コラム:どうなるトランプ平和協議会、「仲良しクラブ」の限界
第2次トランプ政権が発足させた「平和評議会(Board of Peace)」は、国際紛争後の平和構築と安定化支援を掲げる新たな多国間機構である。
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現状(2026年1月時点)
2026年1月22日、ドナルド・トランプ米大統領は第56回世界経済フォーラム(ダボス会議)における式典で「平和評議会(Board of Peace)」の規約を正式に発効させ、議長に就任した。これは一部では「国連に代わる国際平和機構創設の試み」と評価され、一方で既存の国際秩序との関係を巡って国際社会の反応が分かれている。評議会は当初、ガザ地区における戦後統治および紛争解決に向けた役割を果たすことを目的としていたが、発足時点でその活動範囲を中東・ウクライナを超えてグローバルな平和構築に拡大する意向が明示されている。加盟国や参加意思を示す国は中東・アジア・アフリカなどの一部で確認されているが、欧州主要国や伝統的な多国間主義支持国の参加は限定的である。
平和評議会(Board of Peace)とは
「平和評議会」は、トランプ政権が構想・主導する新たな国際的多国間機構であり、国際紛争・戦争の平和的解決、被災地の再建支援、紛争後社会の統治・安定化を目的とする組織である。公式に発足した2026年1月22日の宣言文によると、評議会は従来の多国間機関の効率性を欠く側面を補う形で「迅速かつ柔軟な対応」を可能にするとされる。
評議会の基本理念は、トランプ政権が掲げる「紛争後の実務的解決」に重点を置く平和構築モデルであり、国家主権への配慮を強調しながらも、加盟国相互の責任を明確にする点を特徴とする。しかし、構想の段階から詳細な法的枠組みや権限分配については未成熟であり、加盟条件や意思決定手続きにおいてトランプ米大統領の強い影響力が残る構造となっている。
第2次トランプ政権の狙い
第2次トランプ政権は、多国間主義を標榜する国際機関に対して批判的姿勢を取ってきた。従来の国際秩序を「非効率的」「米国の国益を損なうもの」と評価し、その再構築を模索している。他方で、紛争後の平和構築や再建支援は国際社会共通の利益であり、そこへの米国主導の役割強化を狙うと解釈できる。
この背景には、米国の外交戦略の変化があるという分析がある。トランプ政権はインド太平洋への関与強化を掲げる一方で、中東・欧州への伝統的な軍事関与の削減や代替的な安定化メカニズムの創設を追求している可能性が指摘されている。つまり、従来の軍事介入モデルから「経済・政治的インセンティブを軸とした平和構築モデル」への転換が狙われていると見られる。
この新たな機構を通じて、米国は国際的な影響力を維持・拡大しつつ、従来の国連中心の秩序を補完もしくは部分的に代替する枠組みを提示することで、国際法・集団安全保障メカニズムに対する代替案を示す意図がある可能性が指摘されている。
設立の経緯と目的
平和評議会の設立経緯は、段階的な政策提案と国際情勢の変化が重なった結果とされる。当初の起点は、長期化した中東紛争の一つであるガザ地区の平和構築と復興であり、トランプ政権は2025年末に発表した「新ガザ計画」の一環として国際的な協調メカニズム創設を提唱した。これが「評議会」構想へと発展し、2026年1月22日の世界経済フォーラムにおける「平和評議会評議規約」の署名式へと結実した。
設立の公式目的は以下の通りである:
ガザ地区の戦後復興及び社会統治の実務的支援
国際紛争後の平和構築と安定化支援
紛争当事国間の対話促進及び恒久的平和構築
国際社会の安全保障メカニズムの補完的役割
これらの目的は、国連安保理決議や多国間機関との協調を前提としながらも、迅速かつ柔軟な対応を重視する点が強調される。
発足: 2026年1月22日
2026年1月22日、スイス・ダボスの世界経済フォーラム会場で開催された「平和評議会」発足式典において、トランプ大統領は自ら議長として規約に署名し、評議会発効を宣言した。式典では加盟意思を表明する各国代表が出席し、その意義が強調されたが、同時に既存の国連体制との調整や組織の法的地位を巡る論争も指摘された。
公式声明では、評議会は国連憲章との整合を保つとしつつ、独自の実務的役割を持つことが謳われ、ガザ執行評議会(Gaza Executive Board)など特定地域に焦点を当てるサブ機構も紹介された。
当初の役割
