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コラム:分断進む米国、内戦に発展する恐れ?検証してみた

分断・暴力傾向が進めば、いくぶんの「内部衝突」「政治的不安」「暴動」「武装衝突」の局地的発生は想定されるが、全面的な内戦状態(国家が割れる/複数の武装勢力が互いに国土を巡って戦う状態)になるというのはかなりハードルが高い。
2025年1月20日/米ワシントンDC、トランプ大統領の就任式(Getty Images/AFP通信)

米国における政治的分断は複数の要因が重なって進行してきた。右派・左派という呼び方は単純化だが、共和党を中核とする保守系/伝統主義・自由主義制限派、そして民主党を中核とするリベラル/進歩主義派という構図が、文化・価値・政策・アイデンティティの面での対立を強めてきている。

以下、主要な経緯・背景を挙げる。

  1. イデオロギーの分極化と政策分野での対立の深まり

    • 20世紀後半から、特に1990年代以降、共和党と民主党の議員同士の政策・理念的な距離が拡大してきており、議会内での妥協や超党派協調の事例が減少している。公衆衛生、銃規制、移民政策、LGBTQの権利、人種・民族問題など、文化政策・社会問題での対立が錘(おもり)になっている。

    • 一方で有権者の中には政策的には重なる部分もあるという研究もあり、「実は皆が極端ではないが、対立を前面に出すリーダーやメディアがそれを強調する」という指摘がされている。例えば、有権者の政策選好には重なりがあるが、エリートや活動家/メディアなどが文化・価値の違いをセンセーショナルに取り上げて煽ることで、世論感情が強まっている。

  2. メディア・情報環境の変化

    • ケーブルテレビ/ラジオ・トークショー、そしてインターネット・ソーシャルメディアの普及により、人々が主に自分と似た価値観・意見の人たちから情報を得る「フィルターバブル」ないし「エコーチェンバー」現象が拡大。異なる立場の意見や反論に接する機会が減ることで、対立が固定化しやすくなっている。

    • ソーシャルメディア上での誤情報・陰謀論の拡散も鍵となっており、「選挙が不正にされた」「政府やメディアが隠している」などの主張が支持者に不信感/怒りを喚起している。

  3. 社会・経済的不平等、アイデンティティ政治

    • 所得格差・教育格差・人種・民族・宗教などの差異が拡大し、それが政治的/文化的アイデンティティと結びついてきている。自分の属する集団が「他者」との対立軸になることが、分断を深める。例えば白人・非白人間の分断、移民/少数民族の扱い、ジェンダー・宗教など。

    • 地域間の格差も大きい。都市部vs農村部、州ごとの経済基盤・文化の違いなどが、政治態度・投票傾向の違いとして固定する。保守派が強い地域、進歩派が強い地域が物理的にも文化的にも分かれ、「他側」の存在が遠く感じられる構造がある。

  4. 政治制度の変化と制度への信頼低下

    • 選挙制度・立法手続き・司法・行政などに対する信頼が減ってきており、特に共和党支持者の「2020年大統領選挙は盗まれた」という主張や、それに続く2021年の議会議事堂襲撃事件などが象徴的である。

    • 制度が偏向している/中立でないという認識(たとえば選挙区割り、公正な投票アクセス、言論自由・報道のバイアスなど)への懸念が、制度疲労/制度拒否の動きにつながる。

  5. 暴力・過激主義の増加傾向

    • 極右・極左両方の過激主義グループの動きが、オンライン・オフラインで目立つようになってきている。銃器所有率が高く、「民兵運動」などの非公式武装組織、政治的暴力や威嚇が過去よりも頻繁に報じられている。

    • また、警察や治安機関の政治的中立性への疑問、治安機関が特定の支持者層を優遇/敵視するとの見方があることも、不信を拡げている。

  6. SNS/世論の拡散と恐怖・予期感

    • 上記の分断・暴力傾向を背景に、SNSやポッドキャスト・ブログなどで「米国内戦が近い」「暴動・武装衝突が起こる」「共和党vs民主党で武装した支持者が戦う」といったシナリオを描く発言が増えている。こうした言説は恐怖を喚起し、過激派の動きを刺激することもある。

    • 世論調査にも、「今後数年で内戦が起きる可能性が高いと思う人」「内戦が必要だと思う人」が一定の割合存在するが、その割合は少数派であり、また大多数は内戦を望んでいないという結果が出ている。たとえば、調査では「今後数年で内戦が起こると思う」は 6~7%、「内戦が必要と思う」は 3~4%程度というデータがある。

