コラム:驚異の「ネギパワー」、食事における健康サポート役
ネギには多様な生理活性が期待される成分が含まれており、免疫機能強化・抗酸化作用のサポートが示唆されている。
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2026年1月現在、季節性インフルエンザは世界的に毎冬流行し、A型・B型を中心に多数の感染者が出ている。インフルエンザウイルスは急性呼吸器感染症の主因であり、発熱・筋肉痛・咳・喉の痛みなどを引き起こすことが知られているが、ワクチンは発病を抑制する効果はあるものの完全な感染阻止には至らないことが厚生労働省のガイドラインで示されている。
一方、肺炎はウイルスだけでなく、細菌(肺炎球菌など)による重篤な肺感染症として高齢者や基礎疾患者で重症化リスクが高い。また、がんは複数の要因が関与する多因子疾患であり、予防や罹患後の健康維持のため生活習慣や栄養が注目されている。
こうした背景で、食品由来の機能性成分・特に日常的に食される植物性食品の免疫調節・抗酸化作用に関する研究が活発化している。そのなかで「ネギ(Allium属)」に含まれる生理活性成分に注目が集まっている。
ネギとは
「ネギ」はAllium fistulosum L. に分類される多年草で、日本では「長ネギ」「青ネギ」などが食材として用いられる。欧米では「Welsh onion」や「spring onion」とよばれる。葉と茎の部分を食用とし、香味と食感を料理に活かすほか、伝統的民間療法として古くから風邪や冷え性改善への利用例がある。
ネギの栄養成分としてはビタミンC、各種ポリフェノール、フラボノイド、硫化化合物類が含まれており、これらが各種の生理機能に寄与するとされる。
「ネギパワー」の正体(総論)
「ネギパワー」とは、ネギに含まれる生体調節物質と栄養素の複合的な作用を総称した概念である。主な成分として以下が挙げられる。
多糖類(フルクタン等):免疫機能の調節に関与する可能性が示唆されている。
ポリフェノール/フラボノイド:細胞保護作用や抗酸化作用が指摘されている。
硫黄化合物:香味とともにさまざまな生理活性が報告されている。
これらが単独ではなく、複合的に免疫系・抗酸化系に働きかける可能性があるため、「ネギパワー」として広く言及されている。
インフルエンザ・肺炎とネギ
ネギ由来のフルクタン多糖類は、インフルエンザAウイルスの複製を動物実験モデルで抑制し、中和抗体産生を促進したという報告がある。これはフルクタンが直接ウイルスを殺すのではなく、宿主の免疫応答を強化する結果として示された。
ネギが直接インフルエンザウイルスや肺炎球菌を死滅させるわけではない
重要なポイントとして、ネギの成分がインフルエンザウイルスや肺炎菌を直接的に破壊・不活化するという直接抗感染作用は科学的に確認されていない。上記研究でも、ウイルス増殖抑制は免疫応答の強化を介したものであり、直接作用ではないことが示されている。
抗菌・殺菌作用
ネギや関連するネギ属植物(ニンニク、タマネギなど)に含まれる硫黄化合物の一部には抗菌性が認められると報告されている。具体的な作用機序は、化合物の反応性硫黄基が微生物の細胞機能に干渉することにあると考えられる。
ただし、こうした抗菌効果は食品成分としての摂取状況では十分な抗菌力を発揮しないことが多く、食品由来の効果は補助的・予防的要素と考えるべきである。
ネギの辛味成分である硫化アリル(アリシン)
一般的に「ネギの辛味=アリシン」と考えられるが、ネギではアリシンの定量的存在が文献によって一貫していない。ある分析では、ネギ属の他種に比べてアリシン含有量は低く、ジアリルジスルフィドなど他の硫黄化合物が主体とされる可能性があるとの報告がある。
一般にアリシン類は、植物細胞が破壊された際にアリイナーゼ酵素により生成され、多様な抗酸化・抗菌・抗炎症作用が報告されている。
血行促進・体を温める
ネギは温性食品として体を内側から温める感覚や血行改善のイメージがある。硫黄化合物や香気成分は循環系に働き、末梢血流改善効果を持つ可能性が示唆されているが、人間対象の大規模臨床証拠は不足している。
喉の痛みの緩和
ネギのぬめり成分や温かい調理法は、粘膜保護や潤滑効果をもたらす可能性がある。医療的介入ではなく、伝統療法として用いられることが多く、実証的根拠は限定的である。
免疫力アップ
ネギ由来の多糖類やその他化合物は、免疫反応の強化に寄与する可能性がある。動物実験や一部ヒト試験で、免疫指標の変化が観察されており、免疫細胞活性化に関係する可能性がある。
強化される免疫はインフルエンザへの抵抗力だけでなく、一般的な感染防御や炎症制御にも寄与する可能性が示唆されている。
がんとネギ
ネギを含むネギ属植物全般に関して、抗酸化物質と硫黄含有化合物が発がん関連プロセスに影響する可能性が複数報告されている。抗酸化作用は細胞損傷を防ぎ、DNA損傷や炎症を軽減する方向性が示唆される。
