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コラム:ユーチューバーはいばらの道?厳しい現実

ユーチューバー/動画クリエイター市場は量的にも質的にも成熟過程にあり、ショート動画やVTuberといった新しい潮流が市場拡大を牽引している。
女性ユーチューバーたち(Getty Images)

2025年11月時点で、ユーチューバー(YouTuber)を中心とする動画クリエイター経済は依然として拡大基調にある。ただし、成長の中身は変化しており、短尺動画(Shorts/ショート)やVTuber(バーチャルYouTuber)、ライブコマースやグッズ販売など複数の収益チャネルによって裾野が広がる一方で、個々のクリエイターの収益は極端に二極化している。プラットフォーム側の収益分配やアルゴリズムの変更、競合プラットフォーム(TikTok、Instagram、Twitchなど)の台頭、企業や著名人の参入が進んだことで競争は一層激化している。また、VTuber市場は専門的なIP・グッズ・イベントを中心に急成長しており、矢野経済研究所の調査では、2025年度の国内VTuber市場を1,260億円規模と予測しているなど、既存の“人間型”YouTuberとは異なる収益構造が拡大している。

ユーチューバーとは

ユーチューバーとは、主にYouTubeプラットフォーム上で映像コンテンツを制作・配信し、広告収益・スーパーチャット・メンバーシップ・スポンサーシップ・アフィリエイト・グッズ販売などで収益化する個人やチームを指す。近年は顔出し・実写型に限らず、VTuberや匿名の声のみ配信者、編集特化のチャンネル、教育系・専門知識系などジャンルが細分化している。YouTubeは単なる投稿先ではなく、クリエイターにとって制作・流通・収益化のインフラになっており、外部プラットフォームや自社ECとの連携が一般化している。プラットフォーム自体の影響力は依然大きく、YouTubeが生み出す経済効果や雇用創出の規模も無視できない。

市場規模と利用者数

動画コンテンツ市場全体は拡大しており、動画コンテンツビジネスに関する調査では動画関連市場が年々増加していると報告されている。YouTube単体の経済効果に関する調査では、過去の報告で日本における経済効果が数千億円規模に達すると示されており、2024年の調査では数千億円のGDP寄与と数万人規模の雇用創出が報告された。加えて、VTuberを含む新たな動画カテゴリが市場を押し上げているため、従来の「広告=主収入」モデルにとどまらない市場拡大が進んでいる。具体的な数字や年度推移は調査機関や定義により差があるが、動画/配信ビジネス全体が数千億〜数兆円規模の経済インパクトを持つという見立てが一般的になっている。

市場拡大の要因

市場拡大の主な要因は次の通りだ。第一にスマートフォン普及とモバイル視聴時間の増加で、短尺・ライブ・オンデマンド視聴が急増していること。第二にプラットフォーム側の機能強化(Shortsのような短尺動画の改善、収益化ルールの改定など)により、より多くのクリエイターが参入できるようになったこと。第三に企業側のマーケティング手法の変化で、インフルエンサーマーケティングやタイアップ、ブランドコラボが増え、クリエイター収益源が多様化したこと。さらにVTuberや仮想キャラクターIPの商業化(グッズ、イベント、BtoBライセンス)が新たな収益柱を生んでいる点も大きい。

多様な収益源

かつては主に広告収入が中心だったが、現在は次のように収益源が多様化している。

  • 広告(インストリーム、バンパー、ディスプレイなど)

  • YouTubeパートナープログラムによる再生収益(長尺・Shorts共有収益の仕組み含む)

  • スーパーチャット/メンバーシップなどの投げ銭・会員収益

  • スポンサータイアップ・ブランド案件

  • アフィリエイト収入

  • 物販・グッズ(自社EC、コラボ商品)

  • イベント・リアルライブ(特にVTuberで顕著)

  • サブスクリプションやデジタル商品の販売(有料配信、講座)
    この多様化により収益の安定化が図られる一方で、複数チャネルを運用できる体制(編集、人員、経理)を持つクリエイターや事務所が有利になる構造が強まっている。

