コラム:高市政権の「外国人政策」、課題と展望
高市政権の外国人政策は、国民の不安に応える「管理強化」と「暮らし守る」メッセージを軸にしているため、短期的な政治アピールには有効性がある。
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現状(2025年11月時点)
2025年11月時点における日本の在留外国人は、ここ数年で急速に増加している。出入国在留管理庁のデータによると、令和6年(2024年)末時点での中長期在留者数は約349万5千人、特別永住者を含めた在留外国人数は約376万9千人と報告されており、その後も増加傾向が続いているとの統計公表がある。2025年上半期までの速報値でも数百万人台で推移しており、コロナ禍前よりも高い水準での在留外国人の定着が進んでいる。これに伴い、労働市場、地域コミュニティ、社会保障、治安対策など多面的な課題が顕在化している。
人口減少・少子高齢化の進行により、国内では深刻な労働力不足が継続している。政府・企業は外国人材への依存度を高めてきた一方で、受け入れの拡大が必然的に「社会の受容度」「労働条件」「行政サービスの負荷」などの摩擦を生じさせている。専門機関の分析では、特定産業での外国人労働者への依存が進む一方、国内労働者の賃金や労働慣行へ与える影響、また長期的には技術革新や自動化の進展と外国人労働のバランスをどう取るかが主要な論点になっている。
このような情勢を背景に、2025年前後に成立したあるいは提唱された政策は「受け入れの管理強化」「総量の議論」「土地等資産の購入制限」「社会保障の適正化」「治安対策の強化」「共生の枠組みの再検討」など、受け入れ拡大と制御の両面を同時に扱う内容になっている。特に保守寄りの議論では「日本人の暮らしを守る」を前面に出しつつ、維新などと連携した具体政策が議論されている。
高市政権(自民・維新)の外国人政策(総論)
高市連立政権(自民党・日本維新の会)の外国人政策は、受け入れ拡大に対して明確な「歯止め」と「管理」を重視する方向性が基調になっている。政府内の関係閣僚会議や有識者会合では、単に在留人数を増やすのではなく、産業政策・地域統合・治安対策・社会保障の負担配分を一体化して政策設計することが繰り返し強調されている。つまり「経済的必要性は認めるが、それが日本社会の安全・秩序・公共サービスを圧迫する事態は避ける」という二重の狙いがある。
総論としては次のような要素で構成される。①入国管理・在留管理の厳格化、②滞在外国人数の抑制や「総量の検討」、③土地など重要資産に関する取得制限、④社会保障の給付適正化、⑤地域治安・犯罪対策の強化、⑥「共生社会」の名の下での日本人生活保護の堅持と外国人への適応支援の両立。これらは選挙や世論の保守層の期待に応える一方で、実務面での運用や国際的評価との牽制という課題を抱える。
「日本人の暮らしを守る」――スローガンと政策的含意
高市政権は「日本人の暮らしを守る」という文言を政策基調に置く。これは多義的であるが、政策的には(1)社会保障や公共サービスの財源や受益の優先順位、(2)治安・地域秩序の維持、(3)雇用市場での競争から国内労働者を保護する措置、の三点を指すことが多い。政権サイドは、外国人受け入れ拡大が医療、福祉、教育、住居供給に新たな負荷を生む可能性を重視しており、受け入れ拡大を行う場合でも「負担の公正な配分」と「住民生活の安全確保」を前提条件にしている。
しかし「暮らしを守る」という大義は、具体的政策でどう表れるかにより評価が分かれる。例えば社会保障給付の制限や優先順位の見直しは、高齢化社会で財源確保の観点からは理解されるが、人権・国際法の観点や地域経済の実態との整合性で摩擦を生じる可能性がある。したがって、「守る」対象をどの層(低所得の日本人、高齢者、子育て世帯など)として明示するかが、政策運用の透明性と整合性を左右する。
主な政策の方向性(項目別)
以下に高市政権が重視する、あるいは議論している主要な方向性を列挙する。
出入国管理の厳格化:在留資格の審査、労働者の不正就労対策、偽装結婚・不法滞在の取締り強化などを通じて、入国から在留、就労までのライフサイクルで管理を強める方針を掲げている。これには出入国在留管理庁の権限強化や雇用側への監督強化が含まれる。
