コラム:西側と東側が全面戦争に発展した場合どうなる?
戦争回避のためには軍縮、外交的危機管理、信頼醸成措置が不可欠である。
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現状(2025年12月時点)
2025年末の国際情勢は複合的リスクの重層化が進み、冷戦期以来の核戦争リスクが再び世界的な注目を集めている。終末時計は複合リスク全体を反映しつつ「人類の存在を脅かす危機が連鎖し、重層化」していると評価される現状にある。核兵器は依然として大国間の抑止の中心であり、AI・自動化された兵器システムやサイバー攻撃、気候変動などが軍事・政治リスクを複雑化している。特に米中・米ロ関係の緊張、中国の軍事近代化、北朝鮮の核・弾道ミサイル能力はアジア太平洋における不安定要素として浮上している。非核国であっても、核抑止と安全保障の議論が国内政治に波及する傾向にある。こうした背景は全面戦争のリスクをゼロとは言えないレベルまで高めている。
西側(アメリカ・NATO・日本等)
西側諸国は、アメリカを中心としたNATO体制を基盤にしている。米国は世界最大の軍事支出と最先端戦力を保有し、核抑止の中心的存在として戦略核兵器を展開している。NATO加盟国は共同防衛原則(第5条)を基に集団的安全保障を形成し、欧州や中東、アジアにわたる広範な軍事プレゼンスを維持している。また日本は民主主義国家として米軍との同盟関係を深化させ、ミサイル防衛やサイバー防衛力の強化を進めている。
西側の軍事戦力は技術的優位性(第5世代戦闘機、空母打撃群、宇宙・サイバー能力など)を有し、兵站や補給網も世界規模で展開されている。西側諸国は経済力・テクノロジー力においても世界市場を支配する立場にあり、多国籍企業とサプライチェーンによってグローバル経済システムを維持している。
東側(主にロシア・中国・北朝鮮等)
東側の中心はロシアと中国であり、軍事的・地政学的な戦略目標は西側との勢力均衡、及び独自の地域権益確保に向けられている。ロシアはウクライナ侵攻を継続する中で高い核依存戦略を放棄しておらず、中国は核戦力の近代化と通常戦力の増強を同時に進めている。北朝鮮は核・弾道ミサイル能力を外交的圧力の道具として用いるとともに、アメリカや周辺同盟国に対する直接的な脅威として機能している。こうした東側勢力は、西側との価値観や政治体制の違いを背景に対立軸を形成し、軍備競争の一部を構成している。
全面戦争に至った場合どうなるか(結論)
結論として、西側と東側が全面戦争に発展した場合、人類文明は未曾有のシステム崩壊と破壊的影響に直面する。この規模の戦争は単なる地域紛争や制限戦争ではなく、グローバルな文明システムそのものを揺るがす総力戦となる可能性が高い。最悪シナリオでは核兵器の使用、経済・インフラの崩壊、社会システムの断絶が起こり得る。
文明の存続に関わる壊滅的な事態
全面戦争は従来の戦争概念を超え、文明基盤の破壊を伴う。核兵器の使用は都市の壊滅、放射能汚染、産業基盤の崩壊を誘発し、物流や社会サービスは機能喪失する。現代文明は電力網・通信インフラ・金融システム・供給網が密接に結びついた複合システムであるため、これが断絶されれば、国家統治や社会秩序そのものが崩壊する。
核戦争へのエスカレーションリスク
全面戦争は核兵器使用のエスカレーションを誘発するリスクが極めて高い。核抑止理論は第二次世界大戦後の戦略均衡を維持してきたが、誤算・偶発的衝突・AI・自動化されたコマンド&コントロールシステムは抑止の安定性を損なう可能性が指摘されている。研究者は、自律兵器とAI制御が誤発射や誤認識を引き起こすリスクを指摘し、核抑止体制自体の脆弱性を警告している。
