コラム:太らないためにすべきこと・できること
太らないための基本は「バランスの良い食事」「適切なカロリー管理」「日常的な身体活動の確保」「筋力維持」「良質な睡眠」「ストレス管理」「水分摂取」である。
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1. 日本の現状(2025年11月現在の概況)
令和5年(2023年)に実施された厚生労働省「国民健康・栄養調査」の結果によると、20歳以上の男性の肥満者(BMI≧25)の割合は約31.5%、女性でも2割前後に達しているなど、成人の肥満は依然として高い割合を示している。さらに近年は成人の平均歩数が男女とも減少しており、野菜摂取量も減少傾向にあることが指摘されている。これらは肥満や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病のリスク増加に直結する懸念材料である。
栄養指標や摂取基準については、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の策定検討が進み、エネルギーや各栄養素に関する新たな知見が整理されている。これにより、個人の年齢・性差・生活様式に応じた栄養管理がより具体的に示される見込みである。
運動面では、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド(2023)」が成人に対して、強度が3メッツ以上の身体活動を週23メッツ時(例:1日約60分の歩行レベルまたは1日約8,000歩に相当)を目安にすること、筋力トレーニングを週2〜3日取り入れることを推奨している。座位時間の長さにも注意を促している。運動不足の解消は体重管理だけでなく、代謝・心血管リスク低下にも重要である。
以上の現状を踏まえると、個人レベルでの栄養管理と身体活動の改善が重要であると同時に、国や地域レベルでの食環境・労働環境の整備も不可欠である。
2. すぐに実践できる具体的な対策(優先順位付き)
短期的に始められ、長期的に持続しやすい順に挙げる。
食事記録を3日間つける(摂取カロリー・時間・気分)
実際に何をどれだけ食べているかを可視化することで、無意識の過食や間食パターンを発見できる。アプリや紙で記録する。
夜間の過剰摂取を減らす(夕食は寝る2〜3時間前までに)
睡眠と消化の好循環を作る。夜遅い炭水化物・高脂肪スナックを減らす。
1日8,000歩(または最初は+1,000歩)を目標に歩数を増やす
いきなりハードな運動より習慣化が重要。通勤で一駅歩く、階段を使う。
食べる順番を意識する(野菜→タンパク質→ご飯・パン・麺)
血糖値の急上昇を抑え、満足感を高める。
週2回の短時間筋力トレーニングを導入する(自重で十分)
筋肉量を維持・増加させることで基礎代謝を支える。
水分をこまめに摂る、よく噛んでゆっくり食べる
満腹中枢への信号を高め、過食を防ぐ。
睡眠時間を7時間前後に確保する
睡眠不足は食欲ホルモンの乱れを招き、体重増加のリスクになる。
これらは単独でも効果があるが、複数を組み合わせることで相乗効果が生じる。
3. 食事管理(摂取カロリーのコントロール)
体重維持や減量は基本的に「摂取エネルギー < 消費エネルギー」の状態を作ることで実現する。だが、極端なカロリー制限はリバウンドや栄養欠乏を招くため、実行は慎重に行う。
基礎方針
まず自分の目標体重を決め、減量を目指す場合は医学的なガイドラインに従うと良い。肥満症の治療指針では、標準的な減量目標とエネルギー設定法が示されている(例:BMI 25〜35の肥満症では目標体重に対して1日あたり25kcal×目標体重(kg)以下など)。個別の病態や既往、年齢で調整する。
実務的なやり方
現状の1日の平均摂取カロリーを把握し(食事記録アプリ等を活用)、そこから「まずは1日当たり300〜500kcal減」を目安に調整する。急激に500〜1,000kcalを減らすと筋肉減少や代謝低下、継続困難に繋がるリスクがある。
質を重視する
単にカロリーを減らすだけでなく、タンパク質比率を確保(体重1kg当たり最低1.0g前後、筋力トレーニングを行うなら1.2g程度を目安)して筋肉を守る。ビタミン・ミネラルも偏らないようにする。
4. 食べる順番を意識する理由と実践方法
食べる順番を工夫するだけで血糖値の上昇を緩やかにできるため、インスリンの過剰分泌や脂肪蓄積を抑えやすくなる。
基本ルール
