コラム:ベネズエラの石油権益をめぐる米ロの対立
2026年1月時点のベネズエラ情勢は、石油資源を巡る米国とロシアの対立が中心となって展開している。
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2026年1月初頭、米国は大規模な軍事作戦を展開し、ベネズエラの首都カラカスに対して電撃的な攻撃を実施した。その結果、ベネズエラ大統領ニコラス・マドゥロが拘束され、米国へ移送された。トランプ大統領はこれを「麻薬密輸および組織犯罪の摘発」と説明しつつも、同時にベネズエラの石油資源の管理と再稼働を明言した。米軍作戦は国際社会に波紋を広げ、国連憲章の武力行使禁止原則をめぐる論争を呼んでいる。ベネズエラの石油インフラは長年の経済崩壊、制裁、そして設備の老朽化により深刻な状態にあるが、埋蔵量では世界最大級を誇る。米国はこの資源を米企業による再投資と権益確保につなげようとしている一方、ロシアは自国の既存権益の維持を強く主張し、対立が激化している。これによって、世界のエネルギー市場、地政学的構図、市場分断のリスクが高まっている。
2026年1月の米軍による電撃的な軍事介入とマドゥロ大統領の拘束
2026年1月3日、米国は“Operation Southern Spear”の一環としてベネズエラ政府に対する軍事介入を実施し、マドゥロ大統領夫妻を拘束し、米国内へ移送した。米国はこの作戦について、麻薬密輸の阻止を名目にしつつ、ベネズエラの「不正な政権」を排除することを正当化した。一部報道では米国が同国の石油利権を再獲得する意図を明言したとされる。また、米国は複数の石油タンカーの拿捕や封鎖措置を強化し、ベネズエラ産原油の出荷先を米国の精製所や国内買い手に限定しようとしている。これにより、従来の供給ルートが遮断されると同時に、米国主導の管理体制が進行している。
ベネズエラの石油権益をめぐる米国とロシアの対立(総論)
ベネズエラは長年、政治的混乱と経済的破綻に直面しながらも、世界最大規模の石油埋蔵量を有している。この豊富な資源は、米国、ロシア、中国などの戦略的利害を引き付けてきた。米国にとってベネズエラの石油は、エネルギー安全保障と経済的利益の双方にとって重要であり、米国企業の関与はかつて20世紀後半まで続いた。ロシアは21世紀初頭以降、ベネズエラとのエネルギー協力を強化し、制裁下においても国営企業などを通じて共同事業を運営してきた。2026年に入り、米国は軍事力を背景に実質的な支配を目指し、既存の外国権益(特にロシアのもの)を排除しようとしている。一方ロシアは、既存の石油権益と影響力を守ろうと正当性を主張し、国際法の枠組みを盾に反論している。この対立は単なる資源権益争いを超え、地政学的な影響力競争となっている。
トランプ政権による「ベネズエラ掌握」とエネルギー覇権の再構築
トランプ政権は2025年以降、中南米における米国の「勢力圏」回復を掲げ、モンロー主義の理念を公言した。この戦略の中心がベネズエラであり、同国の石油資源の支配がその象徴とされている。米国政府高官はベネズエラの石油販売益を米企業と共有し、現地経済再建に充てる計画を示している。これにより、米国の国際的なエネルギー覇権が再構築される可能性がある。また、米国はベネズエラ国営PDVSAとの協力体制を再構築し、シェブロンやエクソンモービルなどの石油大手企業への投資誘致を進める方針である。
権益の奪還
米国はベネズエラの軍事行動と連動して、同国の石油セクターからの収益流を米国側の管理下に置く意向を示している。具体的には、輸出管理、タンカー拿捕、裁判所による押収令状申請などを通じて、ベネズエラ産油の流通を統制している。これによって、従来中国やキューバ向けに供給されていた原油流通が大幅に制限され、米国中心の供給網への転換が進んでいる。一部報道では米国がベネズエラから数千万バレルの原油を購入し、米国の精製所や市場に供給する契約を調整中であるとの情報もある。
米国企業の優遇
トランプ政権は、石油セクター再建の中心に米国企業を据える計画を進めている。液化天然ガス(LNG)や重質原油の生産・輸出に強みを持つ米国企業は、長年の制裁と投資停止を経て低迷するベネズエラ石油インフラに対して投資することが期待されている。これらの企業は米国政府の支援によって契約を優先的に獲得する可能性が高い。
