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コラム:世界が「弱肉強食」の「戦国時代」に逆戻り?

世界が完全にかつての「弱肉強食」の戦国時代に逆戻りする確率は限定的だが、戦国時代的な力の論理が複数の領域で強化される可能性は高い。
核爆発のイメージ図(Energy Intelligence)
現状(2025年12月時点)

国際政治の地殻はここ数年で明らかに変化している。冷戦終結以降の一極(あるいは米国主導)秩序は、ゆっくりとだが確実に多極化へと移行している。ミュンヘン安全保障会議の報告をはじめとする複数の政策分析は、勢力の拡散と地域大国の台頭が国際協調を難しくしていると指摘している。多極化は必ずしも即時の軍事衝突を意味しないが、協調の基盤であった価値共有・制度的ルールへの信頼を弱め、戦略的競争を恒常化させる素地を形成する。

同時に、軍事支出は増加を続けており、世界の軍事支出は長期的な上昇トレンドにある。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータは、近年の支出増と主要軍需企業の売上増を示し、各国が近代化・拡張を進めている現状を裏付ける。これは軍事的プレゼンス強化の直接的指標であり、地政学的緊張の高まりと整合する。

経済面では脱結合(デカップリング)や経済安全保障の名のもとにした制裁や輸出管理、投資制限が広がりつつある。先端技術・資源を巡る競争は国家戦略化しており、IEAなどは重要鉱物(クリティカルマテリアル)の需給と地政学的脆弱性を強調している。こうした経済的分断は、国家間の協力を難しくする要因となる。

また、国連や既存の国際機関が従来のような機能を発揮できない場面が増えている。安保理の決定プロセスは依然として大国の利害に左右され、緊急の国際行動を取れない事例が繰り返されている。これは「法の支配」に基づくポスト1945秩序の効力低下を示唆する。

さらにサイバーや情報操作、ハイブリッド戦の常態化が確認される。公的/民間のサイバー報告は脅威の高度化と頻度上昇を記録しており、攻撃の常態化は国家間摩擦を低コストで増幅させる。

こうした複合的トレンドが同時に作用しているのが現状だ。

食うか食われるか、「弱肉強食」の「戦国時代」に逆戻り

「弱肉強食」「戦国時代」という比喩は、国家間で力が支配的手段となり、同盟が流動的に移り変わる、外交の武力化が主流となる時代を想定している。現代にそのような局面が再現されるかを問うには、政治的・軍事的・経済的・技術的な要因を総合して評価する必要がある。単純な二分法で「戻る/戻らない」を決めるのではなく、どの領域で「戦国」的特徴が顕在化するかを分節して考えるべきだ。

第一に、領土の直接的獲得や武力による明確な再編が短期的に大規模に進行する可能性は限定的だ。核抑止や主要国の相互破壊能力が存在する現代では、全面戦争のリスクは冷戦期のような単純な均衡と同様に、全面衝突を抑止する側面がある。逆に言えば、核を巡る相互抑止があるために、強権的行為は限定的・局所的にとどまりやすい。しかしこの抑止は全面的な安定を約束するものではない。抑止が効いている「核の谷間」においても、力による現状変更(局所戦、影響圏の再定義、事実上の支配)は現実に観測される。ウクライナ侵攻やその他の地域紛争は、完全な制約には至らない事例として機能する。

第二に、「弱肉強食」の再現は形を変えて現れる可能性が高い。直接的な領土奪取ではなく、経済制裁、技術封鎖、資源操作、サイバー攻撃、代理戦争、情報戦といった手段によって「より強い者が相対的に有利を得る」メカニズムが働く。経済的相互依存が残るとはいえ、戦略物資(半導体、レアアース、希少金属等)を巡る争奪は地政学的緊張を軍事的衝突の一歩手前まで高める可能性がある。IEAや政策レポートはクリティカルマテリアルの戦略的重要性を指摘しており、これが新たな争点となっている。

第三に、国際制度(国連・国際法)が直面する機能不全は「戦国化」の加速要因となる。安保理の意思決定が大国の利害で頓挫する場面が続くと、被害国や地域が自衛・自助を強め、地域的な軍事同盟や安全保障協定の強化、あるいは「事実上の勢力圏」形成が進む。結果として多極化した世界では、各地域で独自の「秩序」が並立し得る。

