コラム:「インターミッテント・ファスティング」の危険性
インターミッテント・ファスティングは生活習慣改善や体重管理の一手段として有用である可能性があるが、すべての人に安全・効果的であるとは言えない。
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現状(2026年2月時点)
インターミッテント・ファスティング(以下、IF)は、一定時間食事を摂らず、それ以外の時間に通常摂食する食事法として広く注目されている。代表的な方法として、16時間断食・8時間食事の「16:8」方式や、週に複数日だけ低カロリーに抑える「5:2」方式、隔日断食などがある。これらは、従来のカロリー制限と比べて簡便であるとして普及し、健康効果や長寿効果を示唆する研究も存在する一方で、近年の大規模レビューでは標準的なダイエット手法と比較して体重減少効果に明確な差はないとする報告も存在する。
科学的エビデンスは蓄積されつつあるが、多くのRCT(ランダム化比較試験)は短期的(12か月以内)であり、IFの長期的安全性と副作用については未だ十分に系統化された研究が不足しているという評価がある。
インターミッテント・ファスティング(間欠的断食)とは
インターミッテント・ファスティングは、本質的に「時間によって摂食を制限する」食事法であり、総摂取エネルギーを明示的に制限するものではない点で従来のカロリー制限ダイエットとは区別される。代表的な方法は以下の通りである:
16時間断食+8時間内に食事を摂る「16:8」方式
週2日は低カロリー日、他日通常摂取の「5:2」方式
1日おきに断食日を設ける隔日断食(Alternate-Day Fasting)など。
この方法論は、古来から宗教的実践や飢餓条件での生活パターンに類似するという生物学的観点があり、インスリン感受性の向上、脂肪燃焼促進、代謝リズムの再調整といった生理学的作用が議論されている。加えて、短期間のIFが体重減少やBMI改善、心血管リスクマーカーの改善と関連するという証拠も複数のメタ解析で示されている。
しかし、そのポテンシャルメリットとは別に、本稿ではIFのリスクと副作用に焦点を当て、体系的に整理する。
身体的リスク・副作用
低血糖
IFに伴う最も一般的な短期副作用の一つは低血糖(hypoglycemia)である。特に糖尿病患者、インスリン分泌異常のある人、血糖調節機能が低下している人では、長時間の断食が血糖値低下を招きやすく、めまい、頭痛、動悸、意識障害を引き起こす可能性があるとされる。医療機関のガイドラインは、糖尿病患者はIFを行う前に医師と相談すべきであるとする明確な警告を提示している。
栄養失調・電解質バランスの崩れ
時間制限が長いIFや極端な断食スタイルでは、必須栄養素(ビタミン・ミネラル・アミノ酸)や食物繊維の摂取が不足するリスクがある。これに加えて適切な電解質補給を欠くと、ナトリウム・カリウム・マグネシウムのバランスが崩れ、筋力低下や心機能異常、倦怠感を引き起こす可能性が批評家の間でも指摘されている。
脱水症状
断食時間中に水分摂取を怠ると、脱水状態に陥る可能性がある。特に高温環境下や運動後では、脱水症状に伴う熱中症リスクも増す。脱水が進行すると頭痛、集中困難、低血圧、腎機能低下を招くことがある。
消化器系の不調
急激に断食・摂食サイクルを繰り返すと、胃腸の蠕動運動や胃酸分泌リズムが乱れやすく、腹痛、便秘または下痢、消化不良など消化器症状を訴えるケースが報告されている。これらは摂食時間と空腹感の急変による自律神経の乱れが関連していると考えられている。
精神的・心理的リスク
摂食障害の誘発・悪化
IFの厳格な食事管理は、食行動の過度な制御につながる傾向がある。特に摂食障害(神経性やせ症、過食症)の既往歴がある人では、断食と過食を繰り返す症状が悪化する可能性がある。栄養欠乏と身体像への過剰な意識は、摂食障害リスクを増大させる社会心理的要因となりうる。
心理的ストレス
空腹感が慢性的になると、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が増加し、焦燥感や不安、抑うつ症状を悪化させるリスクがある。また、断続的な空腹状態が日常生活の質を低下させることが報告されている。
代謝・健康への長期的影響
基礎代謝の低下