ロシアの既得権益と影響力の排除
ロシアはこれまでロスザルベジネフチ(Roszarubezhneft)を通じ、PDVSAとの共同事業に参加してきた。これらの権益はロシア国家が所有し、国際法とベネズエラ国内法に基づき取得されたとされる。しかし、米国の軍事行動と新政権下での再編によって、ロシアの既得権益は不透明化している。ロシアは公式声明で権益の継続を主張する一方で、米国による支配の合法性を否定している。
制裁回避の枠組み
ベネズエラとロシアはこれまで米国の制裁を回避するため、タンカーによる“ダークフリート(影の船団)”や第三国を経由した取引を行ってきた。このような非正規の供給網は2026年1月以降、米国の圧力と拿捕措置によって大きく阻害されている。米国は裁判所による押収令状やブロック体制によって、制裁対象タンカーの活動を制限している。
米国の排除方針
米国は、ベネズエラの石油産業からロシアと中国の影響力を排除することを明確に打ち出している。それは、米国のエネルギー市場への供給確保だけでなく、競合する大国の戦略的足場を弱体化させることを意味している。米国は現在の政権下でベネズエラの資源政治を自国のルールに取り込む方向性を追求している。
対立の核心:地政学的・経済的影響
この米露間の対立の核心は、単なる資源権益を超えて、世界秩序、国際法、勢力圏の再定義をめぐる地政学的競争である。米国は西半球における影響力の回復を目指し、ロシアは既存の同盟関係と資源権益の維持を図る。ベネズエラの石油が世界供給に占める比率は潜在的に大きく、その支配権は国際市場に大きな影響を与える可能性がある。
市場の分断
米露対立は、石油市場の分断を加速させる可能性がある。米国側の供給とロシア側の供給は異なる市場ルートを求めており、これが世界原油価格や保険市場、タンカー航行リスクの増大といった形で反映されている。
インフラ再建の主導権
ベネズエラの石油インフラは深刻な劣化状態にあり、再建と維持に大規模な投資が必要である。米国はインフラ再建を通じて影響力を強化しようとしているが、旧権益者や他国企業の参加をどう調整するかが今後の焦点となる。
今後の展望
今後の展望として、米国はベネズエラの政治・経済の再統合に向けた政策を推進し、石油産業の復興を図るだろう。一方、ロシアは外交的、法的手段を通じて権益維持を模索し、中国など他国との関係を活用する可能性がある。米露間の緊張は国際社会全体に波及し、G7や国連、安全保障理事会における議論を引き起こすだろう。
まとめ
2026年1月時点のベネズエラ情勢は、石油資源を巡る米国とロシアの対立が中心となって展開している。米国は軍事力と経済制裁を背景に影響力を回復しようとしており、ロシアは既存の権益維持を主張している。この対立は地政学的、経済的、国際法的側面を持ち、今後の国際エネルギー市場と世界秩序に大きな影響を及ぼす可能性が高い。
参考・引用リスト
米露の石油資産権に関する対立とロシアの主張 Reuters
米国の封鎖と原油輸出の激変 The Wall Street Journal
Roszarubezhneftの権益継続表明 Business Insider
ロシア石油企業の権益主張(ノルウェー報道)
Reuters:ベネズエラの地政学的戦略転換
米国の原油販売契約と米企業の導入 New York Post
追記:ロシアとベネズエラの関係、戦略的補完関係としての同盟構造
ロシアとベネズエラの関係は、単なる二国間の経済協力ではなく、対米牽制を基軸とした戦略的補完関係として形成されてきた。特にチャベス政権以降、ベネズエラは反米・反新自由主義を掲げる外交路線を明確にし、ロシアはこれを西半球における地政学的足場拡大の好機と捉えた。
ロシアにとってベネズエラは、以下の三点で重要な意味を持つ。
第一に、エネルギー分野における戦略的投資先である。ロシア国営石油企業(Rosneftおよびその関連会社)は、ベネズエラ国営石油会社PDVSAとの合弁事業を通じて、オリノコ・ベルト地帯の超重質油開発に深く関与してきた。これらの権益は、ロシアが制裁環境下でも原油供給量を調整し、価格形成に影響を及ぼすための「地政学的レバー」として機能してきた。
第二に、軍事・安全保障協力である。ロシアはベネズエラに対し武器供与、軍事訓練、情報協力を提供し、象徴的には戦略爆撃機の寄港や合同演習を実施してきた。これは米国の裏庭とされてきた地域において、ロシアが軍事的存在感を誇示する手段であった。
