コラム:米国によるイランへの軍事侵攻、可能性は?
全面侵攻は現実性が低い。地理的、政治的、国際的な制約が大きい。
.jpg)
現状(2026年2月時点)
2026年現在、米国とイランの関係は急速に緊迫化している。2025年には中東での軍事的緊張が高まり、特に核開発問題を巡る両国の対立が深刻化したことが顕在化している。米国のトランプ政権(第2期)下で、米軍は中東地域へ空母打撃群や戦略軍力を増強しており、攻撃準備が進行しているとの報道がある。米軍は攻撃が必要になった場合に備え、複数の選択肢を検討・展開している状況である。
一方、イラン側では核開発協議がスイス・ジュネーブで継続され、双方が進展を評価する声もあるが、詳細条件に関しては依然として多くの溝が残されている。国際的な圧力や地域情勢の変化、イスラエルとの緊張関係も米国の意思決定に影響を及ぼしている。
米軍・政治的環境
米国内の政治環境も対イラン政策に影響を与えている。世論調査によると、大多数の米国民が他国への軍事介入に議会承認が必要と考えており、イランに対する軍事行動に対する支持は限定的であるとのデータがある。軍事介入支持率が低く、議会承認の必要性を求める声が強いことが報じられている。
米軍によるイランへの軍事侵攻が現実になる可能性
「米軍による全面的な軍事侵攻(地上戦含む)」が現実の可能性としてどの程度あるのかを分析するには、複数の要素を統合する必要がある。以下に重要な論点を整理する。
限定的な軍事衝突(空爆やミサイル攻撃)の可能性
まず現実性が高いのは、限定的な軍事攻撃(Limited Strike)である。
核・軍事的抑止の観点
米政府はイランの核関連施設への攻撃や軍事拠点へのピンポイント攻撃といった限定的な空爆・ミサイル攻撃を選択肢として検討している可能性が高い。専門家や予測市場では、2026年前半に米国がイランに対する軍事的打撃を加える確率が高いとの意見も存在する。
米軍の展開については、空母を含む打撃群の増強や戦闘機の配備が進んでおり、 短期間の攻撃能力は確保されている。このような準備は、完全な地上侵攻よりも限定的な空爆・巡航ミサイル攻撃などの実施に焦点を置いていると評価できる。
報復・エスカレーション抑止
米国が限定攻撃を選択する場合、イランおよび同盟勢力からの報復や地域的なエスカレーションが懸念される。そのため、限定的攻撃であっても周到な計画と同時に抑止措置が不可欠であり、米政府が慎重にリスク評価を行っている可能性は高い。
経済面と国際影響
限定攻撃が現実味を帯びる背景には、イラン核問題が中東の原油供給や世界経済に重大な影響を与える可能性があるという認識がある。実際、原油市場が米国の軍事行動観測によって反応していることが報じられている。
軍事侵攻の可能性が低い理由
対して、全面的な軍事侵攻(地上軍投入含む)の可能性は比較的低いと分析される。
① 物理的・地理的困難
イランは広大な国土を有し、防空・戦術兵器の配備も進んでいる。地上戦や全面侵攻は、巨大な兵力と長期的な軍事作戦を必要とし、米国軍が単独でこれを遂行するには困難が多い。戦略的にも、全面侵攻は容易ではない。
② 米国の政治的制約
米国国内では、議会承認を重視する世論が強い。最新の世論では、大統領による単独の軍事行動に対して制約を求める声が多数を占めていることが示されている。議会や世論の反発が大規模な軍事侵攻を阻む重要な制約となる。
③ 地域的エスカレーションのリスク
全面戦争は地域全体への波及リスクを高める。イランの同盟勢力や武装集団が反撃し、周辺地域での戦闘が拡大する恐れがあることから慎重論が優勢である。
④ 国際的反発・国連の役割
全面侵攻は国際法や国際的な合意に対する重大な挑戦であり、米国自身が国際世論や同盟諸国の支持を得られない可能性がある。多国籍軍としての参画が確保されない限り、単独侵攻は政治的にも戦略的にも困難である。
「限定的攻撃(Limited Strike)」が現実味を帯びる背景
限定的攻撃が検討される背景には次のような要因がある。
① 核開発の「ブレークアウト・タイム」
