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コラム:アメリカ建国250年、第2次トランプ政権とNATOの関係

トランプ政権とNATOの関係は、従来の同盟秩序を根本から再交渉する試みとして特徴づけられる。
2026年1月21日/スイス、ダボスの世界経済フォーラム会場、トランプ米大統領(右)とNATOのルッテ事務総長(AP通信)
現状(2026年2月時点)

2026年2月時点において、米国とNATOの関係は深刻な緊張と再構築の過程にある。特に、トランプ大統領によるデンマーク自治領グリーンランドをめぐる圧力問題が加盟国間の亀裂を招いている。これは単なる領土問題に留まらず、同盟の根幹である集団防衛(第5条)への信頼を揺るがす事態として欧州側に衝撃を与えている。欧州は一時的に米国の関税撤回や交渉合意が成立したものの、対米不信が根深く残っている。加えて、欧州諸国は自国防衛力の強化や自律的な安全保障構想を模索し始めている。2026年の北極圏ミッション計画は、NATOが米国の圧力を和らげつつ、共通の安全保障目標で協力する一例である。


第2次トランプ政権とNATOの関係(総論)

2025年1月20日に発足した第2次トランプ政権は、大西洋同盟に対して従来の多国間主義的関与ではなく、実利主義(トランザクショナル)を軸にした再調整を試みている。この傾向は第1次政権期から見られた負担共有論の延長線上にあるが、今回は単なる防衛費負担の要求を超え、同盟秩序そのものの再交渉を目指す姿勢として現れている。これには、NATO加盟国へ防衛費の大幅増加を迫る圧力、集団防衛義務の条件付け、そしてウクライナ支援政策の再枠組みなどが含まれる。欧州側は懸念を抱きつつも、一部の要求を受け入れる形でNATOの内部改革を進めている。これは同盟の存続をめぐる重大な分岐点であると位置づけられる。


第1次政権時を上回る「実利主義(トランザクショナル)」

トランプ政権の外交は、従来の「国際秩序維持」よりも米国の経済・安全保障上の利益を直接的に追求するスタイルを強調する。これはトランザクショナル外交とも呼ばれ、NATOにおいては以下の特徴を伴う。

  • 負担共有の強調:米国が過大な軍事負担を負っているとの主張を繰り返し、加盟国にGDP比5%以上の防衛支出を要求したこと。これは2025年ハーグ首脳会合で合意された新目標にも影響を与えた。

  • 条件付き同盟義務:防衛義務(第5条)が一部加盟国の防衛費基準達成に依存すべきとの発言や解釈変更の可能性の表明。これは同盟の基本原則への挑戦でもある。

  • 地域的政策の優先順位見直し:国家安全保障戦略(NSS2025)では西半球政策など他地域重視が明確化され、欧州の課題への対応が相対的に低下した面がある。

このようなアプローチは同盟内部に不安と摩擦をもたらしている。


主なポイント

以下は、トランプ政権とNATO関係の重要な要素である。

  1. 防衛費の再定義:NATO加盟国に対しGDP比5%以上への段階的増加を求め、従来の2%基準を大きく引き上げた。これにより、同盟内での資源配分や軍備態勢が再検討されている。

  2. 集団防衛義務の条件付け:トランプ政権は、第5条の発動条件として防衛費負担や役割分担の履行を事実上要求し、同盟の相互信頼を再交渉する姿勢を示した。

  3. ウクライナ支援政策:従来の継続支援の地位づけから、欧州側の負担増を強調し、支援の枠組み再構築を促した。これは欧州の安全保障自立の議論とも関連している。

  4. 外交的摩擦の増大:グリーンランド問題に象徴されるように、NATO加盟国内での主権・領土問題が新たな対立点となり、同盟秩序そのものを揺るがしている。


相互防衛義務(第5条)の条件付け

NATOの根幹をなす集団防衛義務(第5条)は、「一国への攻撃は全加盟国への攻撃」とする条項である。しかしトランプ政権は、これを単なる無条件の救援義務としてではなく、加盟国の防衛費負担や役割貢献の条件付けによる発動可能性の再評価として提示した。これは理論的には集団防衛の実効性を高めるとの主張だが、加盟国間には「米国の信頼性への疑念」を生み、同盟内部の不信感を醸成している点が重要である。


国防費「2%目標」の厳格化

従来NATOはGDP比2%以上の防衛費という基準を掲げてきたが、トランプ政権はこれを大幅に強化し、2035年までにGDP比5%への引き上げを提案し、加盟国間で新たな共通防衛投資計画が合意された。これは同盟の軍事的信頼性の向上を目指す一方で、一部加盟国の反発と財政的負担増を招いている。


