コラム:空き家問題 その現状・課題・対策・展望
日本の空き家問題は、人口減少や都市集中といった社会構造の変化が背景にあり、今後も拡大が予想される。
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はじめに
近年、日本では「空き家問題」が深刻化している。総務省統計局の「住宅・土地統計調査」によると、2018年時点で全国の住宅のうち約13.6%にあたる846万戸が空き家とされ、過去最高を更新した。これはおよそ7軒に1軒が空き家である計算となる。少子高齢化、都市への人口集中、地方の過疎化といった構造的な問題が背景にあり、今後も増加が見込まれている。
空き家の増加は、防災・治安・景観・衛生・経済など多方面に悪影響を及ぼすため、国家的な課題とされている。以下では、その問題点、発生の経緯、現状の課題、これまでの対策、そして将来的な展望について整理する。
空き家問題の背景と経緯
1. 少子高齢化と人口減少
日本は急速な少子高齢化と人口減少を経験している。特に地方では若者が都市部へ流出し、高齢者が亡くなると家が空き家として残されるケースが増えている。子世代が都市で生活基盤を築いている場合、故郷の住宅を相続しても使い道がなく、維持管理が難しいため空き家となる。
2. 高度経済成長期の住宅供給過剰
1960~70年代にかけて都市部を中心に大量の住宅供給が行われた。その結果、老朽化した住宅ストックが数多く存在し、住み替えによって古い住宅が放置され、空き家化する傾向が生まれた。
3. 固定資産税制度の影響
固定資産税は更地の方が住宅付き土地よりも税額が高くなるため、空き家を取り壊さずに放置するインセンティブが生じている。この制度的要因も空き家増加を後押ししている。
4. 相続問題の複雑化
所有者が亡くなった場合、相続人が複数いると管理責任が不明確になりやすい。遺産分割協議がまとまらず、結果的に誰も使わないまま空き家が放置される例が少なくない。
空き家がもたらす問題点
1. 防災上のリスク
老朽化した空き家は地震や台風など自然災害時に倒壊の危険性が高い。また、瓦や外壁の落下による二次被害も懸念される。
2. 防犯・治安悪化
空き家は不法侵入や犯罪の温床になりやすい。放火、違法投棄、薬物使用などが行われるケースが報告されている。
3. 景観・衛生の悪化
雑草や害虫・害獣の発生源となり、地域環境や景観を著しく損ねる。周辺住民の生活環境や不動産価値にも悪影響を与える。
4. 経済的損失
空き家は資産価値が低下するだけでなく、地域全体の地価や税収にも悪影響を及ぼす。さらに、空き家を適切に管理・解体・活用するコストが行政や所有者に重くのしかかる。
5. 社会的な負担
空き家は地域コミュニティの空洞化を象徴する存在であり、地域活性化の妨げとなる。特に過疎地域では空き家の増加が「限界集落化」を加速させている。
現状の課題
1. 所有者不明土地問題
不動産登記が適切に行われていない場合、所有者が不明となり、行政が対応できないケースが多い。この「所有者不明土地問題」は空き家の利活用や解体を阻む大きな要因である。
2. 管理不全の空き家の増加
空き家のすべてが問題ではなく、実際に危険性や悪影響が高いのは「管理不全の空き家」である。しかし所有者に管理を促しても実効性が乏しいのが現状である。
3. 活用の難しさ
古い住宅は耐震性・断熱性などの面で現代の基準を満たさないことが多い。そのためリフォームに高額な費用がかかり、利活用が進まない。
4. 都市と地方の格差
都市部ではシェアハウスや賃貸住宅などへの活用が比較的進む一方、地方の過疎地域では需要そのものが乏しく、解体しか選択肢がない場合が多い。
行政と社会の対策
1. 空き家対策特別措置法(2015年施行)
危険な空き家を「特定空家等」として指定し、行政が指導・勧告・命令・代執行できるようにした。これにより放置空き家の除却が一定程度進んだ。
2. 補助金・税制優遇
空き家の解体やリフォームに対して自治体が補助金を交付する制度が広がっている。また、固定資産税の特例見直しなど、解体を促す税制改正も検討されている。
3. 空き家バンク
自治体が運営する「空き家バンク」を通じて、空き家の売買・賃貸を仲介する仕組みが広がっている。移住希望者や二地域居住者とのマッチングが進められている。
4. 民間の取り組み
不動産業界やNPOが空き家のリノベーションを行い、ゲストハウスやカフェ、地域交流拠点として活用する事例が増えている。
5. デジタル技術の活用
ドローンやAIを活用して空き家を調査・監視する取り組みも始まっている。これにより行政コストの削減や効率的な管理が期待される。
今後の展望
1. 空き家活用の多様化
少子高齢化が進む中、空き家を高齢者住宅、子育て世帯向け住宅、地域交流拠点、テレワーク拠点などに転用する動きが期待される。
2. 移住・二地域居住の促進
コロナ禍を契機にリモートワークが普及したことで、都市部から地方への移住や二拠点生活が注目されている。空き家を安価で提供することで地方活性化につなげる可能性がある。
3. 不動産制度改革
所有者不明土地問題への対応として、不動産登記の義務化や相続登記簡素化の制度改革が進められている。これにより空き家の所有者特定が容易になり、利活用が促進されると期待される。
4. コミュニティ再生との連動
空き家問題は単なる住宅問題ではなく、地域社会の再生と密接に関わる。空き家を地域資源と捉え直し、まちづくりや地域経済と連動させる視点が重要である。
5. 環境・SDGsとの接続
解体による廃材の再利用やリノベーションの推進は、循環型社会の形成やSDGs達成にも貢献する。空き家問題は環境政策とも連動し得る。
結論
日本の空き家問題は、人口減少や都市集中といった社会構造の変化が背景にあり、今後も拡大が予想される。放置された空き家は防災・防犯・景観・経済・地域社会などに深刻な影響を与えるため、早急かつ総合的な対応が求められる。これまでの「特定空家等」への対応に加え、空き家を資源として捉え直し、活用へとつなげる発想の転換が必要である。行政、民間、地域住民が連携し、法制度改革やデジタル技術を活用することで、空き家問題を地域再生の契機へと変える可能性がある。
空き家問題は「負の遺産」であると同時に、新たなまちづくりや地域活性化の「潜在的資源」でもある。今後の取り組み次第で、日本社会が直面する課題を持続可能な未来への一歩に転換できるだろう。