コラム:トランプ政権の国家安全保障戦略、何が変わった?
2025年版の国家安全保障戦略は、トランプ政権2期目の政策基盤を明確に反映した文書であり、従来の米国安全保障政策とは大きく異なる方向性を提示している。
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2025年12月5日、ホワイトハウスがトランプ政権の最新の国家安全保障戦略(National Security Strategy、以下 NSS)を公表した。これは国家の安全保障・外交・経済・軍事政策の基本方針を示すもので、政権2期目として初めてとなる戦略文書である。政策全体を貫く基盤は「アメリカ第一(America First)」優先の原理であり、従来のグローバル主義的な政策からの方向転換を明瞭化している。
1.基本的な戦略観
NSS冒頭は、アメリカの戦略が過去数十年で「行き過ぎたグローバル主義」になったと批判し、従来の戦略の失敗を指摘することから始まる。特に冷戦後の外交政策は「世界の永続的な支配」を追求しすぎ、国家利益の本質を見失ったと断じている。戦略は次のような認識に立つ。
アメリカの独立主権と安全の継続こそ最重要の目標であること
国家の基本的利益は国民・領土・経済・生活様式の保護にあること
軍事攻撃や有害な外国の影響から国家を守ることが最優先
国境管理や移民・治安システムの統制は国家主権の不可欠な部分であること
国家インフラの強靭さと軍事力の優位性確保が必要
テクノロジーとミサイル防衛を含む高度な軍備が不可欠
強い経済は国家安全保障の基盤であること
これらは、アメリカの安全と繁栄を維持するための基礎的な価値観と目標を示している。
2.戦略の核心原則
NSSは「原則」「優先事項」「地域別戦略」という3つの構成を中核とする。以下に詳細を整理する(文書内容と外部解説より)。
(1)主権と尊厳の擁護
戦略は国家主権の明確な強調から始まる。アメリカは自国の主権を擁護し、それを侵害しようとする国際機構や勢力に対して毅然とした姿勢を取る。これは国家の意思決定の独立性を損なう国際的圧力や外国勢力の影響操作などを排除することを目指す内容である。
(2)勢力均衡の維持
トランプ政権は、いかなる国もアメリカの利益を脅かすほどの覇権的支配力を持つことを許さないと明言する。一見すると従来の「抑止戦略」に似ているが、この戦略は「米国が世界の単独覇者になる」という考えを否定し、むしろ勢力均衡を重視する立場を取る。
(3)同盟の再定義
同盟関係は完全に否定されているわけではないが、これまでより厳格な「負担分担」を求める。特に欧州やアジアの同盟国に対しては、自らの防衛力と費用負担の増加を要求する内容となっており、米国だけが負担を担う時代の終焉を宣言している。
3.戦略の優先事項
戦略の「Priorities(優先事項)」は、アメリカの安全保障目標を達成するために何を重視するかを示す。主要なポイントは以下の通り。
① 国家防衛の強化
アメリカは敵対勢力からの直接的な軍事攻撃、外国情報機関の諜報活動、破壊的な影響工作、麻薬・人身売買ネットワーク、破壊的プロパガンダなどあらゆる脅威から国家を守る必要があると明示している。
② 国境と移民政策の統制
移民と国境管理が国家主権と直結するという認識から、合法・非合法を問わずアメリカへの入国と通過に関する絶対的な制御を求めている。また、移民現象自体を「秩序あるもの」に止め、他国と協調して流入制限を目指す姿勢を示している。
③ 軍事力の先進化と抑止力の強化
アメリカ軍を「世界で最も強力かつ技術的に先進的な軍隊」とするために、軍備増強、訓練強化、革新的技術の導入を重視する。また、核抑止力とミサイル防衛(例:アメリカ本土防衛システム「ゴールデンドーム」)の近代化を進める。
④ 経済の強靭化
戦略で重視されるのは、アメリカ経済の「ダイナミズム」と「革新性」である。経済は国家の繁栄と安全保障の基礎であり、国内産業を強化する政策が盛り込まれている。また、外国依存からの脱却や供給網の強靭化が含意される。
4.地域別戦略の重心
NSSは地域ごとに優先戦略を明示しており、全世界を同一視するのではなく、戦略的価値に応じて優先度を設定している。