核抑止の崩壊
核抑止は相互確証破壊(MAD: Mutually Assured Destruction)を前提とする均衡理論であり、核兵器使用を相手に躊躇させる効果を持つ。一方で、テクノロジーの発展や誤算はこの抑止構造を脅かす。AIによる早期警戒システムの誤作動やサイバー攻撃による誤情報送信は抑止崩壊の可能性を高める。また、指導者の心理的圧力や政治的誤判断も核戦争への誤ったエスカレーションを招く懸念がある。
「核の冬」
核兵器の大量使用は「核の冬」と呼ばれる気候現象を引き起こす可能性がある。核爆発によって都市火災や森林火災が大量の煤塵を大気中に放出し、太陽光を遮蔽することで地表気温が急激に低下するシナリオが科学的に議論されている。この気候変動は農業生産の壊滅的な減少をもたらし、全世界的な飢饉や生態系崩壊を誘発する。核冬は数ヶ月から数年にわたる可能性があり、その影響は核兵器の直接被害を凌駕する規模となる。
サイバー戦とインフラの麻痺
現代戦は物理的破壊だけでなく、サイバー空間での戦闘を伴う。全面戦争におけるサイバー攻撃は電力網、金融システム、通信ネットワーク、病院・輸送システムを標的とする。これにより都市機能は瞬時に停止し、社会秩序は崩壊する。それは核戦争級の被害と同等レベルの致命的影響を持つ可能性がある。サイバー戦は直接的破壊のない「静かな戦争」として国家機能を無力化する手段となる。
重要インフラへの攻撃
全面戦争では重要インフラが優先的標的となる。電力網・水道・交通網・港湾・空港が攻撃されると、都市生活は数日で停止する。電力・通信・物流が機能を失えば、医療サービスや食料供給も断絶し、国家統治は困難を極める。これらのインフラの復旧には長期間を要し、戦後復興の遅れは国家間格差を拡大する。
海底ケーブルの切断
グローバル経済のデジタルインフラである海底ケーブルが戦争によって破壊されれば、国際金融決済・データ通信は壊滅する。現代経済はインターネットとリアルタイムデータに依存しているため、この破壊は経済システムの根幹崩壊につながる。通信不能は金融取引停止、経済デフォルト、社会混乱を招く。
世界経済の完全な崩壊
全面戦争は世界経済を機能停止させる。戦時体制への移行、インフラ破壊、サプライチェーン断絶、金融市場崩壊は、国際貿易と投資を途絶させる。資本主義経済は信用と取引ネットワークに依存しており、これが断絶すると国際金融システムは瓦解する。世界的な経済崩壊は失業・飢餓・社会不安を増幅する。
サプライチェーンの断絶
世界は部品・エネルギー・食料のグローバルサプライチェーンに依存している。戦争による港湾封鎖・輸送停止・生産停止は供給網を断絶する。医薬品・半導体・エネルギーなどの供給が途絶えれば、国家は自給力の限界に直面する。現代の産業文明はこの「連鎖供給網」で成り立っているため、断絶は産業基盤の崩壊を意味する。
エネルギー・食料危機の深刻化
全面戦争はエネルギー供給を寸断し、食料生産・物流を破壊する。核冬や気候変動の影響と相まって食料危機が深刻化し、飢餓と社会不安を引き起こす。燃料不足は輸送・農業・医療サービスを停止させ、飢餓は政治的不安定化を加速する要因となる。
戦域の拡大
全面戦争は局地戦では終わらない。核兵器や長距離ミサイルが使用されると地理的制約が消失し、戦域は世界規模に拡大する。アジア太平洋、欧州、中東、そして北米大陸まで戦闘行為の影響が及ぶ可能性がある。事実、ロシア・中国・北朝鮮は米国本土核攻撃能力を保持し、西側も世界中で展開するため戦域は全球化する。
日本はどうなる?
