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コラム:パチンコ業界の現状、生き残りを賭けた模索続く

パチンコ業界は市場規模の大きさゆえに即時に消滅する性質のものではないが、長期的には「縮小」と「再編」が続く状況にある。
パチンコ店(Getty Images)
現状(2025年11月時点)

日本におけるパチンコ業界は、依然として国内有数のレジャー産業である一方で、長期的な縮小トレンドと構造的な変化に直面している。直近の業界集計では、ホール全体の総売上はコロナ禍からの回復を受けてやや持ち直しの兆しを見せる年もあるものの、業態構造(パチンコとパチスロの内訳)、設置台数、店舗数、運営法人数はいずれも過去数年で大きく減少している。さらに、規制の継続的な強化、遊技機の技術転換(いわゆるスマート遊技機=スマスロ/スマパチへの移行)、高齢化と若年層の離反、依存症対策の社会的要請といった複数の外部要因が重なり、業界は「量的縮小」と「質的転換」を同時に迫られている。主要な統計や業界分析は、パチスロ部門の回復やスマート遊技機の導入が業績改善に寄与している一方、パチンコ部門の売上低下や店舗・法人数の減少が続いていることを示している。

パチンコとは

パチンコは日本発祥の射幸性を伴う遊技であり、物理的に球を弾いて機械内の当たりを目指す遊技である。実務上は風俗営業等の規定下にある「遊技業」として扱われ、景品交換などの慣行を通じて事実上の金銭的価値が関係することから、社会的にも賭博性や依存問題の議論が絶えない分野である。歴史的には高度経済成長期以降、大衆娯楽として全国に普及し、ピーク時には巨額の市場規模を誇ったが、近年は規制・社会意識・人口動態の変化を受けて縮小基調にある。パチスロ(スロット)と合わせた総称として「遊技機市場」とも呼ばれ、機種メーカー・ホール運営・部品・サービス供給などの下流上流を含む産業連関を形成している。

市場規模と店舗数の動向(概観)

業界全体の「総売上」や「総粗利」は年によって増減があるが、長期的にはピークから大幅に縮小している。最新の公表データと業界白書によると、2024年のホール業界の総売上は約16.2兆円で、その内訳はパチンコが約7.7兆円、パチスロが約8.5兆円という構成になっている。これ自体はコロナ禍からの回復過程における数値だが、過去20年の水準と比較すると半分程度に縮小しているとの分析がある。店舗数と設置台数も年々減少しており、店舗数は2019年からの蓄積的な閉店・統合により大幅に減少、警察庁や業界集計を基にした報告では2023年時点での店舗数は7,000店台にまで落ち込んでいる。また、遊技機台数も同時期において総台数が約3.4百万台前後へと減少している。

市場規模(詳細)

先述のとおり、DK-SIS(ダイコク電機による業界白書)や業界団体の日遊協がまとめたデータを参照すると、2024年のホール業界総売上は約16.2兆円、パチンコ7.7兆円、パチスロ8.5兆円である。これらの数字は「ホール側の売上」をベースとしたものであり、機械メーカーや部品サプライチェーンの売上を含めると周辺経済規模はさらに大きいが、遊技人口や遊技時間あたりの支出、台粗利などの指標は分野ごとに異なるトレンドを示している。特にパチスロの台粗利や稼働はスマスロ導入以降に改善する傾向が見られる一方で、4円パチンコのアウト(稼働・出玉量)は歴史的な低水準を記録しているとの報告がある。

店舗数・法人数の減少

店舗数と運営法人数の減少は、業界の構造変化を端的に示す指標である。警察庁やDK-SIS集計、帝国データバンクの調査により、ホール店舗数は2019年以降顕著に減少し、2023年段階では7,000店台まで縮小した記録がある。また、法人数(ホール運営会社の数)も2018年からの5年間で約40%規模の減少を見せ、2023年は1,300社台へと落ち込んだという報告がある。減少要因としては、収益性の悪化による廃業、M&Aによる集約、出店・投資サイクルの縮小が挙げられる。帝国データバンクは倒産件数の推移やM&Aの動向から「淘汰が進んだ結果、倒産件数は多少落ち着きつつあるが法人数の大幅減少は止まらない」と分析している。