(1)西半球(Western Hemisphere)の優先
従来のNSSが中東やアジア太平洋を強調していたのに対し、2025年版は西半球の安全を最優先する方向へ大きく舵を切った。アメリカ本土に近い地域での勢力均衡の維持や脅威の抑止を優先し、特にカリブ海や南米における影響力維持を重視する。
この考え方は「アメリカが自国周辺を重視し、他地域は各自の責任で対応すべきだ」という孤立主義的な傾向を反映していると評価されることもある。
(2)アジア・中国問題
インド太平洋地域は「次世紀の主要な経済的・地政学的戦場」と位置づけられ、中国との競争に勝つ必要性を強調している。これは米中対立を念頭に置いた地域戦略であり、台湾海峡の現状維持を支持すると明言している。日本や韓国に対しては防衛費増額を求め、負担分担を強化する方針を示した。
(3)欧州
欧州に対しては従来のような強力な支援や価値観共有とは距離を取り、「民主主義の後退」や人口動態の変化など批判的な分析を含めつつ、自立的防衛力の強化を促す姿勢が見える。欧州での負担分担と自律性が期待され、米国主導の秩序維持は限定的になる可能性が指摘されている。
(4)中東・アフリカ
中東は戦略文書の中で相対的に低い優先度とされ、地域紛争の解決や安定化への直接関与は限定的になる可能性が示唆される。アフリカも同様に、地域の主導的な発展と安全保障の強化を現地国や国際協力主体に委ねる姿勢が比較的強い。
5.従来戦略との違いと評価
今回のNSSはバイデン政権期に比べて以下のような転換が顕著であると外部分析は指摘する:
① グローバル主義から主権重視へ
従来のNSSは国際秩序や価値の普及を重視していたが、2025年版は主権と利益の明確化を最優先とし、「アメリカ主導で国際秩序を形成する」立場から一線を画している。
② 同盟国への負担要求の強化
日本や韓国を含む同盟国に対して、防衛費の増額を求める内容が盛り込まれ、従来より厳格な「負担分担」の原則を打ち出している。
③ 中国・ロシアへの取り扱い
中国は経済的対抗として認識しつつも、軍事的な脅威としての直接的な敵視の表現は控えめであり、一方でインド太平洋での競争を重視しているという評価が出ている。またロシアについても「主要脅威」と直接名指しする表現はないと指摘される。
④ 戦略の曖昧性と議論の余地
外部の分析では、本NSSは従来の戦略のような明確な国際秩序形成の意図を欠く部分があり、かえって議論を呼ぶ可能性があるとの評価もある。戦略が広範囲のテーマを包含しつつ一貫したビジョンを示し切れていないという批判も存在する。
6.国内的・政治的含意
NSSの方針は国際的安全保障政策にとどまらず、国内政治とも密接に結びついている。
移民・国境管理の強化はトランプ政権の政治基盤に強く訴えるテーマであり、戦略文書でも強調されている。
経済安全保障と産業強化は、貿易・投資政策全体に影響を与える。政権は製造業や半導体、サプライチェーン強化を重視しており、経済安全保障は外交的・安全保障的要素と密接に関連している。
同盟国に課される負担増は国際関係に摩擦を生む可能性があるが、政権内ではこれを「公平な貢献」と位置づける。
7.まとめ
2025年版の国家安全保障戦略は、トランプ政権2期目の政策基盤を明確に反映した文書であり、従来の米国安全保障政策とは大きく異なる方向性を提示している。まとめると以下の通りである:
アメリカ第一主義(America First)を戦略の中心に据える
国家主権と自国の安全を最優先とするリアリズム志向
軍事力・経済力・国境管理の強化を基軸にする戦略
西半球優先、負担分担を求める同盟関係の再定義
従来の国際秩序形成役割からの脱却と地域ごとの戦略的再構築
このNSSは従来のグローバル戦略からの明確な方向転換を示す文書であり、米国の安全保障観に新たな枠組みを提示している。今後、これが具体的な政策実行にどのように反映されるかが注目される。
国家安全保障戦略 章ごとの詳細日本語訳(主要部分)
以下は原文PDFの構成を元に抜粋要約+逐語訳を交えた整理である。
I. Introduction — アメリカの戦略とは何か
1.アメリカの「戦略」が誤った方向へ進んだ理由
