独補給が症状を改善しないどころか、B12欠乏を隠蔽する可能性があるため、ビタミンB12との併用摂取が理論的に望ましい。 特に高齢者や菜食者でB12欠乏リスクが高い場合は注意が必要である。

3. おやつに「枝豆」や「イチゴ」

葉酸を含む食品としては、緑葉野菜(ほうれん草、ブロッコリー)、豆類(特に枝豆)、果物(イチゴ、柑橘類)などが挙げられる。おやつや間食として枝豆やイチゴを取り入れることで、塩分や添加物の多いスナックを避けつつ葉酸摂取を増やすことができる。


不足しやすい人の特徴

葉酸不足は誰にでも起こり得るが、以下のような人々でリスクが高い。

お酒好き

大量飲酒は葉酸吸収の阻害と肝機能障害を通じて葉酸の体内利用効率を低下させる。また、アルコールはホモシステイン代謝にも悪影響を与える可能性があるため、慢性的な飲酒者での葉酸状態のモニタリングが推奨される。

高齢者

加齢に伴う消化機能低下や薬物相互作用(例:メトトレキサートなど葉酸代謝に影響を与える薬剤)が原因で葉酸不足を起こしやすい。高齢者は特にビタミンB群全体の不足が増加するため、総合的な栄養評価が重要である。


サプリメントでの補給も有効

食品からの摂取が不十分な場合、葉酸サプリメントの利用は有効な補助手段である。 一日当たりの葉酸推奨量は成人で約400 µg(妊婦では600 µg程度)が一般的だが、投与量や必要性は個人差があるため、医療専門家との相談が必要である。研究では高用量葉酸補給(例:5 mg/日)が内皮機能に良い影響を与える可能性が報告されているが、必ずしも全例で心血管イベントを減少させるという確実なエビデンスはない。これらは大規模メタアナリシスでも意見が分かれるところであり、対象集団やベースラインの葉酸状態によって結果が異なる可能性がある。


今後の展望

葉酸の循環器健康への寄与については継続的な研究が進行中である。今後の課題としては、葉酸補給がどの集団に対して最大の利益をもたらすか、最適な投与量はどの程度か、及び他の栄養素との組み合わせ効果(例:ビタミンB12、B6との併用)を明らかにすることである。また、遺伝的背景(例:MTHFR遺伝子多型)による葉酸代謝の個人差が循環器リスクに与える影響についても精査が進むべきである。さらに、長期的な臨床アウトカム研究とメカニズム解明が必要である。


まとめ

葉酸(ビタミンB9)は、体内の一炭素代謝に不可欠な水溶性ビタミンであり、ホモシステイン代謝や血管内皮機能に関与する。その結果として、動脈硬化や脳卒中リスク低減に寄与する可能性が示されているが、心血管全体の予防効果については研究により結果が異なる。葉酸を含む食品の摂取や適度なサプリメント補給、併用栄養素の調整(ビタミンB12等)は循環器健康の維持に資する可能性がある。ただし、過剰摂取や個別状態による反応には注意が必要である。


参考・引用リスト

  1. Folate improves endothelial function in patients with coronary heart disease — PubMed (2003).

  2. Folate, homocysteine, endothelial function and cardiovascular disease — PubMed (2004).

  3. Efficacy of folic acid supplementation in the prevention of cardiovascular disease — BMC Nutrition (2025).

  4. Folic Acid Supplementation and the Risk of Cardiovascular Diseases: Meta-Analysis — PubMed (2016).

  5. Effect of Folic Acid Supplementation on Cardiovascular Outcomes: Meta-Analysis — PMC (2009).

  6. Effect of folic acid and antioxidant vitamins on endothelial dysfunction — PubMed (1996).

  7. 葉酸不足の方は動脈硬化に注意! — 健康情報(日本語).

  8. ビタミンB群不足による高ホモシステイン血症のリスク — 大塚製薬.