ただし、ネギ属全体の研究と矛盾があり、ネギ単体で特定のがんリスクを低減するという明確な大規模ヒト疫学データは存在しない。
抗酸化作用
ポリフェノールやフラボノイドが活性酸素・フリーラジカル除去作用を持つことは多くの植物で見られるが、ネギからの抗酸化作用も複数の実験で確認されている。
抗酸化作用は慢性炎症の軽減や細胞損傷からの保護に寄与し、結果的にがんの進展予防に関与する可能性が示唆される。
腸がんリスクの低下
ある研究では、ネギ野菜の摂取量と消化器系がんリスクの関連解析が行われたが、ネギ単独では統計的に有意な減少効果は確認されなかった。
これはネギ属内の個体差、摂取量、調理法の影響などによるものと考えられる。
病気にかかりにくい体を作るためのサポート役
ネギは栄養価と生理活性を併せ持つ食品としての地位を築きつつある。単独では病気を予防する十分条件とはならないが、日常的な食事による健康サポート役としての位置づけとして有効性が検討されている。
今後の展望
今後の研究課題として以下が挙げられる。
ヒトを対象とした介入試験の拡充:少人数や動物実験ではない高品質な臨床試験が求められる。
成分の特定と作用機序の解明:ネギ内の各化合物(硫黄化合物、ポリフェノール、多糖など)の作用の分離と標準化が必要である。
病態別作用の比較研究:インフルエンザ、肺炎、がんそれぞれに対する作用機序の共通点と相違点を整理する研究が求められる。
まとめ
ネギには多様な生理活性が期待される成分が含まれており、免疫機能強化・抗酸化作用のサポートが示唆されている。
インフルエンザや肺炎に対して直接的な抗微生物作用ではなく、免疫調節効果を通じた抑制作用が動物モデルで確認されている。
がん予防においては抗酸化作用が関連する可能性があるが、ネギ単独での明確なヒトエビデンスはまだ不十分である。
いずれも単独食品としての万能薬ではなく、総合的な生活習慣の一部として位置づけるべきである。
参考・引用リスト
Lee JB, et al. Anti-influenza A virus effects of fructan from Welsh onion (Allium fistulosum L.): activity in vivo by oral administration. PMC. 2012.
Kim H, et al. Phytochemistry, pharmacology, and medicinal aspects of Allium fistulosum – narrative review. J Appl Pharm Sci. 2023.
MDPI. Green Onion (Allium fistulosum): nutritional and therapeutic significance. 2025.
J-Stage. ネギの抗酸化性(難波ネギ等の抗酸化性評価). 2024.
Hirayama Y, et al. Effect of Welsh onion extract on immune response in healthy subjects. 2019.
ネギの免疫活性化に関する実験(マウスモデル). 2013.
厚生労働省 インフルエンザQ&A. 2025.
Mendelian randomization study on Allium vegetables and digestive system cancer risk. 2024.
以下では、ネギ(Allium fistulosum)に含まれる有効成分の部位別分布とその科学的意味合い、さらに「具体的にどれくらい摂取すべきか・摂取する際の健康リスク」を、可能な限り最新の科学データに基づいて整理する。
1.ネギ(Allium fistulosum)の栄養素と摂取量について
ネギは一般的に低カロリーであり、多様なビタミン・ミネラル・抗酸化物質を含む野菜である。可食部100g当たりで代表的な栄養成分は以下の通りである。
【ネギ(可食部100 g)の栄養成分(長ネギ葉身・生)】
エネルギー:約35 kcal
たんぱく質:約1.4 g
食物繊維:約2.5 g
カリウム:約200 mg
カルシウム:約36 mg
ビタミンB1:約0.05 mg
ビタミンB2:約0.04 mg
葉酸:約72 μg
ビタミンC:約14 mg
このようにネギは食物繊維やビタミンC、各種ミネラルをバランスよく含むが、主要な「機能性成分」としては硫黄化合物やポリフェノール(フラボノイド類)が注目される。
2.ネギの部位別有効成分一覧
ネギの可食部としては「白い茎・葉身(緑色部分)」が中心であるが、それぞれ含まれる成分の種類・量が異なる。
2-1.白い茎(白色部)
硫化アリル類(アリシン・関連硫黄化合物):ネギの辛味と香り成分で、ビタミンB1の吸収を高める作用などが伝統的に言及されている。