アメリカは冷戦後、世界のあらゆる地域と問題を自国の安全保障と結びつけすぎた結果、「永続的な世界支配」を追求する誤った戦略に走ったと指摘している。国家戦略は、望む「目的」とそれを達成するための「手段」を正確に結びつけるべきだが、この数十年はその原則を逸脱したと断じている。
過去の安全保障戦略は、曖昧な理想や願望の列挙に終始し、本質的な国益を見失っていたと批判する。また、国際機関への過度の依存や主権の希薄化、大規模な福祉・規制国家と軍事外交複合体の両立が米国の基盤を損なったと位置づけている。
II. What Should the United States Want? — 米国は何を望むべきか
1.我々が全体として望むもの
最初の明確な目的は、「米国の独立した主権国家としての存続と安全の確保」である。国民、領土、経済、生活様式を軍事攻撃や外国勢力の影響操作、産業的・文化的脅威から守ることが中心的使命であるとされる。
具体的には:
国境管理と移民統制の完全な掌握
重要インフラの強靭化
世界最強の軍事力の維持と近代化
核抑止力とミサイル防衛(例:本土防衛のゴールデン・ドーム/Golden Dome)
世界最強かつ革新的な経済の維持
科学技術の優位と知的財産の保護
米国の「ソフトパワー」の維持と影響力行使
これらはすべて「アメリカ第一」を中心に据えた国家の核心的利益と位置づけられている。
III. What Are America’s Available Means to Get What We Want? — 目的達成の手段
ここでは、米国が持つ資源・能力・制度的な手段が列挙されている。軍事力、情報機関、経済的影響力、科学技術力、外交的ネットワークなどが含まれるが、詳細は「手段」の枠組みとして総合的にまとめられている。原文には各セクションごとの具体的な手段論として掲げられている。
IV. The Strategy — 戦略本体
この章は大きく3つに分かれている:
Principles(原則)
Priorities(優先事項)
Regions(地域ごとの戦略)
1.Principles — 戦略の原則(詳細)
戦略の原則は、国家戦略全体の基礎となる価値判断や指導理念を示している。具体的な原則は公式文書で列挙されているとされ、その中心は以下の通りである:
国益の明確な定義と焦点化:曖昧な普遍主義ではなく、国家固有の利益を優先する。
力による平和:抑止力と軍事的優位性を戦略の中核に据える。
非介入主義的態度:無用な他国の内政・紛争への干渉を避ける。
勢力均衡の重視:任意の地域での覇権的支配を許さない。
国家主権と尊厳の擁護:国際機関や圧力集団による主権侵害を排除する。
国内労働者・産業優先:国益は国内産業・労働力の強化と密接に関連する。
このように、従来の国際秩序重視型戦略から「国家優先の現実主義」へとシフトしている。
2.Priorities — 戦略の優先事項
主な優先事項は以下の通りである:
① 国境と移民制御
移民は単なる社会政策ではなく国家安全保障の中心的な脅威と見なし、国境管理を最重要課題として位置づける。これには合法・非合法両面の統制強化が含まれ、他国との協調によって移民流入を制限する考えが示されている。
② 軍事力の近代化と抑止の強化
米軍は世界最強の軍隊であり続けるべきとされ、特に核抑止力・ミサイル防衛の強化が強調される。これは中国・ロシアなどに対する抑止の基礎である。
③ 経済安全保障
経済は国家力の基盤とみなされ、サプライチェーン強靭化、国内産業の育成、技術的優位性の保持が重視される。また、外国投資と国家安全保障の整合性に関する制度的枠組み強化も進められている。
④ 負担分担の再定義
同盟国やパートナーには防衛負担の増加と自立的な安全保障体制の強化が求められる。従来の米国一辺倒の安全保障体制からの脱却を図る。
3.Regions — 地域別戦略
地域別戦略では、各地域ごとに異なる優先度と方向性が示されている。以下は主要地域の概要である。
A.西半球(Western Hemisphere)
最も優先度が高い地域として扱われ、現代版モンロー主義ともいえる戦略が打ち出されている。米国は自国内および周辺地域の安全保障を最優先し、移民・麻薬対策や勢力の均衡を重点的に扱う。軍事的プレゼンスの拡大も示唆されている。