経営状況

経営状況は企業規模で二極化している。大手チェーン(例:マルハン、ダイナム、キング観光など)は規模の経済を活かした運営や設備投資で相対的に安定している一方、中小ホールは収益性の低下や設備更新負担、顧客減で苦戦している。矢野経済研究所や業界調査では、2023年度・2024年度においてスマスロの導入がホールの売上回復に寄与した事例が報告されており、ホール経営の平均営業利益率は回復基調を示す一方、売上原価の高さ(遊技機購入費用や設備投資の比率)や販売管理費の固定化により収益性は脆弱であるという指摘がある。社数の減少と同時に、M&Aや資本集中が進み、業績の“上位集中”がさらに進展している。

主要な課題と変化

業界が直面する主要課題は複合的である。大きく分けると(1)規制・法制度面の厳格化、(2)遊技機技術の転換(スマート化)、(3)人口動態と顧客構造の変化、(4)社会的イメージと依存症対策という四つの領域に集約される。これらは相互に影響し合い、業界の事業モデルそのものの再設計を迫っている。特に規制は遊技性や出玉管理に直接影響し、新機種の設計やメーカーロードマップにも大きな制約を与えている。

規制の厳格化と新機種への移行

ここ数年、遊技機の安全性・適正化に向けた基準整備や検定運用の厳格化が継続している。規制当局(警察庁を含む)は出玉挙動や連チャン性の抑制、データ管理の強化などを通じて過度な射幸性の抑止を図っており、その結果として市場には「甘め」の連チャン機が減少し、メーカーは遊技性の再設計を迫られてきた。同時に、メーカーは規制の枠内でユーザー体験を維持・改善するための技術革新に取り組み、スマスロ・スマパチと呼ばれるデジタル機能を強化した新世代機種の開発・導入が急速に進んでいる。これに伴い、ホールは既存機の入替え投資を行い、初期導入コストと回収のギャップに対応する必要がある。

スマート遊技機の普及(スマスロ・スマパチ)

2023年後半以降に本格導入された「スマート遊技機(スマスロ・スマパチ)」は、従来の遊技機と比べて機能面・データ管理面で大きな違いを持つ。スマスロ(スマートパチスロ)はその導入が比較的成功し、2023〜2024年でパチスロ部門の稼働回復に貢献したとの報告がある。パチンコ側(スマパチ)は導入が少し遅れたが、機種の改良や特定タイトルのヒットで普及が徐々に進んでいる。業界内の機種シェアや設置比率は更新が速く、2025年時点の業界データではスマスロ設置比率が過半(報告によって差はあるが50%前後)に達しているという分析もある。スマート化は遊技データの収集・解析、ユーザーインターフェイスの改善、運営効率の向上に資するが、初期投資負担や機械メーカーの供給力、ホールの設備対応が導入速度のボトルネックになるケースもある。

プレイヤー人口の変動

遊技人口は長年にわたって減少傾向にある。若年層の相対的離脱と高齢層の比率上昇が進んでおり、世代交代による需要減少が継続している。レジャー白書や日遊協のデータは参加人口の低下を示しており、単に来店回数が減るだけでなく、遊技時間や一回当たり支出など行動様式の変化も見られる。若年層の嗜好はデジタルコンテンツやスマートフォンベースのエンタメに向かっているため、ホール側は新規顧客層の取り込みに苦心している。

依存症対策

社会的要請としての依存症対策は政府レベルでも強化されている。内閣の「ギャンブル等依存症対策推進本部」や関連法令、業界自体の「依存問題対策有識者会議」による指針が整備され、ホール運営における入場管理、自己申告による出玉管理、相談窓口の設置、啓発活動など具体的施策が求められている。業界団体は毎年実施状況の報告を行い、ホールの自主的な取り組みを促進しているが、依存症対策に伴う顧客管理や自主規制は一部のホールにとって短期的な売上減少要因ともなり得る。社会的に依存問題が注目されるなか、行政と業界の連携強化が続いている。

業界が厳しい理由(要点整理)

業界が現在「厳しい」とされる背景は多面的である。主たる理由をまとめると次のとおりだ。

  1. 店舗数・法人数の大幅な減少(淘汰とM&Aの進展)。

  2. 遊技人口の減少と顧客構造の高齢化。

  3. 度重なる規制強化(出玉規制・検定基準の厳格化等)による遊技性の制約と新機種開発コストの増大。

  4. 他エンタメ産業(デジタルゲーム、動画配信、スマホアプリ等)との競合。

  5. 社会的イメージのネガティブ化と依存症対策への行政的プレッシャー。

これらが複合的に影響して、短期的な収益悪化と長期的な需要減少のリスクが顕在化している。

店舗数・経営法人数の大幅な減少(詳細)

