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コラム:日韓関係の現状、歴史問題が最大の障害

日韓関係は歴史の重みと現代の地政学的必要性が複雑に絡む関係である。短期的には経済・安全保障の実利が協力を促すが、歴史問題の未解決が長期安定の最大の障害だ。
韓国のイ・ジェミョン大統領(ロイター通信)
現状

2025年現在、日韓関係は過去数十年の間で波が大きい状態にある。歴史認識をめぐる対立(慰安婦問題、徴用工問題など)と、経済・安全保障上の利害が交錯し、局面によって緊張と協調が入れ替わってきた。経済面では両国の貿易・投資関係は依然として重要であり、サプライチェーンやハイテク分野で相互依存が続く一方で、歴史問題が政治的対立を引き起こし、時に貿易・ホワイトリストなどの措置に発展した。安全保障面では北朝鮮の脅威と中国の台頭に対処するため、日米韓の連携が重要視される局面が多い。近年は協力の回復や新たな協調領域の模索が進むが、未解決の歴史問題が基礎的な不信を残しているため、関係の安定化は断続的である。

対立の歴史(概観)

日韓の対立は短期的な外交摩擦の連続にとどまらず、19世紀末から20世紀半ばの植民地支配と戦時動員に起因する構造的問題を抱える。戦後、1965年の日韓請求権協定は両国関係の法的基盤となったが、被害者個人に関する賠償・救済をめぐる解釈の違い、歴史教育・記憶の扱い、像や記念行為をめぐる市民社会の動きが繰り返し政治問題化している。1990年代以降、慰安婦問題や徴用工(強制労働)訴訟、教科書・記念碑問題などが累積し、世論が冷える時期があった。

徴用工問題(強制労働問題)の経緯と現在

徴用工問題は、戦時中に日本企業に動員された朝鮮半島出身者の賠償請求が中心である。2018年に韓国大法院(最高裁)が個人請求権を認める判決を出したことが事態を大きく動かした。これに対し日本側は1965年の請求権協定に基づき、個人請求は解決済みとの立場を堅持し、日韓関係は大きく悪化した。判決を受けて複数の日本企業に対する損害賠償判決や差押え手続きが進み、企業資産を巡る法的論争が継続している。国内法廷での補償命令や和解交渉が行われる一方、国際法上の解釈や外交解決の可能性が議論されている。

慰安婦問題の経緯と現在

慰安婦問題については2015年に日韓両政府が「最終的かつ不可逆的な解決」を目指す合意を発表したが、その後の展開で合意は実効性を失った。合意では日本側が資金を拠出して被害者支援を行う枠組みが提示されたが、韓国内の被害者団体や世論の反発、像設置などの市民活動、合意手続きの透明性に関する批判が高まり、最終的に2019年ごろには事実上の棚上げ・破綻状態に至った。慰安婦問題は被害者の尊厳回復、記憶の扱い、政治利用の問題が絡むため、当事者の感情と国家間の政治が交叉する難しい案件である。

一連の歴史問題と認識のずれ

徴用工・慰安婦など一連の問題は、法的論点(国家間条約の効力、個人の請求権の存否)と記憶・道義的責任の問題(謝罪・賠償・教育)を同時に含む。日本側は国際法上の条約や国家の法的責務を強調する傾向があり、韓国側では被害者の個別救済や歴史の記憶保持が優先される。両者の間には「正義」の扱い方に根本的な差があり、これが政治的利用や世論の対立を増幅させている。メディアはこのズレを取り上げ、互いの国内政治への影響を強調することで情勢を複雑にしてきた。

北朝鮮の存在と日韓関係への影響

北朝鮮の核・ミサイル開発は日韓両国の安全保障上の共通課題であり、脅威対応の必要性は協力の動機となっている。弾道ミサイル発射や核実験が行われるたびに情報共有やミサイル迎撃、海上監視の協力の重要性が再確認される。北朝鮮問題は両国関係を単純に修復させるパワーを持つわけではないが、安全保障上の実務協力(情報共有、日米韓連携)は関係改善の実利的な接点となる。近年は弾道ミサイル警報や早期警戒のデータ共有など、実務協力の深化が図られている。

日米間の連携と日韓関係の関係性

日米同盟は日本の安全保障の柱であるが、同盟の枠組みは韓国にとっても北朝鮮対応や地域安定の観点から重要だ。米国は日韓両国を戦略的に連携させようとするため、歴史問題が三角関係(米日韓)に与える影響を懸念し、仲介や協調を促すことが多い。米国は同盟間の相互運用性や情報共有を重視し、サイバー、宇宙、ミサイル防衛など新たな分野での三国協力を進めている。米国の関与は両国に外交的圧力を与えつつ、安定的な安全保障協力の枠組みを提供する。

文在寅政権(ムン・ジェイン)との関係悪化

文在寅政権期(2017–2022)は歴史問題に強い配慮を示し、徴用工や慰安婦など戦時被害者の権利回復を重視した。2018年の最高裁判決などを背景に、日韓関係は2019年に深刻な悪化を迎え、安保や経済面で摩擦が表面化した。2019年には輸出管理の優遇措置(ホワイトリスト)からの除外や、それに対する韓国側の輸出規制・報復が行われるなど、経済的な報復・対抗措置が顕在化した。これらは両国の政治的決断が経済・産業に直接影響を及ぼす例として注目を集めた。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権での関係改善

尹錫悦政権(2022年就任)は安全保障面での日米韓連携や経済協力の重要性を強調し、日本との首脳会談や閣僚間協議を通じて関係改善を図った。2023年以降、両国はホワイトリスト復活や経済協力の再構築、サプライチェーン安定化のための協議を進めるなど「実利的協力」を優先する動きが目立った。これにより一時的に政治的緊張は緩和され、エネルギー、宇宙、サイバーなど新分野での協力の芽も出てきた。