B.アジア
インド太平洋地域は「次世紀最大の経済的・地政学的戦場」とされ、中国との競争が核心的課題と位置づけられている。台湾海峡の現状維持支援と同盟国(特に日本・韓国)の防衛費増強要求が明確にされている。
C.ヨーロッパ
従来の協調重視の姿勢は後退し、欧州は自らの防衛と負担分担を強化すべきだという立場が強調されている。移民や人口動態、自由主義的価値観への批判的論調も報じられた。
D.中東
重要事項は経済的・エネルギー的利益の長期的確保に重点が置かれ、政治体制改革を強く推進する方向性から距離を置く姿勢が示されている。
E.アフリカ
地域協力や経済的関与を通じて安定化を図るものの、他地域に比べて明確な軍事的戦略は限定的とされる。
政策分野別ポイント分析
以下では、主要政策分野別に戦略が何を掲げているかを整理する。
① 同盟政策の分析
NSSでは同盟関係を否定はしていないが、従来の「米国が大部分の負担を担う安全保障体制」から脱却する立場を示している。
同盟国には防衛費負担の増加、自主的安全保障能力の向上が求められ、米国の安全保障保障の恩恵を受けながらも自国の安全をより積極的に担保する必要があるとしている。
特に日本・韓国への防衛費増加要求は顕著であり、インド太平洋地域の抑止力強化に同盟を活用する意図が読み取れる。
② 中国政策の分析
この戦略では中国を「競争相手」と位置づけ、インド太平洋地域での米国の勝利を目指す必要性を明確にする一方で、文書全体が過度な敵視よりも実利的競争に重きを置いた内容となっている。台湾海峡の現状維持支援は維持される一方、武力対決の回避も示唆されている。
また、技術・産業分野での競争も重要視され、投資規制や供給網強靭化を含む経済安全保障上の対処が明示されている。
③ 経済安全保障の分析
経済は国家力の基盤とされ、サプライチェーン強靭化、国内産業の保護・育成、外資・国内投資の安全保障視点からの管理強化が重視されている。外国からの投資は受け入れつつも、国家安全保障と整合性を強化する施策が進められている。
総括
2025年版国家安全保障戦略は、従来のグローバル主義的戦略から明確に距離を置き、国家主権・主権的利益の最優先を掲げる現実主義戦略である。各地域・政策分野では以下が特徴的である:
西半球優先の防衛強化と影響圏維持戦略
インド太平洋における中国との競争重視
負担分担を求める同盟関係の再定義
欧州や中東への関与の限定と自立性の強化
経済安全保障の新たなフレームワーク確立
これらは従来の米国外交・安全保障政策の枠組みと大きく異なり、国家主権、国内回帰、現実的利益優先の戦略設計として評価される。
国家安全保障戦略(NSS)比較:トランプ政権版 vs バイデン前政権版
1.基本的な戦略観の違い
トランプ政権2期目 NSS(2025年版)
戦略の中心に「アメリカ第一主義(America First)」を据えることが明記されている。米国の主権、国益、国内安定が最優先され、国際機関・多国間主義的枠組みへの依存を低く評価し、国家主権を強調している。
グローバルな関与は限定的なものとして位置づけられ、従来の“世界の秩序形成者”としての役割から距離を置く内容となっている。一部では「内向き安全保障戦略」と評されることもある。
戦略はスリム化され、重点が絞られていることが特徴であり、従来の緻密な分析よりも政権理念が前面化しているとの分析もある。
「国益を守る」として、米国内の安全保障・経済・文化的安全を重視し、外部の介入主義的な役割を抑える方向にシフトしている。
バイデン前政権 NSS(2022年版)
より伝統的な国際秩序リーダーシップの維持・強化を重視し、米国の外交・安全保障政策を「世界の安定と繁栄の維持」として位置づけている。
国際社会との協調、同盟関係の強化、多国間協調の重視が中心となっている。バイデン政権の戦略は「共有された課題(shared challenges)」への対応と国際秩序の形成を同時に目指すという認識に立っている。
軍事的抑止力や安全保障の強化を掲げつつも、民主主義・人権などの価値観を外交政策に組み込むことが重視された。
経済・環境・技術・気候変動などの多層的な政策課題を国家安全保障と結びつける包括的なアプローチを取っている。
