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コラム:卵の高値続く、第2のエッグショック収まらず

2025年の日本における卵価格高騰は、鳥インフルエンザによる供給減少、飼料価格の上昇、猛暑といった複数要因が複合的に作用した結果である。
鶏卵(Getty Images)
現状(2025年12月時点)

2025年末時点において、日本国内の鶏卵価格は歴史的な高水準で推移している。一般的なスーパーで販売される卵1パック(10個)の価格は300円台となっており、過去の「物価の優等生」と称された時代からの高騰が顕著である。卸売市場における鶏卵の平均価格は東京全農Mサイズで約345円/kgと、過去10年の平均(約239円/kg)を大幅に上回る水準にある。これらの価格高騰は、鳥インフルエンザの影響や飼料価格の上昇など複数要因が複合的に作用した結果である。

国内の消費者物価指数における鶏卵の寄与度は小さいものの(約0.25%程度)、日常的に消費される必需品であるため、実質的な家計への負担は顕著である。2025年12月においても、価格が前年を大きく上回って推移する見通しが示されており、当面の価格安定化の見込みは不透明である。


第2のエッグショック

2015年および2023年には「エッグショック」と呼ばれる卵価格の急騰が国内で発生した。この現象は、鳥インフルエンザ流行に伴い供給が急減し、価格が従来比で大幅に上昇した出来事を指す。2025年にも同様の事態が懸念されており、実際に2025年初頭から夏にかけて価格が記録的な水準に達したことから、「第2のエッグショック」という呼称が専門家の間でも使われている。

エッグショックの特徴は、供給不足の長期化と価格高止まりが消費者の期待価格形成に影響を与えることである。供給サイドの構造的な脆弱性が浮き彫りとなった2025年の事例は、単なる季節要因による価格変動とは質的に異なる現象として評価される。


価格高騰の主な原因

卵価格の高騰には複数の原因があるが、主因として以下の三点が挙げられる。


鳥インフルエンザの猛威

2024年度から2025年度にかけて、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が全国的に相次いだ。この結果、数百万羽規模の採卵鶏が殺処分され、供給量が大幅に減少した。農林水産省および日本養鶏協会のデータによると、2025年1月時点で500万羽以上が殺処分され、累計では800万羽を超えたと報告されている。

この供給不足は、一般的な卵供給サイクルの回復に長期を要するという特徴を持つ。採卵鶏の導入から安定生産に至るまでには数カ月を要するため、供給の空白期間が長引き、価格に反映される時間差が生じる。さらに、感染再発による予防的な殺処分のリスクが常に存在するため、需給バランスの改善が遅れる可能性がある。


飼料価格の上昇

卵生産における主要コストとして飼料費が挙げられる。世界的な穀物価格の上昇や為替変動により、飼料原料であるトウモロコシ・大豆等の価格が継続的に高騰している。飼料価格の上昇はそのまま生産コストに転嫁され、卸売価格・小売価格双方に影響を与えている。特に円安の影響で輸入コストが増大し、飼料価格の高止まりに拍車がかかっている。

飼料費は採卵鶏の飼育全期間に影響を及ぼすため、短期的な価格変動以上の長期的なコスト上昇要因となる。また、飼料原料市場の需給が世界的に不安定な状況にあることから、将来的な価格安定化の見通しは不透明である。


夏の猛暑の影響

2025年夏季に観測された異常高温は、鶏の生理的ストレスを引き起こし、採卵生産性に悪影響を与えた。猛暑環境下では鶏の食欲が低下し、結果として卵のサイズ減少や生産量低下が発生した。このため、例年であれば夏季に価格が緩やかになる傾向があるにもかかわらず、2025年夏には価格が横ばいまたは上昇する異常な推移となった。

気候変動の影響は今後も継続的に生産性へ影響を与える可能性があり、養鶏現場における対策(冷房設備の導入等)には追加的なコストが発生する。


季節的需要のピーク

卵は季節的な需要変動を伴う商品である。年末年始や春の行楽シーズン、さらに10月~11月の「月見」需要では、家庭や飲食店での消費が増加し、価格に影響する。特に2025年末のクリスマス商戦では、洋菓子店などで卵を多量に使用するクリスマスケーキの製造が価格高騰を助長した。報道によると、原材料全般の価格上昇と相まってケーキ価格にも転嫁が見られる。

