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コラム:トランプ政権の支持率低下、2026中間選挙が焦点

支持率回復には、単なる政治的パフォーマンスではなく、実効性のある経済対策(生活必需品価格の抑制や低所得層支援)、行政の透明性・情報管理の強化、与野党と市民社会を巻き込んだ信頼回復プロセスが必要である。
2025年10月29日/エアフォースワンの機内、記者団の取材に応じるトランプ米大東慮(AP通信)
現状(2025年11月現在)

2025年11月現在、ドナルド・トランプ大統領(第2次政権)の支持率は就任後の最低水準付近に低下している。複数の世論調査が軒並み否定的な評価を示しており、最新のReuters/Ipsos調査では支持率が約38%と報告されている。多くの有権者が物価高や生活費の上昇、政権の運営手法に不安を抱いていることが支持率低下の背景にあると分析される。

第2次政権発足後の最低水準に

トランプ政権は就任直後から高い注目を受けたが、発足後数ヶ月のうちに支持率は下降トレンドを描いた。2025年10月下旬から11月にかけての各種調査では、支持率が40%前後から38%あるいはそれ以下まで落ち込み、政権復帰後の最低を記録した。支持の基盤である保守層の中でも若干の離反や不満が広がっているとの指摘がある。

不支持率の上昇

同時期に不支持率が上昇している点が際立つ。不支持は50%台後半から60%近くまで届く調査がある。多くの無党派層や穏健派共和党支持者が「大統領としての職務遂行能力」や「国家運営の安定性」に懸念を抱き、不支持を表明している。この不支持率の上昇は、単なる一時的現象ではなく、中長期的な政権の正当性と選挙見通しに影響を与え得る。

無党派層の離反

無党派層(independents)や浮動票の動向が特に重要となっている。保守的な政策に賛同する層のみならず、生活費や社会サービスに直結する政策で損害を被っていると感じる無党派が離反している。世論調査では、無党派の間で「経済状況が悪化している」という回答が多く、政権の主要課題対応に対する評価が低下していることが示される。結果として、中道層の支持離脱が支持率低下を加速させている。

支持率低下の理由(概括)

支持率低下の主因は複合的である。概括すると(1)生活費上昇への有権者の不満、(2)政府機関閉鎖を含む政治的対立・統治能力への疑念、(3)スキャンダルや幹部の不適切な振る舞い・情報管理問題、(4)外交・内政運営に対する懸念、(5)国内の分断を助長する言動、の五点に集約される。これらが同時多発的に作用し、支持基盤の動揺を引き起こしている。

経済政策への不満と物価高

経済指標は複雑なシグナルを出しているが、一般有権者の実感としては「物価が上がって生活が苦しい」という認識が強い。消費者物価指数(CPI)の推移をみると、2025年においても総合的なインフレ圧力は完全に収まっておらず、特に食品分野での価格上昇が家計を直撃している。労働市場や雇用統計に良好な点があっても、生活必需品の価格上昇が有権者の暮らしを脅かしているため、経済政策全体に対する評価が低くなっている。

生活必需品の価格上昇(コーヒーや牛肉など)

具体例として、コーヒーや牛肉といった日常的消費財の価格上昇が指摘される。最近のCPIデータや報道では、焙煎コーヒーや牛挽肉の価格が前年同期比で大幅に上昇していると示されている。メディアはコーヒーの小売価格が二桁近い上昇率を示したこと、牛肉やバナナなども著しい上昇を見せていることを伝えており、庶民の食卓が直撃されている状況が可視化されている。こうした目に見える痛みが有権者の政治評価に直結している。

政治的な対立と政府機関閉鎖(解消済み)