追記:気になる血管症状の分析

――「しびれ」「冷え」は何を意味するのか

血管の不調は、必ずしも急性の心筋梗塞や脳卒中のような形で現れるわけではない。多くの場合、その前段階として末梢循環障害や神経機能低下として自覚症状が出現する。特に代表的なのが「しびれ」「冷え」「だるさ」「感覚鈍麻」である。

1. 手足のしびれ

手足のしびれは神経障害と誤認されやすいが、実際には血流低下による神経栄養不足が背景にあることが多い。神経細胞は酸素とブドウ糖を大量に消費するため、毛細血管レベルでの血流低下が続くと、伝導速度が低下し、しびれや違和感として知覚される。

高ホモシステイン血症では、
・血管内皮障害
・微小血栓形成
・毛細血管循環不全
が起こりやすく、末梢神経への酸素供給が低下する。その結果、しびれが慢性化する可能性がある。

2. 冷え

冷えは体温の問題ではなく、血管の拡張・収縮機能の低下が本質である。特に内皮由来一酸化窒素(NO)の産生低下は、末梢血管の拡張不全を招く。葉酸はNOの利用効率を高めることで血管拡張を助けるとされ、冷え症状の背景因子に間接的に関与する。

3. 朝のこわばり・重だるさ

血管内皮機能が低下すると、夜間の血流調整がうまくいかず、朝に末梢循環が回復しにくくなる。これが「朝の手足の重さ」「だるさ」として現れる。これは動脈硬化の初期段階で見られることもあり、軽視すべきではない。


具体的な食材選び

――「葉酸だけ」では血管は守れない

葉酸は重要な栄養素だが、血管健康は単一栄養素で完結しない。以下では、血管保護を目的とした食材選びを、機能別に整理する。

1. 葉酸供給源としての食材

葉酸を効率よく摂取するには、加工度の低い植物性食品が中心となる。

・緑葉野菜:ほうれん草、春菊、ブロッコリー、ケール
・豆類:枝豆、レンズ豆、ひよこ豆
・果物:イチゴ、アボカド、オレンジ

特に枝豆は、葉酸に加えてマグネシウム、食物繊維も豊富であり、血管拡張と腸内環境改善の両面から有益である。

2. 葉酸を「働かせる」ための補助食材

葉酸は単独では十分に機能しない。以下の栄養素が揃って初めて、ホモシステイン代謝が円滑になる。

ビタミンB12

・魚介類:サバ、イワシ、アサリ
・動物性食品:卵、乳製品

B12不足下では、葉酸補給がかえって代謝異常を覆い隠す可能性があるため注意が必要である。

ビタミンB6

・バナナ
・鶏むね肉
・玄米

B6はホモシステインをシステインへ変換する経路で必須であり、B9・B12と三位一体で機能する。

3. 血管内皮を守る抗酸化食材

内皮障害の大きな原因は酸化ストレスである。

・ポリフェノール:緑茶、ブルーベリー、カカオ
・ビタミンC:キウイ、パプリカ、柑橘類
・ビタミンE:ナッツ類、アボカド

これらは葉酸の血管保護作用を増幅させる補助因子として機能する。


血管を強くするために必要なこと

――栄養・生活・構造の三層モデル

血管を「強くする」とは、単に詰まりを防ぐことではない。以下の三層構造で考える必要がある。


第1層:栄養学的基盤

血管は内皮細胞、平滑筋細胞、結合組織から構成される。これらの再生と修復には、以下が不可欠である。

・葉酸:DNA合成、内皮修復
・タンパク質:血管壁構成素材
・ミネラル(Mg、Zn):酵素活性維持

極端な糖質制限や低タンパク食は、血管再生能力を低下させる可能性がある。


第2層:代謝・循環調節

血管の強さは、血流の「使われ方」で決まる。

・適度な有酸素運動
・長時間座位の回避
・呼吸を伴う軽運動

血流刺激はNO産生を促進し、葉酸の内皮改善効果を引き出す。


第3層:炎症と毒素管理

血管老化の最大要因は慢性炎症である。

・過剰飲酒
・喫煙
・超加工食品

これらはホモシステイン上昇、酸化ストレス増大を通じて葉酸の作用を相殺する。葉酸を摂っても生活因子が悪ければ効果は限定的となる。


総合整理:葉酸を「血管防御システム」に組み込む

葉酸は単なるサプリメント成分ではなく、
・ホモシステイン制御
・内皮機能維持
・末梢循環改善
という複数の役割を担う「基盤因子」である。

しかし、それは
適切な食材選び
B群ビタミンとの協調
血流を使う生活習慣
があって初めて十分に発揮される。

しびれや冷えといった軽微な症状は、血管が発する初期警告である。それを無視せず、栄養と生活の両面から修正を加えることが、将来的な重大血管イベントの予防につながる。

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