ビタミンC:白い部分に比較的多いとする分析がある。
比較的苦味・辛味が強い部位となる。
2-2.葉身(緑色部分)
フラボノイド類(例:ケルセチン、カンペフェロール):抗酸化作用を担う主要物質。
β-カロテン(プロビタミンA):抗酸化や免疫機能補助に寄与。
ビタミンB群(B1・B2・葉酸など):代謝や細胞維持に関与。
食物繊維やカリウムが豊富で、整腸作用・血圧調整に役立つとされる。
2-3.根元・その他の部位
根元には一般に香り成分・ポリフェノールが比較的高濃度との報告があるが、主要研究は他ネギ種(タマネギ等)に基づくもので、ネギ単独の包括的データは限定的である。
3.ネギに含まれる主な有効成分と機能性
ネギに含まれる代表的な機能性成分の分類と作用について整理する。
3-1.硫黄化合物と関連化学物質
ネギでは硫黄を含む化合物が機能性評価の中心となるが、ネギ単独でのアリシン含有量は他のネギ属(例:ニンニク)に比べて少ないとする分析がある。ただし、関連する他硫黄化合物(例:allyl methyl sulfideなど)が構成成分として確認されている。
硫黄化合物は次のような作用が仮説的に議論される。
抗酸化・抗炎症作用(細胞保護・炎症反応の緩和)
免疫調節作用
末梢循環改善(血行促進)
ただし、これらは食品摂取による直接的な医薬的作用とは異なり、補助的な生体調整作用として位置づけられる。
3-2.ポリフェノール類(フラボノイド)
フラボノイド(ケルセチン等)は抗酸化作用が比較的高く、酸化ストレスに関連する慢性疾患リスク低下に寄与しうるとされる。
3-3.ビタミン・ミネラル・食物繊維
ビタミンC:抗酸化作用・免疫補助作用
食物繊維:腸内環境改善・血糖価格安定への寄与
ミネラル(カリウム等):血圧調整・心血管機能の補助
これらは単品での薬理効果というより、食事全体としての栄養バランス改善に寄与する要素である。
4.健康効果に基づいた具体的な摂取量
現在のところ、ネギ単独による「病気予防効果を得るための明確な推奨摂取量」は確立されていない。
とはいえ、栄養学的・疫学的観点からは以下が参考となる。
4-1.一般的な摂取量の指標
野菜全体の推奨量は1日350 g以上(日本の食事摂取基準)。
ネギはその一部として数十g(例:1食30~50 g程度)を日常的に摂取することが多い。
この程度の摂取は、栄養素の補完として自然な範囲であり、一般健康維持の一助となる。ただし、ネギの有効成分だけを目的に大量摂取する明確な科学的根拠は現時点で不十分である。
4-2.機能性に関連した臨床データ例
葉身の抽出物を用いた二重盲検試験で免疫関連指標が改善したという報告があるが、使用量は抽出物として標準化されており、食品としての生ネギ換算量とは直結しない。
4-3.過剰摂取と健康リスク
一般的にはネギは安全な食品であるが、過剰摂取や個人での感受性がある場合には以下の点に留意すべきである。
刺激性・消化器症状:大量摂取により胃腸不快感が出る例が報告されることがある(一般的なFODMAP感受性等)。
アレルギー:ネギ属全般のアレルギーがまれに知られる。
他の薬剤(抗凝固薬等)との相互作用の可能性は、十分な臨床データに基づくものは存在しないが、摂取時に注意が必要。
以上は「食品としての安全性」を前提としている。サプリメント等で有効成分を高濃度に摂取する場合は、医療者との相談が望ましい。
5.まとめ:摂取量・部位別成分・健康リスク
部位別有効成分
白い茎:硫黄化合物・ビタミンCなど
葉身:フラボノイド・β-カロテン・ミネラル・食物繊維
→ 両方をバランスよく摂取することで栄養価総量を高めることができる。
推奨摂取量
現時点で科学的に明確な「疾病予防のための標準摂取量」は確立されていない。
日常食として30〜50 g以上/日程度の摂取は栄養価として問題なく、免疫・抗酸化成分の補完に寄与しうる。
健康リスク
一般には安全だが、刺激性・アレルギー等の個体差がある。
サプリメント等の高濃度成分摂取は注意を要する。
総合評価
ネギは単独で万能薬となる成分を持つわけではないが、多様な栄養素・ファイトケミカルを含む食品として、バランスの良い栄養摂取に寄与するものである。
参考・引用リスト(追加)
日本食品標準成分表2023(根深ねぎ葉身可食部100 g)
Kim S.H. et al., Green Onion Nutritional and Therapeutic Significance, 2023.
Hirayama Y. et al., Randomized double-blind placebo-controlled clinical trial of green leaf extract on immune response, 2019.
ALIC 四季の野菜の健康と栄養(アリシンと栄養素分布)
ネギ各部位の栄養成分分析(β-カロテン・フラボノイド等)