2025年秋には上下両院の予算折衝が決裂し、連邦政府の大規模な閉鎖(シャットダウン)に発展した。これは史上最長級の閉鎖となり、連邦職員の給与停止や公共サービスの停滞、空港運営や各種許認可の遅延など具体的な混乱を生んだ。11月には与野党の妥協により資金供給法案が可決され、政府機関閉鎖は一旦解消されたが、閉鎖期間中の混乱とそれに対する政治責任の追及が政権評価を悪化させた。閉鎖の解消後も、再発防止策や信頼回復に関する懸念が残存している。

外交・内政の運営への懸念

外交面では同盟国との摩擦や大統領の個別的な発言による混乱、内政面では行政の人的配置や政策の一貫性欠如が指摘されている。専門家は、外交的な予測可能性の欠如が米国の国際的信頼を損ねると警告しており、内政についても人事の空転や経験不足の幹部配置が政策実行力を削いでいると評価している。こうした統治面での不安定さは、長期的な経済・安全保障上のコストを生む可能性がある。

政権幹部による不適切な情報管理の問題

政権内の情報管理に関しても複数の問題が表面化している。具体的には、内部文書や捜査資料、機密情報の扱いに関する不適切な運用がメディアで取り上げられ、透明性と法令順守に対する疑義を招いている。こうした事案は司法的な波紋を広げるだけでなく、有権者の「信頼」に直結するため支持率に影響を与える。外部専門家は、情報管理の欠陥が行政の法遵守能力と責任感に対する根本的な疑念を増幅させると指摘している。

国内の分断を助長するような姿勢

トランプ政権の政治スタイルは大衆動員と強い言説で知られるが、それが国内の分断をさらに助長しているとの批判が強い。メディアや学術的分析は、分断的なレトリックや対立を煽る政治戦略が社会的信頼を損ない、協働的な政策形成や問題解決を困難にしていると論じる。政治的対立が深まると、政策の安定性や長期的な制度設計に悪影響を与えるだけでなく、地域社会や職場での摩擦も増えるため、経済や治安へ間接的に悪影響を与える可能性がある。

問題点(総括)

以上を総合すると、支持率低下は単一の要因ではなく、経済(特に実感としての物価上昇)、政治的統治能力の疑念、幹部の情報管理問題、国内分断の深化、外交面での信頼低下、そして短期的に発生した政府機関閉鎖といった複数の要因が同時に作用していることが分かる。各要因は相互に影響し合い、例えば物価高が政治不信を増幅し、政治的不安定が経済の先行き見通しを悪化させるという悪循環が存在する。専門家は、これらの問題を分断や政争のネタに留めず、技術的かつ制度的な対応で解消する必要性を強調している。

今後の展望

今後の展望は複数のシナリオが考えられる。最も短期的には、政権が物価対策(例えば一時的な補助や供給側の支援策)や説明責任の強化、透明性の改善を行えば支持率はある程度回復する可能性がある。しかし、根本的な信頼回復には時間を要する。中長期的には、来るべき中間選挙や2028年の大統領選挙を視野に入れた政党戦略や有権者の反応が鍵を握る。無党派層をいかに取り戻すか、保守基盤の結束をいかに維持するかが政権の命運を分ける。

一方で、政治的対立の激化や再度の予算・政策の行き詰まりが発生すれば、さらなる支持率低下と政権基盤の弱体化を招くリスクがある。外交面での失点や国際事件が重なれば、世界的信頼低下が長期化し、経済面でもリスクが顕在化する可能性がある。最終的には、政策の実効性と説明責任、そして社会的分断の緩和に政権がどれだけ真摯に取り組むかが今後の支持率動向を決める重要な要素である。

専門家・メディアのデータによる裏付け
  1. Reuters/Ipsosの世論調査は、2025年11月の支持率低下(約38%)を示しており、支持率低下の現状を裏付けている。

  2. 米労働統計局(BLS)のCPIやUSDA/ERSのFood Price Outlookは、食品価格が依然として上昇傾向にあることを示しており、家計実感としての物価高が根強い。