設立当初、評議会はガザ地区における停戦後の社会統治、治安維持、インフラ再建などの実務的な支援を行うことが中心となる予定であった。これは中東地域の長期的な平和安定化を目指す国際的取り組みとして提示され、関係国に広く参加を呼びかける形で進められた。
評議会は当初、国連安保理の特定決議に基づいてガザ地区での活動に限定されるという位置づけで活動を開始したが、トランプ政権側はその後の演説や声明で活動範囲の拡大意向を示し、潜在的には他地域紛争への関与も視野に入れている。
拡大構想
設立声明では、評議会が中東に留まらず、世界の他地域での紛争後平和構築を支援する広範な取り組みを展開する可能性が示された。評議会の設立趣意書においては、「迅速な対応」を重視し、ガザ以外の地域でも「平和構築の実践」が可能であることが強調されている。
この拡大構想は、伝統的な多国間機関が抱える官僚的制約や政治的制約を回避することを目指すものとされるが、多くの国際関係学者は法的基盤の不透明さと既存機関との関係性を懸念している。
組織の体制と参加国
評議会の組織体制では、最高位に議長が置かれ、トランプ大統領がその役割を兼ねている。議長には決定権の拒否権や議題設定権、メンバー招請権、評議会解散権、後任者指名権など広範な権限が与えられていると報じられている。
参加国は段階的に表明されているが、参加を表明している主要国にはサウジアラビア、トルコ、エジプト、ヨルダン、インドネシア、パキスタン、カタール、UAEなどが含まれている。これらは中東・イスラム圏を中心とした国家であり、国際的な影響力を持つ一方で、西欧諸国等の参加は限定的である。カナダは一度参加要請を受けたが、要請取り下げとなり、参加しないことが明らかになった。
最新の動きとして、カンボジアが評議会への参加を表明した。しかし欧米の主要国、特にフランス、ノルウェーなどは参加を辞退し続けている。
議長: トランプ大統領
評議会の議長にはトランプ米大統領自身が就任した。議長職には、評議会の意思決定における強力な影響力が集中する構造となっており、参加国の意思決定に対して大統領の裁量が大きいとされる。規約上、議長は拒否権と主要決定権を持つことが報じられており、これが評議会運営の中心となる。
この構造は、既存の国連のような加盟国型の意思決定機構とは異なり、特定国家(米国)主導の機構である点を強調するものとみなされる。
参加メンバー
参加メンバー国は段階的に発表されているが、首脳レベルで承認が得られた国家は中東・アジアの一部を中心に存在する。主要な参加国としては、サウジアラビア、トルコ、エジプト、ヨルダン、インドネシア、パキスタン、カタール、UAEの参加が確認される。また、カンボジアも参加を表明している。
一方、欧州主要国(英国・フランス・ドイツ・ノルウェー等)は参加を見送っている。カナダは招請が取り下げられた経緯がある。ロシア・中国の参加については招請はあるものの、現時点で確定的な表明は見られない。
主な構成員
評議会の構成員は国家代表団や外相・閣僚レベルの代表者が務めるものと見られるが、正式なメンバー構成のリストは公表されていない。加盟条件には三年任期が基本とされ、1億ドル(約1ビリオンドル)の拠出を行うことで「永久席」を得るオプションが存在するとの報道がある。この資金的条件は、加盟の実効性や影響力分配を巡る議論の的となっている。
国際社会の反応と課題
国際社会の反応は大きく分かれる。多くの中東・アジア諸国は評価と参加表明を示す一方で、欧州主要国や北米の同盟国の一部は懐疑的立場を取る。特に既存の国際秩序を構成する国連・国連安保理との関係性が不透明であり、権限分配・法的根拠・透明性に欠ける可能性が指摘されている。
また、加盟国選定基準や財政条件(10億ドル拠出による永久席)により、富裕国・発展途上国・影響力国家の間で不平等な扱いが生じるとの批判もある。これらの課題は評議会の国際的正当性を巡る根本的な問題である。
批判と警戒
批判は多方面から出ている。欧米の一部メディアや国際関係専門家は、評議会が国連を代替する危険性を有すると指摘している。また、評議会の運営が実質的にトランプ個人の裁量に依存する「トップダウン型」であり、加盟国の意見や国際的合意形成を軽視する可能性があるという懸念が示されている。
さらに、評議会の活動範囲拡大が「秩序の再編」を目指す構想であるという評価もあり、既存の国際機構との対立を生む可能性が指摘される。
「仲良しクラブ」の側面