李在明(イ・ジェミョン)政権誕生(2025年6月)と意味

2025年6月に李在明が大統領に就任した。李政権は選挙公約の文脈や国内政治の動向を反映して外交・安全保障の方向性を定める必要がある。李は内政課題(経済、格差是正)を重視しつつ、在任早期から対外政策での安定化と実務的解決を志向する姿勢を示している。就任直後の対日関係は、歴史問題の取扱いと安全保障協力の両立という難しいバランスを要求される。国際社会は李政権の対日・対米・対北政策を注視している。

経済・安全保障への影響

経済面では日韓は互いに重要な貿易相手である。半導体材料・部品・製造装置、化学品、自動車部品などの分野で相互供給関係が深いため、政治的摩擦はサプライチェーンの再編や企業のリスク回避行動を促す。2019年の摩擦時には一時的に輸出管理やホワイトリストの扱いが影響を与え、企業の調達戦略に変化をもたらした。さらに、投資や人的交流の停滞は長期的な経済交流の損失へとつながる。貿易統計をみると両国間の取引額は大きく、相互依存が高いことが改めて確認される。

安全保障面では米国を中心とした拡大同盟の枠組み(米日韓の協力)は、北朝鮮の核・ミサイルリスクや中国の戦略的台頭に対処する上で不可欠である。だが、歴史問題や外交不信が深刻化すると情報共有や共同演習、ミサイル警報の即時共有など実務協力に支障をきたす恐れがある。近年は、日韓が米国の働きかけで情報共有やミサイル対応で協調する動きが確認され、地域の抑止力維持に貢献している。

問題点(整理)
  1. 法的・政治的解決の欠如:1965年請求権協定の解釈を巡る論争や、2018年以降の韓国国内判決により、国家間の法的枠組みと国内司法の間でギャップが生じている。

  2. 世論・記憶政治の硬直化:被害者中心の正義要求と国家間の外交利益が相互にぶつかり、妥協を難しくしている。

  3. 国内政治の道具化:歴史問題が選挙や政権支持基盤のために利用されることがあり、短期的な政治利益が長期的解決を阻害している。

  4. 経済的リスク:供給網分断、投資の冷え込み、人的交流の停滞が企業経営や研究協力に悪影響を与える。

  5. 信頼の欠如:相互の説明責任や透明性が不足しているため、外交合意が長続きしにくい。

課題(実務的・制度的)
  1. 被害者救済の実効的枠組みづくり:国家間協議を通じた補償メカニズム、あるいは第三者主導の基金や和解プロセスの検討が必要だ。個人の権利保障と国家間合意の整合性を図る方策が不可欠である。

  2. 歴史認識の対話プラットフォーム:学術交流や市民レベルの対話を制度化して相互理解を深める。教育・共同研究・博物館運営などで協力モデルを作ることが有効だ。

  3. 経済協力の制度化:重要素材・部品の安定供給に関する二国間協定や、危機時のルールを作ることで企業リスクを低減できる。産業政策の協調も検討に値する。

  4. 安全保障の実務的信頼回復:日米韓の情報共有や危機時の連絡メカニズムを強化し、相互運用性を高める。米国を含む三国協力の枠組みを実務的に拡充することが重要だ。

  5. 国内政治の負の連鎖を断つ:政治家やメディアが短期的ポピュリズムに走ることを抑制し、外交問題を国内政治の手段として使わないようにする責任ある政治文化が求められる。

今後の展望(シナリオ別の展開)
  1. 実務協力強化シナリオ(現実的):経済・技術・安全保障の実利により協力が深化する。サプライチェーン保護、サイバー・宇宙での協力、北朝鮮対応での情報共有強化など実務的分野での協調が進む。しかし歴史問題は依然として残り、完全な信頼回復には長い時間がかかる。

  2. 断続的対立シナリオ:国内政治の変動や裁判の進展で断続的に摩擦が再燃する。経済制裁や市民レベルの対立が時折表面化し、関係修復と悪化が交互に訪れる。

  3. 外交的決着シナリオ(長期):第三者仲介や双方の国内的条件整備により、被害者救済と国家間合意の両立を目指す枠組みが形成される可能性がある。ただしこれは政治的コストと長期的な市民合意が必要となるため、実現には時間を要する。

まとめ

日韓関係は歴史の重みと現代の地政学的必要性が複雑に絡む関係である。短期的には経済・安全保障の実利が協力を促すが、歴史問題の未解決が長期安定の最大の障害だ。現実的な道筋は、被害者への配慮を最優先しつつ、実務的協力を制度化して信頼を徐々に回復する方法である。具体的には(1)被害者救済のための透明で説明責任を伴う仕組みの構築、(2)経済・技術・安全保障でのルール化と危機対応の協力、(3)学術・市民レベルの交流強化、(4)米国など第三国の建設的関与を得た上での外交交渉、が重要だ。

最後に、政治的感情と長期的国益を分けて考え、被害者の尊厳回復と地域安定の双方を同時に追求する現実的な政策設計が不可欠である。これが達成されるか否かは、日韓双方の政治的勇気と市民社会の成熟、そして米国を含む国際社会の支援にかかっている。


参考・出典

  • 韓国大法院・企業に対する強制労働関連判決や報道(例:Business & Human Rights、各種報道)。

  • 2015年の日韓合意に関する政府発表・解説(外務省等)。

  • 日韓の貿易データおよび相互依存に関する統計(OEC、各国貿易統計)。

  • 日米韓の安全保障協力・共同声明(米国大使館、国務省などの共同声明)。
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