問題点(リスク・懸念点)

上記の背景が進む中で、以下のような問題点・リスクが指摘されている。これらが組み合わさることで、内戦のような極端な状態に至る可能性を高めるという懸念の根拠となっている。

  1. 暴力の拡散の常態化

    • 暴力や威嚇が選挙プロセス・言論空間・デモ行動などと結びつき、単発の事件ではなく反復的な耐え難い状況になる。治安維持機関・司法が中立性を保てないと見なされれば、武力での応酬を選択する動きが強まる。

    • 銃器所有が広く、銃規制が州ごと・連邦で大きく異なる米国の特徴のため、武装化の容易さが暴力拡大を可能にする。特に過去に銃を購入したり所有している人々が、政治的不満と結びつけられると、非常に危険である。

  2. 制度と民主主義の正統性の侵食

    • 選挙結果・司法判断・報道機関などへの信頼が失われると、「制度の枠内では自分たちは認められない」「制度が敵対勢力によって不公正に動いている」という感覚が広がる。そうなると、制度外の手段(抗議、暴動、最悪の場合武力行使)を正当化する言説が支持を集めやすくなる。

    • 制度が分裂に対応できない構造であること。たとえば州政府の権限の強さ、連邦制度の中で州ごとの法執行や選挙管理の差異などが、分裂を助長する要因となる。

  3. 情報空間の分断と誤情報・陰謀論の拡散

    • 真偽の不確かな情報(フェイクニュース、陰謀論など)が対立を煽る。選挙不正をめぐる主張や、移民・人種・ジェンダーなど敏感な文化問題での誤情報が群衆心理・恐怖感を増幅する。

    • メディアやSNSプラットフォームの設計がセンセーショナルさ、過激発言・誹謗中傷を拡散するものに偏っており、対話を可能とする空間が縮小している。

  4. 社会の分裂が友人・家族・地域レベルにも及ぶ

    • 政治的立場の違いが社会関係(家庭・隣人関係・教会・職場等)を分断するケースが増えており、「自分と政治が違う者は敵だ」という感覚が育つ。こうした感情の拡大は、暴力的対立が起こる際のハードルを下げる。

  5. 過激組織・民兵勢力の存在および拡大

    • 民兵運動、武装保守派のグループ、白人至上主義グループ、クリスチャン・ナショナリストなど、明確に暴力や武装を支持または容認する団体が活動を拡大しており、対立が武器を伴うものとなる可能性を持っている。

    • 州警察・連邦捜査機関との境界、治安維持機関がどちら側を支持するか、あるいは中立でいられるかという疑念が、暴力の正当性を支持する論理を助長する。

  6. 選挙後混乱(ポストエレクションの危機)

    • 大統領選挙、議会選挙などにおいて、結果を相手側が「不正だ」と疑うケースが繰り返されており、その際の暴動・抗議・法廷闘争がエスカレートする恐れがある。

    • 既に2020年の選挙後、民主党への移行の際に議会議事堂襲撃事件という暴力的抵抗があった。こうした前例が、将来の選挙後も似たような行動がとられる可能性を人々に想像させている。

  7. 分断が深化する中での負のフィードバック・悪循環

    • 政治指導者やメディアが対立を煽ることで、支持者が対立的な態度をとる傾向を強める。

    • 支持層が対立を求める傾向を持つと、政治家にも過激化するインセンティブが生じる。妥協・中道的立場が支持されにくくなることで、政治システム全体が硬直化する。


対策・緩和策

内戦のような最悪のシナリオを避けるために、学者・政策専門家・世論調査などが提案する対策を以下にまとめる。

  1. 制度の改善・透明性の向上

    • 選挙制度の信頼性を高める。投票管理・集計プロセスの透明性、選挙区割りの見直し、不正行為疑義に対する迅速・公正な司法対応など。

    • 政府機関・司法・報道機関などへの信頼を再構築するため、説明責任 を強化し、公正性を示すためのチェック機能を働かせる。

  2. 対話促進・共通基盤の発掘

    • 政治的に異なる立場の人たちが参加する場(学校・地域コミュニティ・教会・市民団体など)での対話を促進し、共通の政策課題(例えばインフラ整備・公共健康・教育・雇用など)での協力可能性を探る。