「滞在外国人の総量制」の検討:在留外国人の増加に歯止めをかけるため、何らかの量的枠組み(総量上限や招へい数の上限)を議論する動きがある。ただし、実務的には在留資格の多様性(技能実習、生産性基準のある在留資格、留学生、永住など)をどう整理して数値化するかが難題である。
土地購入の制限:外国人や外国資本による土地・不動産、特に農地や沿岸部、インフラ周辺の取得に関する制限強化を検討する。安全保障上の懸念や地域資源の保全を理由に、規制を拡大する案が浮上している。
社会保障制度の適正化:外国人が享受する社会保障給付の範囲や条件を見直し、保険料負担と給付の整合性を確保する方針。保険料納付実績や居住年数で給付要件を細分化する議論がある。
犯罪防止の強化:外国人が関与する犯罪への対応を強化するため、犯罪データの収集・分析の高度化、言語対応を含む捜査力の強化、外国人コミュニティとの連携強化を進める方針。
共生社会の推進(ただし後述する矛盾を含む):言語教育、生活支援、就労支援など「共生」に向けた施策を掲げるが、同時に総量制や給付制限を進める矛盾を抱える。
出入国管理の厳格化(詳細)
出入国管理の厳格化は、具体的には入管の審査基準の見直し、不正就労対策の強化、在留資格取消しの運用改善、雇用主責任の強化などである。政府は企業に対する罰則強化や監査体制の拡充を検討しており、また外国人材の受け入れルートごとに適切な監視・支援を組み合わせることにより、不適切な仲介や搾取的労働の温床を減らすことを狙っている。
実務的課題としては、入管の審査能力や地方自治体の対応力の不足、言語・文化の壁による誤解や届出遅延、さらに在留資格ごとの運用のばらつきがある。これらを短期間で解消するのは容易でなく、権限強化だけではなく人材育成・制度運用の改善が不可欠である。
「滞在外国人の総量制」の検討――理念と実務的困難
「総量制」は、在留外国人数の増加に対する政治的反発を抑えるための方策として提起されている。理念的には「一定の上限を設け、社会インフラや公共サービスへの負荷を管理する」という趣旨だ。しかし実務面では次のような困難がある。
定義の問題:どの在留資格を総量に含めるか(短期滞在、留学生、技能実習、特定技能、永住など)をどう整理するか。留学生が就労に移行するケースや既存在留者の家族呼び寄せなど動的な移動をどう扱うか。
景気変動への柔軟性:経済状況や産業構造の変化に応じた弾力性が必要であり、硬直的な上限は企業の人手確保を阻害し、不法滞在を誘発するリスクがある。
国際法・人権面:難民認定や人道的事例についての例外規定が必要であり、総量制が人権保護と衝突する恐れがある。
結論として、総量制は政治的・象徴的メッセージとしては有効でも、実務導入には綿密な設計と段階的運用が求められる。単純な最大数設定は現実的でない。
土地購入の制限
安全保障上や地域経済保護の観点から、外国人(あるいは外国資本)による土地・不動産取得に対する制限強化が議論されている。具体的には重要施設周辺や農地、漁港・沿岸地域などの取得に対する審査厳格化、届出制の強化、場合によっては外国資本の買収に対する事前審査義務の導入などの案がある。これらは国際的には資本移動の制限という批判も受けるが、安全保障や地域コミュニティ保全の観点から理解を得ている面もある。
運用面では、どの範囲を「重要」と定義するか、国籍や資本の出所をどのように検証するか、既存の所有権との整合性をどう取るかなど多数の課題が残る。過度の規制は外国投資を萎縮させ、地域再生や観光振興の阻害要因にもなり得る。
社会保障制度の適正化
社会保険や生活保護、医療費負担などの給付に関して、外国人の受給要件を見直す議論がある。在留年数や保険料納付実績に応じた給付条件の明確化や、短期滞在者の給付遮断、偽装居住の防止といった対策が検討されている。政策的狙いは「保険料を負担しない者へのフリーライドの防止」と「日本人の給付削減回避」だが、これも実務運用で申請手続きの複雑化や医療アクセスの悪化を招く懸念がある。
犯罪防止の強化