警察庁・DK-SISの集計や業界調査を合わせると、2019年→2023年の間にホール店舗数は毎年数パーセントずつ減少し、累積で相当に縮小している。法人数も2018年の約2,192社から2023年にかけて約1,300社台へと減少しており、この間に実施されたM&Aと廃業が相当数を占める。帝国データバンクは、倒産件数の増減を指標に淘汰の進行を示し、2024年は倒産件数が若干落ち着いたことを示す一方、総合的には「運営主体の集約」が進展していると分析している。

遊技人口の減少(詳細)

レジャー白書や日遊協のデータは、参加人口の中長期的な低下を示している。若年層の消費行動が変化し、娯楽選択肢が多様化したこと、さらには地方の過疎化・人口減少も影響している。来店頻度や滞在時間の減少はコア顧客の収益貢献低下につながり、結果として店舗毎の売上回復を困難にしている。スマート遊技機の導入は一部の層にアピールしたが、それだけで若年層を広く回復できたとは言い切れない。

度重なる規制強化

過去十数年で遊技機に対する規制は段階的に強化されてきた。出玉の挙動や連チャン性、データ管理に関するルールが改定され、メーカーは検定基準に合致する機械設計を強いられている。規制強化は社会的要請(依存症抑止や青少年保護)を背景とするものであり、業界側も一定の自主規制や対策を講じているが、同時に遊技性の魅力低下や機械の設計コスト増加を招いている。これが新機の供給リズムやホールの投資計画に影響を与えている。

他エンタメとの競合

スマートフォンやコンソールゲーム、動画配信など低コストでアクセスできるデジタル娯楽の台頭は、若年層の時間消費を奪っている。加えて、イベント型のエンタメや体験型レジャーの多様化は「一回の来店で多数時間を費やす」ことを促進してきた旧来のモデルとの競合を生じさせている。こうした外部競合は市場全体のパイの縮小を早める圧力となっている。

社会的なイメージ

パチンコは長く「賭博性」「依存」「治安」などのネガティブなイメージと結びつけられてきた。このイメージは行政監視やメディア報道、地域社会の反応にも影響し、出店規制や撤退圧力の背景となる。業界としてはCSR(地域貢献、雇用創出、依存対策の強化)を前面に出してイメージ改善を図っているが、世論の厳しさは依然として残る。

存続・回復なるか(論点整理)

業界の「存続」自体は、市場規模の大きさと産業連関の深さから考えて容易に消滅するものではない。ただし「規模」を維持するか、「縮小して高付加価値化するか」は分岐点である。回復シナリオとしては次の要素が鍵になる。

  1. スマート遊技機の定着とユーザー体験の向上により、既存顧客の稼働・単価を維持・拡大する。

  2. 大手への業界集中による効率化と投資余力の確保(M&Aや業務効率化で体質改善)。

  3. 依存症対策と社会的コンプライアンスの徹底による社会的信頼の回復。

  4. 地域ニーズや高齢顧客向けサービスの最適化、新規顧客(若年層)獲得に向けた体験デザインの革新。
    これらが同時に進まない場合、単なる縮小に留まる可能性が高い。

市場規模の大きさ(再確認)

たとえ縮小基調にあっても、遊技業界の総市場規模は依然として兆円単位であり、関連産業(機械メーカー、広告、運送、設備、飲食等)への波及効果は大きい。したがって、景気や地域経済に対する影響力は無視できない。産業としての存在感は残るため、社会的に受け入れられる形での再編と持続可能性の模索が続く。

スマート遊技機(スマスロ・スマパチ)の普及(再掲)

スマート遊技機は遊技者の操作性向上、データ連携、遊技の多様化など複数の利点を持つ。特にパチスロ分野ではスマスロの導入が稼働回復に寄与し、ホールの売上改善に直接的な効果が見えたケースが複数あるため、業界としては早期の導入・展開が進められている。ただし、機器価格やハード面の更新コスト、機種の供給スピードにはボトルネックがあるため、普及率の地域差やホール間格差が認められる。