日本は米国との同盟と地理的近接性から最前線に置かれる。北朝鮮の核・弾道ミサイル、中国の軍事力、ロシア太平洋艦隊の存在は日本に直接的な脅威を与える。全面戦争で日本は敵対勢力の攻撃対象となり得る。都市への核攻撃、ミサイル攻撃、サイバー攻撃、インフラ破壊が現実的シナリオとして挙げられる。結果として日本社会は都市機能停止、飢餓、社会秩序崩壊という深刻な危機に直面する。
インド太平洋の戦場化
全面戦争はインド太平洋を中心とした地政学的対立を戦場化する。台湾有事、南シナ海紛争、朝鮮半島有事が連動し、複数の戦域が同時に激化する。この地域は世界の製造業と物流の中心であり、戦闘が起こればグローバル供給網の大部分が失われる。
台湾有事や朝鮮半島情勢が連動
台湾と朝鮮半島は戦争リスクのホットスポットであり、全面戦争の触媒となる可能性がある。台湾海峡での軍事衝突は米中直接対決を誘発し、北朝鮮の核・ミサイル能力は韓国・日本の安全保障を危機に陥れる。これらの地域情勢は国際政治の不確実性を高める。
グローバルな供給網の消滅
世界経済が機能するための供給網はグローバル化した生産分業によって支えられている。戦争による供給網の崩壊は製造業・医薬品・食料・エネルギー市場を根底から破壊する。復旧には長い年月と莫大な資源が必要となる。
社会システムの崩壊
文明は法秩序・金融システム・医療システム・教育システムに支えられているが、全面戦争はこれら全てを同時に崩壊させる可能性がある。社会システムは相互依存的であり、一部の機能停止は全体の機能不全につながる。
核による文明の破滅
核戦争は文明の破滅を引き起こす可能性がある。核爆発そのものの破壊力に加え、核冬や環境汚染は人間社会の持続可能性を奪う。研究により、核戦争は人類の生存年数に深刻な影響を与える最大のリスクとして評価されている。
人類全体が退行を余儀なくされる可能性
全面戦争後の世界では、文明が数十年から数百年の退行を余儀なくされる可能性がある。これはインフラ・教育・文化・技術が失われ、再構築が困難になるからである。
今後の展望
戦争回避のためには軍縮、外交的危機管理、信頼醸成措置が不可欠である。核兵器の段階的削減、AI・自動化兵器の統制、国際的な危機対応フレームワークが必要であり、各国市民レベルでも危機認識の共有が求められる。
追記:西側と東側が全面衝突した場合の被害(シナリオ別推定)
1. 限定的衝突シナリオ
核兵器は使用されず、通常戦力とサイバー攻撃中心。経済損失は数兆ドル規模、インフラ被害は都市機能の一部停止、流通網の一部断絶。
2. 地域核使用シナリオ
局地的な核使用が発生し、都市壊滅・放射能汚染・避難。サプライチェーンは断裂し、数千万人の死者・負傷者。
3. 全面核戦争シナリオ
米露中核兵器の全面使用。死者数億〜数十億、地球規模の「核の冬」発生、世界経済崩壊、文明機能の喪失。
4. グローバルシステム崩壊シナリオ
インフラ・金融・供給網が壊滅し、国家統治が崩壊。核冬により農業壊滅、飢餓・社会混乱が数十年継続。
引用文献リスト(APA形式)
以下は、本検証で引用した研究・報告・科学的論文・国際リスク分析などの主要文献・資料である。可能な限り原典(査読論文・国際機関報告など)を明示している。
核戦争・核の冬・人類存続リスク
Jiang, J. H., Huang, R., Das, P., Feng, F., Rosen, P. E., Zuo, C., Gao, R., Fahy, K. A., & Van Ijzendoorn, L. (2022). Avoiding the Great Filter: A Simulation of Important Factors for Human Survival. arXiv.
核の冬理論(総説). (n.d.). Nuclear winter.
Lili, S., & Alan, R. (2022). Global food insecurity and famine from reduced crop, marine fishery and livestock production due to climate disruption from nuclear war soot injection. Nature Food. (論文 DOIへリンクあり)
核の冬に関するペンシルベニア州立大学のシミュレーション. (2025). ScienceAlert reporting on nuclear winter crop impacts.
核の冬・人類影響に関する科学的討議. Asahi Shimbun (2022, 2025). 「核戦争後の『核の冬』と食料危機」報道記事(複数)。
核戦争シミュレーション・死傷推計
Federal Emergency Management Agency. (1976). CRP-2B Crisis Relocation Program 2B (仮想核戦争シナリオシミュレーション).
Sandia National Laboratories. (1982). CRAC-II simulation report (被曝事故モデルと死傷推計モデル).