    • 民話やストーリーを通じて「相手も人である」という認識を強める。感情的な敵意を和らげるため。

  3. メディア・情報プラットフォームの責任

    • ソーシャルメディア企業やニュースメディアが情報の正確性・偏りをチェックする仕組みを強化する。フェイクニュースや陰謀論を減らすためのファクトチェック、透明性、責任ある報道規範の遵守など。

    • アルゴリズム設計の改善:異なる立場の意見に接する機会を持たせるような設計、センセーショナルではなく質の高い議論を促すインセンティブを持たせるなど。

  4. 教育・市民教養の強化

    • 批判的思考力、メディア・リテラシー、歴史教育などを学校教育や市民教育で強化することで、誤情報や過激な言説に流されにくい土壌を作る。

    • 政治参加の方法を多様化・簡易化することで、人々が制度の内側で発言・行動できる機会を確保する。

  5. 経済格差や社会不満への対応

    • 所得格差・雇用機会・地域経済の落差・公共サービスの不平等などを是正する政策。社会経済的な不満が、政治的不満や敵意と結びつくことが非常に大きいため、貧困・教育・医療などの基盤を改善する。

    • 再分配政策・公共投資・地方振興などを通じて、地方部や経済的に取り残されてきた集団の包摂を図る。

  6. 暴力の未然防止・法執行体制の強化

    • 過激主義・民兵組織などの監視と抑制。治安機関や司法機関が法に基づいて公平に行動し、武装集団の違法行動に対する法執行を徹底する。

    • 銃規制政策の見直し、所有ライセンス・保管規定・銃購入時の背景調査の強化など。銃が政治暴力の道具となることを防ぐ。

  7. 政治指導者・公人の責任ある発言

    • 指導者や政治家が極端な言辞を用いるのではなく、分断を深める発言を慎み、対話・和解を呼びかける役割を果たす。

    • 選挙後の平和な政権交代の遵守を強く示すなど、「民主的規範」の尊重を見せること。

  8. 地域レベルでの介入

    • コミュニティ支援・地元の団体・草の根のネットワークを通じて、互いの信頼を築く。教会・非宗教のコミュニティセンターなどが中立的対話の場を提供する。

    • 地方新聞・ローカルメディアの力を強化し、対立のメッセージではなく共感・共通課題を報じる報道の促進。


実際に内戦が起きたらどうなるか:シナリオと影響

内戦(civil war)という言葉を用するからには、通常「政府機関・武装勢力・一部住民が武力を用いて国家支配・地域支配を巡って衝突する状態」が想定される。米国が実際に内戦状態になると仮定した場合に起こりうる展開・影響をシナリオを交えて考えてみる。

以下はあくまで仮定であり、多くの不確定要素があることを前提とする。


可能な引き金・発火点

まず、内戦に発展するには何かしらの「発火点」が必要である。以下のようなものが考えられる:

  • 大統領選や中間選挙での結果を巡る明確な不正疑惑が双方で強く主張され、それが選挙機関・司法機関で十分に処理されず、不正があった/認められないことを巡って支持者が暴力行動に出る。

  • 州政府・連邦政府間或いは州政府同士での法令・政策の対立が極限まで達し、連邦政府の命令を拒否する州が出てくる。これが法律(州法vs連邦法)の対立となり、治安部隊・州兵・地方警察などが「どちらに忠誠を誓うか」の分裂を起こす。

  • 民兵組織・武装保守/過激派グループが動員をかけ、地域での領域支配を試みる。銃器・武器の確保が容易な米国において、こうしたグループが州や地方で一定の影響力を持つ地域が出てくる。

  • 経済ショック(深刻な不況・物価高騰・失業の激増など)や自然災害・パンデミックなどの「他の危機」が重なり、政府の対応が不十分だと感じる住民が自衛や暴動を起こす。こうした「二次危機」が既存の分断を引き金として衝突を拡大させる可能性がある。


展開パターン

発火点があった場合、以下のような進展が起こる可能性がある。複数のシナリオが考えられるが、段階的に悪化するものを想定する。

段階内容
初期段階抗議行動・暴動の頻発。特定の都市や州で、デモ・治安部隊との衝突が起きる。公共施設・選挙管理施設への攻撃、通信インフラの妨害などが試みられる。治安維持体制に緊張が走る。
中核段階州や地方政府が中央政府の政策を無視あるいは対抗する動きを強める。州兵が動員される。民兵集団や過激派組織が地域防衛を掲げて武装化。複数州で実際に治外法権的な地域(自治的・統治が曖昧な地域)ができる。
全面戦争自衛・武装衝突が広域化。軍・治安部隊の一部が分裂する可能性。連邦軍・州兵・地方武装勢力が入り乱れ、都市・郊外・農村で戦線が発生。通信・交通・公共サービスが混乱。食料・医療・燃料など供給線が寸断。国際的な対応(難民・隣国との関係)が発生。