ウクライナ支援とNATOの関係

ロシアによるウクライナ侵攻は、NATOの安全保障環境に重大な影響を与えている。トランプ政権下では、従来の継続的な支援のみならず、欧州側の負担増と役割分担の再構築を促す政策が強調された。この文脈で、ウクライナ支援は単なる軍事援助ではなく、同盟の財政的・政治的負担の再配分という大きな課題と結びついている。これが欧州の安全保障自律論を刺激していることは見逃せない。


2026年現在の状況と懸念

2026年2月の状況では、NATO内部に米国の信頼性と同盟の機能性への根本的な懸念が広がっている。グリーンランド問題は象徴的な事件となり、同盟国間の不信を深めた。トランプ大統領が集団防衛の条件付けを示唆したり、負担共有の議論を強める発言を繰り返すことは、欧州側に安全保障自主性の強化を促している。この過程で、仮に米国がNATOから離脱する可能性や、欧州独自の防衛枠組み(European NATOなど)が検討されるシナリオまで浮上している。


NATOの「トランプ・プルーフ(トランプ耐性)」作戦

NATO加盟国は、トランプ政権の圧力に対応するため、「トランプ耐性」戦略ともいうべき同盟の再構築を進めている。これは以下の要素で構成される。

  1. 共同計画と軍事演習の強化:北極圏ミッションなど、共通の安全保障課題に焦点を当てた作戦計画の策定。

  2. 防衛投資の深化:加盟国による防衛産業投資とインターオペラビリティの強化。

  3. 外交協調の強化:EUとNATOの協調枠組みの拡大、欧州の安全保障自律性の模索。

  4. 信頼回復のための対話:米国との協議を通じた同盟条件の再確認。

これらは、同盟の基本機能を維持しつつ、米国との関係をより対等なパートナーシップへと移行させる試みとして理解できる。


今後の展望

第2次トランプ政権の後半期において、NATOと米国の関係は再協議と再構築の過程を続ける見込みである。欧州側の安全保障自律性の強化と米国の負担共有要求は、同盟の長期的構造を変える可能性がある。集団防衛義務の条件付けや防衛費目標の高度化は、同盟内の役割分担と信頼関係を再定義する契機となるだろう。さらに、地政学的な挑戦(ロシア、中国の影響力拡大)も絡み、同盟の適応が試される時期が続く。


まとめ

トランプ政権とNATOの関係は、従来の同盟秩序を根本から再交渉する試みとして特徴づけられる。負担共有の強化、集団防衛義務の条件付け、防衛費の大幅増、新たな安全保障協力の枠組みが、同盟の機能と信頼性に深刻な影響を与えている。このプロセスは欧州側に自主的な安全保障戦略の強化を促す一方、同盟の存続と信頼性を鮮明に再検討させる契機となっている。


参考・引用リスト

  • NATOに関する最新状況とトランプ発言に関する報道(Reuters等)

  • NATOの2026年予算決定と同盟強化に関するNATO公式発表

  • NATO集団防衛義務や内部対立の分析(AP News等)

  • NATOと欧州側の反応・戦略自立の議論

  • トランプ政権の安全保障戦略と国際政策(NIDSコメンタリー)

  • 同盟戦略とNATOの課題に関する分析(IOG等)


追記:相互防衛義務(第5条)の現状

NATOの第5条(集団防衛義務)は、加盟国への武力攻撃を「全加盟国への攻撃」とみなし、共同防衛を規定する条項である。第5条はNATO存立の象徴であり、東西冷戦期から現在まで同盟の中核をなしてきた。加盟国はこれを政治的・軍事的な「安全保障の最後の砦」と位置づけてきた。

2025年ハーグ首脳会合では、加盟国首脳が「第5条への鉄壁のコミットメント(ironclad commitment)」を再確認したと宣言された。これは、同条項がNATOの機能的基盤であるとの認識を全加盟国が共有していることを示す形式上の合意である。

一方で、米国の政治過程は第5条の扱いに影響を与えつつある。米国上院はNATO脱退を党単独で進められないようにする条項を国防権限法(NDAA)に通過させ、脱退は上院の同意が必要とした。これは直接的にはNATO存続を保証するものではないが、米国の単独行動を抑制する制度的装置として機能している。