外国人の関与する犯罪に関しては、言語や法制度の違いに起因する誤解や被害が発生しやすいことから、捜査機関の言語対応能力向上、地域警察と外国人コミュニティの窓口整備、在留管理データと法執行情報の連携強化などが提案されている。犯罪対策の強化は住民の安心に直結するが、同時に過度のスクリーニングや偏見助長の危険もあるため、透明で説明可能な措置が求められる。
共生社会の推進(理想と現実のギャップ)
政権は表向きに「共生社会」を掲げ、言語教育、行政手続きの多言語化、地域での窓口支援、教育現場での支援強化などを宣言している。しかし、一方で受け入れ量を抑制する方策や社会保障給付の厳格化を進めると、共生のための投資(教育・生活支援・通訳人材の育成)が縮小される矛盾が生じる。共生は単なる言葉ではなく、長期的な人材育成や社会インフラの整備、地域住民との相互理解を必要とするため、短期的なコスト削減志向と相容れない場面が多い。
労働力不足との矛盾・経済への影響
高市政権の政策は一見、国内労働者の保護を目指すが、実態としては労働力不足の深刻さと矛盾する面がある。製造業、介護、建設、農業、宿泊飲食等の産業は外国人労働者に依存している部分が大きく、在留数の抑制や入国管理の厳格化は短中期的に生産性低下や供給網の混乱を招く恐れがある。企業側は雇用調整や設備投資(自動化)を進めるが、その投資がすぐに労働力不足を解消するわけではなく、結果的に国内経済の成長抑制要因になり得る。
また、外国人材確保のための国際競争も激化しており、単純に門戸を狭めることは日本企業の国際競争力低下につながるリスクがある。政策には産業別の需要予測に応じた柔軟性を持たせることが必要である。
労働力不足の深刻化(データと予測)
労働政策研究・研修機構(JILPT)や民間調査は、日本の労働需要の未充足が今後も続くとの見通しを示している。高齢化による供給減と出生率の低下が続く中、女性・高齢者の労働参加増だけではカバーしきれない分野が存在する。したがって、短期的に外国人労働力を減らす政策は、今後の産業構造と地域経済に深刻な影響を与える可能性がある。
国内労働者の賃金上昇の抑制(メカニズムと議論)
一部では、低賃金で働く外国人労働者の流入が国内の低賃金セクターでの賃上げを抑制しているという指摘がある。これは経済学での「代替効果」に近い議論で、低賃金セクターの労働供給が外部から補充されると、企業にとって賃金上昇のインセンティブが下がる可能性がある。一方で、外国人労働者の存在は消費需要や新たなサービス創出、国際的な人的ネットワークという正の効果もあり、単純に賃金抑制のみをもって評価するのは不十分である。政策は賃上げを促す構造改革(生産性向上、産業再編、労働市場の流動化)と組み合わせる必要がある。
共生社会・人権への懸念
高市政権が実施する「管理強化」政策は、場合によっては人権や外国人の生活権を侵害するリスクをはらむ。具体的には、社会保障給付の制限や在留資格取消しの乱用、行政手続きでの恣意的判断が増えると、外国人が適切な医療や教育を受けられなくなる懸念がある。国際人権基準や難民条約等との整合性も確認しつつ、透明性ある運用が求められる。
共生社会の置き去りと排外主義の懸念
「総量」や「規制強化」が政治的に有効なメッセージである一方、過度なスローガン化は「排外主義」や差別の助長につながる恐れがある。実際にメディア報道や地域での対立は、政策の受け止め方次第でエスカレートしやすい。共生を掲げながらも実効策が伴わなければ、名目上の共生と現実の排斥が同居する「置き去り」の状況を生む危険がある。
外国人材の確保競争での不利
世界的に人手不足が深刻化する中で、欧米やアジアの競合国も積極的に外国人材を誘致している。日本が受け入れを絞ると、優秀な人材は他国に流出し、日本企業の国際競争力が低下する可能性がある。特にIT、人材サービス、研究開発分野では国際的な人材争奪戦が激化しており、単純な締め付けは不利に働く。
具体的な制度運用上の課題
政策を運用する上では多数の現場課題がある。入管・地方自治体・雇用主・学校・医療機関など多層のステークホルダー間でデータ連携が不十分であり、情報基盤の整備が急務である。加えて、多言語対応人材の不足、外国人向けの相談窓口の脆弱性、在留資格変更や失踪者発生時の追跡コストの高さ等が挙げられる。制度をきつくするだけでは現場の混乱を招くため、同時にリソース投入が必要である。