要点(基本戦略観)
トランプ:主権・国内優先・限定的グローバル関与
バイデン:国際秩序の維持・多国間協調重視
2.外交・安全保障の焦点の違い
(A)同盟関係・多国間協調
トランプ政権2期目(2025)
同盟国との関係を「負担分担」の軸で再定義し、同盟国に防衛費や役割の増加を強く求める姿勢が鮮明。
多国間協力・国際機関の機能に対しては批判的で、米国の利益に対して「公平な扱い」を要求する立場を取る。
バイデン前政権(2022)
NATOやアジア太平洋の同盟・パートナーシップを積極的に強化し、国際秩序の支柱として同盟関係を重視した。
米国の外交政策は「同盟国と共にルールを形成する責任」を掲げ、国際機関との協調を戦略の一部としている。
同盟観
トランプ:負担分担の強制・協調より条件付き共存
バイデン:協調重視、同盟中心主義
(B)グレートパワー競争(中国・ロシア)
トランプ政権2期目
中国との競争は地域優先(インド太平洋)で重視されているものの、焦点が二大国競争そのものから“米国利益への影響”へ転換しており、中国脅威の描き方が相対的に限定的との指摘がある。
ロシアについては批判よりも対話・関与の余地を示唆する記述があるとの分析(欧州・ロシア関係の記述が特異である評価もある)。
バイデン前政権
中国を「戦略的競争相手」と明確に位置づけ、米中の競争が米国の安全保障の中心的挑戦であるとした。
ロシアについてもウクライナ侵攻を受けて「差し迫った脅威」と明記し、抑止と支援の継続を戦略に盛り込んだ。
大国競争観
トランプ:利益・地域重視、抑止重点の変化
バイデン:明確な大国競争の構造に基づいた戦略
(C)地域戦略
トランプ政権2期目
NSS2025では西半球への優先シフトが顕著で、モンロー主義的な立場が再浮上していると分析されている。
インド太平洋も重視はされるが、“地域全体の挑戦”としてではなく、中国との競争に勝つことが米国繁栄の条件と定義されている。
欧州についてはやや距離を置き、地域内の自助努力を求めるトーンが見られるとの報道もある。
バイデン前政権
インド太平洋や欧州、中東など広範な地域に戦略的関与を維持しながら、多地域協調的・価値共有基盤のもとで対応する姿勢が明記された。
地域戦略の重心
トランプ:西半球優先、他地域は条件付き対応
バイデン:世界各地域での積極的参与
3.政策重点の違い
(A)経済安全保障と国内強化
トランプ政権2期目
経済安全保障を戦略の中心に置き、国内産業の保護・再工業化、技術・重要資源の戦略的確保を強調する。
移民制御・国境管理も国家安全保障の中心課題として明示されている。
バイデン前政権
経済安全保障も重視されるが、気候変動や環境、労働・人権保護など幅広い課題と結びつける包括戦略となっている。
(B)価値観と理念
トランプ政権2期目
NSS全体が「国家主権・利益優先」を明示し、伝統的な価値観(自由主義・人権)の普遍的推進は戦略の中心ではなくなっているとの分析が出ている。
バイデン前政権
民主主義・人権・法の支配など価値観を外交安全保障政策の一部として位置づける構造的アプローチを取った。
4.まとめ:主要な相違点
以下は両戦略の対照的なポイントをまとめたものである:
| 比較項目 | トランプ政権2期目 NSS (2025) | バイデン前政権 NSS (2022) |
|---|---|---|
| 基本理念 | 主権重視・アメリカ第一 | 多国間協調・国際秩序維持 |
| 同盟関係 | 負担分担・条件付き協力 | 同盟中心の協調重視 |
| 大国競争 | 地域的・利益ベース重視 | 中国・ロシアとの競争枠組み |
| 地域戦略 | 西半球優先・限定的関与 | 各地域での積極的参与 |
| 国内政策 | 経済安全保障強化 | 社会的課題含む包括戦略 |
| 価値観の扱い | 限定的・国家利益優先 | 民主主義・人権重視 |
5.付記:評価・批評の違い
トランプ版NSSは、従来の米国戦略と比べて「世界的リーダーシップの再検討」を明確に打ち出したとの評価がある一方、欧州など同盟国側からは批判的な反応も出ている。
バイデン前政権版は国際協調・同盟維持を重視する一方、国内の多様な課題(気候・社会政策)まで安全保障に結びつけた点で評価と批判が交錯した。