こうした動きは、一見するとNATOへのコミットメント強化を示す一方で、条約自体の政治的重み・米国の履行意思への懸念を浮き彫りにしている。米国内で第5条の解釈が「無条件から条件付けへ」と変容しつつあり、それが加盟国間の信頼構造へ長期的な影響を及ぼす可能性が高い。


米国の脱退という最悪のシナリオはあり得るか

歴史的に見れば、NATOから米国が正式に脱退した例はない。条約上は可能であるが、以下の点から「現実的な最悪シナリオ」とは必ずしも言い切れないものの、その可能性は完全に排除されていない。

まず、米国の国内政治的制約が重要である。上記の通り、上院が脱退には同意が必要という条項を可決したことで、行政府が一方的に脱退手続きを開始することは困難になっている。

第二に、米国にとってNATOは単なる軍事同盟ではなく、西側同盟体制における戦略的支柱である。冷戦後もロシア、中国への抑止力として機能してきた。これを放棄することは、米国の大国戦略そのものを再定義する必要がある。

第三に、米国の世論・政策エリートの間でもNATO支持は根強い。反トランプ勢力はNATO維持を基軸とする議論を展開しており、政治的分断があっても全体として同盟維持へのバイアスは残存している。

要するに、形式的には米国のNATO脱退は可能だが、現行の法・政治構造からは実際に脱退が実現する可能性は著しく低い。ただし、トランプ政権の圧力によって欧州側が自主的に安全保障体制の自立を加速させる可能性は高まっている。これはNATO自体の性格変容を意味し、「脱退」ほど極端でなくとも、米国の役割縮小と欧州独自の防衛主義形成が進むシナリオは十分考えられる。


特定の加盟国との二国間関係の変化(特にドイツ/フランス)

ドイツと米国

ドイツは近年、米国の防衛負担批判を契機に防衛政策の見直しを進めている。2025年5月、ドイツのメルツ首相は就任直後にEU・NATO本部を訪問し、共同で核抑止力構築や防衛投資強化を検討した。これは米国の要請を受けたものではなく、自国主導の防衛協力イニシアチブとして展開されたものだ。

またメルツ首相は、BBCインタビューで「欧州は長らく米国の防衛力に依存してきた」と発言し、今後の欧州主導の安全保障アーキテクチャの構築に前向きな姿勢を示している。

この点は、米独二国間関係が単純な同盟関係からより複層的な関係へ変容しつつあることを意味する。米国の圧力による防衛費の増大要求は、ドイツの安全保障政策をより自主的に変える契機となっている。

フランスと米国

フランスは伝統的に「戦略的自律」を掲げてきた国であり、NATO内の独自色を強調してきた。この戦略的自律は、米国の一極的指導からの自立を意味し、核抑止力の独自保持・欧州主導の安全保障枠組みを重視してきた。

トランプ政権の米国がNATO内で負担共有を強く要求するなかで、フランスはこの「戦略的自律」を防衛政策に組み込む動きを強めている。これは必ずしも「対米対立」ではなく、同盟内でのバランス調整の一環として理解される。

フランスはウクライナ問題や欧州防衛統合において積極的である一方、米国とは異なる戦略的優先順位を持つ。こうした二国間関係の変化は、NATO全体の政策形成に多極的な動力学を導入している。


ウクライナ停戦交渉がNATOに与える具体的影響

ウクライナ戦争とその停戦交渉は、NATOの構造と加盟国間の信頼関係に直接的な影響を与えている。

停戦交渉の進展とNATOの役割

米国は停戦交渉の調停を図っており、一定の進展と混乱の両面が見られる。2025年の米露会談ではウクライナ停戦が焦点となり、戦闘停止を主要議題とする動きが進んだが、根本的な合意には至っていない。

ウクライナ自身はNATO加盟の意欲を一部調整し、加盟を前提にしない安全保障保証を受け入れる可能性を示唆しているという報道もある(ただし情報は限られる)。

この交渉プロセスは、NATOに対して戦略的再評価を促す。即ち、ウクライナ支援は単なる武器援助ではなく、同盟全体の防衛姿勢と資源配分に影響を与える政策課題である。

停戦成立のシナリオとNATO
  • 停戦が成立し平和プロセスへ移行する場合:ウクライナがNATO加盟を断念し、代替の安全保障枠組みを受け入れる可能性がある。この場合、NATOは従来の集団防衛機能以外の外交・安全保障協力を強化する必要が生じる。

  • 停戦協議が決裂する場合:戦争が長期化することで、NATO加盟国の防衛負担が拡大し、同盟内での不信と負担分担論争が激化する可能性がある。

いずれのケースでも、ウクライナ停戦交渉はNATOの内部結束と戦略的優先順位に直接の影響を与える構造的要因である。軍事的・政治的な統合プロセス、加盟国の防衛投資行動、そして集団防衛義務(第5条)の運用解釈は、ウクライナ問題の進展如何によって大きく左右される。