VTuber市場の台頭

VTuberはキャラクターIPを軸にしたビジネスモデルを持ち、グッズ、ライブ、イベント、ライセンス供与などで収益化する点が特徴だ。2023〜2025年にかけてVTuber市場は急速に成長し、業界調査では2024年度の市場規模が数百億円から1,000億円超に拡大、2025年はさらに拡大して1,260億円程度に達するとの推計が出ている。VTuber運営のためのマネジメント会社やプロダクションの存在が市場の拡大を後押ししており、リアルイベントや公式グッズが収益の中核を担うケースが多い。VTuberは従来の「個人配信」よりもプロダクション主導のIPビジネスに近く、投資・資本の流入が活発化している点も特徴である。

競争と収益化の課題

競争環境の変化に伴い、収益化の課題も顕在化している。アルゴリズムの変更や広告単価の変動、視聴者の注目が短尺へ移ることによる長尺広告の価値下落、他プラットフォームへの流出などがリスクとして挙げられる。さらに、プラットフォーム側が収益化ルールを頻繁に変更することで、収益モデルの予見可能性が下がり、個人クリエイターが単一プラットフォーム依存である場合の経営リスクが高まっている。複数の収益源を持つことの重要性は増しているが、その実行には人的・資本的リソースが必要であり、小規模クリエイターには負担が大きい。

競争激化

プラットフォーム横断的な競争が激しく、TikTokやInstagram Reelsの短尺フォーマット、Twitchのライブコマース/コミュニティ機能、さらには国内のライブ配信アプリや音声配信など、ユーザーの注意を奪い合う構図が続いている。YouTubeはShortsの機能改良や収益化モデルの拡充で対抗しているが、クリエイター側はプラットフォームごとの最適化(フォーマットや尺、制作体制の変化)を強いられている。競争の激化は視聴単価・広告単価の変動を増やし、収益の不安定化を招く要因にもなっている。

著名人の参加

近年、多くの芸能人や既存のメディア関係者がYouTubeに公式チャンネルを開設しており、既存のファンベースを持つ著名人の参入が市場シェアに影響を与えている。著名人は初動で大量の視聴を獲得するため、広告やブランド案件の取り込みが容易になり、個人の新人クリエイターが注目を集めにくくなる側面がある。一方で著名人の参入は全体の視聴者層を拡大する効果もあり、クリエイター市場全体のケーキ自体を大きくする可能性もある。

収益の二極化

収益分配は極端な二極化を示している。上位数パーセントの人気クリエイターやプロダクションは、広告収入・スポンサー収入・グッズ・リアルイベント等で高収益を得るが、多くの中小クリエイターは「赤字覚悟で活動する」「副業的に低額収入を得る」状況が続く。プラットフォームのアルゴリズムがヒットを重視することで“長い尻尾”にいる多くのクリエイターは埋もれやすく、結果として収益格差が広がっている。これはプラットフォームが提供する収益分配の仕組みだけで是正するのが難しく、クリエイター側のブランディングや複数チャネル展開が重要になる理由でもある。

プラットフォームの変化

YouTubeはShorts関連の仕様見直しや収益化ルールのアップデート(例:3分までのShorts対応や収益分配の仕組み改善)を進めており、これは短尺コンテンツを制作するクリエイターにとって追い風になる一方で、基準を満たさない制作者には恩恵が届きにくい。視聴指標のカウント方式変更や編集ツールの強化も導入され、プラットフォーム運営の意図は「短尺重視」「クリエイターのアクティブ化」にあると見ることができる。これらの変化は制作手法や収益モデルに直接影響するため、クリエイターは技術や制作戦略の迅速な適応が必要だ。

社会的側面と将来性

社会的には、ユーチューバーはエンタメだけでなく教育、情報発信、地域プロモーション、企業のマーケティングパートナーとしての位置づけを強めている。規模の拡大は雇用創出や新たな産業連関を生むが、同時にフェイク情報、著作権問題、炎上や倫理問題など社会的リスクも伴う。将来的には、よりプロフェッショナルな制作体制(制作会社・エージェンシー・法律・会計のサポート)を持つクリエイターが主導権を握り、プラットフォーム外収益(自社商品やサブスク型サービス)を確立した者が安定する可能性が高い。