  3. CBSや他の報道機関は、コーヒーや牛肉など具体的な生活必需品の価格上昇(例:コーヒーの大幅上昇、牛挽肉の上昇)を報じており、これが有権者の不満を煽っていることを示している。

  4. APや主要メディアは、政府機関閉鎖が発生しその後解消された事実を報じており、閉鎖による混乱が政権評価に寄与した可能性が高い。

  5. シンクタンクや学術的分析は、分断や政策運営の質の低下が長期的な制度的コストを生む点を指摘している。

最後に

支持率回復には、単なる政治的パフォーマンスではなく、実効性のある経済対策(生活必需品価格の抑制や低所得層支援)、行政の透明性・情報管理の強化、与野党と市民社会を巻き込んだ信頼回復プロセスが必要である。短期の人気取り策で表面的な支持率が回復しても、構造的な問題が解消されなければ長期的な信頼は戻らない。したがって、専門家や各種データに基づく政策運営と、分断を緩和するための対話志向の政治が不可欠である。


2026年中間選挙に対する影響

1. 民主党の巻き返しの好機
  • JETRO(日本貿易振興機構)の分析によれば、2026年中間選挙では、トランプ政権の不確実性と支持率低迷が民主党にとって「巻き返しの好機」になっている。特に無党派層(independents)の離反傾向が強く、これが選挙の鍵を握るという見方が出ている。

  • NBCテレビの世論調査でも、中間選挙に向けて民主党を支持するという回答が50%、共和党支持が42%という結果が出ており、民主党が優勢との見方が強まっている。

  • これは、不支持率の上昇に伴って有権者が「政権交代を通じたチェック機能強化」を望む流れが強まっていることを示しており、中間選挙で議席を奪還するチャンスが出てきている。


2. 下院・上院への影響
  • JETROのレポートによると、2026年の上院改選では共和党が多くの議席を抱えており、民主党にとっては攻勢をかけやすい構図がある。ただし、激戦区もあるため楽観はできない。

  • 下院においては、共和党・民主党の議席差が僅差であり、民主党が中間選挙で下院多数を奪還する可能性があるという分析がある。特に、共和党が現在多数を取っているが、経済不満やトランプ政権への信頼低下を背景に民主党がターゲットを絞って議席を狙っている。

  • もし民主党が下院を制すれば、立法への足かせだけでなく、大統領に対する監視機能・牽制機能が強まり、トランプ政権への政策実行の自由度が下がる。


3. 無党派層(インディペンデント)の重要性と動向
  • トランプ大統領の支持率低下の大きな要因は、無党派層の離反にある。中立層が政権の経済運営や物価高に対する不満を強めており、これが中間選挙で民主党に流れる可能性が大きい。

  • 分析では、無党派層の票が鍵を握る選挙区(スイング州、紫色の州)で民主党がトランプ政権の不支持を選挙のテーマとして打ち出せれば、有利に戦えるとの見方が強い。

  • ただし、無党派層は一枚岩ではなく、政策姿勢や選挙制度(郵便投票への対応含む)に対して敏感に反応するため、民主党がすべての無党派票を取り込めるわけではない。


4. 経済・物価問題を巡る争点化
  • トランプ政権への不満の根底には、インフレや生活費高騰がある。NBC調査では、有権者の6割超が「トランプの経済・インフレ対応は期待を下回っている」と回答しており、これが中間選挙での大きな争点になる可能性がある。

  • 経済的不満を争点とすることで、民主党は中間選挙戦略を組みやすい。特に、庶民への生活支援、中流層・低所得者層への政策を前面に出せば、トランプ支持層以外の有権者にアピールできる。

  • 一方で、トランプ/共和党側も反撃材料がある。トランプ支持層には減税政策や貿易保護主義を通じて経済利益を訴える強固な基盤がある。また、トランプ大統領が関税政策や産業振興を進めており、これを「アメリカ第一」「国内雇用保護」の成果として選挙キャンペーンに利用することも考えられる。