イランの核開発は長らく国際社会の懸念事項であり、核兵器保有の可能性が高まるほど、米国や同盟国は軍事的選択肢を検討する圧力が高くなる。核開発の進展が「許容限界」に達したと判断されれば、限定攻撃が選択される可能性がある。
② 政権の不安定化
国内の抗議運動や経済的困難がイラン国内で進行しており、体制の不安定化が戦略的に米国の外交政策に影響を与える可能性がある。米国が限定攻撃を選択する際、こうした内政状況が判断材料となる可能性がある。
③ トランプ政権の圧力と交渉の行き詰まり
トランプ政権は核協議と同時に軍事的圧力を強化している。外交交渉が行き詰まる場合、限定攻撃が切迫した選択肢として浮上する状況が存在する。
軍事的な動き
米軍の集結
米空母打撃群や戦闘機群、空中給油機などが中東周辺に展開されているとの報道があり、 米軍は遠隔攻撃能力を高めるための展開を進めている。限定的攻撃が想定される場合、こうしたプレゼンスは即応性を高める。
イスラエルの動向
イスラエルはイランに対して警戒感を強めており、自国での攻撃や協調攻撃を議論していると伝えられている。米国とイスラエルが協調する戦略の可能性も進行している。
想定されるシナリオ
核関連施設への限定空爆
米軍は航空・ミサイル攻撃でイランの核関連施設を標的にする。短期で成果を上げることを目標とする。防空施設・指揮通信網への攻撃
戦略的価値の高いインフラを壊滅させることで、報復能力を制限・抑止する。エスカレーションを抑える限定行動
限定攻撃を実施した後、外交交渉や国際圧力を継続し、全面戦争への発展を防ぐ。外交妥結への回帰
最終的には核協議の再開や第三者仲介によって大規模な戦火を回避する。
今後の展望
今後の展開としては、軍事と外交が並行して進む可能性が高い。外交協議が進展すれば、限定攻撃は回避される可能性もある。米国世論や国際社会の動向は依然として重要な決定要因である。
現時点では、全面的な米軍の侵攻は低確率である一方、限定的な軍事攻撃が現実味を帯びつつあると評価できる。
まとめ
全面侵攻は現実性が低い。地理的、政治的、国際的な制約が大きい。
限定的攻撃は現実味を帯びる。軍事的展開と外交交渉が並行して進む状況である。
米国内政治や国際世論が判断に影響する。世論は大規模介入に否定的傾向。
地域のエスカレーションリスクは高い。限定攻撃でも報復・拡大は警戒が必要。
参考・引用リスト
・米国内世論と議会承認:トランプ大統領の軍事行使に関する世論調査(ジェトロ報告)
・米・イラン核協議の進展と軍事衝突の可能性
・原油市場反応(観測での米国攻撃近いとの見方)
・米軍展開と紛争リスクの高まり
・予測市場での対イラン攻撃確率
追記:第2次トランプ政権の狙い
第2次トランプ政権の対イラン政策を理解するうえで鍵となるのは、「抑止の再構築」と「力による交渉環境の創出」という二層構造である。トランプ政権は第1期から一貫して、経済制裁・軍事的圧力・外交交渉を組み合わせた「最大圧力戦略」を採用してきた。再任期においても、その基本思想に大きな変化は見られない。
戦略的に見れば、米国の狙いは単純な軍事勝利ではない。むしろ、
核武装の阻止
イランの地域影響力の制限
抑止力の信頼性回復
同盟国(特にイスラエル・湾岸諸国)への安全保障保証
といった複数の目的を同時に達成しようとする複合的政策である。
特に重要なのは「交渉で譲歩を引き出すための軍事的圧力」という発想である。軍事行動は目的そのものではなく、外交成果を得るための手段として位置付けられている可能性が高い。
体制を揺さぶるための外科手術的な攻撃
米国が検討し得る「外科手術的攻撃」とは、限定的・精密・短期間の軍事行動を指す。典型的には以下が想定される。
核関連施設への精密攻撃
防空網・指揮通信網への破壊
革命防衛隊関連施設への攻撃
ミサイル拠点・無人機基地の無力化
この種の攻撃の狙いは、全面戦争ではなく「能力低下」と「心理的圧力」にある。
なぜ限定攻撃が選好されるのか
全面侵攻と比較して限定攻撃が現実的と見なされる理由は明確である。
① 政治的コストが低い
② 国際的正当化が比較的容易
③ 作戦リスクが制御可能
④ エスカレーション管理が可能
外科手術的攻撃は、政権転覆を直接目的とするのではなく、「体制の計算を変えさせる」ことを重視する。核開発継続のコストを引き上げ、指導部のリスク認識を変化させる効果が狙われる。