一部の批評では、評議会が「仲良しクラブ」として機能する懸念が示されている。加盟国選定基準が政治的・経済的要素を含み、トランプ政権と協調的関係にある国が優先されるという見方がある。その結果、国際的影響力を持つ伝統的な西側諸国が参加を躊躇する一方で、トランプ政権と協調関係にある国々が中心となる可能性が高い。
日本・欧州の動向
日本政府は現在、評議会への参加について明言を避けているが、外交当局内では既存の多国間秩序との関係性や法的地位の不透明性を重視する声がある。日本国内の論者には、参加を慎重に検討すべきとの意見が存在する一方、機会を活用すべきとの意見もある。
欧州側では、フランス・ノルウェー・スウェーデンなどが参加を拒否しており、評議会の正当性や活動範囲に関する懸念を表明している。これは欧州の伝統的な多国間主義の価値観と相容れない部分があるためである。
今後の展望
平和評議会は発足段階にあるため、その実効性や組織的成熟度は未確定である。しかし、次のような展望が予測される:
加盟国の拡大と枠組みの整備:参加国を増やし、法的枠組みを明確化することで組織の正当性を高める必要がある。
既存国際機関との関係:国連・安保理との協調体制や役割分担を明確にしない限り、二重構造の混乱が生じる可能性がある。
実務的成果:ガザ地区やウクライナ等における実務成果が、評議会の評価を左右する。
米国内政治の影響:米国の政治動向が評議会運営に直結する構造のため、政権交代等の影響が大きい。
まとめ
第2次トランプ政権が発足させた「平和評議会(Board of Peace)」は、国際紛争後の平和構築と安定化支援を掲げる新たな多国間機構である。発足直後の段階では、加盟国の限定性、既存国際秩序との関係性、法的整備の不透明性など、多くの課題が存在する。特に欧州主要国の不参加や批判的な評価が目立つ一方で、中東・アジアの一部国家が参加を表明している。今後の展開は、実務的な成果の有無と加盟国拡大、国連等との協調関係の構築にかかっている。
参考・引用リスト
トランプ大統領が「平和評議会」を正式に批准、ガザの希望と尊厳への道を拓くと発表 — ホワイトハウス公式
トランプ氏、「平和評議会」で国際秩序の再編狙う — WSJ日本版
サウジ・トルコ・エジプト・ヨルダン・インドネシア・パキスタン・カタール・UAEが参加 — Reuters Japan
トランプの「平和評議会」、ガザ起源から国際機関へ — Al Jazeera Live Blog
評議会への加盟要請と国際的反応 — Washington Post
$1B拠出で永遠の席を確保 — PBS NewsHour
「平和評議会」に関する国際的論争 — Foreign Policy
評議会が早くも批判に直面 — Washington Post Op-Ed
米国主導平和評議会署名式 — TBS CROSS DIG with Bloomberg
米国がガザ統治「平和評議会」設立、イスラエルとパレスチナが不満 — AFPBB News
「米国に依存しない新たな時代」は作れるか — Foresight
国連に代わる国際機関となる可能性
国連代替論が生じる構造的背景
平和評議会が「国連に代わる国際機関になるのではないか」という議論が生じる背景には、既存の国連体制に対する長年の不満が存在する。特に国連安全保障理事会は、常任理事国の拒否権行使により意思決定が停滞し、シリア内戦、ウクライナ戦争、ガザ紛争などにおいて有効な介入が困難であった。この「機能不全」は、国連が冷戦後の国際秩序に十分適応できていないという批判を招いてきた。
第2次トランプ政権は、こうした不満を明確に言語化し、「迅速に決断し、行動できる新しい枠組み」を正当化の根拠として平和評議会を位置づけている。つまり、平和評議会は国連批判の延長線上に生まれた「対案的機構」として理解できる。
国連と平和評議会の制度的差異
国連は、普遍的加盟性、国際法上の正当性、条約に基づく制度化という三点を柱とする。一方、平和評議会は普遍性を志向せず、参加国を限定した上で、政治的意思と資金拠出を重視する点に特徴がある。この違いは以下のように整理できる。
第一に、加盟の原理である。国連は主権国家であれば原則として加盟可能であるのに対し、平和評議会は政治的適合性や財政的貢献を事実上の条件としている。
第二に、意思決定構造である。国連は多層的な合議制を採用するが、平和評議会は議長(トランプ大統領)に権限が集中するトップダウン型である。
第三に、法的基盤である。国連は国際条約に基づく法人格を持つが、平和評議会は現時点では政治的合意体に近い性格を持つ。