追記まとめ
  1. 第5条の現状:形式的な再確認はあるものの、米国の内部政治と条件付け論が同盟の信頼性に挑戦している。

  2. 米国脱退の可能性:法的には可能だが、政治的現実と制度制約から低確率である。ただし役割縮小は進行中である。

  3. 二国間関係の変化:ドイツは自主的防衛協力を模索し、フランスは戦略的自律を強化する方向にある。これらは米国との関係を再構成する動きである。

  4. ウクライナ停戦交渉の影響:停戦交渉はNATO内部の戦略と負担分担、政策優先順位を再調整させる重要な要因である。


追記参考・引用リスト

  • 米上院がNATO脱退条項に制約を付す動き(国防権限法関連)

  • 第5条の再確認や加盟国の防衛費合意、ハーグ首脳会合宣言

  • 防衛省防衛研究所「ロシア・ウクライナの停戦をめぐる在米協議」

  • ドイツ首相のウクライナ戦争終結への外交展開について

  • NATO加盟国・欧州安全保障脈絡からの分析

  • 戦略的自律とフランス外交の見直し


ウクライナ戦争以降の米国とNATO関係の時系列整理

1.2022年:ウクライナ侵攻とNATOの再活性化

2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻は、冷戦終結後「役割喪失」が語られてきたNATOを再び中核的安全保障機構へと押し上げた。米国は主導的役割を果たし、軍事支援、情報共有、制裁調整を通じて同盟を統合した。この段階では、米国とNATOの関係は「結束の回復」という言葉で象徴される。

フィンランドおよびスウェーデンのNATO加盟申請は、ロシアの行動が逆説的にNATO拡大を促したことを示す象徴的事例である。この時期、集団防衛(第5条)の信頼性はむしろ強化され、抑止力として再評価された。

2.2023~2024年:長期戦化と負担分担論の再浮上

戦争が長期化するにつれ、米国内ではウクライナ支援のコストと欧州側の負担不足をめぐる議論が再燃した。NATO内部では、防衛費GDP比2%目標の未達成国が批判され、「結束」から「分担」への論点移行が進んだ。

この段階で、米国は依然としてNATOの軍事的中核であり続けたが、同盟の政治的安定性には徐々に揺らぎが生じ始めた。ウクライナ支援は共通目標である一方、各国の国内政治事情が同盟運営に影響を与えるようになった。

3.2025年以降:トランプ2.0と同盟の条件化

第2次トランプ政権の成立以降、米国とNATOの関係は新たな段階に入った。ウクライナ戦争によって再結束した同盟は、ここで再び「条件付き同盟」へと再編されつつある。

特徴的なのは、①防衛費負担の厳格化、②集団防衛義務の政治的条件化、③ウクライナ支援の再定義である。米国は同盟の形式的存続を否定しない一方、実質的な関与を加盟国の行動に連動させる姿勢を強めた。この点で、ウクライナ戦争は「NATO再生の契機」であると同時に、「同盟の構造的再編を促す触媒」となった。


各国の防衛費比較(構造的整理)

1.米国とNATO欧州諸国の非対称性

ウクライナ戦争以降の防衛費動向で最も重要なのは、米国と欧州諸国の構造的非対称性である。米国は名目額・実質能力の双方において、NATO全体の軍事力の中核を占めている。単一国家としての米国防衛費は、欧州NATO諸国合計に匹敵、あるいはそれを上回る水準にある。

一方、欧州諸国は戦争を契機に防衛費を増額しているが、その内訳は人件費や国内防衛産業支援に偏る傾向があり、即応的な戦力投射能力では米国との差が依然として大きい。

2.主要国別の特徴
  • ドイツ
    ドイツは特別防衛基金を創設し、防衛費の増額を進めたが、長年の軍縮の影響から即効性には限界がある。防衛費の増加は象徴的意味を持つ一方、戦略文化の転換には時間を要する。

  • フランス
    フランスは核抑止力を含む独自戦力を保持し、欧州内では例外的に自律的軍事能力を有する国である。防衛費の対GDP比は比較的安定しており、NATO内でも独自性が際立つ。

  • 東欧諸国(ポーランドなど)
    ロシアの直接的脅威を受ける国々は、防衛費を急速に増加させている。対GDP比ではNATO内でも最も高い水準に達する国があり、集団防衛の「前線国家」としての役割を担っている。