長期間にわたり断食を行うと、身体はエネルギー効率を高めようとして基礎代謝を低下させる適応反応を示す可能性がある。これにより体重が減りにくくなるだけでなく、断食を中止した後の体重リバウンドが生じやすい。
筋肉量の減少
十分なタンパク質摂取が確保されない場合、特に高齢者や運動を伴わない個体では、筋肉量減少(サルコペニア)につながる可能性がある。筋肉量の減少は基礎代謝低下や転倒・骨折リスク増加といった健康問題を誘発する。
心血管疾患との関連
最近の疫学的データでは、狭い摂食時間帯のIFが心血管疾患による死亡リスクと関連している可能性を示す予備的な報告がある。ただし、この知見はまだ査読付き学術誌で十分に評価されたものではなく、因果関係を確定するには更なる長期的な追跡研究が必要である。
リスクの高いグループ
糖尿病患者
糖尿病患者、特にインスリンや経口血糖降下薬を使用している人は、IFによる血糖変動が重大な低血糖を誘発する恐れがあるため、医師監督下で慎重に検討する必要がある。
摂食障害の既往歴がある人
摂食行動の制御に困難を抱える人では、IFは行動パターンを悪化させる可能性が高いため、専門家の支援を受けるべきである。
妊婦・授乳中の方
妊娠・授乳期は母体と胎児への栄養需給が極めて重要な時期であり、断食によるエネルギー・栄養不足が胎児の発達や母乳産生に悪影響を与えるリスクがある。
成長期の子ども・高齢者
子どもや高齢者では、エネルギー需要および栄養吸収機能が異なるため、IFは推奨されない場合が多い。
特定の薬を服用中の人
降圧薬、抗てんかん薬、抗精神病薬など、食事時間や栄養状態に血中動態が影響される薬を服用している場合、IFとの相互作用の可能性を医師と検討する必要がある。
今後の展望
IFの科学的理解は進展しているが、長期的安全性評価と個々人に対する効果の差異、最適なプロトコルについては今後の大規模・長期的研究が欠かせない。また、バイオマーカーや遺伝的背景、性別差などを考慮した個別化アプローチが今後の研究課題として浮上している。
まとめ
インターミッテント・ファスティングは生活習慣改善や体重管理の一手段として有用である可能性があるが、すべての人に安全・効果的であるとは言えない。特に身体的・心理的リスクが存在するため、医療専門家と相談しながら慎重に進めることが重要である。短期的な副作用だけでなく、長期的な影響や特定のリスク群への配慮が必要である。
参考・引用リスト
National Library of Medicine / JAMA「Potential Risks and Side Effects of Intermittent Fasting」(2020) — 低血糖や脱水など副作用リスクについての総説。
Cochrane Database of Systematic Reviews 最新のIFと体重減少効果に関する大規模システマティックレビュー。
JAMA Network Open「Umbrella Review of IF」メタ解析 — 過体重・肥満者における体重・代謝リスク改善効果の検討。
複数の疫学報道記事 — IFの心血管リスクに関する予備的報告。
健康情報サイト — IFの基本概念と注意点、方法の紹介。
追記:インターミッテント・ファスティングが流行した経緯
1) 健康意識の高まりと情報環境の変化
インターミッテント・ファスティング(IF)が近年広く普及した背景には、健康・抗加齢への関心の高まりとデジタル情報の拡散がある。従来のカロリー制限・脂質制限ダイエットに比べ、IFは「時間の管理」で行えるという手軽さから、忙しい現代人のライフスタイルと親和性が高いと評価された。また、SNSや健康系YouTube、ブログなどを通じて個人の体験談が爆発的に広がり、科学的根拠の有無を問わず情報が拡散された。
さらに2010年代以降に複数の動物実験や小規模試験で、断続的断食が体重減少やインスリン感受性改善に有効である可能性が示されたことを契機に、ヘルスケア専門誌や一般メディアでも取り上げられた。これが一般消費者層やフィットネス愛好者に拡大していった。
インフルエンサーやフィットネス業界の専門家がSNSを通じて「断食」で効果が出た例を強調したことも、流行促進に寄与した。しばしばポジティブな体験談が先行し、長期的安全性やリスクについては十分に説明されないまま普及した側面がある。
2) 科学研究とメディア報道の関係