テレビ化と大衆化

ユーチューバーの一部はテレビ番組への出演や既存メディアとのクロスオーバーを通じて「テレビ化」しており、逆にテレビ側がYouTube的手法を取り入れる例も増えている。これにより大衆的な受容が進む一方で、従来の“自由で個性的”なクリエイティブがマスメディア的な規範に取り込まれるリスクもある。商業化が進むほどコンテンツの均質化が起きやすく、差別化のための専門性・ブランディング戦略が重要になる。

炎上リスク

ソーシャルメディアの拡散力は炎上リスクを高めている。発言や映像表現が問題視されると数時間で大きなダメージとなり、広告、スポンサー、プラットフォームからのペナルティにつながることがある。企業案件やスポンサーシップを受けるクリエイターは、契約上のコンプライアンスや危機管理が必須になっており、タレントマネジメントやリーガルチェックの重要性が増している。

専門性とブランディングの重要性

単発のバズだけでは持続的な収益化は難しく、専門性(教育、医療、金融、法律、DIY、料理など)や明確なブランディングを持つチャンネルが中長期的に成功する傾向が強い。視聴者は信頼と継続的な価値提供を求めており、そこを満たせるクリエイターはスポンサーやファンベースを構築しやすい。さらに、自社商品やサービス展開、サブスク型コミュニティ運営により「プラットフォーム依存」を下げる戦略が重要だ。

成功は簡単ではない

YouTuberとして成功することは依然として容易ではない。技術的スキル(撮影・編集・配信)、コンテンツ企画力、コミュニティ運営力、法務・会計面の管理、そしてメンタルの強さが必要だ。加えて競争激化の中で持続的に高品質コンテンツを供給し続けることは資金と時間を伴うため、個人で始める場合は副業スタイルで検証しつつ、成功した段階で組織化するケースが多い。

今後の展望

今後数年は以下のような方向に進む可能性が高い。

  1. プラットフォーム間競争による機能改善と収益化の多様化(Shortsの収益分配改善やライブ機能強化など)。

  2. VTuberやIPベースの事業モデルの一層の成長。プロダクション主導のスケール化が進む。

  3. 収益の二極化は続くが、ナノ/マイクロインフルエンサーのニッチな価値がブランドに評価され、長期的なファンベースを持つ中小チャンネルの存在感が改善される可能性。

  4. 企業のインハウスクリエイター採用や既存メディアとの融合が進み、コンテンツ制作のプロフェッショナリズムが高まる。

  5. 規制・法的課題(著作権、広告表示、消費者保護)への対応が求められ、業界ルールの整備が進む可能性。

まとめ

2025年11月時点では、ユーチューバー/動画クリエイター市場は量的にも質的にも成熟過程にあり、ショート動画やVTuberといった新しい潮流が市場拡大を牽引している。市場規模や経済効果は大きく、クリエイティブ産業としての存在感は強いが、一方で収益の二極化、プラットフォーム依存、炎上リスク、そして競争激化といった構造的な課題も存在する。成功は依然簡単ではなく、専門性の確立、複数の収益源の構築、法務・危機管理体制の整備、そしてプラットフォーム変化への迅速な適応が、今後のクリエイターにとって不可欠である。政府・業界・プラットフォームが協調してルール整備や支援を進めることが、産業としての持続的な発展に寄与するだろう。


参考に使った主な資料・報道(抜粋)

  • 矢野経済研究所「VTuber市場に関する調査(2025)」関連プレスリリース。

  • YouTube / Oxford Economics による日本におけるYouTubeの経済影響報告(YouTube Impact Report)。

  • YouTube公式サポート(Shortsの収益化ルール更新)。

  • メディア・業界分析(Vogue Businessほか)によるクリエイター経済の動向。

  • 動画コンテンツ市場に関する業界コラム・調査まとめ。

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