体制揺さぶり戦略
限定攻撃には軍事的効果に加え、政治心理的効果が重視される。
指導部の権威失墜
国内不満の増幅
軍内部の緊張
抑止の再設定
ただし、この戦略は常に逆効果リスクを伴う。外部攻撃はしばしば国内結束を強化し、体制安定化に寄与する場合がある。
「核武装の阻止」と「イランの影響力低下」
米国にとってイラン核問題は単なる軍備管理問題ではない。核武装は以下の構造的変化をもたらす。
地域抑止バランスの崩壊
核拡散連鎖(サウジ・トルコ等)
イスラエル安全保障への直接的脅威
米軍プレゼンスへの制約
核武装阻止は安全保障政策の最優先課題の一つである。
地域影響力低下の狙い
イランは長年にわたり、非対称戦略を通じて地域影響力を拡大してきた。
レバノン
シリア
イラク
イエメン
米国の戦略目標は、イラン国家そのものの破壊ではなく、「影響力投射能力の制限」にある。
限定攻撃が採用される場合、狙いはしばしば次の二点に集中する。
① 核能力の遅延
② 革命防衛隊・代理勢力の軍事能力低下
生存をかけた反撃
イランの安全保障ドクトリンは「非対称抑止」に基づく。
弾道ミサイル戦力
無人機戦力
代理武装勢力
海上非対称戦力
全面戦争で米国に勝利することは困難であるが、コストを極端に引き上げる能力は保持している。
想定される反撃手段
限定攻撃に対するイランの反応は、次の形態が想定される。
① ミサイル・ドローン攻撃
② 在中東米軍基地への攻撃
③ 代理勢力による地域攻撃
④ 海上妨害作戦
重要なのは、「直接戦争回避と報復のバランス」である。イランは全面戦争を避けつつ抑止信頼性を維持しようとする。
国内政治的要因
外部攻撃はイラン国内で強い政治的圧力を生む。
報復要求の高まり
政権の正統性維持
軍・革命防衛隊の役割強化
結果として、限定攻撃であっても反撃はほぼ不可避と分析される。
ホルムズ海峡の封鎖
ホルムズ海峡は世界エネルギー輸送の要衝である。
世界原油輸送の相当部分
LNG輸送の重要ルート
市場心理への即時影響
封鎖は軍事行動以上に経済的衝撃を持つ。
イランの能力と制約
イランは完全封鎖よりも、
部分的妨害
機雷敷設
高速艇戦術
対艦ミサイル
といった「限定的海上不安定化」を行う可能性が高い。
完全封鎖は自国経済にも深刻な損害を与えるため、実行ハードルは高い。
市場・軍事反応
ホルムズ危機は直ちに次を誘発する。
原油価格急騰
多国籍海軍展開
強制航行作戦
地域軍事緊張の急拡大
地域紛争の拡大
イランの最も有効な戦略は、戦場の拡散である。
イスラエル
レバノン
シリア・イラク
紅海・アラビア海
紛争は国家間戦争から「地域的低強度戦争網」へ変質する。
同盟国巻き込みリスク
限定攻撃でも以下の連鎖が発生し得る。
① イスラエル・ヒズボラ衝突拡大
② 湾岸諸国施設への攻撃
③ 米軍基地攻撃
④ エネルギーインフラ危機
エスカレーション管理の困難性
最大の問題は「誤算リスク」である。
限定攻撃の意図誤認
報復規模の拡大
抑止失敗
政治的圧力の暴走
戦略的合理性が維持されても、偶発的拡大は常に発生し得る。
総合評価
米国の限定攻撃戦略は次の計算に基づく。
核武装阻止の優先性
軍事優位の活用
政治的コスト抑制
抑止信頼性回復
イラン側合理性
イランの反撃計算は次に依存する。
体制存続
抑止維持
国内正統性
非対称優位活用
最も現実的な帰結
最も蓋然性が高いのは、
「限定攻撃 → 限定報復 → 緊張継続 → 外交再開」
という管理された不安定状態である。
全面戦争は双方にとって極めて高コストであり、戦略的には回避インセンティブが強い。ただし、限定衝突の連鎖的拡大リスクは常に残存する。
追記まとめ
・外科手術的攻撃は軍事的合理性を持つ
・しかし政治的・心理的副作用が大きい
・イランの反撃は抑止論理上不可避に近い
・ホルムズ危機は最大のシステミックリスク
・地域紛争拡大は構造的に発生しやすい
最終的に重要なのは、軍事ではなくエスカレーション管理能力である。現代の米・イラン対立は「戦争か平和か」ではなく、「どの水準の不安定を管理できるか」という問題へと移行していると言える。