野菜や海藻など食物繊維の多いもの(「まごわやさしい」の「や」「わ」など)を最初に食べる。
次に魚・肉・大豆などのタンパク質を食べる。
最後にご飯・パン・麺などの主食(炭水化物)を食べる。
効果
食物繊維とタンパク質が胃内での糖の吸収を遅らせ、食後血糖のピークを低下させる。満腹感が得られやすく摂取量の抑制にも寄与する。
5. 「まごわやさしい」食材を取り入れる実践法
「まごわやさしい」は日本の家庭で使いやすい栄養バランスの良い食材群を覚えやすくまとめた言葉である。ま:まめ(豆類)/ご:ごま(種実類)/わ:わかめ(海藻類)/や:やさい(野菜)/さ:さかな(魚介)/し:しいたけ(きのこ)/い:いも(いも類)。これらを毎食や毎日の食事に意識して取り入れることで、タンパク質、食物繊維、ビタミン・ミネラル、良質な脂質をバランス良く摂取できる。
実践のヒント
朝:納豆(まめ)+味噌汁にわかめ(わ)+きのこ(し)を入れる。
昼:ごま和えのサラダ(ご)+魚の定食(さ)+いも類の付け合わせ(い)。
夜:豆や海藻を使った副菜を1〜2品つける。
この方針は日本人の食文化や食品事情に合致しており、栄養摂取基準の趣旨とも整合的である。
6. 糖質と脂質の摂り過ぎに注意するポイント
糖質(特に精製された炭水化物・砂糖)
飲料(清涼飲料水、果汁飲料)、菓子類、パン・麺類の過剰摂取は血糖上昇と内臓脂肪増加を招きやすい。食べる頻度を減らす、量を半分にする、食べる順番を工夫するなどが実践策である。
脂質(特に飽和脂肪酸・トランス脂肪)
揚げ物や加工食品、バター・ラードの多用は総エネルギーを高めやすい。魚油に含まれるn-3系脂肪酸は心血管リスク低下に役立つ可能性があるため、魚を意識して摂る。日本の食事摂取基準は脂質比率や種類に関する指針を示しており、過不足を避けることが重要である。
7. よく噛んでゆっくり食べる
咀嚼回数を増やし、食事時間をゆっくりとると満腹感が得られやすく、同時に消化吸収のスピードが穏やかになり血糖値の急上昇が抑えられる。よく噛むことは唾液分泌を促して消化を助け、食べ過ぎを防止するシンプルかつ有効な行動である。
8. 食事記録をつける利点とやり方
利点
自分の食習慣の“見える化”ができる。無意識の間食、飲酒、夜食の習慣を把握できる。定量的な変化(カロリー・PFCバランス)を追跡することで目標への調整が容易になる。
やり方
スマホアプリ(写真記録+簡易カロリー推定)あるいは手書きで食べた物・量・時間・満腹度を記録する。週に1回、記録を振り返り「改善点3つ」を決めると続けやすい。
9. 適度な運動(消費カロリーの増加)
運動は摂取カロリーを直接相殺するだけでなく、筋肉量を維持・増加させ基礎代謝を上げるという中長期的効果がある。
有酸素運動(カロリー消費)
ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などを週合計で強度3メッツ以上、週23メッツ時(例:歩行1日60分相当)を目標にする。まずは週3〜4回、30分〜60分の有酸素を習慣化する。
筋力トレーニング(筋肉量維持・向上)
大筋群(脚、背中、胸)を中心に週2〜3回行う。器具がなくてもスクワット、腕立て伏せ、プランクなど自重で効果がある。筋トレは減量期における筋肉流失防止に有効である。
日常生活での活動量増加
エレベーターの代わりに階段を使う、一駅分歩く、立って仕事する、長時間の座位を中断して軽い体操をするなど、日常の細かな行動が年間では大きな差になる。
10. 生活習慣の改善
十分な睡眠
睡眠不足は食欲を刺激するホルモン(グレリン増加、レプチン減少)を誘導し、過食傾向になる。成人は概ね7時間前後の良質な睡眠を目標にする。
ストレス管理
ストレスは感情的な過食や睡眠障害を引き起こす。マインドフルネス、短時間の運動、趣味、ソーシャルサポートなどでストレスを軽減する。必要なら専門家(精神科・臨床心理士)に相談する。
水分補給
脱水は空腹感と混同されることがあるため、こまめに水分を摂る。糖分の多い清涼飲料はカロリー源になりやすいので水か無糖のお茶を推奨する。
11. 注意点(医療的観点や陥りやすい誤り)
極端な食事法の危険性
過度なカロリー制限、一部栄養素の過剰制限(極端な糖質オフや脂質カット)は栄養不足やホルモンバランスの乱れ、リバウンドを招く恐れがある。持病がある場合や妊娠中は医師と相談する。
BMIだけに依存しないこと