この点から、平和評議会が国連を「代替」するというより、「競合的・補完的な政治フォーラム」として機能する可能性が高いと考えられる。
国連代替の現実的限界
国連に代わる国際機関となるためには、少なくとも以下の条件が必要である。
幅広い国際的正当性
国際法との整合性
長期的制度安定性
平和評議会は現時点でいずれも十分に満たしていない。特に、政権交代によって米国の関与が大きく変化する可能性が高い点は、制度の持続性を著しく弱める要因である。したがって、平和評議会が国連を完全に代替する可能性は低く、むしろ「国連の外側で影響力を行使する並行的枠組み」として位置づける方が現実的である。
「仲良しクラブ」としての構造とその限界
平和評議会に対して向けられる「仲良しクラブ」という批判は、感情的レッテルではなく、制度設計に由来する構造的問題である。その要因は主に三つある。
第一に、参加国の選別性である。評議会は、トランプ政権と友好的関係を持つ国、あるいは戦略的・経済的利益を共有する国が中心となっている。
第二に、資金拠出と発言力の連動である。多額の拠出によって恒久的地位が得られるという仕組みは、理念よりも取引を優先する構造を生む。
第三に、価値の多様性の欠如である。人権、民主主義、法の支配といった普遍的価値よりも、秩序と安定が優先されやすい。
これらは、評議会が「同質的な国家集団」になりやすいことを意味する。
仲良しクラブの機能的メリット
一方で、仲良しクラブ的性格には一定の利点も存在する。利害が比較的一致した国家間では、合意形成が迅速であり、現場での実務調整も容易である。これは、国連のような普遍的機関が抱える「合意コストの高さ」と対照的である。
特に停戦監視、復興支援、治安部門改革など、スピードが求められる分野においては、限定的枠組みの方が有効に機能する可能性がある。
仲良しクラブの限界とリスク
しかし、この構造は以下の重大な限界を内包する。
第一に、正当性の欠如である。関係国以外からは「当事者不在の決定」と見なされやすく、現地社会の受容を得にくい。
第二に、対立激化のリスクである。参加しない大国や地域勢力が対抗的枠組みを構築すれば、国際秩序の分断が進む。
第三に、内部結束の脆弱性である。共通の価値ではなく、取引的利益に基づく連合は、情勢変化に弱い。
結果として、仲良しクラブ型の機構は短期的には機能しても、長期的な平和秩序構築には不向きである。
「力(武力)で紛争を仲介する」という考え方
理論的背景:現実主義と強制外交
平和評議会の背後には、「力による平和」という古典的現実主義の発想が存在する。これは、国際社会においては法や規範よりも、軍事力・経済力といった実力が秩序を形成するという考え方である。
この発想は、冷戦期の抑止理論や、21世紀の「強制外交(coercive diplomacy)」に通じる。すなわち、圧倒的な力を背景に交渉を行うことで、紛争当事者に妥協を強いるというモデルである。
力による仲介の実務的利点
力を背景とした仲介は、以下の点で実務的効果を持つ。
停戦を迅速に実現できる可能性
武装勢力に対する抑止効果
治安空白の短期的解消
特に無政府状態に近い地域では、一定の強制力なしに秩序を回復することは困難であり、この点で「力」は不可避な要素となる。
力による平和の限界
しかし、武力に依存した仲介は、構造的な限界を抱える。
第一に、正統性の問題である。外部からの強制は「占領」や「支配」と認識されやすく、反発を生む。
第二に、持続性の欠如である。力が撤退すれば秩序も崩壊する可能性が高い。
第三に、紛争の根本原因を解決しない点である。政治的排除、経済格差、歴史的怨恨といった要因は、武力では解消できない。
このため、力による平和は「負の平和(absence of violence)」を生むことはできても、「正の平和(structural justice)」を実現することは難しい。
総合的整理
平和評議会は、国連の機能不全に対する現実主義的な対抗案として登場した。その特徴は、限定的参加、迅速な意思決定、力を背景とした仲介にある。しかし、それは同時に、正当性の不足、仲良しクラブ化、長期的持続性の弱さという重大な課題を伴う。
したがって、平和評議会は国連に代わる普遍的国際機関というより、特定状況下で機能する「権力主導型の平和管理装置」と位置づけるのが妥当である。今後、これが国際秩序を安定化させるのか、あるいは分断を深めるのかは、その運用の透明性と、力以外の政治的・社会的解決手段をどこまで組み込めるかにかかっている。