総じて、完全に1930年代のような無秩序な大戦再燃に直結するとは言えないが、「戦国的」要素のある競争と断片化は既に顕在化しており、今後のリスクは高まっている。

すでに突入しているという懸念、その可能性と現在の状況

すでに「戦国時代的」状況に突入しているという見方は、どの指標を重視するかで変わる。軍拡、地域紛争、経済ブロック化の兆候、サイバーと情報戦の常態化、国際制度の無力化が同時進行しているため、少なくとも「戦国的傾向の増幅」は起きていると言える。SIPRIの軍事支出と軍需産業の成長は、国家が軍事力を再評価し投資していることを示し、ENISAやMicrosoftのレポートは非対称・低コストの攻撃手段(サイバー等)が増え、紛争の形が多様化していることを示す。こうした観点から「突入している」と評価する専門家も存在する。

一方で、国家間の経済相互依存や国際的な供給網、グローバル企業のプレゼンスは、依然として平衡要因として作用する。完全な「零サムの力学」へ一気に移行するのを阻む力も強い。したがって「すでに完全に戻った」とする表現は過剰であるが、「戻りつつある」「一部の領域では既に戻りつつある」とするのが現状評価として妥当だ。

既存の国際秩序(国連体制)の機能不全

国連安保理の決定力低下と大国の対立は、戦間期の国際連盟弱体化を彷彿とさせる。現代では拒否権行使や戦略的利用が批判され、緊急課題への迅速な対応が困難になる場面が増えた。結果として、多国間での合法的な紛争解決手段が弱まり、地域プレイヤーや非公式な力関係が介入する余地が拡大する。国連自体も改革議論が続くが、大国の利害一致が無い限り抜本的改革は実現しにくい。安保理の機能不全は、国際秩序の「ルールに基づく」性格を損なう。

第二次世界大戦後に築かれた「法の支配」による国際秩序の崩壊

1945年以降の秩序は、国際法と多国間制度が紛争抑止と調停に寄与することを前提に築かれた。だが、その秩序は大国の遵守意志と制度への信頼で支えられており、これが揺らぐと秩序の実効性は低下する。最近の事例では、主権侵害や国際法違反が指摘される局面に対して一致した国際的処置が取りにくく、法的枠組みが力関係に取って代わられる兆候がある。これは長期的には国際法の相対化を招き、地域ごとの「力の均衡」への回帰を促す。国際法の崩壊というよりは「選択的適用」と「執行困難」の拡大という形で進行している。

国連安保理の形骸化

安保理は、安全保障の最終的判断機関であると同時に、常任理事国の政治的駆け引き場でもある。拒否権の戦略的使用や、安保理外での大国間合意が増えることで、形式的な決議力は弱まっている。実務面では、安保理が機能しない場合に代替の地域枠組みや多国間連携(例えばG7や地域安全保障構築)が介入するが、これも普遍的な正当性を持ちにくい。安保理の形骸化は、国際秩序の正当性基盤へダメージを与えるため、力に基づく現状変更を後押しするリスクがある。

多極化と「力による現状変更」

多極化は、従来の二極(米ソ)や一極(米)モデルとは異なる動学を生む。勢力の拡散は、競合する地域ブロックや同盟の形成を促し、局地紛争が大国の関与を招きやすくなる。力による現状変更は、必ずしも正規軍による侵攻だけでなく、緩やかな影響力行使(政治的圧力、経済措置、非正規部隊や代理勢力の活用、偽情報やサイバー攪乱)という形で進む可能性が高い。ロシアのウクライナ侵攻や中国の周辺での海洋・領域における強硬姿勢は、現状変更の現代的プロトタイプを示す。

経済安全保障と「ブロック化」の再来

経済安全保障の台頭は、自由貿易体制の枠内で処理されてきた経済関係を政治・安全保障上のレイヤーに上げた。輸出管理、投資審査、サプライチェーンの見直し、特定産業の国家管理は、経済関係をブロック化する動きと結びつく。かつての関税障壁中心のブロック化とは異なり、技術規制・投資制限・資源管理などでブロックが形成されるため、経済の分断はより精緻で長期的な影響をもたらす。米中の技術競争はこの傾向の象徴であり、米国の輸出管理や同盟国との技術統制、あるいは中国側の報復措置は、二大ブロック化への圧力を強める。