BMIは便利な指標だが、加齢や体組成(筋肉量低下や内臓脂肪の蓄積)を反映しにくい場合がある。腹囲や体脂肪率の把握も重要である。国際的にはBMI以外の評価の重要性が指摘されている。
薬や手術など医療介入の必要性
BMIが高く合併症がある場合(肥満症)や従来の生活習慣改善で効果が乏しい場合は、医療による介入(薬物治療、場合によっては外科的治療)が選択肢となる。自己判断でサプリや未承認の「ダイエット注射」等に飛びつかないこと。
短期間での急激な減量の危険
筋肉量減少、胆石、代謝低下、栄養欠乏などのリスクがある。長期的で持続可能なペース(週0.5〜1%の体重減少など)を目標にする。
12. 専門家データの要点(引用した主な資料)
厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和5年)」:成人の肥満率、野菜摂取量の減少、歩数の減少などの現状データ。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書」:エネルギーと栄養素の基準、活用上の留意点。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド(2023)」:成人の身体活動量と筋力トレーニングの推奨。
肥満症の診療ガイドラインや学会資料:肥満の定義(BMI 25以上)と医学的治療の考え方、食事療法のエネルギー設定。
13. 日々の実践プラン(30日プラン例)
以下は忙しい人向けの短期実践プラン例で、毎日無理なく続けられるように設計している。
Week1(習慣化フェーズ)
食事記録を開始(写真+簡易メモ)。就寝と起床時刻を固定。1日+30分の歩行(朝か帰り道)。夜のスナック禁止。
Week2(調整フェーズ)
食べる順番を守る(野菜→タンパク質→炭水化物)。週2回、各20分の自重筋トレを導入。水分1.5〜2L/日を目安に。
Week3(強化フェーズ)
ウォーキングを合計で1日45分に増やす。間食を果物かナッツ(少量)に変更。睡眠の質を改善するため就寝前ルーティンを作る。
Week4(評価と継続)
1ヶ月の食事記録と体重・ウエストを比較。達成できた行動を固定し、改善点を次の30日で調整する。必要なら医師・栄養士に相談する。
14. 行動変容を長続きさせるコツ
小さな変化を積み重ねる:すぐに全部やろうとせず、1つをまず30日続ける。
仲間を作る:家族や同僚と一緒に運動や食事を改善すると続きやすい。
環境を変える:家に高カロリースナックを置かない、間食は小皿に分けるなど物理的障壁を作る。
自己褒美を設定する:体重ではなく行動(継続日数)を評価して小さな報酬を与える。
15. 今後の展望(政策・社会的観点と個人の対応)
国や自治体レベルでは、食環境改善(学校・職場での食育、外食の栄養表示の充実、砂糖入り飲料の販売抑制など)や都市設計(歩行しやすい環境、公共運動施設の整備)による構造的対応が進む可能性がある。国は既に食事摂取基準の改定や運動ガイドの普及を進めており、今後は職場や地域での実装が鍵になる。個人はガイドラインを参考にしながら、自分の生活に合った具体的な行動を継続的に調整していく必要がある。
医療技術の進展(肥満治療薬、手術技術、行動介入プログラムの精緻化)も今後の選択肢を増やすが、リスク・利益を慎重に評価して利用することが重要である。国際的にはBMI以外の評価(腹囲や体脂肪の評価)を重視する動きも加速しており、診断や介入の個別化が進むと予想される。
16. 最後に
太らないための基本は「バランスの良い食事」「適切なカロリー管理」「日常的な身体活動の確保」「筋力維持」「良質な睡眠」「ストレス管理」「水分摂取」である。これらを同時に完璧にこなす必要はなく、小さな変化を持続して積み重ねることが最も現実的で効果的である。個別の健康状態や持病がある場合は医師・管理栄養士・運動指導者と相談しながら計画を立てるべきである。日本の現状データや最新の摂取基準、運動ガイドは日々更新されるため、定期的に信頼できる情報源で確認し、科学的根拠に基づいた行動変容を続けることが重要である。
参考(主な出典)
厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査」の結果(2024年公表)。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド(2023)」。
日本肥満学会・肥満症診療ガイドラインに関する資料。
WHO および国際的な肥満評価に関する動向。