「総量規制」の実現可能性と影響
総量規制は政治的メッセージとしては実行可能に見えても、実務面では法制度の整備、国際条約との整合性、経済的コスト、行政の運用能力といった複合要因が障害となる。実行可能性を高めるためには、業種別・地域別の需給を踏まえた例外規定、徐々に段階的に実施するトランジション計画、そして国際社会への説明責任(人道的例外の扱い)をセットにする必要がある。影響面では短期的には需要ギャップと生産性低下、長期的には企業の投資判断への悪影響や国際的評価の低下が懸念される。
情報発信の課題
政策の正当性と社会的合意を形成するためには、データに基づいた情報発信が不可欠である。政府は在留外国人数、職種別需要、社会保障給付の実態、地域別の負担見積もり等を詳細かつ分かりやすく公開し、政策措置の目的・効果・コストを説明する必要がある。現状では政治的なスローガンが先行し、データに基づく丁寧な説明が不足しているとの批判がある。透明性の欠如は不安・誤解・偏見を助長し、結果的に政策の実効性を損なう。
問題点(総括)
高市政権の外国人政策は、国内の保守的な世論要求に応える一方で、以下の主要な問題点を抱えている。
矛盾する目標の同時追求:受け入れ抑制と経済的労働力確保を同時に掲げるため、政策が互いに矛盾して実効性が低下する恐れがある。
運用能力の不足:入管や地方行政の人的・技術的キャパシティが追いつかないまま制度強化を進めると、現場混乱や人権侵害が増えるリスクがある。
国際競争力の低下:外国人材誘致を絞ることは長期的に産業競争力を削ぐ可能性がある。
共生と排外の葛藤:共生施策の弱さと規制強化が同時に進むと、差別や排外主義的感情の助長につながる懸念がある。
課題(整理)
政策をより実効的かつ持続可能にするためには、次の課題解決が必要である。
データ駆動の政策設計:業種別・地域別・資格別の需要供給データを整備し、数値に基づく閾値設定や例外規定を作る。
行政能力の強化:入管・地方自治体・保健医療機関の人員・IT支援を増強し、多言語対応とワンストップ窓口を整備する。
国際協調と説明責任:難民・人道面での国際基準を満たす運用、及び外国政府・企業との人材交流協定を整備する。
経済政策との整合:賃上げ・生産性向上を促す構造政策と組み合わせ、外国人雇用に依存し過ぎない産業再編を進める。
今後の展望
短期的には高市政権の方針に沿って入管や土地規制、給付要件見直しといった法制度や運用の見直し作業が進むだろう。これにより一時的に受け入れ数の伸びに歯止めがかかる可能性があるが、同時に企業側の人手確保対策の遅滞や地域経済の影響が顕在化するリスクがある。中長期的には、総量規制を含む厳格化だけでは持続的な解決にならないため、賃金引上げ・自動化投資・女性・高齢者・AI活用による労働参加拡大などの内発的対策と、戦略的な外国人材受け入れ(高付加価値人材の誘致、職業訓練の国際標準化)を組み合わせる必要がある。
また、共生社会の実現には時間と投資が必要であり、言語教育や地域住民との相互理解促進プログラム、企業の責任ある雇用慣行の推進が欠かせない。政策は単に数を調整するだけでなく、人の移動を社会の成長資源として最大化する視点を持つべきである。
まとめ
高市政権の外国人政策は、国民の不安に応える「管理強化」と「暮らし守る」メッセージを軸にしているため、短期的な政治アピールには有効性がある。しかし、現実の経済・社会構造と照らすと、硬直的な総量規制や過度な給付制限は逆に社会的コストを招き、国際競争力や人権問題での摩擦を生むリスクが高い。実効性ある政策にするためには、データに基づく精緻な制度設計、行政の実行力強化、経済政策との整合、そして「共生」に向けた中長期の投資が不可欠である。政治的スローガンを越えて、現場の実態と国際基準を踏まえた慎重かつ柔軟な運用が求められる。
参考・出典(抜粋)
出入国在留管理庁「令和6年末現在における在留外国人数について」。
- Reuters(日本語)・報道(政権の人事・経済方針)。
JILPT(労働政策研究・研修機構)関連資料・データブック。
各種専門機関・民間調査レポート(人手不足と外国人雇用の課題)。