科学論文が「短期的な体重減少効果」「メタボリックシンドローム改善との関連」を報告すると、それが噛み砕かれて一般向けの記事として発信され、同様の情報が多数回再掲された。これにより「断食ダイエット=安全で効果的」という印象が定着した側面がある。しかし、RCTの多くが短期データに限られることや、対象集団が特定の条件(非喫煙者・中等度肥満者など)であることは、一般化可能性を制限するという批判も存在する。
専門家の指導なしに極端な制限を行うことはリスクを伴う
IFは「単純・手軽」という特性から、専門家の管理なしに始める人が多い。しかし、栄養・代謝・心理面でのリスク管理が不十分であると、有害事象を引き起こす可能性が高まる。
1) 栄養バランス管理の必要性
極端に長時間の断食や食事量制限を行うと、カロリー・タンパク質・微量栄養素が不足し、栄養失調状態に陥る可能性がある。たとえば、必須アミノ酸や脂溶性ビタミン(A、D、E、K)などは体内貯蔵が限定的であり、摂取タイミングや総量が不足すると、免疫機能低下・骨代謝異常・皮膚トラブル・視覚機能低下などの症状につながる。
2) ホルモン・代謝系への影響
断食によってインスリンやグルカゴンなどの血糖調節ホルモンが変動するため、血糖値の急激な低下や高ストレスホルモン(コルチゾール)の上昇が起こる可能性がある。これが慢性化すると、代謝リズム崩壊や慢性ストレス反応として心身の不調を招くリスクがある。
3) 精神行動面でのリスク
極端な断食は「食べてはダメだ」という抑圧的な認知を助長し、正常な飢餓感・満腹感の制御を阻害しうる。自己流の制限が認知行動パターンとして定着すると、後述する摂食障害の発症・再発リスクが高まる。
これらの点から、医師・管理栄養士・運動指導士などの専門的な指導と評価によるプログラム設計が重要である。
筋肉量の減少が健康に与える影響
筋肉量の低下(筋萎縮)は、単に見た目の問題ではなく、全身の健康機能に深刻な影響を及ぼす。IFによる体重減少が脂肪ではなく筋肉も含む場合、その影響は以下の通りである。
1) 基礎代謝率の低下と体重リバウンド
筋肉は安静時エネルギー消費の主要な担い手である。IFによって十分なタンパク質・アミノ酸摂取が保証されなかった場合、身体はエネルギー不足を補うために筋肉組織を分解しエネルギー源とする。これが進行すると基礎代謝が低下し、持続的な体重管理が困難になる。さらに断食を中止した際、筋肉が少ない状態で過食に移行すると、脂肪として体重増加が起こりやすい(リバウンド)という困難がある。
2) 運動能力・生活機能の低下
筋肉量は日常生活の動作・運動能力・バランス能力に密接に関連する。特に高齢者では、筋肉量減少が転倒リスクや骨折リスクを高め、生活自立度の低下につながる。
3) 免疫機能への影響
筋肉はアミノ酸プールを確保し、免疫細胞の合成や修復に寄与するため、筋肉量の維持不全は感染抵抗性の低下と関連する。慢性的な栄養不足が免疫機能を損ない、病気の回復遅延や慢性感染のリスク増加の一因となる可能性がある。
4) 心血管系・代謝異常との関連
筋肉量の低下は、インスリン感受性の低下や血糖コントロールの不安定化と関連し、2型糖尿病リスクや脂質代謝異常を増加させる可能性がある。さらに全身循環機能の低下により、心血管疾患のリスクが増加するという報告も存在する。
以上のように、IF実施時には単なる体重減少効果だけでなく、体組成(筋肉と脂肪の比率)を意識した栄養・運動計画が重要である。専門家との連携によって、筋肉量の損失を最小化しつつ健康パラメータを維持・向上させる戦略設計が望まれる。
追記の参考・引用リスト
National Library of Medicine / JAMA「Potential Risks and Side Effects of Intermittent Fasting」 — IF実施時の代謝応答・リスク評価。
JAMA Network Open「Umbrella Review of IF」 — IFの効果と短期的安全性に関する大規模レビュー。
健康科学・栄養学一般書(専門家監修) — 栄養素バランスと筋肉量・基礎代謝に関する標準的知見。
近年の栄養疫学レビュー — 生活習慣介入と身体機能(筋力・免疫)の関連に関する総合評価。
メディア報道例(The Guardian/People) — IFの社会的流行背景と一般的リスク・利益の報道。