1930年代の大戦前夜に似た「経済のブロック化」

1930年代の保護主義的なブロック化(例:スムート=ホーリー法)と比較すると、現代のブロック化は異質だ。20世紀前半のブロック化は主に関税と貿易障壁が中心であったが、現代はサプライチェーン、投資、技術移転、データ、エネルギー資源という多次元での分断である。とはいえ、経済的相互信頼が崩れると貿易縮小や投資萎縮が進み、長期的な成長鈍化と政治的摩擦を生む点では類似性がある。歴史研究は「経済の切断」が政治的対立を加速する事例を示しており、現代も例外ではない。

デカップリング(切り離し)

デカップリングは全断絶を意味せず、むしろ「戦略分野での選択的切り離し」を意味する。半導体や先端AI、希少金属、軍事技術などに関しては、各国がリスク低減のためにサプライチェーンの多元化や同盟的供給網を構築している。これは経済効率を犠牲にしてでも安全保障を優先する選択であり、短期的にはコスト増だが長期的な安全保障確保と技術的自律を志向する政策である。米中に限らず、第三国も同調圧力に晒され、世界経済の断片化が進む可能性がある。

資源・先端技術の争奪戦

電気自動車、再生可能エネルギー、軍事プラットフォーム、ハイテク製品に必要なクリティカルマテリアルは、地政学的価値を帯びている。IEAの分析は、リチウム、ニッケル、希土類(レアアース)などの供給脆弱性を指摘しており、資源コントロールが戦略的優位性をもたらすことを示す。さらに、先端半導体やAIチップの供給管理は国家戦略そのものであり、こうした資源と技術を巡る争奪は今後の地政学的競争の中核になる。

ハイブリッド戦と新領域の紛争

ハイブリッド戦は既に現実の枠組みとなっており、軍事力、サイバー、情報戦、経済圧力、法律・規範操作などを組み合わせて相手の政治的決定を変容させる手法が使われている。ロシアの事例や他の小規模紛争は、非正規手段の有効性と、正規戦力を用いない現状変更の戦略を示唆している。ハイブリッド手法は正規戦闘回避のための灰色地帯を拡大し、紛争の常態化を招く。

常態化するサイバー攻撃

ENISAやMicrosoftなどの年次報告は、サイバー攻撃の規模と巧妙さが増していること、国家支援あるいは国家レベルでの戦術が増加していることを指摘する。重要インフラ、政府機関、企業に対する攻撃は政治的目的を帯びることが増え、国家間の緊張時に攻撃が先制的・補助的に使われる可能性が高い。サイバーは低コストかつ否認可能性を持つため、紛争の導火線として常態化する危険がある。

軍拡競争の再燃

世界の軍事支出は継続的に増加しており、技術的近代化と装備増強が進む。これは抑止の強化を目的とする側面がある一方で、近隣国や競合国に対する警戒を呼び、軍拡競争的ダイナミクスを生む。SIPRIのデータはこの傾向を明確に示しており、軍需企業の収益増も、軍事投資が拡大している現実を示す。軍拡は偶発的衝突のリスク、誤算によるエスカレーションのリスクを高める。

逆戻りを阻止する抑制力(現代特有の要因)

完全な「戦国化」を阻止する要因も存在する。主だったものを挙げると次のとおりだ。

  1. 核の抑止力:核保有国間の全面戦争を抑止する強い抑止構造が存在する。核は依然として究極のブレーキとして機能する。ただし「核があるから安心」との過信は禁物で、核の脅威は地域的な強硬を促す逆効果も持つ。

  2. 経済的相互依存の残滓:グローバルな供給網、金融の連関、企業活動は、国家行為のコストを高める。全面的な断絶は多国の経済に深刻な損失をもたらすため、完全な「力の論理」への移行を抑える力が働く。

  3. 情報の透明化と相互監視:現代の監視・情報技術は不作為を可視化し、侵害行為の発覚リスクを高める。国際世論や経済制裁の動員は、侵略的行動へのコストを増しうる。だが逆に、偽情報やプロパガンダも増え、秩序の正当性を侵食する。