5. 分断・社会対立という選挙戦の構図
  • JETROの分析は、トランプ大統領が中間選挙において「統一よりも分断を強調する姿勢」を続けていると指摘している。

  • 具体的には、トランプ大統領が左派や過激派を強調し、州兵の派遣や強い治安論を主張するなど、社会の分断を煽るような戦略を採っているという。これにより、与党・共和党支持陣営の保守強化を図る一方で、無党派や中道層、中間層には不安を与えかねない。

  • 選挙戦としては、民主党は「分断・排他主義ではなく統合」を訴える形で、トランプ大統領のこうしたメッセージを批判材料にできる。一方で、共和党内部ではトランプ流の強硬戦略を支持する層と、もう少し穏健な選挙実利主義を重視する戦略家との間でも緊張がある。


6. 選挙制度・郵便投票の争点化
  • トランプ大統領は2026年中間選挙に向けて郵便投票制度に批判的であり、廃止論を主張しているとの報道がある。

  • これは、選挙制度を巡る信頼性・正当性の問題として浮上しており、民主党側からは「不正を理由に制度そのものを弱体化させようとしている」と批判される可能性がある。

  • 選挙制度の争点化は、有権者の投票意欲や参加率、中間選挙の結果に大きな影響を及ぼしうる。特に郵便投票が広く利用される州では、この論争が票の獲得と投票機会の確保にも直結する。


7. 戦略リスクと共和党内のジレンマ
  • トランプ大統領の支持率が低いことは、共和党にとって選挙戦略上のジレンマを生んでいる。ブルームバーグは、一部共和党ストラテジストが「支持率低下が党内の指導力や立場を脅かす可能性は小さい」とみる一方で、選挙トーン(戦略の全体的調子)には影響を与えるとの指摘を報じている。

  • トランプ大統領が強硬・分断を前面に出す戦略を続けることは、コアな支持層には響くが、中道・無党派層を遠ざけるリスクを伴う。共和党としては、どの程度トランプ色を全面化するか、あるいは中道層の支持を取り込むかで難しいバランスを求められている。


8. 赤字区・スイング州での影響力
  • 中間選挙は、多くの場合「激戦州(スイング州)」や競争の激しい下院選区が勝敗を左右する。支持率低下や無党派離脱が選挙区レベルでどのように実を結ぶかが重要。

  • 地区ごとに異なる戦略が求められる。トランプ流の強硬したメッセージが強く響く保守的な地域では依然として優位を保てる可能性があるが、都市部・郊外・中道州では民主党が生活費・物価高をテーマに巻き返しを狙う展開が考えられる。


9. 長期的な制度・政治への帰結
  • 2026年中間選挙での民主党勝利(特に下院奪還)は、トランプ政権の政策動向や統治に対する強いブレーキとなる。立法・予算・チェック機能の回復が進むと、トランプ政権はこれまでの強権・強硬政策を軟化させざるを得ないかもしれない。

  • また、中道・無党派層を巻き込んだ選挙運動を民主党が成功させれば、2028年やそれ以降の選挙でも重要な足がかりを築ける。逆に共和党がトランプ大統領を全面に押しつつ無党派を取り込めなければ、長期的な支持基盤の偏りや分断が深まる可能性がある。


結論(展望)
  • 総じて、トランプ第2次政権の支持率低迷は2026年中間選挙において民主党に有利に働く可能性が高い。特に無党派層の離反、経済・物価問題の争点化、選挙制度を巡る争い、社会分断の構図などがその柱となっている。

  • ただし、共和党も反撃の手はある。トランプ大統領の強硬メッセージを維持しつつ、地域ごとの戦略を巧みに立て、選挙制度の取り扱いや動員で巻き返す可能性もある。

  • 最終的には2026年中間選挙は、トランプ政権の正当性と統治力を問う試金石になる。民主党が反発を票に変えられるか、共和党がトランプ色と実利主義のバランスを取れるかが勝負を分ける。

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