その他関連科学研究
Horowitz, M. C., Scharre, P., & Velez-Green, A. (2019). A Stable Nuclear Future? The Impact of Autonomous Systems and Artificial Intelligence. arXiv.
被害数値モデル(シナリオ別推定)
下表は、広く引用されている研究成果・専門家試算・シミュレーション結果 を基にした主要な数値モデルである。実際の結果は前提・条件によって変動するが、一定の危機評価モデルとして参照可能である。
1) 限定的核戦争シナリオ(数十〜数百発規模)
| 項目 | 推定値 | 備考 |
|---|---|---|
| 使用核弾頭数 | 50〜500 発 | 地域紛争レベルの核交換モデル |
| 直接死者 | 数百万人〜数千万人 | 即死・被曝死等の合計 |
| 間接死者(飢餓・疾病含む) | 2〜20 億人 | 「核の飢饉」シナリオの平均推定値 |
| 気温低下 | 数 ℃ | 一部地域で気候悪化 |
| 食糧生産減少 | 数十% | 限定的ではあるが深刻 |
| 社会機能障害 | 一部都市・地域 | インフラ破壊・物流混乱 |
解説:限定核戦争でも気候影響と食糧供給崩壊の連鎖により、世界的な飢餓と社会不安が顕著になる可能性があることが複数研究で示されている。
2) 中規模核戦争シナリオ(米ロ・米中など数千発規模に向かう場合)
| 項目 | 推定値 | 備考 |
|---|---|---|
| 使用核弾頭数 | 1,000〜4,000 発 | 全面戦争に近い大量交換 |
| 直接死者 | 1〜3 億人 | 主要都市・軍事拠点への打撃 |
| 間接死者 | 20〜50 億人 | 核の冬・食糧危機モデル |
| 気温低下 | > 5 ℃ | 地球平均気温の大幅低下予測 |
| 食糧生産比 | 10〜20% 程度まで低下 | 多くの主要作物が壊滅 |
| 世界経済損失 | 数十兆ドル以上 | グローバル経済崩壊規模 |
解説:最大規模の核交換では、気候変動・食糧全滅により文明基盤システムが崩壊し、20–50 億人規模の死者(飢餓・疾病含む)が試算されている。
3) 全面核戦争シナリオ(最大・文明崩壊モデル)
| 項目 | 推定値 | 備考 |
|---|---|---|
| 使用核弾頭数 | 4,000〜10,000 発 | 全核兵器庫使用シナリオ |
| 直接死者 | 3〜7 億人 | 人口密集地被害 |
| 間接死者 | 40〜60 億人 | 核の冬・飢餓・社会崩壊含む |
| 気候影響 | 氷期級の低下 | 数年以上の冷却・農業壊滅 |
| 地球人口生存率 | < 10% | 数十年単位の文明退行 |
解説:数千〜万発規模の核戦争では「核の冬」による数十億人規模の飢餓/死者、地球気候急変による農業崩壊が予測され、文明維持が困難な規模となる。
4) 経済・インフラ崩壊モデル(定性的評価)
| 項目 | 影響・推定 |
|---|---|
| インフラ破壊 | 電力・通信・交通システムのほぼ全停止 |
| サプライチェーン | 再構築不能レベルの寸断 |
| 金融市場 | 完全停止・信用崩壊 |
| グローバル貿易 | 途絶/長期停滞 |
| 医療・物流 | 致命的な機能不全 |
解説:核戦争後のインフラ損壊と通信・金融システム喪失は、短期的な復旧を不可能とし、国家レベルの統治能力・経済活動を破壊する。人類社会は「文明的生活水準」からの長期退行を余儀なくされる。
注記・解釈
上記モデルは 複数研究・シミュレーション・報告・学術議論 を統合したものであり、単一の予測値ではない。実際の影響は核兵器の数・目標・気候条件・国際協力状況などにより大きく変動する可能性がある。
核の冬理論そのものについては再評価の議論も存在するが(核実験の歴史データなどを踏まえた気候モデル再解析など)現時点では最悪事態を想定したリスク分析の重要性が指摘されている。
文明的損失は単なる生命被害に留まらず、社会システム・経済・文化的基盤全体の崩壊という観点から評価する必要がある。