  4. 複合的制裁メカニズム:金融制裁や技術封鎖は大国に対してもダメージを与え得る道具として定着している。これらは軍事力とは別の抑制手段であり、戦争を回避するインセンティブを作り得る。

これらの抑制力があるため「全面的な戦国時代」への逆戻りを完全には許さないが、一定領域での「戦国化」は部分的に進行する余地が大きい。

核の抑止力、核保有国には勝てないという現実

核抑止は、国家が核能力を持つことで直接的な軍事的侵略を抑える効用を持つ。現実において核保有国同士の全面戦争は起きにくいという制約は強い。これが意味するのは、核保有国に対して通常兵力だけで決定的な勝利を収めることは極めて困難であるという現実だ。したがって、核保有国は地政学的賭けにおいて一定の「安全マージン」を持つことで、地域的強圧や現状変更を試みやすくなる。この構造は、力の優位が全く無意味であることを示すわけではなく、矛盾的に「核下における限定的侵害」を生む可能性もある。

今後の展望

今後数年から十年の展望としては、次の可能性が考えられる。

  1. 断片化の深化:経済・技術・安全保障のブロック化が進み、地域ごとに異なるルールと供給網が形成されるシナリオ。企業・国家はブロック間での調整コストを負担し、第三国は選択と均衡を迫られる。

  2. 局所紛争の増加と灰色地帯の常態化:直接的な大国間全面戦争は回避されるが、代理紛争、領土的摩擦、サイバー・情報戦が増え、地域的に不安定化が進む。

  3. 国際制度の部分的再編:安保理等の既存制度が機能しない中で、地域協力や同盟が再編される可能性。新しい多国間枠組みや「価値に基づく連合」が形成されるが、包括的で普遍的な秩序の再建は困難だ。

  4. 技術と資源の覇権競争:半導体、AI、クリティカルマテリアルが戦略資源化し、これを巡る競争が国家戦略の中心となる。

政策的含意としては、各国は(1)国際制度の弱体化を前提にした自助と地域協調のバランス、(2)経済的韌性(サプライチェーン多元化、戦略備蓄)、(3)サイバー防御と情報戦への備え、(4)核拡散管理と地域的安定化努力、という複数レイヤーの対策を同時に進める必要がある。

まとめ

総合的に判断すると、世界が完全にかつての「弱肉強食」の戦国時代に逆戻りする確率は限定的だが、戦国時代的な力の論理が複数の領域で強化される可能性は高い。特に経済のブロック化、資源・技術の戦略化、ハイブリッド戦・サイバー攻撃の常態化、そして国際制度の機能不全が同時進行すれば、国家間競争はより零サム化し、局所的な紛争の頻度と深刻度が増すだろう。一方で、核抑止や経済的相互依存といった現代特有の抑制力が全面的な無秩序化を防ぐ要因として働くため、「戦国時代」への逆戻りは「部分的・領域的」である可能性が高い。政策としては、制度の補強と並行して、国家・企業双方のレジリエンス(回復力)を高めることが求められる。


かつての「戦国時代」のような「同盟が流動的で、武力が外交の主要な手段となる時代」について

古代・中世の「戦国時代」的状況を現代に投影する際には、構造上の相違点と共通点を慎重に検討する必要がある。ここでは、戦国的状況を定義し、歴史的要因と現代的条件を比較しながら、同盟の流動性と武力の優位性がどのように発現するかを検討する。

第一に、戦国的状況の定義であるが、簡潔には「(A)同盟関係が短期的・流動的に変化し、(B)外交における軍事力の役割が主要な決定要因となり、(C)国家間の秩序や法的拘束力が相対的に弱い状態」を指す。歴史的な「戦国時代」は、中央権力の弱体化、領主の自律性の増大、経済的自給化の程度、通信・移動の限界といった要因により、これらの条件が同時に満たされた。

第二に、現代と歴史的戦国時代の相違点を列挙する。まず技術と破壊力の桁違いの差である。現代は長距離火力、航空力、情報通信、サイバー攻撃、そして核兵器という抑止力が存在するため、戦争のコストとリスクが格段に高い。次に経済の相互依存である。近代以降の国際分業と金融連結は、国家間での直接的武力行使が自国経済にも甚大なダメージを与えるため、単純な利得計算を変えている。第三に、国際法と国際機関の存在だ。これらは完全ではないが外交行動の正当化基盤を提供し、外的行動のコストや国際的非難をもたらす要因となる。