3.比較の意味

防衛費比較が示すのは、単なる金額差ではなく、同盟内の戦略的役割分担の変化である。米国は「保証者」、欧州は「受益者」という従来の構図が揺らぎ、欧州側により大きな責任が求められている。この変化は、NATOをより多極的な同盟へと変質させつつある。


集団防衛の揺らぎがロシアに与える影響

1.抑止の信頼性低下というシグナル

集団防衛(第5条)の条件化や政治的議論は、ロシアに対して重要な戦略的シグナルを送る。抑止とは能力だけでなく「意思」の問題であり、米国が同盟防衛に条件を付す姿勢を示すことは、ロシアに同盟の結束に隙がある可能性を示唆する。

ロシアの戦略文化において、西側の分断は伝統的に好機とみなされてきた。NATO内部の議論や摩擦は、ロシアの情報戦・心理戦に利用されやすい。

2.直接的軍事行動への影響

ただし、集団防衛の揺らぎが直ちにロシアの対NATO軍事行動につながる可能性は限定的である。理由は三つある。

第一に、NATOの軍事能力そのものは依然としてロシアを大きく上回っている。
第二に、東欧における前方展開部隊の存在が即応的抑止を維持している。
第三に、ロシア自身がウクライナ戦争で大きな消耗を被っている。

したがって、影響は「即時的侵攻」よりも、「グレーゾーン行動(サイバー攻撃、影響工作、限定的挑発)」の増加として現れる可能性が高い。

3.戦略的帰結

集団防衛の揺らぎは、ロシアに対し以下の二重の効果をもたらす。

  • 短期的には、NATOの意思決定の複雑化を突く戦略的余地を与える

  • 長期的には、欧州諸国の再軍備と防衛統合を促進し、結果的に対ロ抑止を強化する可能性もある

この点で、ロシアにとってNATOの揺らぎは「機会」であると同時に「リスク」でもある。


最後に
  1. ウクライナ戦争は、米国とNATOの関係を一度は再結束させたが、同時に負担分担と同盟条件化という構造問題を顕在化させた。

  2. 防衛費比較は、米国依存型同盟から、より分散的・多極的同盟への移行過程を示している。

  3. 集団防衛の揺らぎは、ロシアに戦略的余地を与える一方、NATO内部の再武装と制度適応を促す逆説的効果も持つ。

総じて、ウクライナ戦争以降の米国とNATOの関係は、「結束か分裂か」という二分法ではなく、同盟の再定義と再制度化の過程として理解する必要がある。


北大西洋条約 第5条(原文)

Article 5

The Parties agree that an armed attack against one or more of them in Europe or North America shall be considered an attack against them all and consequently they agree that, if such an armed attack occurs, each of them, in exercise of the right of individual or collective self-defence recognised by Article 51 of the Charter of the United Nations, will assist the Party or Parties so attacked by taking forthwith, individually and in concert with the other Parties, such action as it deems necessary, including the use of armed force, to restore and maintain the security of the North Atlantic area.

Any such armed attack and all measures taken as a result thereof shall immediately be reported to the Security Council. Such measures shall be terminated when the Security Council has taken the measures necessary to restore and maintain international peace and security.


和訳

第5条

締約国は、ヨーロッパまたは北アメリカにおいて、いずれか一または複数の締約国に対する武力攻撃は、締約国すべてに対する攻撃とみなされることに合意する。したがって、そのような武力攻撃が発生した場合には、各締約国は、国際連合憲章第51条により認められている個別的又は集団的自衛権を行使し、被攻撃国を援助するため、直ちに、単独で及び他の締約国と協力して、自国が必要と認める行動(武力の行使を含む)をとり、北大西洋地域の安全を回復し、及び維持するものとする。

このような武力攻撃及びその結果としてとられたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告されなければならない。これらの措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し、及び維持するために必要な措置をとったときは、終了するものとする。


補足(重要ポイント)
  • 「自国が必要と認める行動」という文言により、第5条は

    • 自動的な軍事介入

    • 一定の兵力派遣義務
      を明示的に義務づけていない点が法的特徴である。

  • 各国は、

    • 軍事行動

    • 後方支援

    • 情報提供

    • 政治的・外交的支援
      など、自国の判断で対応内容を決定できる。

  • 実際に第5条が正式に発動されたのは、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件後の一度のみである。

この条文の解釈と運用の柔軟性こそが、前段で議論した「条件付け」や「信頼性の揺らぎ」を生む構造的背景となっている。

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