季節需要ピークにおける価格上昇は毎年の傾向だが、2025年は供給不安定要因との相乗効果により、季節性以上の価格高騰が確認されている。


社会・経済への影響

卵価格の高騰は、単なる食品価格の上昇に留まらず、社会・経済全体に多面的な影響を与えている。以下に代表的側面を列挙する。


家計への負担

卵は多くの日本人の食生活において基本的な食材である。調理の汎用性が高く、たんぱく質源として重視されるため、価格上昇は日常的な支出を押し上げる。特に所得の低い家庭ほど食費の割合が高く、価格高騰が生活の質を直接的に悪化させる可能性がある。

消費者調査によると、家庭での購入頻度が高い食品カテゴリとして卵は上位に位置し、価格弾性が低いことが知られている。すなわち、価格が上がっても消費量が大きく減少しないため、家計負担が価格変動のまま直結する。これは実質所得の減少につながり、他の消費支出に影響を与える可能性がある。


外食・食品業界の苦境

卵を大量に使用する外食産業、特に洋食店やカフェ、ベーカリー・洋菓子店などは価格高騰の影響が大きい。クリスマスケーキやパン類の原材料コストに卵が占める割合が増加し、値上げを余儀なくされる事例が見られる。これらの値上げは需要への逆風となり、売上の減少や事業計画の見直しを迫られる。

ある洋食レストランでは、卵10kg箱の価格が過去数か月で大幅に上昇しており、メニュー価格への転嫁が困難なため利益率の悪化が生じているという報告がある。


加工食品の開発

卵価格の高騰は、加工食品企業にも製品開発面で影響を与えている。卵を多量に使用する商品(マヨネーズ、プリン、ケーキ等)では、価格抑制を目的として代替原料の検討や製法の改良が進んでいる。また、液卵や保存性の高い加工卵製品への需要が増加している。これらは業務用を中心に利用が広がっているが、価格面での代替となるかは今後の課題である。


政府の支援は?

政府は鶏卵価格の安定化に向け、鳥インフルエンザ対策や養鶏現場への支援を進めている。具体的には、感染防止策の強化、殺処分鶏の補償制度、飼料価格高騰への一時的な補助等である。農林水産省は関係省庁と連携し、感染監視体制の強化を図るとともに、供給回復に向けた支援策の検討を進めている。また、消費者向けに価格安定化措置を示すための統計公表や啓発活動も行われている。

一方で、飼料価格の世界的な高騰や気候変動といった構造的な要因に対しては、国内政策のみで対処するには限界があるとの指摘もある。


今後の展望

短期的には、2026年前半にかけて供給環境の改善が見込まれるものの、継続的な鳥インフルエンザリスクの存在により、需給バランスの不安定さは残る可能性が高い。飼料価格の高止まりや気候変動の影響も継続的なコスト要因として作用する。

中長期的には、養鶏業界の規模再編、効率化、疾病管理技術の高度化等が不可欠であり、これらが進展するか否かが価格安定化の鍵となる。加えて、消費者行動の変化や代替たんぱく質源の普及、食品ロス削減等が食料システム全体の耐性を高める要素となる。


まとめ

2025年の日本における卵価格高騰は、鳥インフルエンザによる供給減少、飼料価格の上昇、猛暑といった複数要因が複合的に作用した結果である。消費者、家計、外食産業、加工食品企業に広範な影響を与えており、政策的な支援と業界の対応が求められている。価格の安定化には時間を要する可能性が高く、構造的な対策が必要である。


追記:エッグショックが経済に与える影響

序論
「エッグショック」とは、卵価格が急騰し、供給不足および価格高止まりが消費者・産業・経済全体に波及する事象を指す。2025年の日本において再び「エッグショック」的な状態が見られる中、単なる価格変動に留まらない経済への影響が浮かび上がっている。本追記では、エッグショックが日本経済に与える影響を多角的に検討する。