大手企業への集約と効率化

業界再編の進行により、大手チェーンが相対的に強化されている。大手は設備投資やIT投資、人材確保で優位を保ち、複数店舗を通じた機器導入や稼働データの利活用で効率化を推進している。中小は出店撤退やM&Aで吸収されるケースが多く、業界の「寡占化」が進む可能性がある。こうした集中は短期的な経営安定に寄与する反面、地域のサービス多様性や地場業者の雇用に影響を与える。

業績の回復(事例と限界)

一部上位企業や導入が成功したホールはスマスロ等の投入で売上・稼働を回復しているという報告がある。しかし、これは「局所的成功」にとどまる場合が多く、全国平均での恒常的な回復を示すに至っていない。機種依存、導入費用回収の時間差、地域格差、依存症対策による制約などが持続可能な回復の障害となる。

新しい取り組み

業界は生き残りをかけて多方面で新しい取り組みを進めている。具体例としては(1)デジタル化・DX(顔認証や会員データの活用、来店履歴分析)、(2)施設の多目的化(カフェスペースやイベントスペースの導入)、(3)若年層を狙ったマーケティングと新感覚タイトルの開発、(4)CSRや地域連携を強めることでのイメージ改善、(5)依存対策と連携した相談体制の強化、などが挙げられる。こうした取り組みは個別成功例が増えつつあるが、業界全体を変えるには時間と資本が必要である。

問題点と課題(総括)

パチンコ業界の主な問題点と課題は次のとおりである。

  1. 需給ギャップの存在:遊技人口減少下での過剰設備と投資回収の難しさ。

  2. 規制と遊技性のバランス:過度の規制が遊技性低下を招き、逆に客離れを生むリスク。

  3. 社会的信頼と依存対策:依存症問題への対応が不十分だと社会的圧力が増す一方、対策はホールの運営負担を増やす。

  4. 投資負担の集中:スマート遊技機などの高額な導入費が中小を圧迫し、業界の二極化を促進している。

  5. 若年層へのアプローチ不足:デジタル世代に刺さる体験設計とブランド発信が不十分である。

これらの課題は相互に関連しており、単一の政策や施策では解決が難しい点が特徴である。

今後の展望

今後の展望は複数のシナリオで考えられる。楽観シナリオでは、スマート遊技機のさらなる発展と導入拡大、データ活用による顧客リテンション施策、業界のコンプライアンス強化が同時に進み、上位チェーン主導で効率化と高付加価値化が実現することで業績が安定化する。悲観シナリオでは、遊技人口の継続的な減少と規制・社会的圧力の強まりにより市場が縮小を続け、中小ホールの相次ぐ撤退と地域での空洞化が進行する。現実的には、その中間に位置する「縮小しつつ再編・高付加価値化が進む」シナリオが最も可能性が高いと考えられる。政策面では依存症対策と業界支援(再教育や再編支援)のバランス、地方創生との連携、遊技文化の健全化が重要課題となる。

まとめ

パチンコ業界は市場規模の大きさゆえに即時に消滅する性質のものではないが、長期的には「縮小」と「再編」が続く状況にある。スマート遊技機という技術革新や大手の効率化、大胆な事業再編が業界の回復要因となる可能性はあるが、それと同時に依存症対策や規制強化、社会的イメージの改善が不可欠である。したがって、業界の将来は「規制・社会的要請に適合しつつ、顧客体験と運営効率をどう高めるか」にかかっている。短期的に見れば一部の企業や機種で回復する動きが出ているものの、持続可能な成長軌道へ乗せるためには、技術・経営・社会対応の三者を同時に進める必要がある。主要統計や業界資料はこの複合的な課題と可能性を示しており、今後の政策・市場・技術動向の継続的観察が重要である。


参考・出典

  • DK-SIS 白書(ダイコク電機)「DK-SIS白書2025版 - 2024年データ-」。ホール市場規模・台数・店舗数の動向。

  • 日遊協「遊技業界データブック2024/2025」。業界統計と参加人口データ。

  • 矢野経済研究所・業界調査レポート(パチンコホール経営企業の業績分析)。

  • 帝国データバンクの業界実態調査(法人数・倒産動向)。

  • 政府・内閣府(ギャンブル等依存症対策推進本部)および業界の依存対策報告。

  • 専門メディア・業界メディア(P-world、遊技日本、業界ブログ等)によるスマート遊技機普及報告。

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