第三に、国際秩序観の共有である。両国は「主権国家への内政干渉反対」「制裁の違法性」といった論点で一致しており、国連や多国間フォーラムにおいて相互に支持を与えてきた。ベネズエラにとってロシアは、国際的孤立を回避するための重要な後ろ盾であった。
このように、ロシアとベネズエラの関係は、経済合理性のみならず、反覇権的世界観を共有する政治的同盟として構築されてきた点に特徴がある。
ベネズエラの石油市場からロシアと中国が排除された場合の影響
仮にベネズエラの石油市場からロシアと中国が排除される事態が現実化した場合、その影響は地域的・世界的に極めて大きい。
ロシアへの影響
ロシアにとって最大の打撃は、西半球における影響力拠点の喪失である。ベネズエラは、ロシアが「グローバル・エネルギー大国」であることを示す象徴的存在であり、その喪失は地政学的後退を意味する。
経済面では、直接的な投資損失に加え、以下の間接的影響が想定される。
制裁回避ネットワークの縮小
原油取引における交渉力の低下
OPECプラス内での発言力相対低下
特に重要なのは、ロシアが非西側市場を結節点とする「並行エネルギー経済圏」を構築する戦略にとって、ベネズエラが欠かせないピースであった点である。その排除は、ロシアのエネルギー外交をよりユーラシア内向きに限定する結果をもたらす。
中国への影響
中国はロシア以上に実利的な関与を行ってきた。中国国家開発銀行や中国石油天然気集団(CNPC)は、ベネズエラに対して巨額の融資を行い、その返済を原油で受け取る「石油担保融資モデル」を確立していた。
中国が排除される場合、以下の影響が想定される。
エネルギー供給源の多角化戦略への打撃
対中南米投資モデルの信頼性低下
米国主導のエネルギー秩序への従属圧力増大
特に、中国にとって問題なのは、中南米が「安全な非同盟的資源供給地」でなくなる点である。これはアフリカ、中東、ロシアに依存する度合いを高め、中国のエネルギー安全保障を脆弱化させる。
ベネズエラ自身への影響
一方、ベネズエラ側にとっては短期的資金流入の増加が見込まれる可能性があるが、長期的には以下のリスクを伴う。
交渉相手の選択肢喪失
エネルギー政策の主権制限
資源ナショナリズムの形骸化
ロシア・中国の排除は、結果的にベネズエラを単一覇権国依存型の資源国家へと転換させる危険性を孕む。
南米最大のエネルギー拠点を米国が抑える意味
ベネズエラは、確認埋蔵量、地理的位置、精製適合性の観点から見て、南米最大かつ戦略的なエネルギー拠点である。米国がこれを掌握する意味は、単なる原油確保を超えた多層的な意義を持つ。
エネルギー安全保障の再定義
米国はシェール革命以降、表面的にはエネルギー自給を達成したとされるが、重質原油については依然として外部供給への依存が存在する。ベネズエラ産重質油は、米国湾岸の精製所と高度に適合しており、輸送距離も短い。
これは、以下を意味する。
中東依存度の相対的低下
海上輸送リスクの縮小
価格変動耐性の向上
すなわち、ベネズエラ掌握は米国エネルギー安全保障の質的転換をもたらす。
西半球秩序の再構築
地政学的には、これはモンロー主義の現代的再解釈である。米国が南米最大の資源拠点を抑えることは、以下の効果を持つ。
ロシア・中国の西半球足場排除
中南米諸国への政治的示威
地域秩序における規範設定権の回復
特に重要なのは、エネルギーを通じた影響力投射であり、これは軍事基地以上に持続的かつ構造的な支配力を生む。
国際エネルギー市場への波及
米国がベネズエラを掌握することで、世界市場は以下のように再編され得る。
米国主導の供給圏
ロシア・中東主導の供給圏
中国中心の需要圏
これは、単一市場からブロック化された市場への移行を加速させ、価格形成、通貨決済、保険・輸送制度にまで影響を及ぼす。
最後に
ロシアとベネズエラの関係は、反覇権的同盟として構築されてきたが、その排除はロシアと中国双方にとって地政学的後退を意味する。一方で、米国が南米最大のエネルギー拠点を掌握することは、エネルギー安全保障、地域秩序、国際市場構造の三層にわたる戦略的優位を確立する行為である。
この構図は、ベネズエラを単なる資源国家ではなく、21世紀型大国間競争の結節点として位置づけるものであり、今後の国際秩序を読み解く上で極めて重要な事例となる。