1. 消費者行動への影響
卵は日本の家庭で広く消費される基礎食品であり、消費者の食生活に与える影響は大きい。卵価格が継続的に高止まりすることで、消費者は価格に敏感に反応し、購入頻度の見直しや他のたんぱく質源へのシフトを行う可能性がある。特に所得の低い世帯では、食費割合が高く、価格上昇が家計支出全般を圧迫し、節約志向を強化する要因となる。このような節約行動は、他の消費支出(外食、娯楽、衣料等)の減少につながり、経済全体の消費を冷え込ませる可能性がある。

加えて、卵価格の高騰は購買行動の変化を誘発する。消費者は特売情報を重視し、価格比較アプリやディスカウントストアへの訪問頻度を高めることが予想される。また、卵を代替する食品(例えば豆類、乳製品、植物性タンパク質製品)への需要が増す可能性がある。これは市場全体の需要構造を変える要因となるが、急激なシフトは供給側の調整を困難にし、短期的には混乱をもたらすこともあり得る。

2. 外食産業と食品加工業への影響
外食産業は価格高騰の影響を直接的に受けやすい。洋食レストランやカフェ、ベーカリー・洋菓子店は卵を大量に使用し、価格コストの増加が利益率を圧迫する。価格転嫁が可能な高級店とは異なり、庶民派の飲食店では価格に敏感な客層が多く、値上げが客離れにつながるリスクがある。これは売上の減少と経営悪化を招き、中小企業の倒産リスクを高める。

食品加工業にとっても、原材料コストとしての卵価格の上昇は利益幅を縮小させる要因となる。マヨネーズ、プリン、ケーキ、惣菜等、卵を大量に使用する加工品では価格再設定やレシピ変更を余儀なくされる可能性がある。また、食品企業は価格転嫁を行う際にブランド・需要への影響を慎重に評価する必要がある。価格転嫁余地が限定的な状況では、コスト削減や効率化による利益率改善策が不可欠となる。

3. 生産者側の構造変化と投資
養鶏業者は鳥インフルエンザ対策や飼料価格対策として新たな投資を迫られている。感染防止設備、環境制御装置(冷房・換気システム等)、効率的な生産ラインへの投資は初期コスト面で負担が大きい。これらの投資は中長期的な生産性向上につながる一方、短期的には資本コストとして収益を圧迫する。

また、供給が不安定な状況が続くと、規模の小さい養鶏業者が淘汰され、大規模化・集約化が進行する可能性がある。これは業界全体の競争環境を変える要因となり、効率性の向上と同時に地域の雇用構造を変化させる可能性がある。地域経済における養鶏業の役割が相対的に低下することで、地域内の所得や消費にも影響が及ぶ。

4. 価格インフレとマクロ経済への波及
卵価格は消費者物価指数(CPI)に直接的な影響を持つ項目ではあるが、鶏卵自体のウェイトは0.25%程度にとどまる。しかし、食品価格全般のインフレ圧力が強まる状況では、卵価格上昇が食料品インフレの象徴と見なされ、消費者心理に影響を与える可能性がある。食料品インフレが長期化すると、実質消費が冷え込み、名目賃金とのギャップが拡大し、購買力の低下が進行する。

また、インフレ期待が形成されると、消費者と企業の価格設定行動に影響を与え、賃金・価格のスパイラルを誘発するリスクも理論的には存在する。日本銀行や政府がインフレ対策を講じる必要性が高まるが、卵価格のような一時的・供給側ショックと本格的なインフレとの区別が政策判断を複雑にする。

結論
2025年に再燃した「エッグショック」は、単なる食品価格変動に留まらず、家計、外食・加工食品産業、養鶏業者の経営、そして消費行動全般に広範な影響を与える可能性がある。特に消費者心理の変化や外食産業への打撃は、国内経済の底堅さを試す要因となる。供給側の構造変化と価格インフレとのバランスを見極めつつ、継続的なモニタリングと政策対応が必要である。エッグショックの克服には、短期的な価格安定策のみならず、中長期的な生産体制と市場構造の強靱化が不可欠である。

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