影響・被害

内戦が実際に起きた場合、社会・経済・政治・日常生活に及ぶ影響は甚大である。以下に主なものを列挙する。

  1. 人命と安全

    • 民間人の死傷が大量に発生。軍事力を持つ勢力による誤爆や武装衝突、人質事件などが起きる。都市部や混合住民地域での無差別攻撃の可能性。

    • 治安の崩壊:法執行機関の一部が混乱するか中立性を失い、自己防衛や私的武装グループによる「法の代替」が生まれる。

  2. 社会の崩壊・分断の深化

    • 地域ごと・州ごとに「色」がはっきりする。共和党が強い州、民主党が強い州で統治・法律・政策が二極化。州境・地方自治体の間で対立・越境規制が厳しくなる。

    • 家族・友人・職場など身近な関係でも政治的立場での分裂が深まり、コミュニティの信頼が崩れる。

  3. 経済の破綻

    • 企業活動の停滞・撤退。国内外からの投資が激減。物流・交通インフラの破壊・混乱。物価上昇・インフレ・食料・燃料の供給途絶。

    • 国際金融市場に大きなショック。ドル・米国債の信頼性低下、信用格付けの悪化、国際取引の混乱。

  4. 公共サービスとガバナンスの機能停止

    • 医療・消防・警察・公共交通・上下水道などのサービスが混乱または停止。州政府・市政府の機能に格差が生じ、地域によって「無政府」状態近くなるところも出る。

    • 選挙・司法制度が機能不全になる恐れ。法の支配が侵され、基本的人権・少数者権利が危険に晒される。

  5. 人道的危機・難民・移民

    • 国内避難民が発生。州をまたがる避難も起こる。国外へ脱出を図る人々も出る。食料・医薬品などの供給が武力衝突地域では遮断される。

    • 国際支援の必要性が高まるが、国内の分断がそれを議論・承認する能力を削ぐ。

  6. 国際的影響・安全保障

    • 他国がどう関与するかという問題。外国政府・NGOによる支援・干渉・非難が生じる。米国の外交力・軍事力の評判に傷がつく。

    • 核兵器・大規模武力の保有国であるため、核の管理・指揮系統の問題が発生すれば、核拡散リスク・事故リスク・第三国への影響も考えられる。

  7. 社会文化・精神的影響

    • 国民のトラウマ。暴力・死・分裂を経験した世代による心的外傷。社会全体の信頼・帰属意識が損なわれる。

    • 言論の自由・表現の自由が制限される圧力が強まり、検閲・プロパガンダ的報道が増える可能性。


内戦の可能性に関する限界と現実的見通し

ただし、「米国内戦」が全面的に既存の内戦モデルのように国家が二分されて武装戦闘が広範囲に及ぶというシナリオが起きる可能性は、現時点では低いと多くの専門家が判断している。以下の理由・限界がある。

  • 多くの米国民は内戦を望んでおらず、必要とも思っていない。調査で内戦の可能性を予期する人はいても、実際に戦う側になるという人はごく少数。

  • 政府/州政府/連邦機関の統制能力は依然として強く、軍隊・警察・治安部隊・司法等の制度は健在。これらが崩壊しない限り、全面戦争状態には至りにくい。

  • 武器や銃は広く存在するものの、武装集団が統一的指揮系統を持ち、一定の地域を長期間支配する能力を持つまでには多くの障壁がある。

  • 経済的・物理的・地理的な流動性が高く、情報・人・物資が州をまたいで流れる構造があるため、完全に分断された地域を形成し続けるのは困難。


総括見通し

分断・暴力傾向が進めば、いくぶんの「内部衝突」「政治的不安」「暴動」「武装衝突」の局地的発生は想定されるが、全面的な内戦状態(国家が割れる/複数の武装勢力が互いに国土を巡って戦う状態)になるというのはかなりハードルが高い。だが「可能性がゼロではない」という意味で、社会の警鐘とするには十分な根拠がある。

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