だがこれらの違いが戦国的流動性を完全に排除するわけではない。理由は複数ある。ひとつは「局所的非対称性」の存在である。大国間では核による相互抑止がある一方で、大国と地域勢力、あるいは大国の間隙を突く中小国・非国家主体との関係では、従来の抑止は効きにくい。経済封鎖や情報戦、代理勢力の利用は低コストで効果を上げ得るため、これが「新たな力の行使法」となり得る。第二に、同盟の流動性はイデオロギーや価値観ではなく、実利や戦略環境に基づき再編されやすいという点だ。21世紀の同盟は形式的条約よりも戦略的調整に基づく「ネットワーク化」しやすく、危機局面で短期的に連携が移ることがあり得る。第三に、技術と資源の戦略化が同盟と敵対関係に影響を与える。資源供給や技術アクセスが外交上のレバレッジになるため、同盟は経済圏・技術圏に基づいて再編される可能性がある。

第四に、同盟が流動的になるメカニズムを分析する。従来、同盟は条約や長期的な安全保障談合を通じて固定化される傾向があったが、現代は「利益の即時性」と「リスク分担の重み」が同盟選好を左右する。例えば、短期的に有利な経済的インセンティブや技術的便益が提示されれば、国家は既存の同盟関係を相対化して新たな協調を模索する。逆に、安全保障上の即時の脅威が高まれば、国家はかつての敵であれ短期的に協力することも辞さない。このような動学は、同盟を流動化させ、戦国時代のような機会主義的再編を可能にする。

第五に、武力が外交の主要手段となる条件を挙げる。武力が外交の主要手段となるのは、(1)軍事的優位が他のコストを上回る場合、(2)国際的制裁や非難が実行力を欠く場合、(3)地域的な勢力均衡が存在し、合理的計算の結果として短期的利益が魅力的な場合、である。現代においてこれらの条件が同時に満たされる局面は限定的だが、地域によっては発生し得る。例えば、地政学的に重要かつ大国間の直接関与が限定的な地域では、地域大国が武力による現状変更を試みるリスクが高まる。

第六に、同盟の流動性と武力の優位がもたらす帰結を検討する。一つは長期的な不安定化である。短期的に利得を得た国が次の段階で報復や連鎖反応に遭遇し、累積的な不信が拡大することで紛争が慢性化する。二つ目は経済的損失とグローバルな成長低下である。同盟流動性は投資や貿易リスクを高め、経済活動を萎縮させる。三つ目は制度的権威の低下だ。同盟が利害調整で容易に変わると、国際制度の正当性が揺らぎ、長期的な秩序の再構築が難しくなる。

第七に、現代で同盟の流動性と武力重視を防ぐための制度的・政策的方策を示す。まず透明性とコミュニケーションの強化が必要だ。危機時に誤解や情報の非対称がエスカレーションを招くため、信頼構築措置が不可欠である。次に、地域的安全保障枠組みの強化だ。地域プレイヤー同士の対話ルートと紛争解決メカニズムを整備することが、短期的な力行使を回避させる働きをする。三つ目に、経済的相互依存を安全保障政策と整合させることだ。戦略物資の多元化や透明な貿易ルールは、突発的な政治決定が経済を直撃するリスクを下げる。四つ目に、サイバーや情報空間の国際的ルール整備である。否認可能性が高い攻撃手段へのルールは、灰色地帯の利用を難しくする。

最後に結論として、かつての戦国時代のような「同盟流動的で武力が外交の主要手段となる時代」が完全に現代に再現される可能性は低いが、その要素は領域的・局所的に既に現れている。現代固有の抑止力や経済相互依存が全面逆戻りを防ぐ一方で、ハイブリッド戦や資源・技術の戦略化が同盟の流動性と武力の相対的優位を生み出す条件を作り出している。政策的には、制度の補強と同時に実効的な抑止・回復力を築くことで、戦国化の最悪シナリオを回避しつつ、現実的リスクに対処することが求められる。

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